映画観賞……それは時に○○億円もの制作費をかけた作品を、だいたい2000円前後で楽しめるめっちゃコスパの良いエンタメ……。

 これは、当劇団きっての映画好きにして、殺陣と小道具美術担当の筆者が、コロナ禍からようやくかつての日常を取り戻しつつある現代社会いおいて、筆者の独断と偏見といい加減な知識と思い出を元に、徒然なるままに……徒然なるままにオススメの映画について書くコーナーである。

 

 

 

 

 

 

 

▼『映画を語れてと言われても』

 

 

 

 TODAY'S
 
 第一四六回『俺とお前で内と外での大騒ぎ!“インナースペース”』




 タグ:アクション アドベンチャー SF コメディ 科学実験 人体 ミクロ 産業スパイ 殺し屋 新技術 恋愛 ミクロの決死圏 バディ 特撮

 

『インナースペース』

1987年公開

監督:ジョー・ダンテ

製作総指揮:スティーブン・スピルバーグ

脚本:ジェフリー・ボーム

音楽:ジェリー・ゴールドスミス

出演:デニス・クエイド マーティン・ショート メグ・ライアン ケヴィン・マッカーシー ロバート・ピカード

 

 

 

あらすじ

 腕は確かだが、酒癖が悪くケンカっぱやい米軍パイロットのタック(演:デニス・クエイド)は、それが原因で恋人のリディア(演:メグ・ライアン)と分かれた上に、戦闘機パイロットからとある新技術の実証実験の為の特殊な潜航艇のパイロットに配置転換されてしまう。

 その新技術とは、物質縮小装置でミクロ化したタックの乗った小型潜航艇を、実験用ウサギの体内に注射し、生物を内部から観察してみようという試みであった。

 




 だがこの革新的新技術は軍事利用も可能であり、産業スパイの恰好の標的でもあった。

 研究施設での実験で、タックの乗った潜航艇がミクロサイズにまで小型化されたその瞬間、突如強襲してきた部隊により、ミクロ化を可能にするデバイスであるポジトロニック・チップの内一つが奪われてしまう。

 ポジトロニック・チップは、一つあれば物質を縮小させられるが、元のサイズに戻すには同じチップが二つなければならない。

 しかしそのもう一つのポジトロニック・チップは、縮小されたタックの乗った潜航艇に搭載されていた。

 そしてそのタックの乗った潜航艇は、注射器に入れられた状態で襲われた実験施設から脱出した主任研究員によって持ち去られていた。

 主任研究員は近くにあったショッピングモールに逃げ込んだところで追手の銃撃を受け倒れるも、タックの乗った潜航艇を悪人に渡さんとする一心で、倒れる瞬間たまたま近くにいた一人の男に注射を打ち込む。

 

 

 

 

 その注射を打たれた青年ジャック(演:マーティン・ショート)は、スーパーでレジ係を勤めながら、小心者で神経質なことから精神科に通院する日々を送っていた。

 だがたまたま向かったショッピングモールで、見知らぬ男から何かを注射されてからしばらくした頃、突然頭に直接誰かの声が響き始め大パニックに陥る。

 実はジャックの体内にいるタックが、潜航艇に搭載された機材をジャックの目と耳に繋ぐことで、自分のおかれた状況を把握し、彼の耳に直接話しかけたのだ。

 

 ジャックを説得し、すぐさま実験施設に戻り体内から潜航艇を出して元のサイズに戻ろうとするタックであったが、それには盗まれてしまったもう一つのポジトロニック・チップが必要であった。

 しかも、潜航艇内部の酸素は翌朝までしかもたない。

 タックとジャックの二人は、上われたポジトロニック・チップの行方を追うべく、新聞記者をしているタックの元カノのリディアの元へ向かう。

 しかし、ポジトロニック・チップを盗んだ産業スパイの一味もまた、ジャックの体内にある潜航艇に搭載されたもう一つのポジトロニック・チップを狙っていた。

 

 はたして、肉体の内と外でコンビを組むことになってしまったタックとジャックの運命やいかに!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて今回は、80年代が生み出した名作SFアドベンチャー映画回です!

