映画観賞……それは時に○○億円もの制作費をかけた作品を、だいたい2000円前後で楽しめるめっちゃコスパの良いエンタメ……。
 これは、当劇団きっての映画好きにして、殺陣と小道具美術担当の筆者が、コロナ禍からようやくかつての日常を取り戻しつつある現代社会いおいて、筆者の独断と偏見といい加減な知識と思い出を元に、徒然なるままに……徒然なるままにオススメの映画について書くコーナーである。











▼『映画を語れてと言われても』



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第六シーズン・フィナーレ!第一五六回『クライマックスが時系列の最後とは限らない“テネット〈TENET〉”』




 タグ:ノーラン SF タイムトラベル アクション 時間 バディ エージェント スパイ 核 挟み撃ち 未来 ウクライナ オペラハウス カーチェイス

『テネット〈TENET〉』
2020年公開
監督・脚本:クリストファー・ノーラン
音楽:ルドウィグ・ゴランソン
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン ロバート・パティンソン エリザベス・デビッキ ディンパル・カパーディヤー マイケル・ケイン ケネス・ブラナー他



(※本文章には、本作中盤以降のネタバレが含まれております)


 あらすじ
 現代……ウクライナ・キーヴにあるオペラハウスにて、突如テロリスト集団による占拠事件が発生した。
 だがその事態を予測し、そのテロの本当の目的を知っていた者達がいた。
 CIAエージェントの〈仮称〉名無し(演:ジョン・デヴィッド・ワシントン)とその仲間は、ウクライナ当局のSWAT隊員に変装し、彼らと共に件のオペラハウスに突入、内部で潜入任務についていたCIAスパイを救出すると共に、彼が確保していた「プルトニウム241」と呼ばれる物体を回収する。
 実はこのテロは、件のスパイをテロに見せかけて抹殺するための作戦であり、それを事前察知したが故の名無し達の行動だったのだ。
 だが無事スパイと「プルトニウム241」の回収に成功した一方で、当局が送り込んだSWATが、内部の観客ごとテロリストを爆破し、全てを無かった事にしようと目論んでいることを知り、名無しは観客の命を救うべく仕掛けられた爆弾を回収しようと遁走する。
 その途中、本物のSWAT隊員に射殺されそうになったところを、仲間でもSWATでもテロリストでもない何者かに、不可思議な挙動の銃弾を使って救われた名無しは、無事爆弾から観客の命を守ることに成功する。
 だが、オペラハウスから脱出しようとしたところで、移動用車両の運転手に裏切られ捕まってしまう。
 捕縛した男たちにより激しい拷問をうけた名無しは、口を割る前に薬物によって自決するのであった。



 しかし名無しは生きていた。
 見知らぬ船で目を覚ました名無しは、そこに現れたフェイという男から、先の任務が一種の選抜試験であり、自決用の薬物はニセモノだったのだと聞かされる
 そしてその試験に合格した名無しは『テネット』という謎の言葉と共に、新たな任務を言い渡される。



 数日の風力発電施設での待機の後、とある研究施設に向かわされた名無しは、そこの女性研究員から、弾痕から拳銃内に戻るという不可思議な挙動を行う銃弾についてのレクチャーを受ける。
 それはオペラハウスで名無しを救った銃弾と同じ挙動であった。
 研究員によれば、その銃弾は『逆行』と呼ばれる現象によって『未来から過去に向かう銃弾』であり、同じ様な逆行現象を起こす物体が多数確認されその研究施設では保管されていることから、女性研究員は未来で何がしかのカタストロフが発生し、『逆行』物が生まれたのではないかと考えていた。
 名無しの任務はそのカタストロフを阻止することなのだという。

 名無しは件の銃弾に使われていた金属の産出場所から、インドを拠点とする武器商人サンジェイ・シンが何かの情報を握っていると睨み、現地協力者のニール(演:ロバート・パティンソン)と共に、サンジェイ・シンのアジトに侵入し、彼女から在英ロシア人武器商人のセイター(演:ケネス・ブラナー)が“未来人”から提供された『逆行』武器の取引を行っているのだという情報を得る。




