映画観賞……それは時に○○億円もの制作費をかけた作品を、だいたい2000円前後で楽しめるめっちゃコスパの良いエンタメ……。
 これは、当劇団きっての映画好きにして、殺陣と小道具美術担当の筆者が、コロナ禍からようやくかつての日常を取り戻しつつある現代社会いおいて、筆者の独断と偏見といい加減な知識と思い出を元に、徒然なるままに……徒然なるままにオススメの映画について書くコーナーである。











▼『映画を語れてと言われても』


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第一五七回『ピーナツバターパンびた~ん!!“宇宙戦争”Theライドにようこそ!!』





 タグ:SF 侵略 宇宙人 カタストロフ シングルファザー トム・クルーズ スピルバーグ 米軍 大阪 H・G・ウェルズ 宇宙戦争

『宇宙戦争』
2005年公開
監督:スティーブン・スピルバーグ
原作:H・G・ウェルズ
音楽:ジョン・ウィリアムズ
出演:トム・クルーズ ダコタ・ファニング ジャスティン・チャットウィン ミランダ・オットー ティム・ロビンス




 あらすじ
 ニューヨーク郊外で港湾クレーンの作業員として働く中年シングルファザーのレイ(演:トム・クルーズ)は、離婚した妻エリー(演:ミランダ・オットー)が再婚相手の夫と共に彼女の実家のボストンに向かう間、ティーンエイジャーの息子ロビー(演:ジャスティン・チャットウィン)と、まだ幼い娘レイチェル(演:ダコタ・ファニング)を一人暮らしの自宅に預かることになる。

 だが二人を預かった日の翌朝、突如奇妙な嵐とそれに伴った雷が自宅近くの教会そばに幾度も直撃し、同時に周辺一帯が停電した上に自動車類までもが一切動かなくなってしまう。

 レイは自宅に子供二人を残し、道すがら知り合いの自動車修理工に自動車故障の原因についての初見を伝えつつ、多くの野次馬に紛れてその落雷直撃地点へ様子を見にうかがう。
 そしてレイが人込みをかきわけ、落雷直撃地点にできたアスファルトのひび割れが奇妙に冷たいことに気づいたその時、そのひび割れの下の地面から、突如巨大な三脚機械〈トライポッド〉が出現。
 唖然とする人々を高みから見下ろしたかと思うと、突如強力無比な光線兵器で人々を攻撃する。

 撃たれると衣服を残し、肉体だけが一瞬で灰にされてしまう光線兵器が飛ぶ中、命からがら逃げ続けなんとか帰宅し、二人の子供を連れ出したレイは、先刻会話を交わした自動車修理工の元に向い、折り良く走行可能なように修理されていた自動車を無断拝借することで街からの避難を図る。

 レイたちの避難の直後、何機も現れていたトライポッドに破壊される街並み。

 レイ達は子供達が普段住んでいる離婚した妻の家に逃げ込むが、元妻と再婚相手は妻の実家ボストンを訪問中で留守であり、三人だけで家で待つことにする。
 だがその晩、家のすぐそばにジェット旅客機が墜落し、地下に非難した三人は無事だったものの、地上の家は半壊し、レイたちは子供達の母がいるボストンに向かうことにする。

 だがその道中にも、破壊をふりまく謎の巨大兵器トライポッドの脅威が待ち受けていた。







 さてうっかり突入してしまった本コーナー第七シーズンの第一回目は、あのスピルバーグ監督とハリウッドスターの中のハリウッドスター俳優トム・クルーズが手を組んでお送りした、古典SFのリメイク超大作です!



 ‥‥‥ってなわけで監督は本コーナー常連のスティーブン・スピルバーグ。
 本コーナーで言えば『ジョーズ』『インディ・ジョーンズ:魔宮の伝説』『プライベートライアン』『レディプレイヤーワン』の特撮VFX満載の作品の監督をした他、1970年代から『激突』『ET』に『ジュラシックパーク』に『シンドラーのリスト』『マイノリティ・リポート』などなど……と、2020年代の現在に至るまでヒット作をかっ飛ばし続け、アカデミー賞監督賞も複数回受賞してきた生ける伝説のような監督です。


 そして主演のトム・クルーズと言えば、本コーナーでいえば『ミッションインポッシブル』や『トップ・ガン:マーヴェリック』で主演し、1980年代後半から数え切れない程の映画で主演を務めてきた、ハリウッド映画界を代表するザ・イケメン俳優です。
 アカデミー賞ノミネートされたことも複数回あるほどのスターの中のスターと言えるでしょう。

