映画観賞……それは時に○○億円もの制作費をかけた作品を、だいたい2000円前後で楽しめるめっちゃコスパの良いエンタメ……。
これは、当劇団きっての映画好きにして、殺陣と小道具美術担当の筆者が、コロナ禍からようやくかつての日常を取り戻しつつある現代社会いおいて、筆者の独断と偏見といい加減な知識と思い出を元に、徒然なるままに……徒然なるままにオススメの映画について書くコーナーである。
▼『映画を語れてと言われても』
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第一四七回『夢と現実と変えられぬ過去の彼方に‥‥‥“ラストナイト・イン・ソーホー”』
タグ:夢 ソーホー ロンドン 1960年代 服飾 ファッション デザイン 賃貸 サイコサスペンス 歌手 クラブ ダンス 売春 幽霊 霊感 ホラー
『ラストナイト・イン・ソーホー』
2021年公開
監督:エドガー・ライト
脚本:エドガー・ライト他
音楽:スティーヴン・プライス
出演:トーマシン・マッケンジー アニャ・テイラー=ジョイ マット・スミス テレンス・スタンプ他
あらすじ
幼い頃に自殺で亡くした母の持つ霊感を受け継ぎ、イギリスの片田舎で祖母に育てられた少女、エリーことエロイーズ(演:トーマシン・マッケンジー)は、高校卒業と同時に、夢だった服飾デザイン学校への進学のため、単身ロンドンのソーホーで一人暮らしはじめる。
しかし住むことになっていたデザイン学校の寮では、都会育ちのルームメイトと反りが合わず、エリーは寮を出て偶々見つけた下宿人募集中の老婆が住む民家の二階に住むことにする。
その新しい部屋で過ごす最初の夜、気が付くとエリーは1960年代のソーホーにいた。
そこでソーホーでも屈指の名店であるナイトクラブ〈カフェ・ド・パリ〉を訪れたエリーは、自分が歌手志望のブロンドの美少女サンディとなっていることに気づく。
その類まれな美貌と魅力でたちまち歌手担当の責任者のジャック(演:マット・スミス)と親密になったサンディは、瞬く間に歌手となる夢の実現の第一歩を踏みしめる。
‥‥‥それはエリーが下宿した部屋で見た夢であった。
その夢が忘れられなかったエリーは、夢の中のサンディのファッションや振舞いを参考に服飾デザイン学校の課題を行った結果、高評価を受けるようになる。
そして次の夜も、再びサンディの夢を見たエリーは、彼女がナイトクラブでの歌手デビューの為のオーディションに合格するのと同時に、そこまでマネジメントしてくれたジャックと恋仲になったところで目が覚める
夢の実現に邁進するサンディに憧れたエリーは、髪を金髪に染め、1960年代の服を纏いイメチェンし、再度サンディの夢を見ようと試みる。
しかし、三度夢の中で見たサンディは、下卑た中年男たちの視線を浴びながらストリップまがいのショーを行っていた。
サンディを歌手に採用したはずのジャックは、実はクラブに来る富裕層の男達に若い女性を紹介する仲介者だったのだ。
ジャックに言われるがままに、クラブに来た中年男達に付き合わされるサンディに、思わずエリーは夢から目覚める。
しかし、エリーの見るサンディの夢は、見たく無いからといって見ずにいられるものではなかった。
見る度に悪化してゆくサンディの夢に、エリーもまた精神を病み、白昼夢さえ見るようになってゆく。
そして娼婦に身をやつしたサンディの身に起きる決定的な事件‥‥‥エリーはもしかするとサンディの身に起きたことが、およそ60年前のソーホーで実際に起きた出来事ではないかと考え、それがこの事態解につながるのではと調査を開始するのだが‥‥‥。
はたして過去のサンデイと、エリーの運命やいかに!?
さて今回は、謎が謎を呼ぶジャンルを超えたミステリータイムスリップ心霊ホラーサスペンス映画回です!
