映画観賞……それは時に○○億円もの制作費をかけた作品を、だいたい2000円前後で楽しめるめっちゃコスパの良いエンタメ……。

 これは、当劇団きっての映画好きにして、殺陣と小道具美術担当の筆者が、コロナ禍からようやくかつての日常を取り戻しつつある現代社会いおいて、筆者の独断と偏見といい加減な知識と思い出を元に、徒然なるままに……徒然なるままにオススメの映画について書くコーナーである。

 

 

 

 

 

 

 

▼『映画を語れてと言われても』

 

 

 

 

 TODAY'S
 
第一三三回『ある日……〈都会の〉森の中……赤ずきんちゃんは……出会った……“人狼〈JIN‐ROH〉”』




 タグ:アニメ アクション 戦後 架空歴史 架空昭和 テロ 銃撃戦 MG42 赤ずきん 狼 押井守 プロテクトギア 警察 公安 暗闘 諜報戦 反政府運動 武力闘争 内部抗争 縄張り争い 内紛

 

『人狼〈JIN‐ROH〉』

2000年公開

監督:沖浦啓之

脚本・原作:押井守

声の出演:           藤木義勝 武藤寿美 木下浩之 廣田行生 吉田幸紘 堀部隆一 仙台エリ 中川謙二 大木民夫 坂口芳貞

 

 

 

あらすじ

 あの決定的な敗戦から10数年後……。

 戦勝国の占領当地を経て復興と共に高度経済成長を迎えつつあった日本は、その強引且つ急激な発展の代償に、生み出された大量の失業者の都市部流入と、それに起因する凶悪犯罪が増加、それはやがて〈セクト〉と呼ばれる反政府過激派集団の台頭をもたらした。

 従来の警察では対応不可能なレベルの〈セクト〉との武装闘争が深刻な社会問題となったこの状況に対し、日本政府は自治警察の権力拡大を牽制しつつ、自衛隊の治安出動を回避する第三の選択をした。

 プロテクトギアと呼ばれる装甲強化服と重機関銃で武装し、首都圏に活動を限定した新たな警察組織、地獄の番犬〈ケルベロス〉とも俗称される〈首都圏治安警察機構〉通称〈首都警〉を公安直下に創設したのだ。

 

 かくして繰り広げられる〈首都警〉と〈セクト〉との市街戦にも等しい凄まじい抗争。

 〈首都警〉は目覚ましい活躍で〈セクト〉を確実に追い詰めていった。

 しかし、それは同時に求められた〈首都警〉の存在意義の終焉をも意味していた。

 

 そして現在……。

 街頭で繰り広げられる大規模デモに相対する機動隊に、何者かによる投擲爆弾が炸裂した。

 デモ隊に混じり活動していた〈セクト〉構成員による犯行であった。

 

 その〈セクト〉の活動を事前に把握していた〈首都警〉の前衛部隊は、デモが繰り広げられていた街の地下水路で、〈セクト〉構成員の手製爆弾の移送現場を強襲する。

 

 その最中、〈首都警〉の隊員の一人、伏一貴(声:藤木義勝)は、地下水路内の坑道で通称〈赤ずきん〉と呼ばれる〈セクト〉内の爆弾移送役の少女と鉢合わせする。

 まだ10代半ばと思しきその少女に、思わず持っていた重機関銃の引き金が引けなかった伏。

 その伏の目の前で、〈赤ずきん〉の少女は運んでいた爆弾を使って自爆する。

 

 




 

 プロテクトギアのお陰で軽傷で済んだものの、少女を撃たずに自爆させてしまったことで査問に掛けられ、結果が出るまで〈首都警〉の養成校で再訓練を命じられる伏。

 彼は再訓練の日々の中、かつて養成校での同期にして、今は公安部に所属してる旧友の辺見(声:木下浩之)に、自爆した少女について調べてもらい彼女の遺骨の葬られた共同墓地を訪れる。

 そこでその少女の姉と名乗る女性、圭(声:武藤寿美)に出会う伏。

 その出会いを切っ掛けに交流を重ねる伏と圭。

 しかしその出会いは、血塗られた陰謀のはじまりであった………。

 

 果たして伏と圭に待ち受ける運命とは?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて今回はアニメ映画回!

