映画観賞……それは時に○○億円もの制作費をかけた作品を、たった2000円前後で楽しめる、めっちゃコスパの良いエンタメ……。

 これは、当劇団きっての映画好きにして、殺陣と小道具美術担当の筆者が、コロナ禍渦巻く現代社会いおいて、巣ごもり生活中に観賞するには打ってつけと思われる映画について、おそろしくいい加減な知識と思い出を元に徒然なるままに書くコーナーである。

 


▼『映画を語れてと言われても』

 

 

 TODAY'S
 
第五十三回『〈ガン=カタ〉…それはハイパーチャンベリング・アクション!ここに極まる!“リベリオン”』

 

 

 

 

『リベリオン』

 タグ:アクション ガンアクション 格闘 創作武術 クリスチャン・ベール 二丁拳銃 デストピア SF 第三次世界大戦 

 

2002年公開

監督:カート・ウィマー

脚本:カート・ウィマー

出演:クリスチャン・ベール エミリー・ワトソン ショーン・ビーン アンガス・マクファーデン ウィリアム・フィクナー 他

 

 

 

 

 

あらすじ

 そう遠くない未来、第三次世界大戦後……なんとか復興し、文明を取り戻した都市国家リブリアでは、感情こそが戦争の原因であったとして、人間の感情を抑制する薬、プロジアムの服用が義務付けられると同時に、人間の感情を揺り動かす原因としての音楽、絵画、小説などなどのあらゆる芸術が厳格に禁止され、違反者は摘発しだ処刑される法がしかれていた。

 そしてその違反者の取締官として“ガン=カタ”と呼ばれる戦闘技術を習得したエージェント“クラリック”が、芸術の不法収蔵を行う過激な反乱組織に対し活躍していた。

 

 自分の妻を違反者として処刑されながらも、第一級のクラリックとして違反者を取り締まってきたプレストン(演:クリスチャン・ベール)は、ある日の違反者組織のガサ入れが切っ掛けで、クラリックの相棒であるパートリッジ(演:ショーン・ビーン)が、実は反乱組織に通じた違反者であることを突き止め、即射殺する。

 しかし、その際のわずかな感情の乱れからプロジアムの服用を怠ったプレストンは、次々と感情が目覚め出し、違反者の収蔵していた芸術品や、パートリッジの恋人である違反者メアリーとの出会いを経て、今のリブリア政府の政策が間違いであると確信する。

 プレストンはパートリッジが属していた違反者組織に接触し、リブリア政府打倒を決心するのだが…………。



 

 さて今回語りたいのは、知る人ぞ知るガンアクション映画業界に多大な影響を与えた傑作『リベリオン』!!

 知るべき人に知られ過ぎて知らない人っているの? ……などと筆者が思う程の名作です!

 公開当時は『マトリックス』のバッタモンみたいな認識がされ、あまりヒットはしませんでしたが、筆者は映画館で観賞し、無事ガンカタ被れになったものです。

 
 

 主演は後のクリストファー・ノーラン監督版『バットマン』シリーズで主演しブレイクするクリスチャン・ベール。

 彼はそれ以前に出演した『アメリカン・サイコ』という映画で評価され、本作の出演に繋がったのだと思われますが、そもそも彼は子役として幼い頃から映画業界で活躍してきたお方で、13歳の時にスティーブン・スピルバーグ監督作の『太陽の帝国』で映画主演デビューするという……エリート中のエリート俳優街道を来たお方に思われます。

 そんな彼の、イケメンであると同時に、どこか堅物というか神経質な印象のある顔立ちとキャラが、本作のエリート取締官という役柄に実にマッチしております。

 そして彼が本作で披露する創作武術“ガン=カタ”が、一部の業界人と観客の心を鷲掴みにしたのです…………。

 

 

 監督を務めたのはカート・ウィマーというお方。

 主に脚本家として映画業界で活動してきたお人で、本作が監督デビュー作なようです。

 残念ながら本作とその次に撮った『ウルトラヴァイオレット』という映画の二本しか監督をしていないようですが、彼が本作で生み出したガン=カタは、後のアクション業界に多大な影響を与えるのです。

 本作ではそれまでのキャリアのように脚本もつとめており、その内容はレイ・ブラッドベリ作の古典SF小説『華氏451度』にオマージュされたものとなっております。

 『華氏451度』は、政府当局が認めた以外の本の所持が禁止された近未来で、本を取り締まり焼却する仕事にしている主人公の物語で、いわゆるディストピアを扱ったSFの先駆け的作品です。

