映画観賞……それは〈中略〉……めっちゃコスパの良いエンタメ……。

 これは……〈中略〉……好きな映画について、いい加減な知識と思い出を元に‥‥‥いい加減な知識と思い出を元に!! ‥‥‥筆者の徒然なるままに書くコーナーである。

 

 

 

 

▼『映画を語れてと言われても』

 

 

 


 TODAY'S
 
第八十八回『人生はいつだって○○○〇END!!??“劇場版SHIROBAKO”』



 タグ:アニメ アニメ制作 アニメスタジオ 劇場版 TVシリーズ お仕事 群像劇 劇中劇 作画 原画 CG 声優 制作進行 脚本 時間 人生 コロナ禍

 




『劇場版SHIROBAKO』

2020年公開

監督:水島努

脚本:横手美智子

音楽:浜口史郎

キャラクター原案:ぽんかん⑧

アニメーション制作:P.A.WORKS

声の出演:木村珠莉 佳村はるか 千菅春香 髙野麻美 大和田仁美 他

 

 

 

 

『SHIROBAKO』TVシリーズのあらすじ

 高校時代、アニメ同好会で共に自主制作アニメを制作し、文化祭で発表するほどのアニメ好きの仲良し五人組、宮森あおい、安原絵麻、坂木しずか、藤堂美沙、今井みどりは、卒業後はそれぞれが違う進路でアニメ業界に入り、必ずその道のプロとなって再び五人であつまり一本のアニメを作ることを誓う。

 

 それから2年半後‥‥‥。

 東京の武蔵野アニメーション(通称・ムサニ)で駆け出しの制作進行(アニメの原画回収を始めとした雑用全般)となってアニメ業界に飛び込んでいた宮森あおい(声:木村珠莉)は、すぐ仕事を放り出して脱走する監督、趣味を優先する原画マン、朝から酔っぱらっている背景画家、CGクリエイターと作画マンとの諍いなどなどなど、クセの強いスタッフとの数々の出会いと経験を積み重ねながら、一人前となっていく。

 

 その一方‥‥‥。

 同じく原画マンとしてプロとなった安原絵麻(声:佳村はるか)。

 新人声優としてデビューをとげた坂木しずか(声:千菅春香)。

 一応のCGクリエイターとなった藤堂美沙(声:髙野麻美)。

 脚本家を目指す今井みどり(声:大和田仁美)。

 

 ‥‥‥彼女達アニメ同好会の仲間もまた、数々の出会いや試練を経て、世にアニメを届ける人間となっていくのであった。

 

 

 

 

 

 そして『劇場版SHIROBAKO』のあらすじ

 

 ……それからおよそ五年後……。

 宮森たちの尽力により、数々のヒット作を世に送り出し、武蔵野アニメーションはさらなる発展を遂げた‥‥‥はずであった。

 が、通称〈タイマス事変〉と呼ばれる、制作中だったTVアニメ『タイムヒポポタマス』が、制作半ばで放送が中止とになるという大失敗により大損害を出してしまった武蔵野アニメーションは、人員と規模を大いに縮小し、他者のアニメ制作の下請けとして、辛うじて営業を続けていた。

 

 宮森は制作進行のチーフとして、それでもムサニに残り、日々の業務をただ淡々とこなす生活を奥っていた。

 そんな宮森の元に、ある日『空中強襲揚陸艦SIVA』という題名と、10カ月後に上映が決定していること以外、何一つ制作の進んでいない劇場用アニメ制作の仕事が舞い込んでくる。

 しかし現在のムサニで公開日までに劇場用アニメを制作することは、限り無く自殺行為に等しい行いであった。

 

 宮森は〈タイマス事変〉の責任をとって社長を辞したムサニの先代社長の丸川(声:高木渉)や、今はフリーのアニメ演出家に転向した元制作進行仲間の高梨太郎(声:吉野裕行)や平岡大輔(声:小林裕介)の助言を受け、『とりあえずやってみよう!』の精神の元、『空中強襲揚陸艦SIVA』制作に挑むことを決心する。