 そんな二人が手を組んだなら鬼に金棒! 虎に翼! 映画史に残ると言っても良い傑作SFアクションパニック映画が誕生したのです。



 そんな二人が手を組んで挑んだのは、SF小説の開祖の一人とでも言うべき作家H・G・ウェルズが19世紀末に執筆した小説『宇宙戦争』の現代版リメイクです。
 H・G・ウェルズと言えば『タイム・マシン』『透明人間』などなどの名作SF小説を書いた人。
 タイトルを読んだだけで、いかに後世に影響を与えたかが分かるってものです。
 そんH・G・ウェルズが、宇宙人による地球侵略を題材にした史上初(多分)の小説が本作の原作であり、過去にも同じ『宇宙戦争』というタイトル1953年に映画化され、本作はその二度目の映画化にして、2000年代における現代版リメイクに挑戦したのが本作なのです。



 その本作の音楽を担当しているのは映画音楽界の巨匠ジョン・ウィリアムズ。
 その担当してきた作品は『スターウォーズ』『ジョーズ』『ET』『インディ・ジョーンズ』『スーパーマン』『ジュラシックパーク』『ハリーポッター・シリーズ』などなど名作のオンパレード。
 本作でも逃げ惑うトム・クルーズにあわせ、緊張感爆上がりの旋律を奏でてくれております。





 そしてトム・クルーズ以外の共演者達は!
 トム演じる主人公レイの娘レイチェル役に名子役のダコタ・ファニング。
 ショーン・ペン主演の『アイ・アム・サム』で有名になり、『三・ボディガード』ではデンゼル・ワシントンと共演し、さまざまな映画に出演、成人した最近では『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』や『イコライザー3』などに出演した子です。
 本作では繊細な年頃の女児役を、とんでもない迫真の演技で見せてくれます。

 そのレイチェルの兄ロビーにジャスティン・チャットウィン。
 当時将来有望だった若手俳優で、本作の後にとある話題作で主演することになります。

 そのレイの分かれた妻メリーを演じるのはミランダ・オットー。
 『ロードオブザリング』シリーズの二・三作目でローハン国の王の姪エオウィン役で有名な人です。

 さらにレイが逃げ込んだ空き家の地下室で出会う避難民オグルビー役にティム・ロビンス。
本コーナーでも紹介したスティーブン・キング原作の名作刑務所映画の『ショーシャンクの空に』の主演で有名な御方で。
 その他トム・クルーズの出世作『トップガン』のクライマックスで、トム・クルーズが乗るF14の後席のコ・パイロットを演じた人です。


 本作は多くの避難民が登場しますが、主要キャストと言えるのはこの数名であり、基本的にトム・クルーズと二人の子供達の逃避行を描いた作品となります。
 つまりに他に映る人間の多くは、いわゆるモブでエキストラなのですが、恐ろしい数で画面に映るその人数にビックリです。
 その光景それ自体が本作の見どころの一つと言えるでしょう。


 そう、この錚々たるスタッフ・キャストでお送りする本作は、突然現代社会に発生したトライポッドによるカタストロフの中を、大勢の同じ立場で逃げ惑う人々に混じり、逃避行する主人公一家の視線を通して見る映画なのです。






 本作はスピルバーグ監督とトム・クルーズが組んだ話題作なこともあり、筆者は楽しみに公開を待ち続け、先行ロードショーへと見に行ったものです。

 ‥‥‥しかし、初めて見た時の感想は、正直に言えば『なんじゃこれ‥‥‥』といった感じのものでした。
 公開当時の2005年のそれまでに、『インディペンデンス・デイ』や『マーズアタック』など、本作とは別のアレンジの『宇宙戦争』とでも言うべき宇宙人が大軍勢を率いて地球を侵略しに来る映画が公開され、それを見ていた自分は、もっとヒロイズムある作品を期待していたのです。

 ですがスピルバーグ監督が我々に見せたのは、前述したように、あくまで一組の一家が宇宙人襲来によるカタストロフの中を、命からがらただひたすらに駆け抜ける姿を映したものでした。
 明確な起承転結や、勇気ある主人公達による大ピンチからの逆転勝利によって世界が救われるタイプの作品ではなかったのです。
 
 正直当時の筆者が期待していた内容ではなく、特に幕切れのあっけなさには落胆さえしたものです。
 ‥‥‥が不思議なことに、初見から数年が経ち、何度か見返すうちにいつの間にか筆者は本作を大好きになっていたのです。





 はたしてそれは何故だったのでしょうか?
 それは自分でも答えを明確にするのはなかなか難しいところなのですが‥‥‥‥‥‥。

 その理由の一つは、本作がH・G・ウェルズが書いた原作の『宇宙戦争』を現代版にアレンジして映画化するというコンセプトに、割と忠実に作られていた部分があります。
 
 残念ながら本作を見ただけでは知りようがない事実ですが、本作の後半で〈トライポッド〉に乗って攻撃してきた侵略者が、人間を殺すのを辞め、かわりに人間を捕獲しては○○にして謎の○○を育てる件はまんま原作にあった行いであり、トム・クルーズが演じるレイと共に隠れていた避難民のオグルビーの顛末は、名前の違う別キャラとして原作でも描かれていたイベントであったりするそうです。
 そして何よりも本作のオチたる部分は、かつて本コーナーでも紹介した『インディペンデンス・デイ』において、見事なアレンジがなされてたのに対し、本作では原作そのまんまのオチが採用されています。

