映画観賞……それは〈中略〉……めっちゃコスパの良いエンタメ……。

 これは……〈中略〉……映画について、いい加減な知識と思い出を元に徒然なるままに書くコーナーである。

 

 

 

▼『映画を語れてと言われても』

 
 

 

 TODAY'S
 
第七十一回『生きのびたければ潜るしかない!!“U‐571”』

 

 


 タグ:潜水艦 第二次大戦 暗号 エニグマ 駆逐艦 Uボート アクション ドイツ海軍 米海軍 

 

『U‐571』

2000年公開

監督:ジョナサン・モストウ

脚本:ジョナサン・モストウ デビット・エアー他

出演:マシュー・マコノヒー ビルパクストン ジョン・ボンジョビ ハーヴェイ・カイテル他

 

 

 

 

 

あらすじ

 時に1942年…………解読不可能な暗号を生み出すエニグマ暗号機を用いた、ドイツ海軍潜水艦Uボートの連携による通商破壊作戦により、連合国は多大な被害を被っていた。

 そんなある日、米海軍情報部は大西洋用を航行中のUボート……〈U‐571〉が、英駆逐艦との戦闘で損傷した為、救難信号を発していることを傍受。

 米海軍は自軍の有する潜水艦S‐33を小改造し、〈U‐571〉へと向かった救援艦のUボートに仕立て上げて同艦に接近し、〈U‐571〉に乗り込んでエニグマ案号機を奪取する作戦を決行する。

 

 上陸休暇を中断させられ、〈U‐571〉に乗りこんでのエニグマ奪取作戦を任されたS‐33副長のタイラー(マシュー・マコノヒー)は、不承不承ながらも先任曹長のクロフ曹長(ハーヴェイ・カイテル)や、今作戦を立案指揮する情報部のクーナン少佐、人数集めに駆り出されたS‐33の若き水兵らと共に夜の大西洋上にて〈U‐571〉に接触し、見事乗り込んで銃撃戦の末に同艦を制圧し、エニグマ案号機の奪取に成功する。

 しかし、〈U‐571〉からS‐33に帰還しようとしたまさにその時、〈U‐571〉の救援に来たホンモノのUボートが現れ、S‐33を魚雷により撃沈してしまった。

 タイラー達に残された道は、生き残ったメンバーでつい先刻まで脱出しようとしていた〈U‐571〉を操艦し、襲い来た新たなるUボートと戦い、自軍の制海圏まで脱出する他なかった。

 はたしてタイラーたちの運命と任務の行方やいかに!!!?

 

 

 

 

 

 

 

 さて今回は戦争映画回! それも海を舞台にした潜水艦映画です!

 誰が言ったか『潜水艦映画にハズレ無し!』とよく聞きますが、本作は潜水艦映画というだけでなく、第二次大戦での海の戦いを、2000年の映像技術を駆使して撮った作品なのですから、そうそう面白く無いわけが無いのです!

 本作は数多ある潜水艦映画の中でも、筆者のお気に入りの一本なのです。

 

 監督をつとめたのはジョナサン・モストウというお方。

 あの『ターミネーター3』の監督! …………というと何故か本作の期待値が下がってしまいそうですが、適度にアクションとドラマが両立した作品を撮るお方です。

 

 主演をつとめたのはマシュー・マコノヒー。

 コメディ、アクション、SF、ヒューマンドラマなどなど数々の映画で主演し、アカデミー賞主演男優賞も獲ったことがある程のイケオジ系名優です。

 筆者的には何と言っても『インターステラー』の主人公クーパーを演じたお人です。

 本作では五分刈り頭で、Uボートで敵海域を脱出せねばならなくなった米潜水艦の副長を熱演しております。

 

 

 

 そんな監督主演でお送りする本作の見どころは、なんといっても第二次大戦ならではの限られた性能の潜水艦による戦闘アクションが大迫力で映像化されたことと、エニグマ暗号機をめぐるドラマでしょう。

 

 

 

 筆者のザックリとした知識で語らせていただくと……

 第二次大戦の序盤、ナチスドイツはUボートという当時は大変優れた潜水艦を多数大西洋に送り出し、連合国の輸送船団を攻撃し、甚大なダメージを与えることに成功していました。

 その際に独軍が、潜水艦との通信に用いていた暗号を生み出す機械がエニグマです。

 小さめのタイプライターサイズの機械であるそれはUボートに積まれ、独軍司令部がUボートに送った指示やその返信を、極めて高度な暗号に変換・解読することができ、連合国側は独軍の通信を傍受することはできても暗号を解読することができず、神出鬼没のUボートに大苦戦しておりました。

 ゆえに作中でUボートに積まれたエニグマを、連合国は喉から手が出る程欲していたのです。

 

 そして独海軍が繰り出すUボートそれ自体も脅威でした。

 原子力潜水艦ではない潜水艦は、現在でも基本すべてそうなのですが、Uボートをはじめとした当時の潜水艦はいわゆるディーゼル潜水艦と呼ばれるシステムで航行する艦です。

 水上では普通の洋上艦と同じ様にディーゼルエンジンでスクリューを回して航行し、水中に潜航した時は、水上航行時にディーゼルエンジンを発電機に繋いで充電しておいた電池でモーターを動かし、スクリューを回して航行します。

 動かすのに酸素が必要なディーゼルエンジンは水中では使えないからです。

 そして第二次大戦時のバッテリー技術もあって、潜航時の潜水艦の速度や潜航可能時間は極めて遅く短く、潜水艦というよりちょっぴりだけ潜航可能な可潜艦と呼ばれたほどでした。