 それもただのSF映画ではありません。

 もしもミクロ化して人体内部に入ることができたら、何がどうなるだろう? というIFを、80年代全盛期の模型をはじめとしたアナログ特撮技術を駆使し、コメディとアクション仕立てでお送りした一本なのです。

 

 

 

 製作総指揮は巨匠スティーブン・スピルバーグ監督。

 言わずと知れた2020年代でも名作映画を取りまくる名映画監督ですが、80年代当時は特に、製作総指揮という肩書で関わった作品がけっこうあります。

 実際本作をスピルバーグ監督作だと勘違いする人が散見されるほど、スピルバーグ監督が撮りそうな特撮映像盛り盛りのアドベンチャー映画となっております。

 

 

 ‥‥‥ですが監督はジョー・ダンテというお方。

 『太陽光を当ててはいけない。水をかけてはいけない。深夜12時以降に餌を与えてはいけない』の三つのルールでお馴染みの怖くてカワイイ怪物の映画『グレムリン』や、意思を持ったハイテクフィギュアが大暴れする『スモールソルジャーズ』などの監督として有名なお人。

 アクションと特撮と気持ちブラックなジョークが混じったエンタメ性溢れる映画を撮る監督です。

 

 

 音楽はジェリー・ゴールドスミス。

 本コーナーではもう『L.A.コンフィデンシャル』『エアフォース・ワン』等で何度も名前が出ている映画音楽界の重鎮のお方。

 他に『エイリアン』や『グレムリン』や『スタートレック』などの音楽が有名です。

 今回も、実にああ……ジェリー・ゴールドスミスだなぁという安心と安全なお仕事をしてくれております。

 

 

 

 主演は期せずして人体内を大冒険する潜航艇のパイロット・タック役にデニス・クエイド。

 『ライトスタッフ』や『ジョーズ3』『ドラゴンハート』『オーロラの彼方へ』『デイアフタートゥモロー』など数々の映画に主演出演してきたハリウッドスターが一人です。

 本作では粗野で酒癖が悪いが、操縦の腕はピカイチな熱血漢をほぼ潜航艇の狭いコックピットの中から見事に演じております。

 

 

 

 その元カノにして敏腕新聞記者のリディアを演じるのはメグ・ライアン。

 『トップガン』のグースの奥さん役で等で映画出演した他、本作以後大ブレイクし、トム・ハンクスと共演した『めぐり逢えたら』や『ユー・ガット・メール』、湾岸戦争を舞台にデンゼル・ワシントンと好共演した戦争アクション『戦火の勇気』などで主演し、90年代を代表するハリウッドスター女優となったお人。

 ちなみに本作の共演が切っ掛け(と言われている)で、デニス・クエイドと結婚してます(離婚したけど)。

 

 

 

 さらに本作の真の主役ともいうべき、小心者で神経質だけど優しいスーパーの店員の青年、ジャック役にマーティン・ショート。

 アメリカの長寿お笑い番組『サタデーナイトライブ』のレギュラーとして有名なコメディアンのお方でして、他には『七人の侍』のフォロワー映画にして、後の『バグズライフ』や『ギャラクシークエスト』の先祖にあたる名作コメディ映画『サボテン・ブラザーズ』での主演が有名です。

 あまり映画の出演は多くはないのですが、フルCG作品ふくむアニメ映画の声優としても多々活躍しているお人です。

 ぶっちゃけ本作の面白さの三割五分は、この人の身体を張った熱演の賜物な気がしております。

 突然体内にタックの乗った潜航艇を注射され、ミクロ化技術に絡む陰謀に巻き込まれた結果、日常ではありえない大冒険する羽目になった青年を見事に演じているのです。

 

 




 

 さらに、ポジトロニック・チップを海外に売りさばく為に現れるうさんくさいブローカーの〈カウボーイ〉役にロバート・ピカード。

 『スタートレック』の数あるTVシリーズの一つ『スタートレック:ボイジャー』での人気キャラ“ドクター”役でお馴染みの俳優です。

 その他に同・ジョー・ダンテ監督作の『グレムリン2』にも出演してます。

 この人のモノ凄~く脂っこい名演‥‥‥いや怪演もまた、本作の魅力の一割くらい担ってる気がします。

 

 

 

 

 そんなスタッフ・キャストでお送りする本作は、筆者が勝手にジャンル分けするならば『小っちゃくなって人体内で冒険しよう作品』が一作です。

 人は昔から、もしもミクロサイズに小さくなって、人の身体の中に入ってみたらどうなんだろう?! という想像をせずにはいられず、その欲求を映画やアニメなどの世界で、少なからず叶えてきたのです。

