映画観賞……それは時に○○億円もの制作費をかけた作品を、だいたい2000円前後で楽しめるめっちゃコスパの良いエンタメ……。
 これは、当劇団きっての映画好きにして、殺陣と小道具美術担当の筆者が、コロナ禍からようやくかつての日常を取り戻しつつある現代社会いおいて、筆者の独断と偏見といい加減な知識と思い出を元に、徒然なるままに……徒然なるままにオススメの映画について書くコーナーである。














▼『映画を語れてと言われても』




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第一五五回『あなたの人生の再編集劇場版“ボヘミアン・ラプソディ”』





 タグ:クイーン ロック イギリス バンド 
『ボヘミアン・ラプソディ』
2018年公開
監督:ブライアン・シンガー 他
脚本:アンソニー・マクカーテン
製作:ジム・ビーチ ロバート・デ・ニーロ[注釈 2] ブライアン・メイ ロジャー・テイラー他
音楽:ジョン・オットマンwithクイーン
出演:ラミ・マレック ルーシー・ボイントン グウィリム・リー ベン・ハーディ ジョゼフ・マゼロ エイダン・ギレン トム・ホランダー アレン・リーチ マイク・マイヤーズ



(※本文章には、本作および庵野秀明監督作『シン・ゴジラ』のクライマックスに関する一部ネタバレ文章が含まれております)



 あらすじ
 1970年代のイギリスはロンドン‥‥‥。
 ペルシャ系移民の青年ファルーク‥‥‥後のフレディ・マーキュリー(演:ラミ・マレック)は、人種差別とアルバイトの日々の中で、音楽に夢中となり、密かに歌詞を書くなどして生きていた。
 そんな中、とあるライブハウスで〈スマイル〉というバンドの音楽を聞き、心魅かれたフレディは、その帰りにボーカルが脱退したことで悩む同バンドの残りのメンバー、ギターのブライアン(演:グウィリム・リー)とドラムのロジャー(演:ベン・ハーディ)と出会い、自身の歌唱力を披露することで新たなボーカルとしてバンドに参加することとなる。
 さらにメンバーにベースとしてジョン(演:ジョゼフ・マゼロ)を加えた新生バンドはライブ活動を開始し、好評を博してゆく。

 その一方で、ライブハウスで出会ったブティック店員のメアリーと出会い、恋に落ちたフレディは、彼女と交際をしつつ活動を続けてたバンド名を〈クイーン〉に改名し、さらなる飛躍の為、移動に使っていたワゴンを売りはたらった資金でアルバムを製作することにする。
 そのアルバムレコーディング風景が大手音楽芸能会社の目に留まったクイーンは、ついにメジャーデビューを果たす。

 TV出演や海外公演など、メジャーデビューと同時に目覚ましい躍進を果たす〈クイーン〉。
 だがそれと同時にフレディは、増長とドラッグと乱れた性交渉の果てに、着実に心と身体を蝕ませていた。

 果たして、そんなフレディと〈クイーン〉に待ち受ける運命とは?






 さて今回は伝説のミュージシャン、デューイ・コックスの生涯を描いた前回に引き続き、2018年に公開され大ヒットとなった、あの伝説的大人気バンド〈クイーン〉とそのボーカルだったフレディ・マーキュリーを題材にした傑作伝記音楽映画について語りたいと思います。
 

 

 監督はブライアン・シンガー。
 監督作二本目のミステリークライム映画『ユージュアル・サスペクツ』でブレイクし、その後、マーベル社のアメコミ実写映画『Xメン』シリーズを軌道にのせたことで有名な監督。
 その他トム・クルーズ主演の第二次大戦でのヒトラー暗殺を描いた『ワルキューレ』の監督もしました。
 つまり中々の監督歴がある人なのですが‥‥‥本作の場合、これ以上どう書けば良いのかよく分からないことになっています。
 ザックリといえば、撮影途中で監督をブッチして、そのまま解雇はされたけれど、作品としては監督欄にクレジットされている‥‥‥からなのですが、‥‥‥その経緯は横に置いておいて、それゆえに本作はブライアン・シンガー監督作とは言えないのか? 言えるのか? については悩ましいところ。
 ただ筆者に言えるのは、本作が好きであり、本作がそこそこ以上の大ヒットした作品であるということだけです。