ちなみに物語の舞台となるロンドンのソーホーとは、その界隈で有名な歓楽街でして、今でこそ安心安全な街ですが、1960年代はいわば歌舞伎町みたいな街だったそう。
本作はそこで生きる二人の少女の物語なのです。
監督と原案・脚本(のうちの一人)はエドガー・ライト!
本コーナーで言えば『ショーン・オブ・ザ・デッド』や『スコット・ピルグリムVS邪悪な元カレ軍団』などを撮り、他に『ホット・ファ:俺達スーパーポリスメン』や『ベイビードライバー』を監督した英国人監督です。
つまりめっちゃ面白い映画を撮るお人。
独特のユーモアセンスと編集のテンポ、そして見たことのないセンスの映を見せてくれる監督です。
本作では自身のキャリアで初のジャンルに挑戦しております。
音楽はスティーヴン・プライス。
本コーナーで言えば『ゼログラビティ』の音楽を担当したお方。
同作を見た人にはもうそれだけで凄い人と言えると思います。
エドガー・ライト監督とは『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』という映画以来組むのはこれで三本目です。
そして主演の霊感を持つファッションデザイナー志望の少女エリー役にトーマシン・マッケンジー。
2000年生まれのニュージーランド出身の新進気鋭の女優さんです。
映画『ホビット』の三作目でデビューし、第二次世界大戦末期のドイツに住まう少年の日々を描いた『ジョジョ・ラビット』でブレイクし、以後Mナイト・シャマラン監督の『オールド』なんかに出演してます。
本作では、高校卒業後にイギリスの片田舎からロンドンデビューした少女、つまり日本で言えば地方から東京へ進学した純朴な少女が、大学デビューしたことで都会に染まっていったような役を、見る人をハラハラさせる勢いで演じております。
もう一人の主役、1960年代に生きる歌手志望の少女サンディ役を演じるのはアニャ・テイラー=ジョイ。
17世紀の魔女狩り騒動の映画『ウィッチ』で注目され、Mナイト・シャマラン作品の『スプリット』のヒロインでブレイク。
本作に出演した後は『スーパーマリオブラザーズ・サ・ムービー』のピーチ姫の声優や『デューン:砂の惑星part2』に出演し、2024年はあの『マッドマックス怒りのデスロード』のスピンオフ『フュリオサ』で若き日のフュリオサ役での主演を控えております。
今乗りに乗ってる女優さんです。
本作では男を虜にするタイプの妖艶な美女を見事に演じております。
さらに、歌手志望のサンディを絶望の底に突き落とす男ジャック役にマット・スミス。
本コーナーで言えば『高慢と偏見とゾンビ』に出演していた大変個性的な顔立ちの俳優さんです。
その他には『ターミネーター:ジェニシス』や『モービウス』などで悪役を演じております。
もう絶対善玉には見えないような顔立ちなので仕方がないのですが、ブレイクの切っ掛けとなった英長寿人気SFドラマ『ドクターフー』では一応善玉のドクターフー役で主演してるお人。
さらにエリーがバイト先で出会う謎の老人役にテレンス・スタンプ。
1960年代から映画に出続けてきた大ベテラン俳優で、1978年公開の『スーパーマン』でのゾット将軍役が有名。
本コーナーで言えば『レッド・プラネット』などに出演しているお爺ちゃん俳優です。
‥‥‥とまぁ本作の出演者は、純粋にひたすらに映画の内容に合わせて選ばれたキャスティングの印象を受けます。
そんなスタッフ・キャストでお送りする本作は、コロナ禍の中で公開されるも、先の読めない展開、見たことのない映像美、キャスト陣の熱演で、コロナ禍からの映画業界の復活に寄与したのです。
その本作の良さは、突出した何かの良さではなく、各セクションの尽力が相乗効果を発揮した結果な気もしますが、まず主演の二人の熱演が素晴らしいのです。
単に筆者の好みの二人だったから‥‥‥とも言えますが。
ぶっちゃけ、この二人を主演に抜擢した段階で、本作は半分くらい成功してた気がしなくもありません。
