映画観賞……それは時に○○億円もの制作費をかけた作品を、だいたい2000円前後で楽しめるめっちゃコスパの良いエンタメ……。

 これは、当劇団きっての映画好きにして、殺陣と小道具美術担当の筆者が、コロナ禍からようやくかつての日常を取り戻しつつある現代社会いおいて、筆者の独断と偏見といい加減な知識と思い出を元に、徒然なるままに……徒然なるままにオススメの映画について書くコーナーである。

 

 

 

 

 

 

 

▼『映画を語れてと言われても』

 

 

 

 

 TODAY'S
 
第一三九回『既成概念を捨てろ!“マトリックス”』




 タグ:SF アクション 仮想現実 未来 AI 戦争 船 ネット AI 救世主 ハッキング カンフー キアヌ・リーヴス

 

『マトリックス』

1999年公開

監督:ウォシャウスキー兄弟

脚本:ウォシャウスキー兄弟

音楽:ドン・デイヴィス

カンフーアクション指導:ユエン・ウーピン

出演:キアヌ・リーブス ローレンス・フィッシュバーン キャリー=アン・モス ヒューゴ・ウィーヴィング ジョー・パントリアーノ

 

 

 

あらすじ

 時に20世紀末……と思しき世界……。

 コンピュータープログラマーとして大手企業に務める一方、凄腕ハッカーでもあるネオ(演:キアヌ・リーヴス)は、ある日トリニティ(演;キャリー=アン・モス)とモーフィアス(演:ローレンス・フィッシュバーン)という伝説的ハッカーと巡り合う。

 それと時を同じくして会社に現れた当局のエージェントに連行されたネオは、エージェント・スミス(ヒューゴ・ウィーヴィング)への協力を拒否した結果、彼らによって謎の機械の虫をヘソに入れられてしまう。

 気が付くと自室にいたネオは、再びモーフィアスから連絡を受け、トリニティとその仲間達によって入れられた機械虫を摘出される。

 機械の虫を腹に入れられたのが夢ではなかったことに驚愕するネオ。

 その彼に、モーフィアスはその機械が敵による一種の追跡装置だと告げると同時に、青を赤のピルを差出し、どちらかを飲めと選択を迫られる。

 もしも青いピルを飲めば、元の日常に戻ることができる。

 その一方、赤い方を飲めば、ネオの身に何が起き、なぜエージェントに狙われ、隠されたこの世界の真実を知ることができる。が、二度と元の生活には戻れない……と説明するモーフィアス。

 

 常日頃から、自分が生きる世界に違和感を覚えていたネオは、赤いピルを選択する。

 

 その結果、ネオが再び目覚めると、彼は無数に並ぶ機械のカプセルの中にいた。

 

 そこに現れたモーフィアスとトリニティによって飛行船ネブガドネザル号内に救出されるネオ。

 実はそれまでネオが生きてきた世界は、コンピュータAIによって産み出された仮想世界〈マトリックス〉であり、実際の世界はネオが現実と思っていた20世紀末の社会よりもはるか未来であり、それまでの間に、世界は人類に反旗を翻したコンピュータとの戦争で荒廃し、人類はほぼ敗北したうえに、生き残った人類の大半がAI達によって捕らえられ、その意識を〈マトリックス〉に封じ込められた上に、肉体を生態発電機として利用されていたのだ。

 そしてモーフィアスやトリニティは、そんな中で〈マトリックス〉内部から救出された人類の抵抗組織の一員だったのだ。

 救出されたネオもまた、その抵抗組織の一員として、仮想世界〈マトリックス〉内に侵入する訓練が開始される。

 しかしネオが選ばれたのには別の理由もあった。

 彼こそが人類為の救世主という予言が成されていたのだ。

 

 モーフィアスらによって、カンフー等の〈マトリックス〉内で活動する為の訓練を受けたネオは、彼を救世主であると予言した〈オラクル〉なる人物に会う為、モーフィアス、トリニティらと共に再び〈マトリックス〉内へと侵入する。

 

 しかし、その姿をAI達の先兵たるエージェント・スミス達が追っていた。

 

 

 

 果たしてネオに待ち受ける運命とは?

 人類の未来の行方やいかに!?

 

 



 

 

 

 

 

 さて2024年一発目の今回は、SFアクション映画史を塗り替えた名作中の名作について語りたいと思います!

 

 1999年に公開された本作は、公開と同時に大ヒット高評価を受け、社会現象ともなり、三作の続編と、外伝アニメなどが作られるに至り、さらに後の映画やマンガやアニメに実に絶大な影響を与えることとなりました。

 筆者もまた予告編の段階から注目し、公開と同時に劇場に足を運び、そしてドップリと沼ったものです。

 あの当時は色んな人が反っくり返った気がします。

 ……とはいえ本作公開からはや四半世紀。

 名作中の名作アクションSF映画でる本作ですが、見たことが無いというお方も多々いる時代となってしまいました。

 そこで今回は、まだ本作を見たことが無い人の為に改めて本作『マトリックス』について語ってみたいと思います!

