映画観賞……それは時に○○億円もの制作費をかけた作品を、だいたい2000円以下で楽しめる、めっちゃコスパの良いエンタメ……。

 これは、当劇団きっての映画好きにして、殺陣と小道具美術担当の筆者が、コロナ禍からようやくかつての日常を取り戻しつつある現代社会いおいて、余暇や巣ごもり生活中に観賞するのに打ってつけと思われる映画について、筆者の独断と偏見といい加減な知識と思い出を元に。徒然なるままに書くコーナーである。

 

 

 

 

 

 

 

▼『映画を語れてと言われても』

 

 

 

 TODAY'S
 
第一〇五回『人は皆……誰しもが……“ フォレストガンプ:一期一会 ”』



 タグ:旅 時代 歴史 人生 事件 戦争 流行 ベトナム戦争 トム・ハンクス ロバート・ゼメキス エビ漁 人種差別 ヒューマンドラマ ホワイトハウス 軍隊 卓球




『フォレストガンプ:一期一会』

1994年公開

監督:ロバート・ゼメキス

原作:ウィンストン・グルーム

音楽:アラン・シルベストリ

出演:トム・ハンクス サリー・フィールド ロビン・ライト ゲイリ・シニーズ ハーレイ・ジョエル・オスメント     他

 

 

 

 

 

あらすじ

 時に20世紀の半ば‥‥‥アメリカはアラバマ州の片田舎に生まれ育ったフォレスト・ガンプ少年は、骨が曲がって成長していた為に、医師によって脚に矯正器具を装着され、さらに小学生になる頃にはIQが75しか無かったことが判明し、通常の小学校への入学を断念するよう診断医に勧められる。

 だが、シングルマザーである母は断固としてフォレストを公立校へと入学させる。

 

 そして小学校への登校初日、スクールバスに乗ったフォレストは、唯一バスの隣の席に座らせてくれた同い年の少女ジェニーと出会い、以来大の仲良しとなるが、フォレストのその知能と足の矯正器具から、学校ではすぐにいじめの対称となる。

 しかし、ある日フォレストがいじめっ子たちに追いかけられていた際に、ジェニーが彼に『走れ!』と叫んだことが切っ掛けで、言われた通りに全力疾走していたフォレストの足から矯正器具が外れ、次の瞬間フォレストは自転車にのったいじめっ子達を引き離す速度で走れようになる。

 それ以来、移動時は常に走ることにしたフォレスト(演:トム・ハンクス)は、高校生となったある日、フットボールのコーチ達の目に留まり高校のフットボール選手に抜擢され大活躍しただけでなく、スポーツ奨学で大学への進学をも達成、さらに全米代表選手に選ばれ、ホワイトハウスに招かれ、ケネディ大統領との面会まですることとなる。

 

 そんな中でも、フォレストは一途にジェニーのことを思い続けていた、彼女は歌手を目指し、フォレストとはまったく違う道を歩みはじめていた。

 

 そして特に目標や計画も無いまま、無事大学を卒業したフォレストは、ちょうど出くわした米軍スカウトに誘われるがままに入隊。

 同期の訓練兵としてバッバという親友を得つつ、陸軍兵としてベトナム戦争へと派遣されることとなる。

 

 はたして、そこでフォレストを待っていた運命とは!?

 

 

 

 

 

 

 さてシーズン5第一回目である今回は、トム・ハンクス主演の名作ヒューマンドラマ映画回です!

 

 

 

 

 監督はロバート・ゼメキス!」

 あの『バックトゥザフューチャー』三作を撮った監督と言えば、だいたい説明したことになるでしょうか?

 学生時代に撮った自主映画でスティーブン・スピルバーグの目に留まり、スピルバーグ監督作の『1941』の脚本で映画業界に入り、やがて監督デビュー。

 『バックトゥザフューチャー』でブレイクした以後は、本作の他に『ロジャーラビット』や『キャストアウェイ』や『コンタクト』などの名作ヒット作を世に送り出しています。

 その作風は、デビュー時から現在まで、そのジャンルや内容に関わらず、特撮やCGなどのVFXを多用した作品を撮ることです。

 本作もSF的またファンタジックな超常現象は一切おきませんが、その映像には当時の最先端のVFX技術が駆使されております。

 

 

 

 原作はウィンストン・グルームという人の同盟小説。

 筆者は学生時代に図書室でこの原作小説を読みましたが、映画とは大筋は同じでしが、映画をさらに超える大冒険をしてビックリしました。

 ‥‥‥まぁ、それが映像化しておもしろいかどうかは別なのですが‥‥‥。

 

 

 

 音楽は本作を含め、ほとんどのロバート・ゼメキス監督作品の劇伴を担当しているアラン・シルベストリ。

 それはつまり『バックトゥザフューチャー』のあのテーマを奏でた人でもあるということ!