 それもあの押井守監督関連作です!

 

 ……ってなわけで原作と脚本は押井守。

 知っている人は知っている日本を代表する映画監督の一人です。

 主にアニメ映画の監督として有名であり、代表作は士郎正宗:原作の『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』や『機動警察パトレイバー』などなど。

 特に『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』がハリウッド映画業界に与えた影響は大きく、映画監督ジェームズ・キャメロンやギレルモ・デルトロ、ウォシャウスキー兄弟(現・姉妹)などが大ファンであり、同監督の『マトリックス』などには色濃い影響が見て取れるほか、スカーレット・ヨハンソン主演のハリウッド実写版『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』が製作されるほど。

 

 

 本作は、その押井守が監督・脚本した実写映画の、『紅い眼鏡/The Red Spectacles』と『ケルベロス-地獄の番犬』と同じ世界観での物語をアニメで映画化したケルベロスサーガと呼ばれるシリーズの三作目なのであります。

 

 

 

 監督は、その押井守監督のアニメ映画『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』をはじめとした数々の押井守作品で、キャラクターデザインと作画監督を担当した沖浦啓之。

 いわゆるアニメーター、もしくは原画マンと呼ばれるセクションのお方であり、それまでもそれ以後も数々の名作アニメの原画を描きまくっている名アニメーターのお方です。

 その原画参加作品は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』や『君の名は。』などなど……錚々たるラインナップ・

 つまり本作は作画職人中の作画職人によって監督された、押井守原作脚本作品なわけです!

 

 結果として本作は国内外で評価され、数々の賞を獲得するにいたっております。

 さらに韓国で実写映画としてリメイクされた程!

 

 

 

 

 そんな本作品の魅力は、やはりまず、押井守によって書かれた極めてユニークな世界観設定にある気がします

 

 本作は前述したように、押井守監督の実写映画、『紅い眼鏡/The Red Spectacles』と『ケルベロス-地獄の番犬』と同じ世界でありながら、時系的に一番最初の物語にあたるわけですが……あらすじにも書いたとおり、本作は別のルートをたどった別の日本の戦後高度経済成長期の1960年代初頭を舞台としています。

 その“別の”の部分が本作の肝なわけですが……。

 それはズバリ、第二次世界大戦において、日本がアメリカではなくドイツに敗戦した世界を描いているのです。

 作中ではドイツのドの字もでてきませんが、設定的にはそういう前提で本作は出来ており、作中で交わされる会中の横文字が全部ドイツ語となってたりします。

 

 そのドイツに何故か占領された日本が、復興しかけた時代に生まれた警察でも自衛隊でもない第三の治安維持組織と、テロ集団との戦いの時代の1エピソードが本作なのです。

 

 ユニークなのはそこだけではありません。

 時代設定が、高度経済成長のただ中たる1960年代初頭なところもポイントです。

 この1960年代の東京の情景を実写映画で再現しようと試みると、なかなかにハードルが高く、押井守のケルベロスサーガ前二作の実写映画版では、映像的に1960年代の東京を映さなかったり、舞台を異国の地にするなどして映しておりませんでした。

 ですがアニメ映画たる本作では、1960年代の東京の情景を映すことに実写程のハードルはなく、真正面から映像化することに挑むことができているのです。

 その1960年代の情景が素晴らしいのです。

 

 路面電車にネオンが照らす繁華街、デパートの屋上には遊園地とアドバルーン、スモッグによりどこかくすんだ空……。

 

 本作はそんな、実写映像化の難しい設定と時代の場所を映像化していることが魅力の一つなのだと思います。

 

 

 

 

 

 そして監督をしているわけでも無いの伝わってくる濃厚な押井節!