 イギリスに向かった名無しはそこで現地情報員から、セイターのDVにより、関係の冷え切った妻であるキャサリン(演:エリザベス・デビッキ)を協力者にするようアドバイスを受ける。
 さっそくキャサリンにコンタクトした名無しは、さる事情からセイターが握り、キャサリンを操る脅迫材料として保管している絵画を、セイターが武器取引に使っているというノルウェー・オスロ空港のフリーポート(無検査税関)内の金庫から盗み、処分することでキャサリンの協力を得ようという作戦を考える。

 ニール他の協力のもと、空港フリーポート潜入作戦を敢行する名無し達。
 だが、苦労の末に潜入したフリーポート内の金庫室には、金庫の代わりに巨大な回転ドア状の施設があり、名無しはそこから突然飛び出した二人のSWAT隊員姿の人間に襲い掛かられるのであった。


 はたして名無しの任務の行方は!?
 なぜ未来から『逆行』する物体が送り込まれるのか!?
 名無しはカタストロフを阻止できるのであろうか!?





 さて本コーナーも書きに書きまくって、とうとう第六シーズン最終回を迎えることとなりました。
 ちなみに1シーズン26回制度でございます。
 いや~‥‥‥毎回毎回、今度こそネタ切れかなぁ‥‥‥と思いながら書いてきましたが、映画の宇宙は広大であり、書けば意外と書き続けられるものですね!

 そんな記念すべき第六シーズンのフィナーレを飾るのは、あの数々の名作を世に送り出してきたクリストファー・ノーラン監督が、コロナ禍ど真ん中で公開しながらも大ヒット高評価を受けた前代未聞のユニークSFアクション映画『テネット〈TENET〉』です!



 ‥‥‥ってなわけで監督および脚本はクリストファー・ノーラン。
 クリストファー・ノーラン監督といえば、『フォロウィング』でデビューし、『メメント』でハリウッド映画業界で頭角を現し、『バットマン:ビギンズ』『バットマン:ダークナイト』でその人気を不動にし『インセプション』『ダンケルク』に、本コーナーでも紹介した宇宙SFの傑作『インターステラー』を撮り大ヒットさせ、2024年は原爆開発を成し遂げた物理学者の伝記映画『オッペンハイマー』を撮り話題となった、今最も信頼されている監督の一人です。
 その作風は深淵にして壮大です。
 画作りもドラマ作りもテンポも、全てがハイレベルであり、新作が公開される度に話題となりヒットするのも頷けます。
 ですがそれは、同時に容易にはここで語れなくなっているとも言えます。

 だってあらすじ書くの超大変なんだもん!

 同監督作を、毎作毎作見てはいますが、ちゃんと100%理解したか? と問われると、ちょっと自信をもってYESとは言い辛いからです。
 本作は、まさにその100%どころか何%理解できたのかすら怪しい前代未聞の難解映画としても有名な一本。
 なんだってノーラン監督はこんな映画を~!!
 


 音楽はルドウィグ・ゴランソン。
 『ネバーエンディングストーリー』の音楽担当のクラウス・デゥルディンガーに続く、今一番声に出して呼びたいお名前の映画音楽家です。
 数々の映画でアシスタント的に音楽を提供した後、MCU映画の『ブラックパンサー』の音楽を担当してブレイクし、以後数々の映画音楽でを担当する若手売れっ子作曲家です。
 その音楽家としての特色は、楽器類に音源を制限しないオリジナリティあふれる音色です。
 本作ではBGMとSEの中間のような音色と共に、テネットのテーマとでも言うべき同じメロディをあらゆるアレンジで使い、本作の世界観にドップリと疲れるような劇伴を奏でてくれます。
 中でも、クライマックスで流れる長さ12分を超える曲『POSTERITY』は、本作独特の『逆行』という現象の要素さえも曲内部に取り込んだ名曲です。



 出演は、主演の(仮称)名無しにジョン・デヴィッド・ワシントン。
 元アメリカンフットボールのプロ選手で、俳優業に転進しドラマ界で活躍した後、スパイク・リー監督の潜入捜査映画『ブラック・クランズマン』で主演し評価され、本作の主演の座を獲得します。
 本作では元プロスポーツマンならではのフィジカルを活かし、前代未聞のアクションシーンに挑戦することになります。
 にしてもデビュー間もなくしてのこのブレイクっぷりは何故? と思ってしまうところですが、それもそのはず、御父上はあのデンゼル・ワシントンと知ればちょっと納得です。