 本作でも、一度聞いたら忘れられず、再び聞いたらそれだけでじんわりと感動が甦る素晴らしいメロデイを奏でております。

 

 

 

 

 主演は名優トム・ハンクス。

 1980年代からコメディ俳優として『スプラッシュ』や『ビッグ』などで活躍していたお人で、『フィラデルフィア』という映画でアカデミー賞主演男優賞を獲り、翌年公開の本作でまた二年連続でアカデミー賞主演男優賞を獲り、コメディ俳優から脱却し、以後『プライベートライアン』や『アポロ13』や『ダビンチコード』シリーズに主演し『トイストーリー』のウッディの声でも有名な、活躍した例をあげたら切りが無い生ける伝説的俳優の一人です。

 個人的にはトム・ハンクスの神経質なんだけどどこかユーモラスな演技が好きです。

 

 

 共演は、フォレストの思い人にして幼なじみのジェニー役にロビン・ライト。

 最近ではDCヒーローの『ワンダーウーマン』でワンダーウーマンの叔母さん役で活躍している女優さんです。

 

 

 フォレストを女手一つで育てる母親役にサリー・フィールド。  『ミセス・ダウト』や『アメイジング・スパイダーマン』でメイおばさんを演じていた女優さんです。

 

 

 そしてベトナム戦争中にフォレスト達の上官となり、以後のフォレストの人生に大きくかかわるダン中尉役にゲイリー・シニーズ。

 人気TVドラマ『CSI:ニューヨーク』で主人公のマックを演じた他、『アポロ13』や『ミッション・トゥ・マーズ』『クローン』などで主演している個性派俳優です。

 

 

 

 

 

 

 本作はそんなスタッフキャストで製作され公開するなり大ヒットし、アカデミー賞で作品賞・主演男優賞他、6部門を獲得するなどとても評価された名作中の名作です。

 筆者も公開時に映画館で見て、大いに感動したわけですが‥‥‥

 

 

 その理由には例によって様々な要員があると思います。

 

 

 

 まず映像が素晴らしい。

 有名な一房の鳥の羽がフォレストの元に舞い落ちるシーンなど、本作は不思議な事象ではないけれど、映像化することが困難なあり得ない映像が多々見れるのです。

 それは歴史上の偉人を映した実在する映像の中に、フォレストがごく自然に映りこんでいるカットや、凄まじいベトナム戦争での戦闘の映像や、負傷したダン中尉の姿だったり、卓球にドはまりしたフォレストのあり得ない妙技だったりします。

 それらは今となっては珍しくも無いVFXで映像化なされたものですが、当時としては画期的な使い方であり、本作があったからこそ、今の映像技術に繋がったのだと言えるかもしれません。

 

 

 

 そしてトム・ハンクスの熱演!

 実は本作はトム・ハンクスがキャスティングされるまでは、フォレスト役の候補に『ゴースト・バスターズ』のビル・マーレイや、『サタデーナイトフィーバー』や『フェイスオフ』のジョン・トラボルタが上がっていたそうなのですが、本作を見た後ではフォレスト役はトム・ハンクス以外考えられません。

 それはトム・ハンクスのガタイは良いけど、圧の無い優し気な風体が、歴史の波に翻弄されても決して折れること無い大樹のようでどこか安心できるからな気がします。

 

 

 

 

 

 でもやっぱり本作で一番画期的だったのは、その物語というかシナリオのコンセプトでしょう。

 

 本作は、これまで紹介したきた多くの映画の中でもトップクラスにあらすじを書くのが難しく、けっきょく上手く書けたとは言えないあらすじになってしまい大変申し訳なかったのですが‥‥なぜあらすじが書き難かったのかと言うと‥‥‥‥本作が他の多くの映画と異なり、物語のゴールがよくわからないまま進行していくからなのです。

 普通であれば、『テロリストに占拠されたビルから出たい』とか『うっかりタイムスリップしちゃった過去から未来に帰りたい』とか『サメがいる海の岩場から海岸に帰りたい』とか『犬殺した奴に復讐したい』とか『はやくニンゲンになりたい』とか、映画序盤でその作品が何を目指す物語であるかが、なるべくはやめに明示されるものです。