 

 しかしそれは、想像を肥えた苦難のはじまりでもあった。

 宮森はかつて共にアニメ制作に携わり、同時に〈タイマス事変〉の当事者であった監督以下のスタッフを呼び寄せ、そのリベンジとばかりにこの難業に打ち勝たんとする。

 はたして、謎の劇場用アニメ『空中強襲揚陸艦SIVA』は無事完成し、公開し、武蔵野アニメーションは再び栄光を取り戻すことができるのであろうか!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて今回はアニメ映画回、それも本コーナーでも紹介した『ガールズ&パンツァー劇場版』等のように、TVシリーズが好評を博した結果、制作の決まった劇場版に該当する作品です。

 ……ですので、本作をこれから観賞なされる方はTVシリーズを先に見ておくのが理想ではありますが、本作は冒頭にこれまでのあらすじを新規映像で割と丁寧に語っておりますので、いきなり本作から見ても充分楽しめると思います。

 

 

 そしてわざわざ続きが作られるほどにTVシリーズが面白く、そして本作自体も筆者には面白かったのです。

 

 

 

 監督はその『ガールズ&パンツァー劇場版』などを手がけた水島努。

 元々『クレヨンしんちゃん』等を作っていたアニメ制作スタジオのシンエイ動画で制作進行として業界に入ったそうで、それからアニメ監督へとステップアップした経験が、本作に影響しているであろうことは想像に難くありません。

 何本かの『クレヨンしんちゃん』の映画版監督をつとめた後にフリーランスとなり、さらに高校野球、落語、ホラー、魔女‥‥‥など様々なジャンルのTVアニメの監督を行い、中でも女子高生with戦車モノという『ガールズ&パンツァー』を大ヒットさせ、その勢いのままに本作のTVシリーズと劇場版を作ることと相成ったわけです。

 

 

 

 そんな水島監督の作品の特徴は、許された作品の尺の中でバランスのとれた物語を描き、適度なマニアックさとエンタメ両立し、クライマックスでは怒涛の大団円を迎える職人気質な作品を作るという印象ですが、同時に作品の中に隠しきれない狂気が垣間見える気がするのも、同監督作品ファンの共通した認識なようです。

 

 ではその狂気とは具体的には何なのか? と問われると説明が難しいのですが、ただ一つ、誰でも見れば即分かるのは、ミュージカルシーンへの拘りでしょう。

 水島監督は何故か携わった多くの作品で、何故か監督自身が作詞・作曲・振り付けした歌とダンスが流れるシーンがあるのです。

 

 それは本作にももちろん、もうブレーキちょっとは踏もうぜと言いたくなるようなミュージカルシーンがあり、一部では長すぎ多すぎという意見もあったようですが、筆者の大好きなシーンの一つでもあります。

 

 

 そんな水島監督が本作で挑んだのは、本コーナーで言えば、『ラジオの時間』等が該当する、その道のプロフェッショナルやその卵達が、力を合わせて難業に挑むジャンルです。

 しかし、ただのお仕事モノではありません。

 まさに自分達が働くアニメ業界そのものを舞台としたお仕事モノです。

 

※ちなみにタイトルの『SHIROBAKO』とは、完全完成し、放送局などに納品されるパッケージ化されたアニメのビデオが納めらた箱・白バコからきているそうです。

 

 それはつまり本コーナーで紹介した『トロピック・サンダー』が、映画制作映画であるように、本作はアニメ制作アニメであるということ!