 その名無しの相棒ニールを演じるのはロバート・パティンソン。
 吸血鬼とのロマンス映画『トワイライト』シリーズでブレイクし、以後様々な作品で活躍し、本作の後は『ザ・バットマン』でブルー・スウェイン/バットマンを演じるに至ったイケメン俳優です。
 ‥‥‥ですが筆者的には『ハリーポッターと炎のゴブレット』で登場した数少ないハッフルパフ寮の名有りキャラのセドリック・ディゴリーを演じた人。
 本作ではもう一人の主人公として活躍するだけでなく、実に複雑なバックボーンのキャラを見事な演技力で見せてくれます。
 筆者的なオススメシーンは、本作を二度目に見た時の初登場シーン‥‥‥実に何とも言えない良い表情してるのです。




 そして本作のヒロイン枠と言える人妻キャサリン役にエリザベス・デビッキ。
 ディカプリオ主演の『華麗なるギャツビー』や、冷戦スパイ映画『コードネーム U.N.C.L.E.』のヒロインを演じ、MCU映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』等に出演してきた身長190cmを超える長身の美人女優さんです。


 さらにそのキャサリンのDV夫であり、未来員と『逆行』武器取引を行い、全人類を危機に陥れるカタストロフに陥れる男、セイター役にケネス・ブラナー。
 数々の映画で主演・出演してるだけでなく、映画監督としても実績を残しているお方。
 主演と監督の両方をつとめたアガサ・クリスティー原作の名探偵ポワロシリーズの映画化作『オリエント急行殺人事件』『ナイル殺人事件』『名探偵ポワロ:ベネチアの亡霊』が日本では有名かもしれません。
 なお筆者的には『ハリーポッターと秘密の部屋』のギルデロイ・ロックハート先生役だった人。
 本作では未来との武器取引を行う武器商人なDV夫を、め~ちゃ~く~ちゃ~おっかなく演じております。


 その他、ノーラン映画常連のマイケル・ケインに、『キックアス』やハリウッド版『ゴジラ』で主演したアーロン・テイラー・ジョンソンなどが脇を固め、本作のクオリティをカチリと固めております。






 さてそんなスタッフ・キャストでお送りする本作は、と~っても複雑で難解なお話であります。
 あらす書くのも一苦労!
 正直、これまでの実績あるノーラン監督でなければ、製作予算をスポンサーが出すこともなければ、観客もどんな映画なのか予告編などからでは分からなくてあんまり見てもらえなかったかもしれません。
 それくらい本作は前代未聞なことに挑戦した作品なのです。
 それがどれくらい前代未聞なのかは、筆者のあらすじだけでとうてい説明しきれないので、今一度本作の根幹部分の設定のみを書かせてもらいたいと思います‥‥‥‥‥‥。




 いつかの未来‥‥‥。
 環境悪化で地獄と化した地球で、一人の天才科学者が、入れたモノをなんでも『逆行』させることが可能な〈回転ドア〉を発明し、その〈回転ドア〉を『逆行』を用いて過去に送ることで、人含むあらゆるモノを、過去と往来させることが可能となった。

 その一方で、科学者は世界そのものを丸ごと『逆行』させることを可能とするアイテム〈アルゴリズム〉も発明、しかしそれは過去の抹消と同義であり、その存在の恐ろしさから、彼女は〈アルゴリズム〉を『逆行』を使って過去へと隠し、自身は自殺はする。

 だが未来人の中には、地獄の環境によってこのまま滅びるくらいならばと、過去に送られた〈アルゴリズム〉を発見し使用を願う者たちがいた。
 彼らは『逆行』技術を使って過去世界のセイターとコンタクトをとり、『逆行』武器を提供し〈回転ドア〉を使わせ、アルゴリズムの回収を命じる。

 しかし未来人の中には、そんな〈アルゴリズム〉の起動を阻止せとする勢力〈テネット〉もまた誕生していた。
 彼らもまた〈回転ドア〉を駆使し、ノウハウと人員を過去に送り〈アルゴリズム〉の発見と機動を阻止せんとするのであった。
 そしてある時〈テネット〉は、「プルトニウム241」という名で呼ばれた〈アルゴリズム〉の断片確保に尽力した元CIAエージェントを、己が組織の一人にリクルートするのであった‥‥‥。