 ちなみに製作には何故かロバート・デ・ニーロの他、今も〈クイーン〉として活躍中のギターのブライアン・メイとドラムのロジャー・テイラーが名を連ねており、本作はまごうこと無き公式からお届けされた〈クイーン〉の映画なのです。

 もちろん使われる音楽も〈クイーン〉尽くし。
 使われるBGMの全てが〈クイーン〉やそれ関連の曲であり、言い方を変えれば、〈クイーン〉が世に出した楽曲は、それだけ本作のあらゆるシーンのBGMに使える程にバラエティー豊かということ!
 

 その〈クイーン〉の歴史を脚本にしたのはアンソニー・マッカーテンというお方。
 物理学者スティーブン・ホーキング博士の伝記映画『博士と彼女のセオリー』や、第二次大戦中の英首相チャーチルの伝記映画『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』の脚本を書いたお人。
 つまり伝記映画ならお任せの人ということ。
 本作が映画として名作なのは〈クイーン〉の楽曲の良さやキャスト・スタッフ陣の尽力はもちろんですが、このお方の脚本によるところも大なりと筆者は思います。



 そして伝説的バンド〈クイーン〉を描く為に結集した本作のキャスト陣は!?

 まず、ボーカルの(故)フレディ・マーキュリー役にラミ・マレック。
 『ナイトミュージアム』シリーズのファラオ役で注目されだし、本コーナーでも紹介した『バトルシップ』でチョイ役で出演したり、太平洋戦争での対日戦に挑んだ米兵を描いたドラマ『ザ・パシフィック』でメインキャラで出演した後、本作の主演でブレイク。
 『007:ノータイム トゥ ダイ』での敵ボス役や、2024年4月現在公開中の『オッペンハイマー』でキーとなるキャラで出演したりしているエジプト系の俳優さんです。
 本作では入れ歯や一部特殊メイクだけでなく、完璧なフレディ・マーキュリーの動きの完コピを行うことで、ビジュアルの差異を超えたフレディ・マーキュリーっぷりを見せてくれます。


 そして〈クイーン〉のギター担当のブライアン・メイ役には英国俳優のグウィリム・リー。
 TVドラマで多く活躍しているお方のようですが、残念ながら本作以外で日本で有名と言える出演歴は見当たりませんでした‥‥‥が、まるで天体物理学者でもある本物のブライアン・メイが、タイムマシンで過去から連れてきた若かりし日のブライアン・メイかよ‥‥‥ってなくらいにブライアン・メイそっくりです!


 同じくドラム担当のロジャー・テイラーを演じているのはベン・ハーディ。
 ブライアン・シンガー監督作『X-MEN:アポカリプス』のアークエンジェル役で有名な英国出身のイケメン俳優で、本物のロジャー・テイラー同様のイケメンぷりを本作でも見せてくれます。


 そしていつの間にかバンドにいるベース担当のジョン・ディーコンを演じるのはジョゼフ・マゼロ。
 子役出身の俳優で、スピルバーグ監督作の『ジュラシック・パーク』で、電撃フェンスで死にかけるティム役と言えば覚えている方も多いでしょう。
 本作ではジョン・ディーコンのジョン・ディーコっぷりを見事に再現しております。




 その他、〈クイーン〉をメジャーデビューさせる大手レコード会社のプロデューサー、ジョン・リード役に、ワルオジ俳優のエイダン・ギレン。
 本コーナーで言えばジャッキー・チェン主演映画『シャンハイ・ナイト』てジャッキーを追い詰めた屈指の悪役を演じた人!

 その大手レコード会社の重役役にマイク・マイヤーズ。
 スパイコメディ映画の傑作『オースティン・パワーズ』のオースティン・パワーズを演じたお人!