 あらすじはそこまで書けば良いようなものなのですが、逆にそれが無い本作は、どこまで書いたら良いものやら分からなくなってしまうのです。

 ではなぜ、本作は序盤で作品としてのゴールが明示されないのか? というと‥‥‥本作は“フォレストガンプ”という人物の人生を、実際のアメリカの歴史に合わせて静々と描いた作品だからです。

 これは実話ベースの映画だとか、実在の人物の伝記モノだとたまに見受けられるパターンに近いと言えるかもしれません。

 現実の出来事には、物語のようにコントロールされた起承転結も伏線とその回収も明確なゴールもエンドロールも(死ぬまでは)ありませんからね。

 

 なぜ、送り手の人達はそのような明確なゴール無き物語を描き、そして世間はウケたのでしょうか?

 

 それは本作がまさに、コントロールされた起承転結も伏線とその回収も明確なゴールも無い“人生”という事象そのものを描こうと挑戦した作品だからではないでしょうか?

 それこそが本作のコンセプトなのではないでしょうか?

 

 2023年現在、人生のおよそ半分弱を生きた筆者ですが、フォレストガンプならざる自分でさえ、数々の歴史的イベントに遭遇してきました。

 それは筆者以外の同年代の全員がそうなのですが‥‥‥。

 

 昭和から平成、平成から令和の世になり、幾度かの震災に、世界各地で起きた戦争、元首相の暗殺、そしてコロナ禍‥‥‥。

 

 『わしゃフォレストガンプちゃうぞ~!』と思わず言いたくなるような出来事の数々を、今を生きる人々は、その意思に関係無く潜り抜けることとなりました。

 それが私達の生きる時代がたまたまそういう時勢だったのだ‥‥‥とついつい思ってしまいがちですが、おそらくどの時代に生きる人であっても大なり小なり、意図せぬ歴史的イベントを潜り抜けながら生きてゆくものなのでしょう。

 

 本作のフォレスト・ガンプという人間は、決して恵まれているとは言えない出自であり、自身も脚が速い、卓球が上手い以外は、平均的な人間よりも優秀とはいえない人物です。

 しかしながら母の言いつけを守り、ただひたすらに人生という旅の途中に生じる様々なイベントを潜り抜け、愛するジェニーの為に精一杯の行動をするのです。

 もちろん、待ち受ける出来事の数々のはジェニーや親友のバッバやダン中尉に出会えた幸運と同じくらい、数々の悲劇も待ち受けています。

 人生は、良い出来事だけを数珠のように繋いでいけるわけではありませんから‥‥‥。

 フォレスト・ガンプの良いところは、それらの悲劇的出来事に対し、もちろん人並みに悲しみ絶望しますが、決して自棄になったり闇落ちして悪事に手を染めたりしないことです。

 物語の主人公としては当たり前な気もしますが、現実社会を生きる身としてみれば、とても大変で勇敢な行いに思えます。

 そのフォレストの、現実に起きる受け止めるには大きすぎる悲劇に対しても、時にたおやかにやり過ごし、立ち直り、再び前向きに生きる姿に、本作を観賞した人々は憧れ、感動したのではないでしょうか?

 本作は、止めどなき時の流れの中で、実際に起きた様々な出来事を潜り抜けて生きる、一人の人間を描いくことをコンセプトに、1990年代の段階で挑戦した最初期の一本であり、後にブラッド・ピット主演の『ベンジャミン・バトンの数奇な人生』や、三谷幸喜・脚本ドラマの『わが家の歴史』などなど、幾作かの同系統作品の先駆けとなるわけです。

 

 




 

 

 

 さてここでいつものトリビア‥‥‥と言えるかどうか分かりませんが‥‥‥。

 筆者の好きな本作の裏側の出来事として、本作のオーディオコメンタリーでロバート・ゼメキス監督が語ったところによれば、本作が完成後、監督は周囲が心配するレベルでとても落ち込んでしまったんだそうです。

 なぜ名作を完成させたのに落ち込むのだろう? と常識的には思うところでしょうが、ゼメキス監督の場合“自他ともに認めるレベルで名作を作ってしまったが故”に落ちこんでしまったようです。

 だって、監督人生で一本撮れるか否かの、歴史に残るレベルの最高傑作をうっかり作ってしまったならば、この後、それを超える何を撮ったら良いか分からなくなってしまいますからね!!

 とても凡人には理解が及ばない領域な話しな気がしますが、筆者はこの話が何故か好きなのです。

 

 

 

 

 

 

 ってなわけで『フォレストガンプ:一期一会』もし未見でしたらオススメですぜ!!