 世間で『リベリオン』が語られる時、主にガン=カタの凄さばかりが語られ、その物語は軽んじられる傾向がある気がするのですが、筆者は本作の『華氏451度』にオマージュをささげた脚本も実に良く出来ていると思っています。

 確かに本作が小説であったならば、『華氏451度』の類似品の粋を出ず面白いとは言えないかもしれません。

 しかしながら本作の脚本は、ガン=カタによるアクションパートを最大限に活かすように、実によく計算されていると思うのです。

 

 例えばジャッキー・チェンの映画で、複雑に入り組んだ『スニーカーズ』や、感動を呼ぶ『ショーシャンクの空に』みたいな脚本にされても、アクションを行う“口実”が無く、例え脚本自体のクオリティが高くても、ジャッキーのアクションを期待して身に来た観客には不満となるでしょう。

 しかしながら本作は、『華氏451度』オマージュの管理・抑圧された社会での物語にすることによって、主人公プレストンが憤りを爆発させ、ガン=カタのスキルの限りで立ちふさがる者を粉砕してゆくという“口実”作りが実に巧みだったと思うのです。

 アクション映画でドラマパートが退屈だ……という意見は時折見かけますが、ドラマの無いアクションは映画でも物語でもなく、ただのパフォーマンスの類になってしまいますからね!

 

 また本作はハリウッド映画の中ではかなりの低予算映画に部類されるそうで、東ドイツでロケされた風景は、ディストピア感をうまく醸し出しており、アクションをより際立たせる効果があった気がします。

 

 

 

 で! さっきから繰り返してる創作武術“ガン=カタ”とはいったいどんな武術なのかといいますと…………。

 

 銃撃戦発生時の蓄積された膨大な統計データを元に、彼我の位置関係から敵の撃つ弾丸の軌道を瞬時に予測し、自身は安全圏に移動し敵弾丸を回避しつつ、目標の死角に回り込み攻撃するという攻防一体の武術……なそうです。

 弾丸予測は彼我の距離が短い程精度が上がる為、必然的にガン=カタ使用者は敵に接近することになります。

 ガンアクションにおいて、敵の弾丸がなぜか主人公には命中しない理屈を考えてみた結果と聞きます。

 実際の本編映像では、プレストンが二丁拳銃を主に駆使して、敵に銃口が触れんばかりに接近し、格闘術まがいのことをしながら発砲して敵を倒すわけです。

 その理屈が100%映像で表現されているかはさて置き、銃+格闘武術というコロンブスの卵的発想が、おそろそく映えたことは否定できようもありません。

 

 映像的テクニックの話をすると、通常の銃撃戦では撃った側と撃たれた側が別カットになってしまうのに対し、ガン=カタでは彼我がおそろしく接近している為、同一カット同一画面内で撃って撃たれる事態が多々発生し、それまであまり見ることができなかったアクション映像となるのです。

 

 このガン=カタは監督のカート・ウィマーと本作の武術指導担当が考えたそうですが、ウィマー監督はまだ構想段階だった時に、自宅の裏庭でピストルを持ってこのガン=カタの練習をしていた結果、隣人に警察に通報されたとか……(言い訳できない状況……)。

 

 また本作の冒頭で、二丁拳銃でガン=カタの演舞をしている筋肉ムキムキのシルエットの男性は、カート・ウィマー監督その人です(予算無くて自分で演じたんだとか……)。

 

 

 ともあれ、このガン=カタは少なくないクリエイターの心を鷲掴みにし、ガン=カタをオマージュあるいは洗練させた作品が後にいくつも生まれることとなります。

 

 例えば『劇場版魔法少女まどかマギカ新編:叛逆の物語』内の戦闘シーンや『特捜戦隊デカレンジャー』の宇宙警察銃拳法ジュウクンドー。『ジョン・ウィック』のガン・フーなどなどです。

 これらは、もしも『リベリオン』が存在しなければ、世には生まれなかったかもしれません。

 

 

 

 

 

 さてここでいつものトリビア!

 ガン=カタでは日本刀を用いた戦闘もあり、ラストバトルでプレストンはパートリッジの代わりに来た相棒を日本刀で瞬殺し、新相棒の顔面を○○するのですが、その後、同じ場所で行われた黒幕とのラストバトルの最中も、新相棒の○○された顔面は存在するわけでして……本編をよく見ると、それがペラッペラの紙に印刷された状態で、戦場となった場所に落っこちてるのが確認できます。

 

 

 

 

 

 ……ってなわけで『リベリオン』もし未見でしたらオススメですぜ!!