映画観賞……それは時に○○億円もの制作費をかけた作品を、だいたい2000円前後で楽しめるめっちゃコスパの良いエンタメ……。

 これは、当劇団きっての映画好きにして、殺陣と小道具美術担当の筆者が、コロナ禍からようやくかつての日常を取り戻しつつある現代社会いおいて、筆者の独断と偏見といい加減な知識と思い出を元に、徒然なるままに……徒然なるままにオススメの映画について書くコーナーである。












▼『映画を語れてと言われても』



 TODAY'S
 
第一五九回『倒せ! 極悪非道のベン・スティラー!“ドッジボール”』




 タグ:ドッジボール スポ根 ベン・スティラー コメディ ヴィンス・ヴォーン ジム トレーニング 筋肉 大会 チャック・ノリス


『ドッジボール』

2004年公開

監督・脚本:ローソン・マーシャル・サーバー

音楽:セオドア・シャピロ

製作:ベン・スティラー他

出演:ヴィンス・ヴォーン ベン・スティラー クリスティン・テイラー ジャスティン・ロング アラン・テュディック ジョエル・ムーア リップ・トーン ウィリアム・シャトナー チャック・ノリス デビッド・ハッセルホフ他





 あらすじ

 適当中年独身男ピーター(演:ヴィンスヴォーン)がオーナーを務める借金塗れのスポーツジム「アベレージ・ジョーズ」は、潰れかけてはいたが気の合う従業員と利用者達と共に、そこそこ満足しながら経営を続けていた。

 だがある日、ピーターを一方的にライバル視しているグッドマン(演:ベン・スティラー)がオーナーを務める大手スポーツジム、「グロボ・ジム」に買収されそうになってしまう。


 買収を回避するには30日以内に5万ドルもの大金が必要となったピーターとジムの常連客は、ドッジボールの全米大会に出場し、その優勝賞金で5万ドルを確保しようと考える。

 さっそくドッジボールの教習ビデオでルールを学び、予選大会に出場するピーター達チーム〈アベレージ・ジョー〉。

 しかし運動音痴集団である〈アベレージ・ジョー〉はボロ負けであった。

 ‥‥‥のだが、対戦相手のガールスカウト・チームがドーピング問題により失格となったため、見事ラスベガスの決勝リーグへの出場を実現する。

 だが、その事態を監視していた「グロボ・ジム」のグッドマンは、〈アベレージ・ジョー〉の優勝を阻止すべく、自らもドッジボールチームを結成し、彼らの前に立ちはだかる。


 はたしてチーム〈アベレージ・ジョー〉の運命やいかに!?







 さて今回は、運動音痴な老若男女がドッジボールに人生をかけるスポ根性映画にして待望のベン・スティラー映画回です!

 しかしこれまで紹介してきたベン・スティラー映画とは大いに違います!

 だって本作のベン・スティラーは敵役なのですから! 

 これまで数多の作品で主演し、自業自得をふくめ踏んだり蹴ったりな目にあってきたベン・スティラーですが、本作では主人公を苦しめる側なのです。

 敵役となったベン・スティラーが、いかにウッザ~‥‥‥いのか? 本作をそれを我々に教えてくれる映画‥‥‥なのかもしれません。





 監督と脚本はローソン・マーシャル・サーバーって人。

 本作が監督デビュー作ですが、その後、ザ・ロック様ことドゥエイン・ジョンソン主演のアクションコメディ『セントラル・インテリジェンス』、超高層アクション『スカイスクレイパー』、ライアン・レイノルズ、ガルガドットと共演した詐欺師アクション『レッドノーティス』を撮ることになるアクションとコメディ要素を上手く合わせた映画を撮る御方。

 本作はコメディ映画ですが、ドッジボールを用いたアクション&スポーツ映画としても充分楽しめるようになっております。


 



 出演は、ジム『アベレージ・ジョー』のオーナーにして主人公のピーターにヴィンス・ヴォーン。

 筆者が勝手にハリウッドの謎の一つにしてるくらい、ジャンルを超えてあらゆる映画に主演・出演しまくっているぬぼ~っとノッポな俳優さん。

 代表作をあげるなら『ロストワール:ジュラシックパーク』の環境保護活動家のカメラマン役や、ホラーコメディ『ザ・スイッチ』のヒロインと魂が入れ替わっちゃう連続殺人鬼役などが有名かもしれません。