 代表的なのは1966年公開の映画『ミクロの決死圏』です。

 これは脳内出血で危篤状態の患者を、体内潜航艇プロメテウスに乗ってミクロ化して、人体内部から治療しようというお話。

 また『ウルトラセブン』では、体内に侵入したミクロサイズの宇宙細菌に対し、同じくミクロ化したウルトラセブンが挑むとうエピソードがあります。

 また『ワンダービートS』や『救命戦士ナノセイバー』といった、ミクロ化した潜航艇にのって、体内の異常を治療しようというアニメ作品も存在します。

 また最近では『働く細胞』というマンガとそのアニメを話題になりました‥‥‥。

 それ程までに、人体内部に人はロマンを感じ、実際人体は本作タイトルにもなったように『内なる宇宙』と呼ばれる程、神秘の世界であり魅力的な題材なのだと言えるのかもしれません。

 

 

 本作は、そんな人体の神秘に対するロマンを、『スターウォーズ』等で華開いた80年代映画ならではの、模型等を用いたアナログ特撮技術の粋を結集して映像化したところがまず魅力なのです。

 ただ映像化しただけではありません、ミクロ化した主人公の視点からみた体内の景色です。

 つまり観測者がミクロ化した分だけ、体内の見える景色の全てが巨大に見えるわけです。

 そのアナログ特撮技術を用いて描かれる人体の部位は、眼球、内耳、心臓、食道、胃、肺などなど‥‥‥。

 そのどれもがアナログ特撮ゆえの味わい深さがあり、実に素晴らしいのです。

 黄色いゼリーの粒がいくつも集まったような脂肪層、赤いグミのよな赤血球が無数に流れる血管、猛烈な速度で開閉を繰り返す心臓弁や、柔らかい生きた活火山のような胃などなど‥‥‥それは2020年代の今であれば、CG技術で作れて当然の映像かもしれませんが、1980年代の技術で作られたそれは、今見ても遜色ない魅力に溢れた映像だと思うのです。

 

 




 

 そしてもちろんキャストの熱演です。

 前述しましたが、作中ほぼ潜航艇の中だけで過ごす主演デニス・クエイドの演技も凄いのですが、個人的にはやはり巻き込まれもう一人の主役ジャックを演じるマーティン・ショートの熱演が凄いと思うのです。

 気弱で神経質だけ心優しいスーパー店員から、タックとの出会いによって少しずつ変わっていく演技がまず素晴らしく、タックと築かれる友情がとても熱いのです。

 

 ちなみに筆者が好きなのは、あきらかに飲めない酒をタックに飲まされ、ベロンベロンに酔っぱらったジャックのダンスシーン。

 

 ‥‥‥さらに実は本作、前述した『ミクロの決死圏』のような人体内大冒険を描く一方、その身体の持ち主たる人物(この場合はジャック)の大冒険も描いているのです。

 ポジトロニック・チップを狙う産業スパイとの追いかけっこと騙し合いを、マーティン・ショートはメグ・ライアンと共に熱演しているのです。

 なかでも、中盤で行われる冷蔵トラックからの脱出アクションは、もちろんスタントダブルも使われているのですが、マーティン・ショート自身が顔が映るアングルで演じているカットも多く、それはとてもコメディアンがやっていいレベルのアクションとは思えない命掛けのシーンとなっており、ただ驚嘆するしかありません。

 あとロバート・ピカード演じるカウボーイの芝居も、ウィル・フェレル的で筆者は好き‥‥‥。

 

 

 

 そして例によって、本作の映像とキャストの熱演をまとめ上げている脚本の素晴らしさです。

 前述しましたが、本作はタックの人体内の冒険だけでなく、タックが入った身体の持ち主の冒険を並行して描いているのです。

 そしてそれは、互いに独立した冒険ではなく、互いが互いに影響しあってピンチになったり、ピンチから脱するところが熱いのです

 例えば身体の持ち主たるジャックが興奮して鼓動が速まれば、血流も速くなり、体内にいるタックにも影響が及びます。

 またタックの潜航艇に搭載されたハイテク機能によって、アッと驚く方法でジャックの行動に影響を及ぼすこともあるのです。

 本作は肉体の内と外で、二人の男が影響しあい協力しあうことで、人生を見直したり窮地を脱するところが素晴らしいのです。

 

 

 

 

 さてここでいつものトリビア。

 

 作中では小柄な男性に見えるジャック役のマーティン・ショートですが、身長は171cmあるんだとか。

 

 本作が切っ掛けで結婚したデニス・クエイドとメグ・ライアン夫婦は、間にジャック・クエイドという男子を儲け、彼もまた俳優となって活躍しております。

 代表作はアマゾンプライム・オリジナルドラマ『ザ・ボーイズ』の主役の一人ヒューイ役。

 言われてみれば目元がパパそっくり。

 

 

 

 ‥‥‥ってなわけで『インナースペース』もし未見でしたらオススメですぜ!