 

 

 

 監督・脚本はラリーとアンディのウォシャウスキー兄弟。

 シルベスター・スタローン主演・アントニオ・バンデラス共演の『暗殺者』という映画の脚本で業界デビューし、その後クライムサスペンス映画『バウンド』で監督デビュー。その後に撮ったのが本作『マトリックス』となります。

 その後は日本のアニメ『マッハGoGoGo』の実写化『スピードレーサー』やトム・ハンクス他出演のSFオムニバス映画『クラウド・アトラス』や『ジュピター』といった大作映画を監督しています。

 本作『マトリックス』以後はVFXを多用したSF映画を主に撮っている兄弟監督ですね。

 本作が映画史に残る作品になった最大の要因は、筆者が思うにこの兄弟監督の極めて特異な“センス”によるところが大きいと思います。

 

 

 

 

 出演は、主役のネオにご存知キアヌ・リーヴス。

 『ビルとテッド』シリーズなど、デビュー当初はコメディや人間ドラマ系映画に出演しておりましたが、1994年公開のアクション映画『スピード』でアクション映画俳優としてブレイクし、本作へ主演しさらにブレイク、最近は『ジョン・ウィック』シリーズでの活躍が印象深いハリウッドを代表するスター俳優の一人です。

 

 

 

 共演は、ネオを導くモーフィアス役にローレンス・フィッシュバーン。

 あらゆる映画で脇役として出演しては良い所を持って行く名優の一人でして、本コーナーでは宇宙SFホラー映画『イベント・ホライズン』で主演しております。

 

 さらにヒロインのトリニティ役にキャリー=アン・モス。

 元モデルから女優に転進したお人で、本作でブレイクした後は、本コーナーでも紹介した『レッド・プラネット』で有人火星往還宇宙船のボーマン船長役などで活躍しております。

 




 そしてネオの宿敵となるエージェント・スミス役にヒューゴ・ウィーヴィング。

 本作の出演でブレイクする前は、声優とし牧羊犬ならぬ牧羊豚の映画『ベイブ』で、牧羊犬レックスの声を当ててたりした他、本作後は『ロードオブザリング』と『ホビット』シリーズで、エルフのエルロンド卿を演じるなど、数々の大作ヒット作で重要なキャラを演じているお方です。

 本コーナーで紹介した『移動都市/モータル・エンジン』でも敵ボス役で好演しております。

 

 

 

 そんな、公開当時基準で若干のクセのあるキャスティングと、新進気鋭の監督であったウォシャウスキー兄弟によって撮られた本作は、前述したように特大のヒットとなったわけですが、それは何故でしょうか?

 

 もちろん、例によってキャストの熱演、脚本の良さ、凝った撮影に編集という各セクションの尽力の賜物だと言えるのですが、あえてそれにプラスした要因が何か? と言えば、それは前述したようにウォシャウスキー兄弟監督のセンスであった気がします。

 それが演技、アクション、映像、編集、音楽に至るまで発揮された結果、本作は映画史に残る作品だった気がします。

 それともう一つ、本作が作られたタイミングもまた重要だった気がします。

 

 

 

 まず、我々が生きる21世紀前後の社会が、実は〈マトリックス〉とい仮想現実であったという設定が斬新でした。

 本コーナー『ダークシティ』回でも語りましたが、本作はいわゆる〈人間牧場〉モノとでも言うべきジャンルの作品です。

 それは平穏に生活していたと思っていた社会が、実は何者かによって産み出された箱庭世界であり、人類は後で何がしかの形で〈収穫〉する為の存在であった感じの物語です。

 本作や『ダークシティ』の他、マイケル・ベイの映画『アイランド』や日本のOVA『メガゾーン23』が該当すると思われます。

 本作はその牧場を、コンピュータによって産み出した仮想現実内にしたところが斬新で画期的だったのです。

 〈仮想現実〉とはアニメで言えば『ソードアートオンライン』や映画で言えば『アヴァロン』などなど、ヴァーチャルリアリティ・ゲームで使われたりする概念です。

 1999年当時、すでに〈仮想現実〉という概念事態はSF小説等で存在していました。

 が、それ大予算を用いて実写映像作品にしたのは本作が最初期だったのです。

 これは、『ターミネーター2』や『ジュラシックパーク』などで華開いたCG技術により、コンピュータによって産み出されたという設定の仮想現実の映像化が可能となったことも大いに関係しているのではないかと思います。

 つまり本作は、コンピュータによって産み出されたという設定の仮想現実を、CG技術を駆使して映像化した最初期の作品であることが画期的だったのです

 

 ここで面白いのは、仮想現実〈マトリックス〉内の世界を、オーストラリアはシドニーの実際の街並みを使ってロケ撮影し、本作の現実の荒廃した未来世界の方を、VFX技術を駆使した映像で表現していることです。

 設定的にそうやって撮影するしか表現のしようが無いのですけどね!