 そして〈クイーン〉の弁護士をしていたら何故かマネージャーまで任せられてしまうマイアミ・ビーチ役にトム・ホランダー。
 『パイレーツオブカリビアン』シリーズの二作目から登場する、敵役のベケット卿役で有名な名脇役俳優です。

 その他、当時の有名人や有名ミュージシャンのそっくりさんがわんさか登場します。



 そんなスタッフ・キャストでお送りする本作は、ご存知の通り大ヒットし、アカデミー賞で4部門賞を獲得する程評価され、プチ社会現象となり、世間ではちょっとした〈クイーン〉ブームの再来となったわけです。

 公開当時、筆者はそこまで〈クイーン〉のファンというわけでもなく、劇場に見に行こうと思ったのは、他に見たい映画が特に無かったからという理由が大半でした。
 そして本作を劇場で見た結果、ドハマりし、何度も劇場に足を運ぶこととなるのです。
 それは何故だったのか?

 これまで本コーナーで紹介してきた多くの傑作映画がそうであるように、本作もまた、キャストの熱演、スタッフの尽力による映像、巧みなシナリオが揃っていることはもちろん、素晴らしい〈クイーン〉の楽曲があったからに他なりません。



 まず厳選されたキャスト陣‥‥‥特に〈クイーン〉の四人はそれぞれの担当楽器を実際に演奏できるレベルまで修練し、撮影に臨んだのだそうです。
 ちなみにボーカルのラミ・マレックは、ギターを弾くシーンがあったのですが、劇場効果版からはまるっとカットされてしまいました。

 その他、エイダン・ギレンにマイク・マイヤーズにトム・ホランダー(スパイダーマンにはならない)のオジサン俳優達のそれぞれの時にネチャっとしたり、シブかったりするお芝居も見事とし言いようがありません。



 本作はそんなキャスト陣が頑張る一方で、スタッフ陣の尽力により、〈クイーン〉が駆け抜けた約20年のそれぞれの時代の社会、ファッション、数々のライブステージをVFX技術や巨大セット等を駆使することでド迫力で映像化しているのが凄いのです。


 そしてそれらの要素が、〈クイーン〉の楽曲と共に、クライマックスで行われるステージ〈ライブエイド〉へと繋がってゆく脚本構成が素晴らしいと思うのです。

 〈ライブエイド〉とは1985年に巨大なスタジアムを借り切って実際に行われ、多くの有名ミュージシャンが参加したアフリカ難民救済基金の為のチャリティーイベントだそうです。
 

 この〈ライブエイド〉を盛り上げる為に、本作はキャスト・スタッフ・脚本・その他諸々のセクションが尽力し、逆算して注力したことが、成功の鍵だった気がします。
 それほどまでにこのシーンが筆者には刺さったのです。
 

 それは前回語った『ウォーク・ハード ロックへの階段』におけるデューイ・コックスの生涯がそうであったように‥‥‥。
 フレディ・マーキュリーと〈クイーン〉の歴史にも、いい思い出ばかりを数珠のように繋げて生きることなど叶うはずもなく、メンバーとの諍い、恋人との分かれ、乱れた性生活にドラッグと、フレディ・マーキュリーは波乱の人生を送り、ある決定的な運命が彼を待ち受けるのですが、そんな時に訪れた〈ライブエイド〉に挑む彼の姿に、私達観客は心打たれたのだと思います。



 どれくらい筆者が心打たれたかと言うと、〈ライブエイド〉の〈クイーン〉の出番が訪れ、フレディ・マーキュリーがペプシのカップが大量に乗ったピアノに着き、本作タイトルともなった〈クイーン〉の名曲『ボヘミアンラプソディー』の歌詞の「マ‥‥‥」を聞いた瞬間、涙腺バルブが開放されてしまったくらい。
 言い方を変えれば、それ程までにここまでの盛り上げがあらゆる面で凄かったのです。


 中でも筆者が本作のクライマックス〈ライブエイド〉の盛り上げに寄与していると感じるのは、その何千何万という観客達の映像です。
 1985年当時の会場のウェンブリースタジアムを埋め尽くす程の観客が、観客役のエキストラとVFX技術を駆使して再現されているのです。
 映画撮影時でウェンブリースタジアムは存在せず、またそこを埋め尽くす程のエキストラを集めること叶わず、ステージ部分のみセットを組み、VFX技術で他のスタジアム部分を再現し、数百人集められた観客のエキストラの衣装を着替えさせては何度も立ち位置を変えて撮影し、合成することで観客で埋め尽くされたスタジアムを作り上げているのだそうです。

