映画観賞……それは〈中略〉……めっちゃコスパの良いエンタメ……。

 これは……〈中略〉……映画について、いい加減な知識と思い出を元に徒然なるままに書くコーナーである。

 

 

 

▼『映画を語れてと言われても』

 

 

 

 

 TODAY'S
 
第七十三回『まるでシナリオのピタゴラスイッチやぁ~!!!“シュガーラッシュ”』


 タグ:CGアニメ TVゲーム アクション お菓子 

 




 

『シュガーラッシュ』

2013年公開

監督:リッチ・ムーア

脚本:フィル・ジョンストン ジェニファー・リー

声の出演:ジョン・C・ライリー他

 

 

 

 

 

あらすじ

 とある閉店後のゲームセンター……。

 そこではその日の仕事を終えた各ゲーム機のキャラ達が、ゲーム機を繋ぐタコ足コンセントを通じて各々自由に各ゲーム機を行き来し、交流を深めていた。

 そんなゲームのキャラの一人、大男のラルフは『フィックス・イット・フェリックス』というゲーム機内で、なんでも治す不思議なハンマーを持つ主役キャラ・フェリックスの倒すべき悪役として、何でも壊すパワーでゲーム内で破壊の限りを尽くす日常を送っていた。

 だが、悪役故にゲーム内外のキャラから疎まれ深く傷つき、同じ悩みを持つ悪役ゲームキャラの合同セラピーに参加しては、悩みを語り合っていたが、それで心の痛みが消えることはなく、セラピー仲間からは他のゲームに勝手に移住し、双方のゲームに撤去の危機を迎えさせる〈ターボ〉だけはするなと釘をさされる。

 そんな日々の中、『フィックス・イット・フェリックス』稼働開始30周年記念パーティにゲーム内のキャラ達から招待されなかったことからラルフは遂にブチ切れ、ゲーム内のヒーローの証の〈メダル〉を手に入れて『フィックス・イット・フェリックス』のキャラ達を見返してやることを決心する。

 とはいえ、メダルを手に入れることは容易ではなく、悩みまくるラルフ、しかい行きつけのバーにて、ゲーム内戦闘の恐怖から飲んだくれていた『ヒーローズ・デューティ』のキャラから、そのゲームでメダルを手に入れられる事を知る。

 早速酔いつぶれた件のゲームのキャラからコスチュームを拝借して変装し、『ヒーローズ・ビューティ』に潜入するラルフ。

 そこは食した物体の特性を吸収し、無限に進化増殖する巨大昆虫(サイ・バグ)と、人類の軍が終わりなき戦いを繰り広げる最新のFPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム)ゲームであった。

 ゲームのキャラは、出身ゲーム意外のゲーム内で死ぬと復活できない為、まさに命がけでコインの奪取を試みたラルフは、なんとかメダルを手にいれたものの、大量のサイ・バグを目覚めさせてしまい、ゲーム内にあった小型シャトルに乗り込み、『ヒーローズ・ビューティ』内から逃げだしたものの、シャトルはコントロールを失い、タコ足コンセントを通じて別のゲーム機『シュガーラッシュ』へと進入し墜落てしまう。

 

 

 

 『シュガーラッシュ』そこは何もかもがお菓子でできた世界内で、お菓子でできたレーシングカーを駆り、お菓子でできたコースを駆け抜ける人気ゲーム機であった。

 シャトル墜落と共にメダルを落としてしまったラルフは、そこで小生意気なこのゲームのキャラの女の子であるヴァネロペにメダルを拾われてしまう。

 ヴァネロペはそのメダルを使うことで、『シュガーラッシュ』内のレースに出る権利を得たかったのだ。

 もちろんメダルを勝手に使われ憤慨するラルフであったが、ヴァネロペがそのデータに宿した不具合から、ゲーム内のキャラにのけ者にされていることを知り、シンパシーから彼女のレースに協力することを決める。

 だがヴァネロペがレースに参加することは、ゲーム『シュガーラッシュ』内の王・キャンディ大王がある事情から絶対に許さなかった。

 

 その一方で、ラルフが消えたことで故障中とみなされてしまった『フィックス・イット・フェリックス』では、主役キャラのフェリックスが、ラルフを呼び戻すべく、『ヒーローズ・ビューティ』を訪れ、そこで出会った同ゲームのキャラ・カルホーン軍曹と共に『シュガーラッシュ』を訪れていた。

 そこで二人は、ラルフと共に『ヒーローズ・ビューティ』からサイ・バグが『シュガーラッシュ』内に持ち込まれ、同ゲーム内で無限に増殖し始め、このままではゲーム全体を崩壊させかねない状態であることを知る……。

 

 はたして、ラルフとヴァネロペのレースの行方は?? サイ・バグの脅威により、崩壊の危機をむかえた『シュガーラッシュ』の運命やいかに!!??

