映画観賞……それは時に○○億円もの制作費をかけた作品を、だいたい2000円前後で楽しめるめっちゃコスパの良いエンタメ……。

 これは、当劇団きっての映画好きにして、殺陣と小道具美術担当の筆者が、コロナ禍からようやくかつての日常を取り戻しつつある現代社会いおいて、筆者の独断と偏見といい加減な知識と思い出を元に、徒然なるままに……徒然なるままにオススメの映画について書くコーナーである。

 

 

 

 

 

 

 

▼『映画を語れてと言われても』

 

 

 

 

 

 TODAY'S
 
第一三四回『ああ~なるほど、そういうことね……完璧に理解したわ……“GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊”』

 


 タグ:SF 近未来 警察 サイボーグ 押井守 士郎正宗 インターネット ハッキング 魂 AI 犯罪 テロ 公安 銃撃戦 戦車 光学迷彩 

 

『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』

1995年公開

監督:押井守

原作:士郎正宗

脚本:伊藤和典

音楽:川井憲次

声の出演:田中敦子 大塚明夫 大木民夫 山寺宏一 仲野裕 玄田哲章 小川真司 坂本真綾 他

 

 

 

あらすじ

 

 あらゆる情報ネットワークが星を覆い、電子や光が駆け巡っても、国家や民族が消えて無くなる程には情報化されていない未来……。

 

 

 時に西暦2029年。

 核使用を含む二度の世界大戦を経て、人類は傷痍軍人の為のサイボーグ(義体化)技術と、マイクロマシンを脳に注入することで脳を直接ネットワークに接続する電脳化技術を急激に発達させていった。

 

 だがそれは同時に、それらの新技術とそれによって変容した社会が産み出す新たな犯罪、テロ、陰謀という危機をももたらしてもいた。

 

 日本政府はそれら対し、犯罪やテロを未然に防ぐための攻性の非公開組織・公安9課を創設し、時に暗殺等の非合法な手段で対抗していた。

 

 その公安9課の敏腕現場リーダーにして脳以外を全て義体にした通称〈少佐〉こと草薙素子(声:田中敦子)は、全身が機械であるが故に、自分に人間である証=“ゴースト(魂のようなもの)”が存在しているか? のアイデンティティの希薄さに諦観しつつも、天才AIプログラマーの国外流出事件を暗殺で防ぐなどの任務を淡々とこなしていた。

 

 そんな日々の中、外務大臣の女性通訳が俗称〈人形使い〉と呼ばれる凄腕ハッカーに、電脳をハッキングされる事件に9課は遭遇する。

 

 ハッキング経路を追跡し、〈人形使い〉と思しき人物を銃撃戦の末に確保する素子と9課のメンバーたちであったが、捕まえた人物もまた〈人形使い〉によって電脳を操られた者たちであった。

 

 

 それから数日後、国内最高峰のサイボーグボディのオートメーション工場が何者かにハッキングされ、勝手に作られたサイボーグの身体が工場を出て徘徊したあげく交通事故で大破し、そのサイボーグボデイが9課に運ばれてくる。

 そのサイボーグ内は当然人間の脳は入っておらず、空っぽにも関わらず、人間である証の“ゴースト”がその内部に微かに確認されたからだ。

 その直後、先の天才AIプログラマー国外流出事件で、公安9課に暗殺を依頼した外務省の人間が9課に来訪してくる。

 彼らいわく、そのサイボーグのボディ内に宿った“ゴースト”こそが先日9課が追った〈人形使い〉なのだという。

 

 はたして、なぜ〈人形使い〉は9課の前に現れたのか? 少佐と9課を待ち受ける運命やいかに!!?

 

 

 

 

 

 

 

 さて今回は前回に引き続き押井守作品回です!

