映画観賞……それは〈中略〉……めっちゃコスパの良いエンタメ……。

 これは……〈中略〉……好きな映画について、いい加減な知識と思い出を元に‥‥‥いい加減な知識と思い出を元に!! ‥‥‥筆者の徒然なるままに書くコーナーである。

 

 

 

 

▼『映画を語れてと言われても』

 

 

 

 

 TODAY'S
 
第一一一回『そ~ゆ~のも人生~♪“ビッグ・リボウスキ”』





『ビッグ・リボウスキ』

1998年公開

監督:ジョエル・コーエン

製作:イーサン・コーエン

脚本:ジョエル・コーエン イーサン・コーエン

出演:ジェフ・ブリッジス ジョン・グッドマン スティーブ・ブシェミ デヴィッド・ハドルストン ジュリアン・ムーア ジョン・タトゥーロ ピーター・ストーメア フィリップ・シーモア・ホフマン

 

 

 

 

 

あらすじ

 1991年のロサンゼルス‥‥‥。

 ボーリングが趣味の無職のグータラ中年のデュード=本名ジェフ・リボウスキ(演:ジェフ・ブリッジス)は、ある日突然自宅に押し入ってきた男達に、妻のした借金を返せ! と身に覚えのない大金の支払いを求められ、暴行を受けた上にお気に入りの敷物に小便までかけられる。

 だが本来襲うべき対象が億万長者の同姓同名のジェフリー・リボウスキであり、デュードを襲ったのは人違いと分かったことから、男たちは立ち去る。

 

 後日、ボーリング仲間の元ベトナム戦争帰還兵のウォルター(演:ジョン・グッドマン)とサーファーのドニー(演:スティーブ・ブシェミ)にその出来事を話したところ、小便をかけられた敷物を弁償を、その大金持ちの方のジェフリー・リボウスキに請求すべきだとウォルターに力説されたことから、デュードはそのリボウスキ宅を尋ねてみることにする。

 

 

 リボウスキ氏の屋敷を訪れたデュードは、彼の秘書ブラント(演:フィリップ・シーモア・ホフマン)に散々リボウスキ氏の自慢話を聞かされた上で、なんとリボウスキ氏への面会にこぎつけたものの、同氏に何故ワシが敷物代を弁償せねばならないのかと散々罵倒されたあげく、けんもほろろに追い返される。

 しかし、帰り際に秘書を騙くらかすことで、屋敷の敷物を一枚持ち帰ることに成功するのであった。

 

 その数日後、リボウスキ氏の秘書ブラントに呼び出されたデュードは、先日リボウスキ氏の屋敷を訪れた際に見かけたリボウスキ氏若き妻バニーが何者かに誘拐されので、その身代金の犯人への引き渡し役を何故か頼まれる。

 デュードには関係無い話であったが、高額の報酬に目がくらみ、これを快諾するデュード。

 

 その夜、デュードは自宅で何者かに襲われ、リボウスキ氏宅から頂戴した敷物を奪われてしまう。

 

 そして翌日、誘拐犯からの連絡で、リボウスキ夫人バニーと身代金の交換が行われることとなり、1000万ドルの入ったブリーフケースと、誘拐犯との連絡用の携帯電話を秘書ブラントから預かったデュードは、夫人と身代金の交換に赴くこととなる。

 

 しかし、そこに元ベトナム帰還兵のボウリング仲間のウォルター強引に同行し、どうせリボウスキ夫人の誘拐事件は狂言誘拐に決まっているのだから、身代金の1000万ドルはこっちで頂戴し、リボウスキ夫人は身代金との引き換え時に救出してしまおうと勝手に行動しはじめる。

 しかし、携帯電話にかかっていた誘拐犯は、自動車で通行中に身代金の入ったケースを端から落とすよう指示してきたため、リボウスキ夫人との交換は敵わず、しかもウォルターは勝手に用意した偽のカバンを橋から投げ落としてしまう。

 ウォルターはカバンを回収にきた誘拐犯を捕まえて、夫人の居場所を自白させれば良いと息巻くが、カバンを回収した犯人はバイクに乗って瞬く間に逃亡、かくして身代金を渡すことも、夫人を無事に取り戻すこともできず、デュード達は誘拐犯を逃してしまうのだった。

 

 さらに、とりあえず気を落ち着ける為にボウリング場で過ごしている間に、デュードの自家用車が、車内に置きっぱなしの身代金の1000万ドルの入ったケースごと駐車場から盗まれてしまう。

 

 

 はたして誘拐事件と1000万ドルの行方は!? デュードに待ち受ける運命やいかに!?