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて今回はディズニーのフルCGアニメ映画の中でも屈指の名作について語りたいと思います。

 フルCGアニメ映画といえば、『トイ・ストーリー』をはじめとしたピクサー作品にはじまり、数々の名作が、幾多のスタジオ制作陣によってこれまで作られ続けてきました。

 本作はそんなフルCGアニメ映画の中でも筆者が特にお気に入りで、映画館で初めて観賞した時に思わず『ア~ッ!』と声が出そうになった数少ない作品です。

 

 

 監督はTVアニメ『シンプソンズ』で数々のエピソード監督を手がけ、本作の後に名作『ズートピア』を撮ることになるリッチ・ムーア。

 脚本は後に『アナと雪の女王』を担当するジェニファー・リーと、『ズートピア』の脚本に参加するフィル・ジョンストン。

 

 音楽を担当したのはヘンリー・ジャックマン。

 MCUの『キャプテンアメリカ:ウィンターソルジャー』やマシュー・ボーン監督の『キックアス』や『キングスマン』シリーズの音楽を担当した他、数え切れない程の映画音楽を担当したベテランのお方です。

 

 スタッフ名に覚えがなくとも、携わった作品名を聞けば本作の面白さはある程度保証されたも同然でしょう。

 そして実際面白かったのです、すんごく!!!

 

 

 

 

 

 まず根幹アイディアというか舞台設定のコンセプトの段階で勝利したも同然です。

 そのアイディアは、最初に知った時は『トイ・ストーリー』のゲーム版やないか~い! と思ったものでした。

 別に『トイ・ストーリー』に限らず、人間意外の何かに知性が宿っていて、人の知らないところで社会を形成して暮らして、冒険している物語は多々存在しますが…(例えば虫が、フクロウが! レゴが! ニワトリやヒツジが! 妖怪が!)…。

 しかし古今のゲーム世界を舞台にした本作は、そんな人知れず存在してた知性ある存在の社会シリーズの中でも、特に世界設定との相性が良かったように思います。

 いわば人の代わりモノを計算してくれ複雑なるゲームのプログラムが勝手に知性を宿した……という展開は、実にSF的で、今ではなくとも、いつかの未来のゲームではあり得そうな気がしなくもありませんからね!

 なにしろプログラムが勝手にやったことですから!

 しかもそれをCGアニメで描くのですから、映像技術的には得意中の得意というか割れ鍋に綴じ蓋というかなんというか……。

 

 

 さらに、本作ではゲーム世界が舞台であることを活かし、『ストⅡ』『パックマン』『ソニック』等々の、ゲームファンでなくともなんとなく分かる古今の有名ゲームのキャラが多数ゲスト出演しているところも見どころです。

 

 

 

 そしてこのゲーム世界を選んだことは、映像面でも上手い具合に作用しました。

 稼働開始30周年を迎える『フィックス・イット・フェリックス』はゲームセンター黎明期の8ビットしかない解像度のゲームであり、舞台のマンションをぶっ壊しまくるラルフに対し、主役のフェリックスが魔法のトンカチでひたすら直すというシンプルなゲーム内容で、そのキャラはディフォルメが激しく、画像も荒ければ動きもカクカクしています。

 

 それに対し、ラルフが最初に向かった『ヒーローズ・ビューティ』は稼働して一週間の最新のゲーム機であるため、映像の解像度も細かく、キャラの動きも滑らか。

 キャラも八頭身のモデル体型美女が登場します。

 ただしゲーム内容は、『スターシップトゥルーパーズ』のようなとでもいいましょうか、遠い未来の地球かどこかもよく分からない薄暗い世界で、巨大昆虫サイ・バグを、ひたすらライフルで撃ち殺してくいくちょっと過激で殺伐とした内容です。