 押井守監督といえば! 前回うっかり(監督作回でもないのに)詳しく書いてしまったので再度の説明は省きますが、淡々とした情景描写とウンチクと犬と鳥の群と銃や兵器アクションが大好きな、日本を代表する名個性派映画監督の一人です。

 1995年本公開時点で、すでに映画版『うる星やつら』や『機動警察パトレイバー』でヒットを飛ばしていた押井守監督が、次なる作品として打ち出したのが本作なわけです。

 

 

 

 

 脚本は伊藤和典。

 1980年代から数々のアニメ作品で脚本を書き、本作や押井守監督作の『機動警察パトレイバー』での脚本の他、本コーナーでも紹介した『ガメラ:レギオン襲来』や『ガメラ:邪神覚醒』の脚本で有名なお方です。

 本作では後述する士郎正宗・原作を見事に取捨選択・換骨奪胎して一本の映画に仕上げております。

 

 

 音楽は川井憲次。

 1980年代から数多くのアニメ・ドラマ・映画・ゲーム作品の劇伴を奏でてきたお方で、押井守監督とは『紅い眼鏡/The Red Spectacles』以来ほとんどの押井守監督作の劇伴を担当しています。

 またアニメ作品以外ではドニー・イェン主演『イップマン』シリーズの劇伴の担当などが印象深いお方。

 恐ろしく多くの作品で音楽を担当していながら、聞いてみると……あ、川井憲次だ! とすぐわかる個性的な音楽を奏でるお人でもあります。

 その数々の劇伴担当作品の中でも、本作では極めてカテゴライズの難しい和のテイストを活かした劇伴を奏でており、特にOP曲は映画史に残る名曲かもしれません。

 

 

 

 そして原作は、士郎正宗による1989年連載開始のマンガ『攻殻機動隊』。

 ……1989年連載開始???

 本作は前述したようにこの原作漫画を換骨奪胎して1995年に公開した映画なわけですが、公開当時は当然ながらスマホも携帯電話もインターネットすら、その先祖にあたるものは存在すれど、その欠片も普及はしておりません。

 ……にも関わらず、本作はあらすじでも書いた通り、電脳という技術によって、思考そのものを、いわゆる超発達したインターネットに繋げることが可能となり、その結果、人間の脳さえもハッキングされてしまう社会での犯罪と警察との戦いを描いております。

 今から30年以上前でその先見性、パないことこの上無しです。

 本作の評価の半分はこの士郎正宗の原作の面白さと凄さにある気がします。

 

 

 

 そんなアニメ映画作業界でも屈指のスタッフと、現在でも活躍中の豪華声優陣によって産み出された本作は、2020年代にまで続く高評価を得ることとなるのです。

 なにしろ2023年現在においても、まだこの『攻殻機動隊』の新作映像作品が世に出されるくらいなのですから……。

 

 

 

 

 ……では本作は現在に至るまで、どこがそこまで評価されたのでしょうか?

 もうすでに大分語った気もしますが……それはやはり、脚本・映像・熱演その他諸々がハイレベルだったからだと思います。

 

 

 まず原作たるマンガ『攻殻機動隊』の段階で名作なのです!

 いわば『攻殻機動隊』は、本コーナーで言えば『アイロボット』や『ロボコップ』、他の映画で言えば『マイノリティ・リポート』などの未来の警察捕り物長帳ジャンルに属する作品です。

 これらの作品は、未来において登場した新たな技術と、それによって変わった社会が産み出した新たな犯罪に対し、同じ様に発達した未来技術を用いて立ち向かう刑事達の活躍を描いたところが魅力なわけですが、本作原作の場合、前述したようなネット社会に関する先見性の凄さもありますが、それだけでなく大変SF的で魅力的な設定の数々が描かれているのです。

 サイボーグによる人体のフィジカルを超えたアクションはもちろんですが、特筆すべきは“ゴースト”という概念です。

 誤解を恐れず無理矢理作中に登場する“ゴースト”という概念を説明するならば……。

 