 ようするに、世界の破滅を願う未来から来た悪人と、それを阻止せんとする人達との戦いを描いたのが本作なのです。




 ‥‥‥が、これでお分かり頂けたなら苦労はしませんよね!
 そもそも『逆行』とは何ぞや? という話ですよ!
 と同時に、この『逆行』という概念こそがノーラン監督の大発明でもあるわけです。

 今一度『逆行』とは何かを説明すると、〈回転ドア〉と呼ばれる未来技術の機械を潜ることで実現される、ヒトふくむモノの経過時間の方向を過去~未来ではなく、未来~過去へと逆転される現象のことです。
 ちなみに過去~未来に向かう通常の時間経過の方向を便宜用『順行』と呼びます。

 この『逆行』が具体的に映画内でどう描写されてるかというと、我々『順行』状態の人間から見と、『逆行』状態の人間はバックして歩いたり走ったりし、銃弾は命中箇所から銃内部に戻り、手榴弾などの爆発は、爆炎が縮んで爆発前に戻ります。
 ようするに逆再生状態になるわけです。

 また人間が〈回転ドア〉を潜り『逆行』状態になった場合、『順行』世界の全てが逆再生状態に見えるようになるわけです。


 ここで面白いのは、『逆行』は時間の経過速度までは変えられないことです。
 つまり『逆行』を使って1年前に戻るには1年間かかるということ。
 『逆行』はタイムマシンとしても使えますが、『バックトゥザフューチャー』のデロリアンのように一瞬で何年も前の過去と行き来はできないのです。

 本作が凄い所の一つは、それらの『逆行』にともなう珍奇な映像の数々を愚直なまでのアナログな手段で映像化を成し遂げているところです。
 その主だった手段は二つ、『逆行』する人間やら何やらを、通常撮影したものを逆再生で映す。
 もう一つがさも『逆行』しているかのように演技し振舞わさせることで表現する手段です。
 考える方も方だけど、やる方も凄い!


 また本作で恐ろしいのは、世にある数々のタイムトラベル作品などと違い、本作では過去に介入しても未来は変わらないパターンを採用してることです。
 いわゆる『親殺しのパラドクス』というやつで、未来が変るタイプのタイムトラベル作品であれば、タイムトラベルした人間が過去で親を殺せば、自分は生まれないこととなって存在が消える‥‥‥ということになります。
 いわば『バックトゥザフューチャー』タイプのタイムトラベルですね。

 しかし本作の場合、過去にタイムトラベルした人間が親を殺そうと思っても、結果的に殺せない‥‥‥あるいは殺した親が、実は本当の親ではなかったことが判明し、未来は変らないといタイプなのです。
 ここでも紹介した『サマータイムマシン・ブルース』がこれに当たります。
 この都合よく過去を改変して望む未来に変えられないところが、本作のタイムトラベル作品としての肝であり、実にノーラン監督らしいところな気がするです。
 そしてこの未来を変えられないことが、本作をノーラン監督が撮った理由に関係ある気が筆者はするのです‥‥‥。




 このノーラン監督が考え出した数々のアイディアが、本作を面白く奥深いものにしていることは間違いありません‥‥‥見た人が理解できるかはさておいて‥‥‥。






 筆者はコロナ禍の最中公開される数少ない大作映画として、本作公開を大いに楽しみに待ち続け、そして見に行き、圧倒されたものです。
 本作は極めて難解で複雑ではありますが、バンジージャンプを用いた高層マンション潜入や、本物のジャンボジェットをまるまる使ったアクション、『逆行』を用いた格闘にカーチェイスにと、ふんだんなアクションパートで映像面のエンタメ性も確保しつつ、その根底には熱い人間ドラマが流れており、筆者は見終わった後茫然としつつもじんわりと感動したものです。


 ‥‥‥まぁバンジージャンプを用いた潜入アクションや、途中で挟まる高速ヨットの件て‥‥‥正直『逆行』とはまったく関係ないよね‥‥‥監督が撮りたかっただけだよね‥‥‥と思わなくもないですけど‥‥‥。


