映画観賞……それは時に○○億円もの制作費をかけた作品を、だいたい2000円前後で楽しめるめっちゃコスパの良いエンタメ……。
これは、当劇団きっての映画好きにして、殺陣と小道具美術担当の筆者が、コロナ禍からようやくかつての日常を取り戻しつつある現代社会いおいて、筆者の独断と偏見といい加減な知識と思い出を元に、徒然なるままに……徒然なるままにオススメの映画について書くコーナーである。
▼『映画を語れてと言われても』
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第一六七回『夏だ! 嵐だ! パトレイバー!!“機動警察パトレイバー the Movie””』
タグ:アニメ ロボット 警察 コンピュータウィルス OS 押井守 パトレイバー 公共事業
『機動警察パトレイバー the Movie』
1989年公開
原案:ゆうきまさみ
原作:ヘッドギア
監督:押井守
脚本:伊藤和典
音楽:川井憲次
メカニックデザイン:出渕裕
キャラクターデザイン:高田明美
声の出演:大林隆介 古川登志夫 冨永みーな 榊原良子 西村知道 千葉茂 坂修 二又一成 郷里大輔 池水通洋 井上遥
あらすじ
1995年に首都圏に発生した巨大震災により、異なる歴史をたどった日本‥‥‥。
日本政府は震災によって生じた大量のた瓦礫と再開発地域を利用し、東京湾横断橋の建設と、その内側の一大干拓公共事業『バビロン・プロジェクト』の推進を決定した。
そしてその実行には、当時ハイパーテクノロジーの急速な発展に伴って実用化された、有人式汎用人型土木作業用機械〈レイバー〉が大量投入された。
しかしそれは、同時に『レイバー犯罪』と呼ばれる新たな社会的脅威をも生み出した。
この脅威に対し、警視庁は対レイバー犯罪を目的としたレイバー中隊‥‥‥特殊車両二課を創設し、これに対処した。
通称〈パトレイバー〉の誕生である。
そして1999年‥‥‥夏。
二つある特車二課パトレイバー小隊の内、第一小隊が近々配備予定の最新鋭パトレイバーへの機種転換訓練に海外へと向かってしまったため、残る第二小隊のレイバー・イングラムの操縦担当の泉野明(声:冨永みーな)以下の第二小隊のメンバーは、完全なオーバーワークとなり疲労困憊していた。
レイバー指揮担当の篠原遊馬(声:古川登志夫)は、そんな中で最近頻発するレイバー暴走事件が、時を同じくして日本中のレイバーに普及した超高性能レイバー操作用オペレーティングソフト〈HOS〉に原因があるのでは? と第二小隊の隊長、後藤喜一(声:大林隆介)に直訴する。
しかし、開発した篠原の実家の篠原重工や、〈HOS〉発売許可を出した総務省の検査の目を潜り抜け、〈HOS〉に不具合があるとは考えられないと一蹴する。
だが、レイバーの暴走がソフト開発中に不随意に発生したソフトのバグでは無く、悪意ある何者かが意図して仕組んだコンピュータウィルスによる暴走事件である可能性を示唆する後藤隊長。
しかも後藤はすでに、〈HOS〉をほぼ個人で開発したという天才プロブラマー帆場暎一が怪しいと睨んでおり、知古の刑事松井(声:西村知道)に、帆場暎一の独自の捜査を要請していた。
『怪しいと分かっているなら、しょっぴいて吐かせれば良いじゃないですか!?』
と、すでにホシの目星を付けていた後藤に憤る篠原。
だが、それは不可能であった。
なぜなら帆場暎一は先日東京湾のど真ん中に建設された、〈バビロンプロジェクト〉用巨大レイバー整備用プラットフォーム〈方舟〉から投身自殺していたからであった。
後藤は引き続き帆場暎一に関する捜査を松井刑事に依頼しつつ、なにがレイバーを暴走させるトリガーなのかの調査を篠原に命ずる。
はたして、すでに世を去った帆場暎一の恐るべき企みとは?
パトレイバー第二小隊は、せまるカタストロフにいかに対処するのか?
日本と東京の運命やいかに!?