 押井守の映画は、複数観賞すればすぐ押井守の監督作だと判別できるほどの個性があり、本作では彼が監督しているわけでもないのに、押井守っぽさがちゃんと出ており、それもまた本作の魅力の一つと言える気がします。

 

 で、その具体的な押井節な何なのか? を誤解を恐れず筆者の勝手な感覚でいうと……。

 

 〈やたら風景をゆったりと映しながらのモノローグ〉

 〈やたら組織のしがらみや生き方やその他諸々について一過言ある人達の駆け引き〉

 

 ……です。

 あと川井憲次の奏でる劇伴というのも押井守監督あるあるですが、本作には該当しません。

 押井守監督が撮ったケルベロスサーガの前二作ではこの押井節が恐ろしく濃厚に現れており、いきなり見たら軽い混乱状態になりそうなレベルなのですが……本作では押井守監督は原作・脚本のみであり、監督は沖浦啓之が務めてることで、だいぶ押井節がマイルド化され一般受けしやすくなっているのが魅力の一つな気がします。

 

 

 

 

 そして原作者・脚本の押井守が描く、集団に相入れることの出来ない男と、世の全てに悲観した少女の出会いを、童話『赤ずきん』と重ねわせて描きながら、組織と組織とのやたら遠まわしでねちっこく、よく考えたら何故そうまでして戦わねばならないのかよく分からない諜報戦の果てに、主人公VS敵とで行われる大銃撃戦が本作最大の魅力といっていいでしょう。

 

 

 

 ここで日本がドイツに占領されていた設定が活きてくるのです。

 本作及び本シリーズの最大の魅力が何か? と問われたならば、前述した全てに優先して、主人公の伏がまとうプロテクトギの活躍にあるといって過言では無いでしょう。

 

 

 

 そのデザインは、第二次世界大戦中のドイツ軍のそれに似た形状のヘルメット、赤い目が怪しく灯る暗視ゴーグルにガスマスク、全身を覆うアーマー、……そしてなんと言ってもメインウェポンのMG42です。

 MG42とはここでも紹介した『プライベート・ライアン』でも米軍を苦しめた、第二次世界大戦中のドイツ軍が誇る名機関銃でして、別名〈ヒトラーの電ノコ〉と呼ばれて米軍に恐れられる程、高威力高性能な機関銃です。

 そしてその威力に合わせて巨大であり、通常一人で持って使うことなど不可能な火器です。

 




 しかし、プロテクトギアを纏った人間がMG42を構えて撃ちまくる姿は、世のそういうのが好きな人の心を鷲掴みにしたのです。

 本作はクライマックスで、プロテクトギア姿でこのMG42を撃ちまくるシーンを描くために作られたのだ! といっても過言ではないでしょう多分!

 

 

 そのプロテクトギアは、そもそもが押井守監督が1987年に撮ったの実写映画にしてケルベロス・サーガの第一作『紅い眼鏡/The Red Spectacles』で主役に着せるため、ここでも紹介した『宇宙戦艦ヤマト2199:星巡る方舟』の監督にしてメカデザイナーの出渕裕によってデザインされたものなのですが、ドイツっぽ装甲服とデカいドイツ製機関銃の組み合わせがあまりに大ウケしたもので、このプロテクトギアが出てくる話を産み出す為に捻くりだされたのが、前述したドイツに占領された日本云々だのの数々の設定なのです!

 

 設定に合わせてデザインしたのではなく、うっかり産み出されたかっこよデザインに合わせて設定が産み出されたのです!

 

 ……う~ん、まるで学生時代の授業中にノートに描いたラクガキに合わせて物語を空想したのと似たようなことが、プロの映画業界でも起ころうとは!?

 でも面白かったからOKですよね?

 

 

 

 さてここでいつものトリビア。

 そのケルベロス・サーガ一作目の『紅い眼鏡/The Red Spectacles』では、プロテクトギアが持つ機関銃はMG42ではなくMG34という一つ前の世代の機関銃。

 ですが続編の『ケルベロス-地獄の番犬』と本作では次世代型のMG42に変えられました。

 これは、海外ロケで撮影された『ケルベロス-地獄の番犬』での銃撃戦を撮るにあたり、実写映画で使えるMG42が今でも存在していたことと、アニメの本作おいてはMG42の方がMG34よりも、形状的にアニメで作画しやすかったから。

 MG34はその銃身の横に無数の穴が空いており、人の手で動画として描くのが大変過ぎたようです。

 

 

 

 

 ってなわけで『人狼〈JIN‐ROH〉』もし未見でしたらオススメですぜ!