 ちなみに筆者が一番好きなシーンは、クライマックスの最中の『らぱらぱ~‥‥‥どっか~ん! !ん~かっど‥‥‥~ぱらぱら』ってところ。


 ‥‥‥にしても、ノーラン監督はなんだってこんな分けの分からない設定を考え、映画にしたのでしょうか?
 実は本作程ではありませんが、ノーラン監督が時間をいじる作品を撮るのはこれが初めてではありません。
 短期記憶しか持てない男が、殺害された妻の復讐に挑む姿を、時系列を遡って描く『メメント』や………。
 深くなるほど時間の進行速度が遅くなる夢の中の夢の中の夢の中の世界で、夢の主の記憶にある印象を植え付けようとする『インセプション』や‥‥‥。
 目的地到着までの一週間、一日、一時間をそれぞれ描き、同じタイミングで結末にいたる第二次大戦のダイナモ作戦を描いた『ダンケルク』など‥‥‥。
 ノーラン監督はともかく脚本であれ編集であれ、時間をいじるのが大好きなのです。
 本作はそのノーラン監督の、2020年時の時間いじりの集大成とも言える作品なのです。
 本作の最後では、なんと冒頭のオペラハウスでのテロ事件の日に名無しとニールが『逆行』で戻り、クライマックスへとなだれ込みます。
 その結果、同じクライマックスの戦闘中の時間内に、『順行』と『逆行』のニールが最低でも4人は同時存在することに‥‥‥。
 さすがタイムトラベル作品!


 ノーラン監督は、この時間をこねくり回した作品を撮ることで何を目指したのでしょうか?
 筆者には推測することしかできませんが、本作で交わされるセリフの中にそのヒントがある気がします。

 それは『知らないことが武器だ』という台詞。
 本作のタイムトラベルのルールでは未来は変えられないタイプであるため、仮に未来で良からぬことが起きると知ってしまった場合、知った人間がすべき行動を躊躇ってしまう場合があるからです。
 
 せっかく『逆行』を用いて未来から情報がもたらされているにも関わらず、主人公達は意図して未来を知ろうとはしないのです(選択的ですが)。


 そしてクライマックスの舞台が、未来でも過去でもなく、この映画が始まった瞬間の時系列であることもまた、本作に隠された重要なメッセージな気がします。

 タイムトラベルの関係無い作品であれば、時系列の最後がクライマックスなのが普通ですが、本作ではスタート地点がクライマックスなのです。
 しかしながら、本作に登場するあるキャラにとっては、このクライマックスこそが時系列の最後にあたるのです。
 『知らないことが武器だ』という言葉を胸に‥‥‥。


 よく考えてみれば、本作の敵たる未来人勢力は、過去にタイムトラベルしても未来は変えられないと知っているにも関わらず、〈アルゴリズム〉ならあるいは変えられるかもしれないと望みをかけて行動し‥‥‥。
 それに抗う〈テネット〉もまた、未来は変えられないはずだけど、万が一そうでなかった時の為に命がけで戦っているのです。


 ‥‥‥結局、タイムトラベルを使えるようになっていても、自分自身の時系列が変ることも変えることもできずに、未来を知ることは叶わず、人はただ自分にとっての〈現在〉の、目の前のタスクに全力を出す他ないのです‥‥‥。
 ノーラン監督はこのけったいなタイムトラベルに関する設定とシュチュエーションを設けることで、逆説的に、この不変的なテーマを描きたかったのではないでしょうか‥‥‥。




 ‥‥‥ということは定かではありませんが、それはさておき、これとは別に、ノーラン監督が確実に伝えておきたかったであろうことは分かります。
 それは‥‥‥時を超えた名無しとニールの友情って‥‥‥良いよね‥‥‥ってこと。








 さてここでいつものトリビア。

 キャサリンのセイターとの間には、幼い息子マックスがいるのですが、実は成長した彼こそが、未来から『逆行』で名無しの元にやってきたニールである‥‥‥という説があります。
 実際、両者の俳優の髪の色は染めることで金髪に揃えられているそうです。
 なお、この噂について、ノーラン監督は否定も肯定もしていないそうで‥‥‥。

 
 ‥‥‥ってなわけで『テネット〈TENET〉』もし未見でいたらオススメですぜ!!