 その他ベン・スティラー主演作『ズーランダー』や『エイリアン・バスターズ』に、ウィル・フェレル主演の『俺たちニュースキャスター』等にも出演しています。

 イケメンでもムキムキでもプヨプヨでも不細工というわけでもなく、アクションができたりフィジカルに優れてるわけでもないのに、何故か色んな映画で重宝される俳優さんでして、本作でも大抵の出演作と同じ様に“お前が一番焦らんかい!”ってなくらいマイペースでローテンションの大男を演じております。





 そしてヒロイン枠で、ジム『アベレージ・ジョー』買収を担当することになった女性弁護士のケイト役にクリスティン・テイラー。

 『ズーランダー』でもヒロインを演じたお方。

 本作では色々あってチーム〈アベレージ・ジョー〉に参加し、ドッジボールで大活躍する他、雇い主のはずのベン・スティラー演じるグッドマンに最低最悪の口説き方をされオェっとなる役を演じております。

 ま、私生活では映画撮影時はベン・スティラーの奥さんだったんですけどね(過去形)!




 その他チーム〈アベレージ・ジョー〉の愉快なメンバーに、当時若手俳優としていじられ俳優として活躍していたジャスティン・ロング。

 『ダイ・ハード4.0』で事件に巻きこまれた結果、マクレーンの臨時相棒になった腕利きハッカーのマットを演じたのが有名かもしれません。

 子役時代から活躍してきた人で、本コーナーで言えば『ギャラクシークエスト』や『ウォーク・ハード ロックへの階段』にも出演しております。

 本作では、憧れの同級生アンバーのハートを射止めるため、ジムに日々通っているものの、とても鍛えてるとは思えないナヨっとした高校生役を、見事なリアクション芸の数々と共に演じております。


 その他、スティーヴン・ルート、ジョエル・ムーア、アラン・テュディックという、知ってる人は知っている‥‥‥知らん人でも見覚えるがある俳優陣がチームメンバーを演じています。




 さらにチョイ役で出演する豪華ゲストにTVドラマ『ナイトライダー』主演のデビット・ハッセルホフに、本コーナーでお馴染み『スタートレック』シリーズの初代カーク艦長役のウィリアム・シャトナー。

 そしてほんの一瞬しかでないのに見事に心に刻まれるチャック・ノリス!

 そのあまりにもチャック・ノリシズム溢れるチャック・ノリスティックな登場シーンが、筆者が本作で一番好きなシーンかもしれません。





 そして‥‥‥やはりなんといってもベン・スティラーなのです。

 今一度、俳優にして映画監督もしちゃうベン・スティラーという人間について説明するならば、筆者が大好きな映画『ズーランダー』で監督・主演しちゃうコメディ俳優でして、他にも『トロピック・サンダー』といった監督・主演の代表作があったりします。

 世間一般では『ナイト・ミュージアム』シリーズの主演が有名かもしれません。

 そのベン・スティラーの俳優としての特色は、当人はすっごい本気で行動してるんだけれど、傍から見てるとヤバイ人でしかない主人公のパターン。

 ‥‥‥なのですが、前述したように本作では悪役というベン・スティラー映画でも珍しいパターンゆえに、これまでの映画とはひと味もふた味も違うのです。

 ‥‥‥そしてそれでいながら、なんかとってもベン・スティラーっぽくもある気がするのです。



 本作の筆者的な一番の魅力は、そのベン・スティラーの悪役っぷりにあるといっても過言では無いでしょう。

 ともかく登場するシーン全てにおいて、イヤ~な悪役ムーブをかますのですが、それでいて笑えるのです!

 イヤミにセクハラにパワハラにモラハラのオンパレードなのです!

 今ではコンプラが許さなそうなキャラです!

 ジムのオーナーの役ということもあり、身体もムキムキに仕上げており、役作りも完璧!

 無駄にボリューミーな頭髪と御ひげもバッチリです!

 出演シーン全てを全力で演じる彼の熱意には頭が下がるばかりです!

 その悪役っぷりがなんで笑えるのかを文章で説明するのは大変難しいのですが、ベン・スティラーがともかく全力で悪い奴を演じた結果どうなったのか?

 どうか本作未見の方はどうかその目でご確認下さい!

 そして絶対にマネしないで下さい!