 

 

 

 

 

 そしてもう一つ画期的だったのは、ワイヤーアクションを多用したカンフーによる格闘シーンの多用です。

 本作において仮想現実〈マトリックス〉内部での敵エージェント対主人公勢の戦闘は、従来ながらの銃撃戦の他、仮想現実であるが故の物理法則を無視したカンフーアクションによって行われるのです。

 設定とアイディアと映像の見事な融合です!

 2020年代の今でこそ、ハリウッド映画内でのカンフーは差して珍しくもありませんが、ハリウッド映画でカンフーを出すの1999年時はかなり珍しい挑戦だったのです。

 これはウォシャウスキー兄弟が映画オクウであり、好きなジャッキー・チェン映画の格闘アクションシーンの監督をしていたユエン・ウーピンに、本作の格闘シーンの監督をオファーしたことが、本作の評価に大いに貢献したことは否めないでしょう

 ユエン・ウーピンといえば本コーナーでいえば『ワンスアポンナタイム・イン・チャイナ:天地大乱』のアクション監督をつとめたお方で、キャストの振り付け、カメラワーク、カット割り、編集まで混みで考え抜かれたアクションシーンを産み出す同業界のレジェンドです。

 そしてそれに挑戦したキャストの努力もまた、凄かったのです。

 何カ月にも渡るカンフー稽古、ワイヤーアクションの訓練によって産み出されたアクション映像が、本作の魅力の一つなのです。

 ちなみにこの撮影までの練習期間で、キアヌ・リーヴスとヒューゴ・ウィーヴィングは筋を痛めて大変苦労したそう。

 

 

 

 そしてさらに、オタクなウォシャウスキー兄弟監督によるマニアックなオマージュと共に描かれた映像です。

 中でも本コーナーで紹介した『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』からのオマージュは見てすぐ分かるレベル。

 冒頭の流れす無数のカタカナ文字(実は寿司のネタが書かれているという)から、クライマックスのビルのエントランスでの銃撃戦で、銃弾によって砕け散る柱、そして終盤の史上でのネオとエージェントの追いかけっこなど、実に分かりやすいオマージュが行われております。

 

 

 

 さらに本作で忘れてはならないのはバレットタイムという映像です。

 敵の銃弾を反っくり返りながらキアヌ・リーヴスが回避するカットで使われた映像テクニックでして、文章で説明するならば、スローモーション撮影でありながらカメラが高速で被写体の周囲を移動するという不思議な映像です。

 1999年時の撮影技術で普通に前述の映像を撮ろうと思った場合、被写体の周囲でカメラを超高速で移動せねばならないはずだったのですが、それは現実的には(危険で)不可能です。

 撮影不可能なはずの映像だから凄いわけです。

 そこで本作では、被写体の周囲に無数のカメラを配置し、被写体たるキャストの演技と共に、一コマずつ次々と隣り合ったカメラが撮影した画像を繋げることで実現しています。

 被写体の周囲にカメラを配置すると、被写体の反対側にあるカメラが写ってしまいますが、それはCGで作った背景映像にまるっと交換してしまいます。

 

 本作以前からCM撮影で使われた手法ですが、本作では仮想現実〈マトリックス〉内での戦闘シーンにこれを用いることで、実に効果的となっているのです。

 

 




 

 そういった、仮想現実設定やカンフーやバレットタイム撮影は、今ではもう珍しいものでなく、さらに新たな要素が映画に注ぎこまれ、日々新しい作品が生まれています、

 ですが本作は、そういった段階で様々な要素を1999年の段階でいち早く盛り込み、一本の映画にしたことで、歴史に残る名作となったのではないでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 さてここでいつものトリビア。

 キアヌ・リーヴス主演の近年のヒット作『ジョン・ウィック』シリーズの監督チャド・スタエルスキは、本作でキアヌ・リーヴスのスタントマンをやっていたお人。

 

 ウォシャウスキー兄弟は本作の映画製作にあたって、プロデューサーに対し『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』を実写映画にするんだ! とプレゼンした。

 

 ウォシャウスキー兄弟は……なんやかんやあって今は姉妹……。

 

 

 

 

 ……ってなわけで『マトリックス』もし未見でしたらオススメですぜ!