 本作はアニメ業界の人達が、自分達の働く業界の悲喜こもごもを面白おかしく描き、それを見事にエンタメした作品なのです。

 それは多くのお仕事モノがそうであるように、群像劇としての面白さを出せたところが大きいと思います。

 登場するキャラに事欠くことはありません。

 なぜなら極めて大雑把にあげたとしても、アニメ制作には‥‥‥。

 

 企画or原作→脚本→画コンテ→原画→作画→アフレコ→編集→‥‥。

 …‥等々と、音楽やCGや背景美術のことを抜きにして、少なくともそれだけのセクションが存在し、そこで働く大勢のプロフェッショナルがいるのです。

 しかも本作では実在のアニメ業界人をモデルにしたと思しきキャラが多数登場し、アニメ制作の為にあ~でもないこ~でもないと、大人げなく七転八倒しながら奮闘するのです。

 そのドラマが面白いのです!

 

 

 主人公の宮森は、最初はそういったアニメ制作最前線で戦う人々に戸惑いつつも、やがて彼らの情熱を理解し共感し、共に戦いを潜り抜け自分のその一員となってゆくのです。

 本作はエンターテイメントであると同時に、アニメ業界で働く人への応援歌なのだと思います。

 

 

 


 と、ここまでが本作のTVシリーズを含めた根幹部分の面白さです。

 問題はその続編である劇場版の本作の独自の面白さについてです。

 

 

 

 

 

 

 

 ところで、いわゆる“続編”というものには、いくつかの『続編ではやってはいけないあるある』が存在します。

 

・前作公開から何年も時間を開けてはいけない。

・前作より予算を減らしてはいけない。

・違うスタッフ・キャストで作ってはいけない。 

・前作キャラを無暗に殺してはいけない。

・メインの音楽を変えてはいけない。

・前作での苦労をひっくり返して鬱展開から物語をはじめてはいけない。

・深夜0時過ぎに餌をあたえてはいけない。

 

 ‥‥‥等々です。

 例外も多々ありますが、アニメや映画問わず、この『続編ではやってはいけないあるある』の回避を怠ったばかりに、その作品とは言いませんがこれまで数多の続編がコケてきました。

 そして本作もまた、その『あるある』の内の一つを踏んでしまっていたのです‥‥‥。

 

 

 

 正直なところ、本作は劇場版アニメの中では、コケたとまでは言わずとも、大ヒットと言えるほどには売れず、高評価もされなかったようです。

 その要因には公開が2020年の、まさに日本にコロナ禍が上陸した直後、まだ誰もがコロナへの対処の仕方もよく分からず、暗中御作の中での公開という、最悪のタイミングと思い出の中の封切りであったから‥‥‥という理由も大きかったと思います。

 それに加え、あらすじでも書いたように、本作の物語の冒頭が、TVシリーズで掴んだ栄光を失い、酷く落ちぶれたところからのスタートであることもまた、一部の不評の要因として大きいと思います。

 

 続編でこの手の展開が嫌われるのは、前作での苦労は何だったのか? と観客が受け取るからと思われます。

 至極もっともな反応です。

 

 

 そういった事情により、本作は続編を期待していたTVシリーズのファンからの評価は、あまり芳しく無かった印象があります。

 

 

 しかしながら、続編の送り手側から考えた場合、この前作の苦労を無にしても、落ちぶれた状態スタートというのは、なかなか避けがたいメリットのある戦術なのです。

 

 例えば、苦労に苦労を重ねた上で、甲子園優勝を果たした野球チームを描いた作品の続編があったとして、どのようにスタートしたら、良いのでしょうか?

 

 物語のクライマックスで盛り上げる為には、その跳ね上がる分だけ物語序盤が苦しい状態になってなければいけないので、どうしても続編の物語序盤は、前作主人公勢が落ちぶれている‥‥‥か、前作を上回る強大な敵やら目標やらを設定しがちになってしまうのです。