 

 

 そして本作タイトルともなった『シュガーラッシュ』の世界は、全てがお菓子でできた世界であり、そのお陰で映像内の色合いが恐ろしくカラフルでデザインもポップです。

 多数登場するキャラは、敵味方問わず個性豊かかつ可愛らしいデザインとなっております。

 

 

 つまり、本作一本で、三つの世代の三つの異なったジャンルのゲームの映像が楽しめるわけです。

 退屈する暇もありません。

 特に『シュガーラッシュ』の世界の全てがお菓子で出来ていることのCGでの表現は素晴らしく、その色艶はもちろん、チョコやキャンディやグミの柔らかさまで再現されています。

 茶色い水が、見ただけでコーラだと分かったりするのです。

 そのクオリティは見てるだけで虫歯か糖尿病になりそう!

 

 

 

 

 

 

 そんな見てるだけでも充分楽しめる本作ですが、やはり本作で最も筆者が心惹かれ、そして驚いたのは、なんといってもその数々の設定ふくむ総合的な脚本力です。

 

 ここで紹介したいくつかの作品の他、多くの作品がそうであるように、本作もまた、物語を通じての主人公の変化を描いた作品です。

 ラルフはゲーム内の悪役であることの嫌気がさし、他ゲームから尊敬の象徴であるメダルを持ってくることで状況打開を計るのが、本作の基本ストーリーです。

 もちろん、多くの物語のように本作も、最終的に問題がまるっと良い感じに解決するわけなのですが、そのスマートさが尋常ではないのです。

 

 

 

 

 

 鬱屈した境遇を変えるべく自分の故郷から飛び出し、他所の地で誰かと出会い、そのキャラの行動や境遇や価値観を見て、自分の願いや行動を見つめ直し、何が正しくて何をすべきかを悟っていく……というのが多くの物語の王道というものでしょうが、本作はそれを成すために用意された魅力的なキャラや世界や設定が、まるで良く出来たピタゴラスイッチのようにカッチリキッチリとハマっているのです。

 

 鬱屈した力持ちの大男ラルフが、似たような境遇にも関わらず腐らずにまっすぐに夢の実現を目指すヴァネロペと出会い、そのすったもんだの中で、フェリックスやカルホーン軍曹の出会いと冒険を挟み、さらにゲーム『シュガーラッシュ』で進行していた陰謀と危機を同時に描き、一本の映画に過不足なく納められたのはちょっとした奇跡に部類する行いだと思います。

 

 

 

 かといって小説にすれば良いじゃないか! という物語単独の面白さではなく、映像化してこそ映えることを計算したうえでの面白さなのです。

 

 

 

 前回語った『サイン』は伏線とその回収そのものをテーマにした作品と言えましたが、本作は特にそういうテーマでは無いにもかかわらず、筆者が初観賞時に思わず声がでそうになるような見事な伏線回収が成されたりもしています。

 もちろん伏線回収という物語上のテクニックのみならず、起承転結やテンポ、各キャラの背景設定と、その説明パートに至るまで、無駄なく退屈することも納得が行かないこともないままラストまで突っ切るのです。

 

(未見の方にとって本作の期待値のハードルを上げすぎてる説アリ)

 

 

 でも、散々褒めちぎった本作の脚本ですが、それは脚本家や監督がただ凄かった! 天才だったからでは無いのです。

 『シン・ゴジラ』回でも似たことを語りましたが、本作のBDの特典にあるメイキングと削除されたシーンを見ると、本作完成までには数多くのトライアンドエラーがあったことが分かります。

 つまり『シン・ゴジラ』を撮った庵野秀明監督と同じ様に、思いついたこと総当たりで試して、良いものををチョイスして本作は出来上がったのだと思われます。

 さすがディズニー! さすがハリウッド!???

 

 

 

 

 

 

 

 ……さてここでいつものトリビア。

 ゲーム『シュガーラッシュ』は、実は日本製のゲーム。

 ラルフの原音での声を当ててるジョン・C・ライリーは、髪型がラルフにそっくり。

 フェリックスの声を当ててるジャック・マクブレイヤーは、フェリックスにもっとそっくり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ってなわけで『シュガーラッシュ』もし未見でしたらオススメですぜ!!

 

 …………………え? 続編の『シュガーラッシュ・オンライン』ですって??