 それは脳以外の全てが義体(サイボーグ)化できる技術をもってしても、どうしても義体化できず、複製もできない人間の魂のようなもの……とでも言いましょうか。

 逆に言えば、ゴーストの存在以外では、全身義体の人間と、全て機械のロボットとの区別ができない世界なのです。

 この人間が人間である最後の証たるゴーストの概念が、マンガ『攻殻機動隊』と、そのアニメ映画版である本作の物語において重要な意味をもってくるのです。

 

 

 そして主人公の草薙素子をはじめ、相棒のバトーや9課課長の荒巻、唯一の生身の9課メンバーながら、刑事としての洞察力と捜査力で活躍するトグサらのドラマパートも見逃せません。

 なんというかとてもプロフェッショナルでありながら、小粋な会話がなされて気持ち良いのです。

 

 

 

 

 本作はそんな原作マンガを、うまいこと一本の映画の尺にまとめて脚本化し、押井守節全開で映画化したことが面白さの決めてだったのではないでしょうか?

 

 

 

 しかし、ただアニメ化したわけではありません。

 本作は、以前本コーナーでも紹介した『マクロスプラス』のように、アニメ史において最も初期にデジタル技術を本格導入した作品なのです。

 そのデジタル技術を駆使した映像が、2029年の未来都市での犯罪捜査モノという世界観とジャンルの映像化に実によくマッチしているのです。

 中でもアニメ作品の中で最も初期に光学迷彩をデジタル技術を駆使して映像化した作品と言えるのではないでしょうか?

 光学迷彩とは、いわば映画『プレデター』でプレデターさんが行う“透明”になれる技術なのですが、本作では原作マンガに登場したその技術が、実に美しく幻想的に映像化されているのです。

 

 

 

 

 

 

 ……とはいえ本作、多くの人が見た最初の感想は、恐らく『難解だった』とか『よく分からなかった』といったものな気がします。

 実際、ナレーションや字幕等で専門用語を説明することもなく、キャラのセリフだけで問答無用で話が進みますし、意味あるんだかないんだかよう分からん長々とした情景描写が続いて混乱したりもするからです。

 実は筆者も、本作の話を理解できたのは、初観賞から何年も経過した後でしたし、今は完全に理解してるか? と問われたならば、『完璧に……』とは言えません。

 

 しかしながら、本作は完璧に理解できずとも、なんとなく見ただけで充分楽しめる、何となくを楽しむ映画だと思うのです。

 その映像美は、それだけで充分楽しめるクオリティですからね!

 それに押井守監督作はそういうとこをまずは楽しむ映画なので!!

 

 

 さらにいえば、本作は要所要所に中々に凝ったアクションパートがあり、クライマックスは少佐のサイボーグの身体を活かしたド派手なアクションシーンもあり、ちゃんと一級のエンターテインメント性が確保されているのです。

 

 それら数々の本作の映像は、ハリウッドの有名監督に熱烈なファンを獲得するほど。

 なかでもキアヌ・リーヴス主演・ウォシャウスキー兄弟監督の映画『マトリックス』制作時は、監督はスポンサー達に『攻殻機動隊』を実写映画にするんだ! と言ってプレゼンして費用を確保し、実際出来上がった『マトリックス』も、本作を見た人ならば即『やりやがったな!!』となる映像があったりします。

 

 

 

 

 さてここでいつものトリビア。

 本作のOP曲は、日本語の歌詞ではありますが、一回聞いただけではなんと歌っているよく分かりません。

 これは日本の古語で歌っているためで、『結婚』を祝う内容を歌っているんだそうです。

 これは脚本の伊藤和則典と音楽の川井憲次が、原作の『攻殻機動隊』を読んだ結果、『これは少佐と○○〇〇との結婚の話だ』という結論にいたったからだそう。

 はたしてその○○○○とは誰か? については、どうか本作未見の方は、その目でご確認下さい。

 

 

 ……ってなわけで『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』もし未見でしたらオススメですぜ!