さて今回は、このクソ熱い夏の真っただ中に見るのに打ってつけ
な、ロボットアニメ史に残る大傑作について語りたいと思います。
まずこの『機動警察パトレイバー』なる作品について少々説明しておくならば、本コーナーで言えば『トップをねらえ!』や『マクロスプラス:MOVE DITION』などのように、もとは1990年代前後に流行っていOVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)という一話30分・全6話程で作られた形式のアニメ作品群の中の1作品であり、そのヒットを受けて作られた劇場版が本作というわけです。
思えば本作が作られた1989年は、ロボットアニメ華やかりし時期だった気がします。
今でもそうだ! というご意見もあるでしょうが、1980~90年代はガンダムだけでなく、実にあらゆるロボットアニメが次々と生まれた時代だったと思うのです。
そんな中で生まれたロボットアニメの一作である『機動警察パトレイバー』は、ロボットアニメ最盛期時代なこともあり大人気を博し、全7話のOVA、劇場版第一作、TVシリーズ、劇場版第二作、第三作、実写版ドラマシリーズ、実写版長編劇場版、そして新作アニメが現在製作中‥‥‥となる程の長寿人気作となったのです。
原案の漫画家ゆうきまさみによって描かれたマンガ版もまた名作として語り継がれております。
日本が誇るロボアニメのなかでも屈指の作品数です。
それは『ガンダム』『エヴァンゲリオン』『マクロス』に続く成功したロボアニメシリーズと言って良いでしょう。
筆者は幼い頃にこのアニメに出会い、ドハマりし、新作が出る度に追いかけて来たものです。
その『機動警察パトレイバー』が何故そこまでヒットシリーズになったのか? といえば、それは他のありそうでなかったアイディアと設定の数々にある気がします。
まず警察が使う正義のロボットが主役‥‥‥というところが、ありそうでなかった秀逸なアイディアです。
現実社会の〈正義の味方〉たる警察が、ロボットを使って〈正義の味方〉を実行するのですから説得力がありまくりです。
(因みに警察ロボとしての一般市民からの心象を良くしたいという意向が、主役ロボのパトレイバー〈イングラム〉のデザインには考慮されている‥‥‥という作中設定)
ですがその状況を面白く成立させる為に、『機動警察パトレイバー』では設定に幾つかの工夫が成されています。
一つは時代設定を、制作時から10年後の1998~1999年にしたことです。
本文章執筆時の2024年から四半世紀前と考えると恐ろしい話ですが、ここで重要なのは、遠未来の大きく変化した社会が舞台ではなく、我々が生きる時代とそう変らぬ時代と社会のなかで活躍するロボットの話ということです。
これにより本シリーズを見た人は、日常で見る風景の中にパトレイバーがいる光景を想像せずにはいられなくなるのです。
もう一つは、パトレイバーという主役ロボが活躍する為に、レイバーという汎用ロボットが社会に浸透している世界設定にしたことです。
どうすればこの世界で主役ロボを活躍させられるのか? ではなく、主役ロボを活躍させられる世界の方を設定したのです。
そういう世界の状況なんだから、そういう警察ロボがいても仕方が無いのです!
最後は、ロボのサイズを全高7m前後という、他にあまり例を見ないサイズにしたことです。
ちなみにガンダムだと18m。
この絶妙なサイズにより、都内の道路を専用トランスポーターに乗せて移送させることができ、またそれなりの迫力がある絵面を作れるのです。
しかし、この『機動警察パトレイバー』が受けた最大の理由は、実は巨大な警察ロボの活躍そのものではなく、それを運用する組織としての警察を描いたことにあると思います。
・‥‥というか、『機動警察パトレイバー』というシリーズは、主役ロボたるパトレイバー〈イングラム〉が活躍する割合が、作品全体の2~3割くらいしか無く、OVAやTVシリーズではまったく動かない回も珍しくありません。
では何を描いてこのシリーズは受けたのか? というと、巧みかつヘソ曲がりで自由奔放なシナリオで、個性豊かな特車二課第二小隊の面々が、時に格好よく、時に無様に情けなく、警察組織の悲喜こもごもやブラック職場っぷりや理不尽っぷりを体験する姿がウケた‥‥‥部分が多々あるような気がします。
もちろんレイバー犯罪を行う犯罪者との大捕り物話もありますが、それは一部でしか無いのです。
しかしそここそが本シリーズがウケた理由の一つな気がします。
なにしろ本作の大ファンだった本広克行監督によって、映画化もされた大ヒットドラマ『踊る大走査線』の、元ネタの一つとなった程。
そんな『機動警察パトレイバー』を生み出した面々は、前述したように、マンガ版『機動警察パトレイバー』や『鉄腕バーディー』『究極超人あーる』等の作品で知られる漫画家のゆうきまさみが、まずOVA化前提で大本となる原案を考えたのだそうです。
そこにパトレイバーのデザインを考えるメカニックデザイナーとして、本コーナーで言えば『宇宙戦艦ヤマト2199:星巡る方舟』の監督を務めた出渕裕が加わり‥‥‥。
キャラデザイナーとしてアニメ版『うる星やつら』『きまぐれオレンジ☆ロード』『めぞん一刻』等で活躍する高田明美が‥‥‥。
脚本として、本コーナーで言えば平成『ガメラ』三部作や『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』で活躍する伊藤和典が‥‥‥参加し、企画を固めてゆき‥‥‥。
最後に本コーナーで言えば『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』を監督した押井守が監督として加わり‥‥‥。
この五人が原作となって〈ヘッドギア〉を名乗り‥‥‥。
さらに音楽として本コーナーで言えば『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』他、最近で言えば『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の他数え切れないほどのアニメ・映画音楽を担当した川井憲次が担当し‥‥‥。
これらの根幹スタッフにより『機動警察パトレイバー』というアニメは世に出ることとなり、ヒットすることとなったわけです。
う~ん分かる人には分かるドリームチームっぷりです。
当時のアニメ業界のアベンジャーズかジャスティスリーグのようです。
また声の出演の方々も超豪華!