 そしてそこに映るクローズアップされた観客達の〈クイーン〉の歌を聞く姿が良いのです。
 友人と、恋人、親子で、見知らぬ同志たちと‥‥‥それぞれの観客がそれぞれに〈クイーン〉のパフォーマンスに感激し、心が一つとなていく姿に、筆者もまたもらい感動してしまうのです。




 ちなみに筆者のお気に入りシーンは、『イェ~オ!』というフレディ・マーキュリーお得意のマイクパフォーマンス客いじりで、フレディあまりの声量と凄さに、思わず振り返って笑ってしまうバイトらしき警備員さんのシーンと、最初は閑古鳥が鳴いてロンドンの場末のパブで、〈クイーン〉の〈ライブエイド〉のTV中継を流していたらいつの間にか客の皆が肩を組んで共に歌っていたシーンです!


 さらにもう一つ、本作で筆者が感激したのは、最後にあの曲を温存してくれていたことです。
 かつて『シン・ゴジラ』を初めて見た時に、クライマックス直前でふと『ゴジラ』といえばあの曲と言えるBGMが、それまでまだ使われていなかった時と同じ感覚を、筆者は本作初見時でも覚えたのです。
 人生をある程度生きて来れば、そのどこかで一度くらいは聞いたことがあるであろう〈クイーン〉といえばアレ! ‥‥‥という名曲を、本作ではこの瞬間まで温存し、最高のタイミングで聞かせてくれたことに感激せずにはいられなかったのです。
 そしてその名曲そのものに込められたメッセージこそが、〈クイーン〉が‥‥‥フレディ・マーキュリーが‥‥‥本作を作った人達‥‥‥本作を見た人達に伝えたかったことであり、スタジアムに集った観客に伝えたかったことだと思え、それがとても嬉しかったのです。
 はたして〈クイーン〉が最後に歌った名曲は何なのか? それをここで明かすのは、本作未見の人にとってもそうでない人にとっても無粋というもの。
 どうかその目と耳でご確認ください!




 最後に‥‥‥本作を見てしばらくして、筆者が感心したことがもう一つだけあります。
 それ本作クライマックスの〈ライブエイド〉が、〈クイーン〉とフレディ・マーキュリーの生涯において、べつにその最後では無いということです。
 つまりフレディ・マーキュリーの残りの人生にも、〈クイーン〉の歴史にも、〈ライブエイド〉後にもまだまだ続きがあるのです。
 しかしながら、本作のスタッフと脚本は、この〈ライブエイド〉こそが〈クイーン〉とフレディ・マーキュリーの生涯のハイライトであり、クライマックスに相応しいと判断し、本作の物語を構成したわけです。

 その理由を筆者は推察することしかできませんが、多分〈ライブエイド〉をクライマックスにした方が一番映画として面白くできると思ったから‥‥‥な気がします。
 実に当たり前のことではありますが、筆者はそこに一面の希望と可能性を感じ取ったのです。

 繰り返しになりますが人生において、良い思い出ばかりを数繋ぎにして生きることなど不可能です。
 良い事もあれば、その合間合間に悪いこともあるのが人生です。
 しかし、どんな人生であっても、そのどこかにハイライトと呼べる瞬間があれば、そこをクライマックスにした物語にすることは可能なのです! 本作のように!
 高校時代の部活動、大学時代のサークル、社会人で成し遂げた仕事、旅行に趣味に、大恋愛に結婚出産などなどなど‥‥‥、人生に何か一つでもハイライトにできそうなエピソードがあれば、本文章を読んでいただいているあなたの人生も、アナタの人生も! 映画とかにできるかもしれないです!!!
 ‥‥‥なんてねっ!






 さてここでいつものトリビア。
 本作冒頭の20世紀FOXのファンファーレを奏でているのは〈クイーン〉のギター担当ブライアン・メイとドラム担当のロジャー・テイラーご本人。
 
 〈クイーン〉は日本での公演で人気が爆発したとされていますが、本作では日本公演でのライブシーンは撮影されたものの、編集段階でカットされてしまいました。
 ですがその日本ライブ用に撮影したと思われる観客の映像が、本編の〈クイーン〉TVデビュー周辺の映像に混じって見れますよ。





 ‥‥‥ってなわけで『ボヘミアン・ラプソディ』もし未見でしたらオススメですぜ!