 潜航時の速度の面で洋上艦にはとうてい叶わず、敵の対潜洋上艦に発見されたらひたすら息を潜めて隠れる他ありません。

 しかも、当然ながら艦内の呼吸可能な空気の量には限りがあるため、いつまでも潜航して隠れ続けるわけにはいきません。

 ですが独海軍は、エニグマを用いた巧みな連携と待ち伏せ戦術、そして用途を通商破壊に限定したことで大きな戦果を上げたのだそうです。

 そのUボートの活躍は、本コーナーでも語った『トロイ』『ザ・シークレットサービス』『エアフォース・ワン』の監督ウォルフガングペーターゼンの初期ヒット作、その名も『Uボート』で深く描かれてもいます。

 

 

 

 

 そういったエニグマとUボートに関する事情を本作を見る前に知っていれば、本作のプロットがいかに面白うそうかがお分かりいただけるかもしれません。

 

 本作を作ったスタッフ陣も、そういったエニグマにまつわるエピソードや、第二次大戦時の潜水艦の活躍を描きたいと思ったからこそ、本作は生まれたのだと思います。

 

 

 

 

 

 ……しかしハリウッド映画として連合国側(あるいはアメリカ側)のエニグマ暗号機の奪取と潜水艦の活躍を描こうと思った場合、少々問題が生じます。

 

 

 思えばここで紹介した潜水艦映画の名作『レッドオクトーバーを追え』や潜水艦映画の名作『Uボート』も、主役メカたる潜水艦は(仮想)敵国製の艦でした。

 現代が舞台であれば、アメリカの原子力潜水艦を主役にした映画も作れるでしょう。

 が、いかにUボートが優れた潜水艦だからといって、第二次大戦時のUボートをそのまま主役にしてハリウッド資本で映画を撮るのは、そのままではさすがに無理です。

 

 

 

 かといって、エニグマ暗号機強奪の話はともかく、潜水艦の活躍を描こうにも、当時の米海軍潜水艦は、あまり高性能とは言えない出来だったのです。

 なにしろ米海軍は当時、1920年代に建造された潜水艦を使っていたので、米海軍の潜水艦は活躍させるにはポンコツ過ぎたのです。

 同じディーゼル潜水艦でもUボートとは性能が違い過ぎたのです。

 アメリカ側を主人公として潜水艦映画を撮ろうとした場合、これは大問題です。

 

 

 そこで本作の脚本家が一計を案じたのが、先に書いたあらすじにある通り、本作のタイトルともなった敵Uボート『U‐571』を奪っちゃって主人公達に使わせようという物語なのです(多分、おそらく、きっと………)!!

 古来より戦争において、敵の使う優秀な兵器を分捕って鹵獲兵器として使用するのは珍しいことではありません。

 敵のUボートを格好よく描いて勝たせるわけにはいきませんが、敵のUボートをぶんどってアメリカ兵達が動かし、悪い独軍をやっつけてエニグマを持ち帰る! ならば何の問題もありません! そして面白そう!

 

 本作が語るに値する最初の理由は、このアイディアにあると思います。

 

 

 

 もちろん役者陣の織り成すドラマも見どころです。

 エニグマ強奪作戦が進行する一方で、マシュー・マコノヒー演じる主人公のタイラーは副長を務めるS‐33艦長のダルグレン(演:ビル・パクストン)に、他の艦への艦長昇進の為の推薦を求めるのですが、それを断られます。

 君にはまだその準備ができていないというのです。

 そんな中タイラーは、Uボート(U‐571)に乗り込み、そのまま奪った艦の指揮をとることになります。

 当時の潜水艦乗りの平均年齢は低く、主人公のタイラーと情報部の人間、ハーベイ・カイテル演じる曹長のクロフを除けば、たまたま敵Uボート〈U‐571〉に乗り込んでいたことで生き残った水兵は20歳前後のまだ少年といった方がいい年頃の若者ばかりです。

 そんな若者を束ねて指揮する役を、タイラーは敵のUボートで演じなくてはならなくなり、その中でタイラーは指揮官として自分に足りないものが何だったのか? を身をもって知ることとなるのです。

 このエニグマ強奪と敵Uボートを奪っての逃走と、タイラーの指揮官としての成長が同時並行して描かれるところが、本作の見どころの一つでしょう。

 

 

 

 

 

 ……しかし、色々と書きましたが、本作の最大の見どころは、当時の最先端の映像技術で描かれた潜水艦の活躍する姿です。

 CG映像はもちろん、水上航行時の映像にはS‐33とUボートの原寸大セットを組んで撮影した他、水中シーンでは模型というには少々大きすぎるプロップを作り、魚雷を発射する瞬間などを映像化しています。

 またそれらの映像技術を駆使した映像や戦闘シチュエーションのバラエティーも、Uボート対Uボート、Uボート対洋上艦(水上編、同(潜航編)と幅広く、筆者のお気に入りです。

 中でも敵洋上艦からの爆雷攻撃に対し、ひたすら深く潜航することで逃げ延びようとする〈U‐571〉のくだりは、実に潜水艦映画あるあるで素晴らしいのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さてここでいつものトリビア。

 第二次大戦時、実際にUボートからエニグマの入手に成功したのは米海軍ではなく英海軍。

 

 本作脚本は監督のジョナサン・モストウと共にデビット・エアーというお方が書きました(他にも共同執筆してる人が一名います)。

 昔海軍でホンモノの潜水艦の乗組員を勤めていたからだそうです。

 ……後にウィル・スミス主演『スーサイド・スクワッド』やブラッド・ピット主演『フューリー』の監督するお人です。

 

 

 

 ……ってなわけで『U‐571』もし未見でしたらオススメですぜ!!