もちろんただ主演に二人を抜擢しただけでなく、彼女らに演じさせたエリーとサンディというキャラに魅力と深みがあり、キャスティングに合っていたからです。
トーマシン・マッケンジー演じるエリーのピュアで田舎臭い女の子が、都会に感化されて変わっていく姿も見事ですし、そんなエリーが憧れるアニャ・テイラー=ジョイ演じるサンディの問答無用のスター性を有したキャラも見事なのです。
そしてその出会うはずの無い二人が接点を持ってしまう物語がユニークです。
本作はとてもジャンル分けの難しい物語なのですが、ともかく霊感がある少女が偶然住むことになった下宿を通して、何故か過去の時代に生きた少女の人生を追体験するというお話です。
心霊モノであり、ホラーであり、サスペンスでもあり一種のタイムスリップものでもあり、またミステリーでもあるお得な映画です。
と同時に、ファッションデザイナーと歌手、それぞれの夢を叶える為に足掻く少女二人の物語であり‥‥‥。
1960年代の一見華やかに見えるショー業界の裏で、男に食い物にされる女性の話‥‥‥なのかと思ったらそれだけでは終わらない話であり‥‥‥。
実に盛りだくさんなこれらの要素が混然一体となってスッキリ終わるという、実にユニークで一筋縄ではいかない物語なところが素晴らしいのです。
それまでゾンビモノに警察モノにSF侵略、青春格闘アクション、カーチェイス映画を撮ってきたエドガー・ライト監督が、次に撮る映画として、本作はまったくもって予想外の内容だったわけですが、蓋を開けてみれば、ジャンルこそ初挑戦ではあれ、実にエドガー・ライト監督らしい捻くれ具合の作品と言える気がします。
筆者は初見時、クライマックスに至るギリギリ直前までこの話の真相というかオチをまったく推測することができませんでした。
はたしてこの作品の少女二人にどんな運命が待ち受けているのか? まだ本作未見の方は、どうかその目でご確認下さい!
そしてこれらの要素を、美麗かつ見たことも無い映像で届けてくれたところが、本作の三つ目の魅力と言えるでしょう。
なかでもエリーが見た夢の中で、1960年代に生きるサンディの姿が、その夢を見ているエリーの姿に幾度も入れ替わる映像美が凄いのです。
サンディが映るはずの鏡にエリーが映るカットなど、様々なアイディアと工夫が映像化されていて飽きません。
特にナイトクラブに初めて訪れたサンディが、ジャックと踊り狂いながらワンカット内でエリーと何度も入れ替わるシーンは、VFX技術だけではどうやって実現したのか説明がつかないレベルであり、同じ映画業界の人間からもどうやって撮ったのか謎に思われた程だとか。
そんなキャスト、脚本、映像の三拍子揃ったことで、この作品は極めてユニークかつ魅力的な作品となっているのです。
さてここでいつものトリビア。
その初めてナイトクラブでエリーとサンディが入れ替わり立ち代わりワンカット内でジャックとダンスするシーン。
いかに合成やVFX技術を使っても、一緒に踊っているジャックが一人である以上は映像化は困難なはずです。
ジャックとダンス相手が重なって触れあって踊っている為です。
合成でジャックとエリー、ジャックとサンディを丸ごと入れ替えるわけにもいきません。
では如何にして件のシーンを映像化したかといいますと、VFX技術もわずかに使っているそうですが、カメラワークとダンスの振り付け、そして踊る三人の演者の奮闘によって、極めてアナログな手段で実現しているのだそうです。
サンディとジャックが踊ってる時はエリーはカメラの死角に隠れ、カメラのアングルとダンスの振り付けの隙をついてサンディと入れ替わり、またその逆をやって元の組み合わせに戻っているのです。
当然ながら、踊る三人はもちろん、カメラもおそろしく正確な動きをする必要があります。
う~む‥‥‥どれだけ練習したんでしょうね!!?
‥‥‥ってなわけで『ラストナイト・イン・ソーホー』もし未見でしたらオススメですぜ!