映画観賞……それは時に○○億円もの制作費をかけた作品を、だいたい2000円前後で楽しめるめっちゃコスパの良いエンタメ……。

 これは、当劇団きっての映画好きにして、殺陣と小道具美術担当の筆者が、コロナ禍からようやくかつての日常を取り戻しつつある現代社会いおいて、筆者の独断と偏見といい加減な知識と思い出を元に、徒然なるままに……徒然なるままにオススメの映画について書くコーナーである。

 

 

 

 

 

 

 

▼『映画を語れてと言われても』

 

 

 

 

 TODAY'S
 
第一四〇回『“ダンボドロップ大作戦”……それは象さんをドロップさせる作戦である!!』





 タグ:戦争 象 ベトナム戦争 輸送 空輸 原住民 落下傘 ホーチミンルート 孤児 兵士 アメリカ軍 

 

『ダンボドロップ大作戦』

1995年公開

監督:サイモン・ウィンサー

音楽:デヴィッド・ニューマン

出演:ダニー・グローヴァー レイ・リオッタ デニス・リアリー他

 

 

 

あらすじ

 1968年……北と南に分断されたベトナム戦争のただ中……。

 南ベトナム支援の為派兵されたアメリカ軍の大尉ドイル(演:レイ・リオッタ)は、敵軍の物資輸送ルートである通称〈ホーチミンルート〉の監視の為、米軍との協力関係にあるとある山間部の村に派遣され、そこで先任のケイヒル大尉(演:ダニー・グローヴァー)と交代するよう命じられる。

 任務引き継ぎに際し、現地住民との友好関係を維持するようケイヒルよりアドバイスを受けるドイル。

 しかし着任早々ドイルの軽率な行動が切っ掛けで、村が神の使いとして崇め、重要な労働力ともしている一頭の象が北ベトナム軍によって射殺されてしまう。

 

 この事件により、ホーチミンルート監視の為の協力関係を村から絶たれそうになったドイルとケイヒルは、新たな象を村に送り届けることを約束し、なんとか事を納めようとする。

 

 かくして開始される象確保作戦。

 ドイルとケイヒルは、護衛のアッシュフォード、通信兵ファーリー、物資調達屋のプール(演:デニス・リアリー)をかき集め、ベトナムの他の地から新たな象のポータットを購入し、その象を村まで移送しようと試みる。

 その距離およそ200マイル!

 しかし、その旅には、唯一象を操れる孤児の少年の想定外の同行と、象移送作戦を察知した北ベトナム軍の妨害が待ち受けていた。

 

 

 はたして、ドイルとケイヒルによるこの前代未聞の作戦の行方やいかに!!

 

 

 

 

 

 

 

 さて今回は、世にも珍しい戦争映画の秀作を語りたいと思います。

 今から50年以上前、東西冷戦の最中、ベトナムを二分し、ソ連を主とした共産主義国家の支援を受けた北ベトナムと、アメリカを主とした資本主義国家の支援を受けた南ベトナムとの間で、激しい戦争がありました。

 ベトナム戦争です。

 その戦争についての歴史的な意義云々について、筆者の立場から語れることはほぼ無いのですが……ただその戦争を題材にした映画が、他の多くの戦争と同じ様に数多く作られたことは事実と言えます。

 『地獄の黙示録』『プラトーン『デンジャークロース』や、ここでも語った『フォレストガンプ』スピルバーグ監督作の『ペンタゴン・ペーパーズ』も変則的ベトナム戦争映画と言えるでしょう。

 それらの多くは、戦争の悲惨さ、愚かさを訴える作品が多いと思われます。

 戦争そのものはもちろん、ベトナム戦争それ自体が、アメリカにとって良い記憶となっていないであろうことがその大きな理由と思います。

 しかし本作は、そんなベトナム戦争を舞台とした作品でありながら、是非ともここで語っておきたい飛び切りの異色作なのです。

 

 

 

 監督はサイモン・ウィンサーというお方。

 大作ではないアクション映画やファミリー映画を主に撮ってるお方で、ミッキー・ロークとドン・ジョンソン主演のハードボイルドアクション『ハーレーダビッドソン&マルボロマン』やシャチと少年の交流を描いた『フリーウィリー』が有名です。

 

 

 

 音楽はデヴィッド・ニューマン。

 数々のファミリー映画やコメディ映画で音楽を担当したお方ですが、本コーナーで言えば、『ギャラクシークエスト』のメインテーマを奏でたお方!!

 それだけで充分レジェンドです!

 

 

 

 主演は、ホーチミンルート監視の為の村に派遣される新任の大尉ドイル役にレイ・リオッタ。

 1980年代後半から2023年公開の映画まで、数多くの作品に出演してきた、まるで少女漫画みたいなお目めが印象的な名脇役俳優が一人です。

 勝手な主観ですが、ヤクザかマフィアかギャングか警官かFBIか快楽殺人犯ばっか演じている気がします。

 映画ファン的にはサイコサスペンス映画の名作『羊たちの沈黙』の続編『ハンニバル』で、快楽殺人犯のレクター博士に自分の〇〇を〇させられちゃう人で有名かもしれません。

 残念ながら2022年に67歳で他界されました。

 本作はそんなレイ・リオッタの、主演かつ善玉の役というかなりレアな一本でもあるのです!