 その原作のオチがのそのまんまさ具合とあっけなさが、本作を賛否両論にしているのだと思いますが、なにしろ原作を尊重した結果ならば、好きかどうかはともかく理解はできます。
 そしてこの原作オチを採用したがゆえの『あっけなさ』もまた、本作の味わい深さの一部だと思うのです。

 ちなみに本作の原作は、英国人H・G・ウェルズによる19世紀末の英国を舞台とした物語であり、本作のこのオチは、植民地支配をしまくった英国が、風土病によってエラいめにあったことを風刺しているのだとかいないとか‥‥‥。
 そう言われてみれば原作のオチは納得ですが、アメリカが舞台の本作ではどうだろう? と思わなくもありません。






 とはいえ、本作は少々のオチのあっけなさに目を瞑って余りある魅力ある作品なのです。
 一つは大予算をかけた濃厚極まるスピルバーグ節を楽しめるところです。

 この場合のスピルバーグ節とは‥‥‥。
 まずは最新のVFX技術を用いた大迫力のカタストロフ映像です。
 本作では『宇宙戦争』のタイトルに相応しい一大カタストロフ映像が繰り広げられるのです(原作の邦題の関係で宇宙とはついてますが、宇宙が舞台になることはありませんけどね)。
 なんといっても宇宙人が操る巨大三脚歩行兵器〈トライポッド〉の映像が凄いのです。
 この三本足で歩行する巨大な機械〈トライポッド〉は、本作以前に映画化された『宇宙戦争』では映像技術的に映像化が困難だったのですが、2000年代のスピルバーグ監督の映像技術によって、ようやく本格的な映像化が実現したのです。
 その巨大感を現すVFX映像派もちろん、巨大鉄橋を破壊するなどの大破壊行為や、逃げ舞う避難民への情け容赦ない攻撃の邪悪さ加減が凄まじいのです。
 これは一説には大の『ゴジラ』映画ファンのスピルバーグ監督が、己の怪獣映画撮りたい欲求を〈トライポッド〉を大暴れさせることで晴らしたから‥‥とも言われております。




 また、時に笑って良いんだか悪いんだか分からない、子供地味たブラックジョークを全力で映像化したような映像の数々が素晴らしいのです。
 〈トライポッド〉が登場しない場面でも、河に流れる無数の遺体や、踏切を通過する燃え盛る特急電車や、空から舞い落ちる持ち主の無い衣服の数々‥‥‥そしてさる事情で窓に叩きつけられるピーナツバターの塗られたパンなどなど、スピルバーグ監督でなければ思いつかず映像化もできなさそうなシーンの数々が素晴らしいのです。




 そしてもう一つのスピルバーグ監督あるあるである〈Theライド〉感!
 この〈Theライド〉感とは、いわゆる遊園地にある〈○○〇Theライド〉‥‥‥たとえばスター〇アーズやパイレ〇〇オブ〇リビアンや〇ーンテッド・〇〇ションかのように、その世界観で起きた色んな代表的なイベントを、スピルバーグ監督作では主人公機の目を通して体験させられるパターンが多いのです。
 例えば〈第二次大戦フランス上陸Theライド〉な『プライベート・ライアン』。
 〈インドの邪教Theライド〉の『インディ・ジョーンズ:魔宮の伝説』
 そして〈恐竜パークTheライド〉の『ジュラシックパーク』!!!????
 そんなTheライド感の中の〈トライポッドによる侵略Theライド〉版を、本作では逃避行する主人公一家の目を通して体験させられるのです。
 単に主人公一家が行く先々で危険なめに会あうだけとも言えますけどね!



 そして本作を名作足らしめているもう一つの点は、トム・クルーズ演じるパパの奮闘です。
 このレイというパパは正直なところパパとしてはかなりダメダメなことが映画序盤で描写されております。
 なにしろ子供達の年齢も誕生日もアレルギー体質まで把握していないような人間なのですから‥‥‥。
 当然子供達からは尊敬も信用も欠片も持たれておらず、そのお蔭で逃避行中も口論が絶えないのですが、それでもなお降りかかる危険に際しては命がけで、なおかつ大人らしい判断力と勇気をもって子供たちを守らんとする姿にグッとくるのです。
 はたして主人公レイは無事に子供たちを母親の元に送り届けることができるのでしょうか?
 本作未見の方はどうかその目でご確認下さい。





 さてここでいつものトリビア。
 前述した主人公レイの息子ロビーを演じたジャスティン・チャットウィンは、その後、とある日本のマンガが原作の実写映画化話題作で主演することになります‥‥‥。
 その作品とは『DRAGONBALL EVOLUTION』!!!!



 ‥‥‥てなわけで『宇宙戦争』もし未見ならオススメですぜ!!