 

 



 

 

 

 さて今回は、映画通なら名前を聞いた事ぐらいはあるはずのハリウッドきっての個性は映画監督、ジョエルとイーサンのコーエン兄弟監督作の中でも、特にカルトな人気を誇る、ダメ中年男のグダグダなロサンゼルス事件簿な映画を語りたいと思います。

 

 ‥‥‥てなわけで監督・脚本はコーエン兄弟。

 『ファーゴ』という極寒の地で起きた狂言誘拐に端を発したグダグダな犯罪話の映画で一気にブレイクした兄弟監督です。

 他には映画史上でもトップクラスにおっかない殺し屋シガーを生み出した『ノーカントリー』なんかが有名ではないでしょうか。

 筆者的にはティム・ロビンス主演の『未来は今』なんかがお気に入り。

 その作風は…………なんと言いますか説明が難しいのですが、近代か現代を舞台にした、ダメな人間達の、わけが分からんけど完全にコントロールされた悲喜こもごもの話‥‥‥という筆者の勝手なイメージです。

 あと良い所に良い感じのスローモーション入れたり、キレッキレの画角で絵画のような美しい映像を撮る監督でもあります。

 

 

 

 

 

 

 

 主人公デュード演じるのはジェフ・ブリッジス。

 1970年代から現在にいたるまで映画界で活躍し続けている名優の一人で、『トロン』など主演作も多数。

 『アイアンマン』の一作目で、悪役のオバディア・ステインを演じたのを覚えている人も多いのではないでしょうか?

 筆者のオススメ主演作は『トゥルー・グリッド』と『ゴーストエージェント:R.I.P.D.』などなど。

 

 共演のデュードのボウリング仲間にして、本作の状況をロクでも無い方へロクでも無い方へ加速させるベトナム戦争帰還兵の親友ウォルター役にジョン・グッドマン。

 この方も1980年代から数々の映画で名脇役として活躍してるお方でして、その巨漢を活かしてベーブルースの伝記映画で主演もしております。

 最近では『10クローバーフィールド・レーン』や『キングコング:髑髏島の巨神』なんかでの出演が印象深いお方。

 

 そしてデュードのもう一人の親友ドニー役にスティーブ・ブシェミ。

 ハリウッド映画を代表する個性派脇役俳優で、コーエン兄弟映画の常連でもあり、また多くの有名監督作に起用される愛され俳優です。 

 前述した『ファーゴ』以外にも『アルマゲドン』『レザボア・ドッグス』『デスペラード』『コンエアー』などなど、有名作品に多数出演しては、実に良い仕事をする俳優さんです。

 

 その他、リボウスキ氏の娘役に、『ジュラシックパーク2:ロストワールド』や『キングスメン・ゴールデンサークル』に出演の他、後にアカデミー賞主演女優賞を獲得するジュリアン・ムーア。

 

 リボウスキ氏の秘書役に『ミッションインポッシブルⅢ』で悪役を演じるなど、後に数々の映画に出演し、複数回アカデミー賞助演男優賞にノミネートされるフィリップ・シーモア・ホフマン。

 

 デュードのボウリングでのライバルのジーザス役に、ジョン・タトゥーロ。

 コーエン兄弟監督作『バートン・フィンク』で主演した他、『トランスフォーマー』シリーズや『サ・バットマン』等に出演している名脇役です。

 出番はちょっとなのに、本作最も観客の記憶に鮮明に残ったキャラを演じております。

 

 さらに海外ドラマ『プリズンブレイク』や『アルアゲドン』『コンスタンティン』等で強烈な脇役キャラを演じたピーター・ストーメアなどなど‥‥‥本作は本コーナーでも屈指のクセつよ俳優で固められております。

 

 一つの映画に出すには、ちょっとクセが強すぎるくらいの個性波キャストの大渋滞です!

 スティーブ・ブシェミとジョン・タトゥーロとピーター・ストーメアを同じ作品に出したら、対消滅核融合爆発しかねません!!

 

 

 

 

 

 そんなスタッフ・キャストによる本作は、公開当時はあまりヒットしなかったそうです。

 だって、い~歳こいて無職で日がなボウリングと酒に溺れてる小太り中年の、ちょっとした災難話‥‥‥なんて、見たいと思った人はそう多くは無いでしょうからね!

 

 ところが本作は、ソフト化されてからジワリと売れてゆき、結果大ヒット作品となったのだそうです。

 どれくらいヒットしたのかというと『リボウスキ・フェスティバル』なる本作ファンによる、飲んだくれてボウリングしよう! ってイベントが毎年開催される程だとか。

 筆者は残念ながら、劇場公開時に映画館で本作を見ることはできなかったのですが、DVDで見て映画館見とけ良かったかも? ‥‥‥とほどほどに後悔したものです。

 

 

 

 ではなぜ本作は、それ程までに、しかも時間差でヒットしたのでしょうか?