 これがバトルモノの作品であれば、続編の度に前作を上回る敵が登場し、強さのインフレが起きる現象としてよく確認されます。

 ですが、本作はバトルものでもスポ根ものでもありません。

 しかも、SFでもファンタジー世界でもない、我々が生きる2020年代前後の現代日本社会を描いた作品です。

 筆者としては、本作の送り手達が『続編ではやってはいけないあるある』に抵触してでも、この物語序盤にしたことを責められないのです。

 だって、本作で描いたような栄光からの落ちぶれは、現実の社会にも人生にもよくある出来事なのですから‥‥‥。

 ‥‥‥いえ、本作の送り手の人達は、むしろ積極的にこの物語序盤の落ちぶれ展開を描いた気さえ筆者はしております。

 

 

 本作は良くない続編で見かける、前作で得た栄光からの落ちぶれスタート‥‥‥からの再起こそがテーマなのではないか? と思うのです。

 

 

 

 

 

 本作の製作時に、監督やプロデューサー以下のスタッフの方たちが、いったいどこまで意識して描いたのかは分かりませんが‥‥‥。

 現実社会では2020年前後にして様々なことが起きました。

 東日本大震災を始めとする数々の天変地異、コロナ禍、ロシア・ウクライナ戦争、元首相の暗殺‥‥‥などなどなど‥‥‥、

 もう理解が追いつかないレベルです。

 さらに個人の人生で起きた出来事を言い出したら切りが無いでしょう。

 止まることなど無い時の流れの中で、起こりえることは起こり、良き出来事だけを術繋ぎにして生きることなど決してできはしないのだ‥‥‥と、ここ数年で身をもって実感した気がします。

 正直、筆者も人生という延々と続く階段に踊り場があったなら、そこで一休みしたいところです。

 

 ひょっとしたら本作は、アニメ業界で働く人賛歌であると同時に、そんな世界で生きる全ての人々に向けられて作られたのではないか? そんな気がするのです。

 

 

 

 本作作中で制作される劇場用アニメ『空中強襲揚陸艦SIVA』は、もちろん本作の尺内では全て見ることはできず、その内容も映像も断片的ににしか確認することはできませんが、本作の物語開始前に制作中止においこまれた『タイムヒポポタマス』のアイディアや、作中脚本家による七転八倒の試行錯誤などの経緯を経て“何者かに支配された人間や言葉をしゃべる動物やロボが、空中強襲揚陸艦SIVAに乗って、支配から脱出する物語”となっています。

 その『空中強襲揚陸艦SIVA』のヒロインが本作内で繰り返すセリフの中に、本作の送り手が観客に届けたかったメッセージがこめらえている気がするのです。

 

 

 本作は一本の映画として、クライマックスを盛り上げる為に、脚本的にとてもトリッキーな展開を行っています。

 武蔵野アニメーションの人々はとても勇気ある決断をし、物語はそのクライマックスへと至り、その中で『空中強襲揚陸艦SIVA』のヒロインの言葉を聞くこととなり、本作は筆者が知る数多の映画の中でも、トップクラスに“粋”なエンドロール入り、筆者は見返す度に涙腺バルブが緩んでしまうのです。

 

 

 はたして、そこで聞く『空中強襲揚陸艦SIVA』のヒロインのセリフとは何なのか? 

 それ本作に限らず、他の物語や現実の人生の中でもたまに聞くような珍しくも無い言葉であり、ここで明かすのは無粋というものでしょう。

 ですが、それが本作を作った送り手の方たちから、本作を見た我々へのメッセージだと思った時、筆者は本作がとてもとても勇気と優しさをもった作品と思わずにはいられないのです。

 本作を未見で気になる方は、どうかその目でご確認下さい。

 

 

 

 

 

 ここでいつものトリビア。

 TVシリーズを見ている方には、すでに登場しているキャラなので言わずもがななのですが、本作には某超有名アニメ監督をモデルにしたアニメ監督のキャラに、なんと原画を頼むカットがあります。

 セリフも無く、一瞬しか映りませんが、すぐに『シン・○○〇』とか作りそうなビジュアルの人物が映るのでお見逃しなく!

 

 

 

 

 ‥‥‥ってなわけで『劇場版SHIROBAKO』もし未見でしたらTVシリーズもふくめてオススメですぜ!!