 ‥‥‥などなどと、ベン・スティラーのことばかり書いてしまいましたが、本作はいわゆるスポ根モノとしても秀逸な映画なのです。

 

 ちなみに、本作におけるドッジボールは、日本で親しまれてるドッジボールとは大いにルールの違いがございまして‥‥‥。


 まず使われるボールが一つではありません。

 一度に参加人数二人につき一個のボール‥‥‥つまり6人対6人なら6個のボールが使われます。

 そんだけボールが飛び交ったら審判の人は大変そうです。


 またボールを当てられて外野に行かされたメンバーの復活は、相手チームにボールを命中させたことではなく、相手チームが投げたボールをノーバンで見事キャッチすると、チームメイトが復活します。


 またボールを命中させられ外野に行かされた人は、完全な不参加となり、外野からボールを相手チームに投げるなどの参加はできません。


 う~む‥‥‥知ってるドッジボールと全然ちゃう!!

 ともあれ、ボールを投げつけて相手チームにぶつけるという大変野蛮‥‥‥というか交戦的なゲームであることは否めません。

 その野蛮なゲームに、憩いの場であるジムを守るため、ヘッポコな老若男女が立ち向かうのが、本作の熱い部分なのです。


 そこだけを書き出すと、王道スポ根ですが、本作では監督とベン・スティラーセンスとキャスト陣の尽力により、なかなかのお笑い映画としての出来になっているのです。

 

 チームメンバーがみな、どうみてもフィジカルに長けていないばかりか、私生活に問題を抱えているにも関わらず、数々の試合とイベントと特訓を経て強豪となっていく流れも熱ければ、個性豊かというか今ではコンプラが許さないであろう対戦チームの数々も素晴らしいのです。

 

 対戦相手の例をあげれば‥‥‥。

 女子児童だけで構成されたガールスカウトチームに‥‥‥。

 ヒップホップダンスしながらドッジボールに挑むチーム‥‥‥。

 何故かデビット・ハッセルホフを崇めるドイツチームに‥‥‥。

 ふんどし一丁で試合に挑む、2000年代のハリウッドの日本視感炸裂のチーム・カミカゼなどなど‥‥‥。


 今のコンプラでは再現不可能なチームたちが、主人公チームやベン・スティラー演じるグッドマンのチームと対戦するのです。

 そのユニークでありながら王道でもあるところが、本作の魅力なのです!





 ‥‥‥と同時に、本作を名作足らしめている最大の魅力は、全編において描かれる『身体を鍛えること』に対する向き合い方‥‥‥なような気がします。

 

 本作で敵役にあたるベン・スティラー演じるグッドマンは、筋肉とトレーニング至上主義者と描かれており、その為にそれ以外の全て(知能ふくむ)を捨て去り、それにそぐわないモノは全力で罵倒し否定するキャラとなっております。

 結果としてグッドマンはそれなりにムキムキのボディを手に入れ、経営しているジムはそれなりに繁盛し、自分で立ち上げたドッジボールチームにもそこそこの人材があつまります。

 自分で実践する分には大変素晴らしい努力と結果を出しています。

 しかしそれは、理想の肉体を手に入れる為とはいえ、世の全ての人が実践するのはなかなか厳しい思想でもあります。


 多くの人がジムに通いますが、全ての人がグッドマンと同じ思想と理想を持ち結果を手にしているわけではありませんし、そういった無暗な理想の押し付けが、多くの人をジムやトレーニングから遠ざけている気がします。

 グッドマンのように出来ないからって、他人をメタクソに言って良いことでは無いでしょう。

 本作にテーマがあるとすれば、本作はそんなジム通いに苦手意識をもっている人に向けて、本作最後のエンドロール入りに流れるジム『アベレージ・ジョー』のCM映像冒頭のピーターの台詞に込められていると思うのです。

 その台詞とは‥‥‥。


『あなたは今でも完璧です。でも今よりちょっと健康的に減量したり、友達を作りたくなったら、ウチのジムにおいでよ』







 さてここでいつものトリビア。


(※以後の文章には、本作最後のネタバレが含まれております)





 前述したジャスティン・ロング演じる、憧れの女子のハートをゲットする為に奮闘する、チーム〈アベレージ・ジョー〉メンバーの高校生ジャスティンですが、映画の最後で見事憧れの娘のハートを射止めることに成功します。

 そして本作ラストのエンドロール入りに流れるジム『アベレージ・ジョー』のCM映像に、その彼女と共に出演してるのですがその映像を見る限り、どうも勢いあまって赤ちゃんまでこさえちゃった疑惑が‥‥‥。





 ‥‥‥ってなわけで『ドッジボール』もし未見でしたらオススメでずぜ!!