 

 

 一つはコーエン兄弟監督による精緻にコントロールされた映像美です。

 ロサンゼルスの様々な場所を舞台に、巧みにロケやセット撮影を行い、明暗のハッキリした照明を使い、こだわりのアングル、こだわりの編集、特に良いタイミングで挟まれる美麗なスローモーション映像は、本作の内容抜きにしても飽きることがありません。

 美麗なスローモーションで映るのはジョン・タトゥーロだったりしますけどね!

 

 ちなみ筆者が一番好きなのは、合間合間に挟まるデュードが見る幻想的な夢のシーン。

 90年代の歌謡番組みたいなセットをさらに大がかりにしたようなセットで、デュードが楽しく踊り狂うという、デュードという人間の人となりを実によく現した、本作を代表する名シーンなのです。

 デュードが悪人では無く、非常に能天気というかお気楽な人間であると同時に、相当なダメ人間であることが実に分かりやすく描かれております。

 

 

 

 そして脚本も担当したコーエン兄弟による、巧みなストーリーテーリングも素晴らしい。

 あらすじでも書きましたが、本作はまったく先の見えないストーリーがずいずい進行して飽きる暇がありません。

 どうせ大したことではないんだろう……段々慣れてきますが‥‥‥。

 本作はいわゆるハードボイルドもののストーリーラインを踏襲している気がします‥‥‥主人公はただのグータラ男ですけどね!

 この場合のハードボイルドものというのは、100%筆者の感覚で言ってるだけなのですが、本コーナーで語った作品で例えれば『LAコンフィデンシャル』や『ナイスガイズ』等が該当します。

 ようするに探偵や刑事が、ミステリアスな事件に遭遇し、巻き込まれ、謎解きに遁走する羽目になるのが見どころの話なのですが、本作もまたそういった系譜の内容でありながら、実にユニークな作品となっているのです。

 

 そのユニークな点こそが、本作主人公デュードとその仲間たち、いえ、登場するキャラほぼ全員のキャラ造形です。

 デュードとその仲間がダメダメなのはもちろんですが、他のキャラも相当にダメダメです。

 それは本作に登場する社会的地位の高い人間達も、変わりありません。

 人間は表面をどんなに取り繕っていても、みな等しくダメダメです。

 そんなキャラで、ハードボイルドものっぽい物語を織り成したことが斬新でユニークで面白かったのです。

 

 

 

 そして本作で一番魅力的なのは、そのグダグダなデュード達を演じるジェフ・ブリッジス以下のキャスト人の見事なグダグダ人間芝居です。

 本作はグダグダな人間によるグダグダなハードボイルドものをグダグダに描こうというコンセプトの作品ですが(完全なる私見)、その完成は本作のキャスト人の見事な演技力無しには完成しえなかったでしょう。

 一瞬で客の記憶に焼きつくジョン・タトゥーロや、逆に何もしないことで印象に残るスティーブ・ブシェミも良いのですが、本作の物語を牽引するジョン・グッドマン演じるウォルターが素晴らしい。

 デュードがグータラなタイプのダメ人間であり、放っておけば無害なのに対し、ベトナム戦争復員兵のウォルターは何かと言うと戦場での苦労をひけらかし、銃や暴力に訴えるというまったくそばにして欲しくない人物です。

 本作のトラブルの半分は彼のせいと言っても過言ではないでしょう。

 でも、そんなトラブルメイカーの彼とデュードが何故友達なのか? が分かる映画の終盤が筆者は気に入っているのです。

 

 そしてなんと言っても、常にホワイトロシアン(というカクテル)を手放さずに、ほろ酔い気分でいるところを事件に巻き込まれるデュード演じたジェフ・ブリッジスの、恐ろしくリラックスした演技もがもちろん素晴らしいのです‥‥‥。

 理屈から言えば、デュードのような生き方は、社会的に決して推奨されるものではありません。

 世の中あんな人間ばっかになったらエラいこっちゃです。

 でも社会的に真っ当に生きてはいるけれど、裏でろくでもないことを行っている人間よりも、あんなグータラでもなんとか生活できて、ずっと平和に、悪事を成さず生きている方がずっとマシなんじゃないの? ‥‥‥と思わずにはいられないのです。

 本作を見て本作を好きになった観客達はみな、このデュードのような生き方に憧れてしまっているのではないでしょうか?

 



 

 

 さてここでいつものトリビア。

 有名ロックバンドのレッド・ホット・チリ・ペッパーズのベース担当のフリーって人が、リボウスキ氏夫人誘拐事件の犯人の一人として出演している。

 

 また有名TVアニメ『チェンソーマン』OPにて、本作のワンシーンがオマージュ元として使われております。

 

 

 

 ‥‥‥ってなわけで『ビッグ・リボウスキ』もし未見でしたらオススメですぜ!