『機動警察パトレイバー』というアニメがヒットしたのは、集結したスタッフ・キャストの段階で必然だったのかもしれません。
‥‥‥と、ここまでが『機動警察パトレイバー』というシリーズそのものの魅力、あるいは最初に作られたOVAシリーズの魅力です。
本作『機動警察パトレイバー the Movie』は、最初に作られた6話のOVAの好評を受け制作され、結果大ヒットし、後世にまで伝えられる程の評価を国内外から得ることになるわけですが‥‥‥それは何故だったのでしょうか?
それは例によって、映像・脚本・キャスト陣の熱演・メカデザ・キャラデザ・川井憲次の奏でる音楽などなどの、全てのパラメータが極めてハイレベルであったから‥‥‥と言ってしまえばそれまでなのですが‥‥‥。
今回はあくまで筆者の個人的好みにより、『機動警察パトレイバー the Movie』の素晴らしくよくできた脚本にフォーカスして語りたいと思います。
本作は上映時間100分の物語の中で、見事に『機動警察パトレイバー』らしさとアクション、エンタメ性、テーマ性、オリジナリティや先見性がギュっと詰まっている映画の教科書に乗せたくなるような見事な脚本なのです。
そもそもレイバー犯罪と戦うロボ警察という『機動警察パトレイバー』という作品の根幹設定が、エンタメとしての物語として描くには、なかなかに面倒くさい部分があります。
主人公達である特車二課第二小隊は、あくまで“発生した”レイバー犯罪にパトレイバーで対処するチームであり、そのレイバー犯罪が如何にして発生したのか? 犯人のバックボーンなどの捜査は行いません。
酔っ払い運転手がレイバーに乗って暴れるレベルのレイバー犯罪ならばともかく、巨大な陰謀が絡むようなレイバー犯罪の場合、本来の設定でいけば、暴れるレイバーをパトレイバーで制圧する以外の出番はないことになってしまうのです。
これがただのヒーローモノならば捜査も解決も主人公勢が行えば良いのですが、なにしろ『機動警察パトレイバー』は警察のお話なので好き勝手にはできないのです。
しかしながら『機動警察パトレイバー』では、元切れ者の刑事だった後藤喜一が隊長を務めていることで、いち早くレイバー絡みの陰謀や犯罪の嗅ぎつけ、捜査課の刑事が動き来だすよりも前に、知古の刑事の松井をアゴで使って情報を掴んで対処する‥‥‥というなかなか掟破りな手段で、物語前半での捜査パートを埋めているのです。
ちなみに筆者がイチオシなキャラも、この後藤隊長です。
正に昼行燈なキャラをしていながら、いざ大事件が起きると大活躍するカッコイイおじさんなのです。
そんな彼が、すでに投身自殺済みという前代未聞の犯人・帆場暎一の人となりを残された情報の数々からプロファイリングし、その目的を推測してゆく件は、本作の魅力の一つと言えるでしょう。
絶対上司にも部下にもいて欲しくはないおじさんですけどね!
さらに本作の凄い所は、まだスマホどころかインターネットもロクに整備されていない時代‥‥‥、ようやくでっかい携帯電話が販売されたくらいの時代に制作されたアニメにも関わらず、コンピュータウィルスを用いた凶悪犯罪について描いたことです。
その先見性は予知能力の域に達してると言っても過言では無いかもしれません。
さらにそのコンピュータウィルスが、架空の存在であるレイバーを暴走させることで、パトレイバーでなければ対処できない実に劇場版らしい巨大な騒動へと繋がってゆくところが上手いと思うのです。
本作作中の事件の犯人たる帆場暎一が、このコンピュータウィルスを都内のレイバーに感染させることで目指す最終目的が判明するシーンは、実に名シーンなのです!
筆者が本作をなぜ2024年7月と言う夏の時期に語ろうかとしたのか? の理由がそこにあるのです。
そして本作の脚本で一番筆者が気に入っている部分は、この都内に配備された無数のレイバーに、暴走を促す凶悪なコンピュータウィルスが仕掛けられるという事件に対し、本作は実にパトレイバーらしく、なおかつパトレイバーで無ければ実行できない豪快な手段で対抗するところです。
ゆえに本作は紛れも無く『機動警察パトレイバー』なのです!
はたして、本作における犯人の陰謀に対し、主人公達は如何な方法で対抗したのか? 本作未見の方はどうかその目でご確認下さい!!
さてここでいつものトリビア。
1980年代の末に制作されたこの『機動警察パトレイバー』では、もうとっくの昔に去った過去ですが、制作時から見て10年後の未来を描いているわけですが、その結果、本作の1999年ではまだバブル期が続いていた‥‥‥という設定で日本社会のビジュアルは描かれてるそうですよ!
首都圏で大震災があったのにタフな日本人だ!
‥‥‥ってなわけで『機動警察パトレイバー the Movie』もし未見でしたらオススメですぜ!