 

 




 

 

 もう一人の主役、先任で村に派遣されていたケイヒル大尉役にはダニー・グローヴァー。

 1979年に『アルカトラズからの脱出』で映画デビューして以来数々の映画に出演し、『リーサルウェポン』シリーズでメル・ギブソン演じる破天荒刑事リッグスの相棒のマータフを演じたことで一躍ブレイクし、『プレデター2』でロス市警の刑事ハリガン役でプレデターとも戦うことになった巨漢の名俳優です。

 最近では『ジュマンジ:ネクストレベル』での出演が印象深いお方。

 本作では、任務優先主義のドイルと対立しながら、新たな象を村に届けようとする人情家の軍人をどっしりと演じております。

 筆者の中では勝手に〈ハリウッドのいかりや長介〉と認定しております。

 

 

 残念ながら本作キャストで有名と言える俳優はこのお二方くらいで、あと一人、アメリカ軍の補給物資担当のプール演じるデニス・リアリーにお見覚えがある程度です。

 監督他のスタッフ陣も、劇的にネームバリューある方々とは言えないかもしれません。

 ですがまぁ、それでも本作は充分おもしろいのです!

 だって象さんをドロップするお話なんですもん!

 

 




 

 本作が本コーナーで語る価値ありと判断した最大の理由は、そのアイディアそれ自体と言って良いでしょう。

 しかし、ただあらすじのような物語を映画化したわけではありません。

 

 

 なんとこの映画の物語は、いわゆる『実際にあった出来事を元にしている』ってヤツなのです!!!

 つまり象さんマジでドロップしたってこと!??

 

 ……他の映画で言えば『ハドソン川の奇跡』『グランツーリスモ』『ブラックホークダウン』『U‐571』『アメリカンスナイパー』『AIR』『オンリーザブレイブ』などなど、実際の出来事を元に作られた映画は数え切れない程存在し、名作も多々あります。

 しかしそれらは、必ずしも実際の出来事を忠実に映画化したものとは限りません。

 事実に忠実なのもあれば、盛り過ぎだろ! ってほどの話を盛りまくった作品まで様々あります。

 それはある意味、穿った見方をすれば、ネタになりそうな実際の出来事をウソっぱちを混ぜ込んで商売のタネにした……と言えないこともないかもしれません。

 そして本作は恐らく、どちらかと言えば後者に属する映画と思われます……。

 

 ……いえ、どのあたりまでが実際にあった出来事で、どこからが脚色なのかは分かりませんけどね!

 少し調べてみましたが、本作が実話ベースという情報は探し出せても、どんな実話を元にしたのかまでは分かりませんでした。

 ですがそれで良いのです!

 本作は多くのベトナム戦争映画では味わえない、実にのどかでほっこりとした気分を味わえるのですから……。

 

 

 なにしろ本作を作った会社はあのディズニーなのです。

 ディズニーが作ったのだから安心して〈ダンボ〉の名前も使えます!

 そしてディズニーが作ったが故に、ベトナム戦争映画であるにも関わらず実にディズニーらしい映画となっているのです。

 つまり多くのベトナム戦争映画にありがちな凄惨な戦闘による人殺しシーンなどは無く、お子様でも安心して見られる内容となっているのです。

 それでいて、1995年の映画らしいCG技術に頼らないアクションや、ベトナムの広大な景色を描いた映像は充分な見ごたえがあるのです。

 なにしろCG技術がまだ無いので、作中で登場する輸送機やヘリ類はもちろんホンモノですし、人間さんの都合でベトナム内を大移動する羽目になる象さんも、もちろん基本ホンモノのです。

 この運ばれる象さん役の象さんの名演技も本作の見どころの一つなのです!

 



 

 しかし本作で一番筆者が気に入っているシーンは、米軍の象さん移送作戦の阻止を任された、敵国北ベトナム軍の部隊の副官さんのクライマックスにおけるある選択です。

 

 戦争とは、個人の意思ではどうにもならない事情で、敵国の命や資産を破壊し合う行いです。

 それをただ虚しい行いだから辞めろ! と言うのは傲慢かもしれません。

 とはいえ、戦い殺し合うこととなった敵国の兵士もまた、間違いなく同じ人間であり、共通する思いもあるのだ……と思わせてくれる実に好きなシーンなのです。

 

 

 

 

 そして本作の一番の価値は、前述したように、この題材を映画化したことそのものにある気がします。

 それは戦争のただ中に、命がけで象さんを運んだ……ただそれだけのお話ではあります。

 が、本作は映画『プライベート・ライアン』や『七人の侍』において、兵士たちが、侍たちが、割に合わない任務に命をかけたことと同じ思いを描いを描いている気がするのです。。

 戦争において、ただ敵国兵士を殺し、戦闘に勝利するよりも、生きて故郷に帰った時に、家族に笑って話せる思い出の為に、命を掛ける価値がある……いや、それにこそ真の命を掛ける価値がある! そう思い行動した人達の物語であることが、筆者や本作を好きな人達の心を掴んだのではないでしょうか?

 

 

 ま、本作のクライマックスで最後にいったい何がどうなるのか? については、本作をまだ未見であっても本作タイトルとポスターの段階で丸っと分かっちゃうんですけどね!!

 

 




 

 

 ここでいつものトリビア!

 割と製作背景の謎な本作では、あまりトリビアを見つけられなかったのですが……。

 本作のポスターでダニー・グローヴァー、レイ・リオッタに続く三人目の主役かの如く写っている、象さんから輸送機から砲撃支援まで、何でも調達する物資調達担当官のプールを演じたデニス・リアリー。

 どっかで見覚えある……と思ってたら……。

『アメイジング・スパイダーマン1・2』で、ヒロインのグエン・ステイシーのパパの警察署長のジョージ・ステイシー演じてた人だ!

 

 

 

 

 ……ってなわけで『ダンボドロップ大作戦』もし未見でしたらオススメですぜ!!