映画観賞……それは時に○○億円もの制作費をかけた作品を、だいたい2000円前後で楽しめるという、めっちゃコスパの良いエンタメ……。
これは、当劇団きっての映画好きにして、殺陣と小道具美術担当の筆者が、コロナ禍以後の現代社会において、筆者の独断と偏見といい加減な知識と思い出を元に、徒然なるままに……徒然なるままにオススメの映画について書くコーナーである。
▼『映画を語れてと言われても』

第二四六回『命令が認識できませんでした ロシア語で考え再入力して下さい。“ファイアーフォックス”』
『ファイアーフォックス』
1982年公開
監督:クリント・イーストウッド
原作:クレイグ・トーマス
特撮監督:ジョン・ダイクストラ
出演:クリント・イーストウッド他
あらすじ
時に20世紀の……米ソ冷戦のただ中の頃……。
ソビエト軍が、それまでの戦闘機の常識を超え、マッハ6での飛行を可能とする超高速高性能ステルス戦闘機(コードネーム)ファイアーフォックスの開発に成功した…との情報をスパイから入手したNATO軍は、その性能の高さから、もしもファイアーフォックスが正式に配備された場合、米ソ東西の軍事バランスが崩壊してしまうことを危惧する。
仮にファイアーフォックスに対抗しうる戦闘機の開発を試みても、ファイアーフォックスの配備までに間に合わせることは絶望的だと判断したNATO軍司令部は、現地工作員の協力の元、パイロットをソ連に潜入させ、試験段階であるファイアーフォックスをソ連軍の空軍基地から強奪する計画を立案する。
その強奪作戦の要、実際にソ連の奥深くに潜入し、ファイアーフォックスに乗り込み、西側の拠点まで操縦するパイロットとして、かつてベトナム戦争で活躍し、ロシア語をネイティブ並みに話すことが可能な唯一の男、ミッシェル・ガント(演:クリント・イーストウッド)に白羽の矢が立てられた。
ベトナム戦争時のPTSDにより、日々襲い来るフラッシュバックに苦しめられていたガントは、当初は作戦参加を断ろうとするものの、西側諸国崩壊の危機に断る権利など与えられるはずもなく、アメリカ人ビジネスマンの偽の身分を与えられ、モスクワへと送り込まれ、そこで現地工作員のウぺンスコイとの合流を計る。
だがガントの行く手には、想定外のアクシデントとの連続が待ち構えていた。
はたしてガントは無事ファイアーフォックスの元にたどり着き、乗り込んだうえで西側まで操縦して帰ることができるのであろうか!?
さて今回はクリント・イーストウッド回!
クリント・イーストウッドが誰か? については……。
第二二七回『奇跡の供給“ハドソン川の奇跡”』
第一七四回『登山はくれぐれも安全にお楽しみください!“アイガー・サンクション”』
第六十六回『大統領警備はつらいよ“ザ・シークレットサービス”』
……などを読んで頂くと助かるのですが、ザ~ックリと説明すれば、1970年代から活躍してるアメリカを代表するスター俳優にして、映画監督としても名作を撮りまくってるハリウッド映画界の生けるレジェンドな凄いお方です。
そんな彼が、数々の主演&監督映画の中で選んだ題材が、クレイグ・トーマスって人が執筆した冷戦中のソ連から最新鋭ステルス戦闘機を盗んでくる『ファイアフォックス』という小説なのです。
そしてまだCG技術のCの字も無い時代に、模型特撮や実物大プロップや合成技術を駆使し、架空の高性能ステルス戦闘機の映像化に挑んだのが、ジョン・ダイクストラってお人。
『スター・ウォーズEPⅣ:新たなる希望』や『スタートレックTMP』からサム・ライミ版『スパイダーマン』んのVFX映像までを作り続けてきた業界のレジェンドみたいな人です。
本作製作時に考えうる最高の特撮映像の人選なのです。
本作の魅力の4割くらいは、彼主導で生み出された大暴れするファイアーフォックスのアナログ特撮映像にあるといっても過言では無いでしょう。
ってなわけで出演者は!
トラウマ持ちの凄腕米軍パイロットのミッシェル・ガント役にクリント・イーストウッド。
……残念ながら、本作で筆者が存じあげる俳優は以上となります。
年代もあって知らん人ばっかだったのです……しかし、知らない人ばかりなことで先入観無く見れることが、本作の面白さに寄与していると言えるかもしれません。
どのキャラがどのような行ないや運命をたどるか予想がつかないからです。
そんなスタッフ・キャスト陣でお送りされた本作ですが、公開時の年齢的に筆者が映画館で見ることは叶わず、後年になって地上波で放送されたのを見たのが初でした。
見る前から作品自体の存在は知っており、とても楽しみにしていたものです。
で、見た結果は……なんか思ってたんとちゃう……ってな感じでした。
本作は売り上げを後から見るに、大ヒットというよりは中ヒットレベルの興収だったようですが、ともあれ、クリント・イーストウッド監督の代表作の一つとして、また冷戦時代を舞台としサスペンス&航空アクションの名作として、映画史にカウントされた作品と言って良いと思います。
そうなった理由の一つは、純粋にクオリティが高かったからな気がします。
クリント・イーストウッド作品はみなクオリティが高いと思うのですが、本作場合は、航空アクションとしての前に、まず冷戦時代を舞台とした潜入サスペンスとしてハイクオリティなのです。
言い方を変えれば超ヒヤヒヤする。
この映画の半分は、ロシア語が堪能な以外はあくまでパイロットでしかない主人公ガントが、どこに監視の目があるか分からないソ連国内をスパイのごとく移動し、ファイアーフォックスに乗り込むまでがとんでもない緊張感と共に描かれているのです。
2026年の今、再び世界はきな臭くなってきておりますが、本作公開時の1982年は、米ソ冷戦と呼ばれ、アメリカと今のロシアを中心としたソビエト連邦が敵対し、スパイ合戦や間に他の国を挟んだ紛争を繰り返し、それがいつ世界を巻き込んだ大戦争……下手をすれば核戦争にまで発展し、世界が終わってしまうんじゃないかとビクビクしながら生きていた時代だったもんです。
幸い、1989年のソビエト連邦の崩壊と共に米ソ冷戦は終わったわけですが、当時は鉄のカーテンなどとも呼ばれる情報封鎖によって、ソ連の国内がいかな社会なのかが、我々には分からない状態だったのです。
米ソ冷戦ただ中の両陣営の暗闘といえば、本コーナーで紹介した……。
第九回『“レッドオクトーバーを追え”この海の底の片隅で』
……も、その一作と言えます。
そんな情勢の中での潜入ミッションをハイクオリティで描いたところが本作の魅力であり、ユニークなところでもあるのです。
だって本作を見ようと思った人は、べつにそこは見たいと思ってたわけでは無いですからね!
筆者が本作初見時に思ってたんとちゃう! となったのはこの点だったわけです。
ですが、もちろんちゃ~んとガントがファイアーフォックスに乗ってからの本作後半は、大迫力の航空アクション映画となっており、そこが本作の最大の魅力となっているのです。
思えば、本作公開時の1980年代は、夢のビークル(乗り物)作品の時代だった気がします。
『超音速攻撃用ヘリ:エアウルフ』『ブルーサンダー』『ナイトライダー』『バックトゥザフューチャー(デロリアン)』『弾丸特急ジェット・バス』などなど、急激な技術革新と供に、人は未来の乗り物に夢をはせていた時代な気がするのです。
本作は冷戦潜入サスペンス航空アクションであると同時に、その夢のビークルものの一作でもある気がします。
マッハ6で飛ぶ架空戦闘機のファイアーフォックスを、当時の映像技術の粋を結集して映像化したのですから。
もちろん、今のCGを駆使した映像技術ならば、もっと大迫力でリアリティな映像を自由自在に生み出せたかもしれませんが、本作は前述したジョン・ダイクストラの力技とも言える実物大ファイアーフォックスや、模型を使った映像が味わい深く好きなのです。
そしてクライマックスには、ファイアーフォックスを撃墜可能とする最大の敵とのドッグファイトが繰り広げられるところも実にエンタメしてて素晴らしい。
また、ソビエト領から脱出せんとするファイアーフォックスを支援するNATO側の奇想天外な燃料補給作戦や、ファイアーフォックスを追いかけるソ連軍司令部のドラマも面白いのです。
ちなみに筆者のお気に入りは、現場までやってきちゃったソ連の最高書記長と超切れ者のウラジミロフ将軍の駆け引きのドラマ。
敵側ではありますが、優秀な人はちゃんと優秀に描かれているのです。
さてここでいつものトリビア。
本作の原作小説は、1976年に起きた、ソ連軍パイロットのベレンコ中尉が乗った戦闘機が、なんと日本は北海道の函館空港に強行着陸して亡命した事件から着想を得てるんですって。
ちなみに、そのベレンコ中尉ののったソ連製戦闘機は、ファイアーフォックスのように米軍が恐れるような高性能ではなかったみたい。
……ってなわけで『ファイアーフォックス』もし未見でしたらオススメですぜ!!

























