①貿易とは何か

 

 貿易には、国際的に互いの国が欲するものを、互いに交換するという大事な役割がありますが、時折、その限度を超えて、政府が資本家の利益のためだけに貿易を優遇し、資本家の利益のために国民が犠牲になるという段階に至る場合があります。

 輸出とは、輸出企業が国内で生産したものを海に捨てて、外貨というガラクタを持ち帰り、そのガラクタと交換に金融機関または政府から自国通貨建ての代金をもらうことであるという分析が成り立ちます。

 なぜなら、輸出で外に持ち出された商品も、売上として輸出企業が持ち帰った外貨も、国民にとって、役に立たないものであることは同じだからです。

 貿易で得る外貨は、輸出品は国内で生産しているので、国内への支払いのために、自国通貨と交換してもらえることではじめて価値が生まれます。つまり、企業にとって外貨は自国通貨を手に入れる手段でしかなく、自国通貨を儲ける手段が他にあるならば、輸出による外貨の獲得に興味を失います。

 しかし、最も手っ取り早く儲ける方法は輸出です。だから、政府が輸出を奨励すると、そのような、内需を当てにするより楽な儲け方はないので、どんな企業でも喜んでそうするでしょう。内需を拡大すると、すぐに中小企業が大企業を凌駕する競争相手として現れて来ます。

 そもそも、輸出企業(大企業)が儲かるという以外に、生産力が有り余る国の国民にとって輸出にメリットはありません。

 日本において、国民から見れば、政府が輸出企業を儲けさせる国際競争力強化政策に力を入れていることが、徐々に奇妙に見え始めていますが、それは、輸出企業が巨大な利益を出して行くのとは対照的に、国民が貧困になっているからです。

 輸出企業を儲けさせることは簡単なことです。つまり、労働者の賃金を下げ、デフレを維持し、いくら金融緩和をしても信用創造が出来ないように金融制度を変え、代わりに円キャリートレードで財市場の外の円通貨を莫大にすることで円安にして、デフレ、低賃金、円安の三本柱で輸出商品の価格を安くすれば良いからです。

 これはすべて日本政府が現在の日本で怒涛の如く実行していることです。

 そのおかげで、日本の輸出企業は空前の国際競争力を手に入れ、空前の利益を上げています。反対に、国民は経済的に転落し貧困化しています。

 政府が指導すべき企業の役割は「生産と分配」ですが、「分配」は低賃金政策によって損なわれています。

 ケインズは、国内経済においては「分配」(消費)による限界消費性向の向上こそが「生産」(投資)の拡大の動機となり、経済成長をもたらし、他の方法は存在しないと言っています。

 輸出企業と国際投資家が儲かる国際競争力強化のための政策は、国内経済において国民を貧困にし、なおかつ、経済成長のチャンスを奪うメカニズムは次の通りです。

 通常、輸出を行えば、生産物は国内から無くなるのに、持って帰った外貨が円に交換され財市場に供給されるのですから、国内の発行通貨が増え、インフレになります。

 持って帰った外貨は、金融緩和が行われていなければ、政府(外為特会)が買い取りますが、その資金は国債発行で行われ、形式的に政府債務は拡大されます。金融緩和が行われていれば、円キャリートレードで外貨は消費されますから、表面的に外貨保有高は増えないことがあります。

 短期的には、外国が為替介入によって、円買いをしますから、円高になったりますが、為替介入が終わればすぐに、国内には円が増えているので円安になります。

 インフレによって短期的に価格競争力が失われますが、変動相場制においては中長期的に円安に戻ることによって再び価格競争力を取り戻します。

 しかし、投資家の心理に働く効果としては、短期的なインフレの効果の方が高く、投資家はイライラして、政府にデフレ、低賃金、円安への誘導政策を行わせます。

 そうしなければ、短期の利益を求める投資家が、短期の価格競争力を維持することは出来ないと思うからです。

 だから、国家が輸出を奨励する場合は、輸出を増大させるための何らかの政策を行っているはずです。デフレ、低賃金、円安への誘導政策はもちろん、それに代えて、商品の価格を抑えるために、補助金などを輸出企業またはその下請け企業などに出したりします。

 内需を縮小しようとしている日本政府がもし中小企業に補助金を出しているとすれば、その中小企業は輸出企業の下請け企業である可能性が高いでしょう。

 国際競争力を強化しようとする政府が内需を縮小させようとするのは、内需の増大によってもインフレとなり、輸出の増大によるインフレと競合するので、内需を抑えようとするからです。

 そして、これが最も重要なことですが、「生産」もまた、自国民が必要としないような輸出用の商品に重点が置かれ、国民にとって大事な生活用品が不足したり、値段が高くなったりします。

 つまり、自国民が必要とする産業部門(農業、日用品工業、道路、ダムなどの治水、水道などのインフラ)が削減され脆弱になります。

 もちろん、どこの国でも貿易をやっているので、程度は様々ですが、どこの国であろうと、バランスが重要であり、必ずしも輸出に重点を置くことは良い傾向ではありません。

 イギリスがインドを植民地にしていたときは、宗主国イギリスよりも植民地インドの方が一方的な貿易黒字であり、イギリスは一方的な貿易赤字でした。それについて、イギリス本国の資本家から政府に苦情が出ているほどでした。

 植民地インドの方が黒字であったと言っても、インド国民が豊かになったわけではなく、むしろ、自分たちの生活物資を作らせてもらえず、イギリスへの輸出品ばかりを作らされ、輸出で得た黒字は入植者のイギリス人資本家のものになりましたから、インド人は富を奪われるだけでした。

 イギリスを国際金融資本、インド国民を日本国民にあてはめて考えれば、今の日本の貿易黒字の意味が分かります。

 ただし、貿易黒字を出すことが、常に植民地的であるということではありません。あくまで、どの程度のことが行われているかによって本質が変わって来ます。

 現状の分析において断言することは理論上は出来ませんが、少なくとも、現在の日本では、日本は国際金融資本という得体の知れない者の植民地的な経済となって行きつつあることは間違いないでしよう。

 植民地的な経済は、資本や原材料の調達の必要性から自らが進んで行えば、後進国的な経済であるということが出来ます。だから、日本は植民地的経済に進んでいると言っても、後進国的経済に進んでいると言っても同じことです。

 例えば、中国のことを参考にすれば、昔の中国は後進国で、生産設備を持ちませんでしたので、資本(生産設備)については外国企業の進出を頼みにしなければなりませんでした。

 方向として、最初は、産業構造は植民地経済と同じ方向を目指すことになります。雇用については植民地経済に準じた変更が行われます。すなわち、安く、流動的な雇用体制になり、賃金が安いために、主婦や外国人などあらゆる階層から労働者が募集されます。国民は食うや食わずの貧困のままです。

 これらのものが全て輸出の振興に伴う経済体制の変化の特徴です。これは現在でも変わりません。

 しかし、中国は大変賢明な国であり、あの手この手を使って外国の生産設備をわがものとし、自国民向けの家や自動車、インフラ、教育機関、病院などを作る設備に変えて行きました。 

 中国は貿易をきっかけに懸命に内需型経済に転換して行ったのです。

 そして、いまや、中国は国民の豊かさを追及する力を充分にたくわえ、アメリカ、イギリス、ドイツなどの先進国と肩を並べるほどになっています。

 日本は先進国であったはずですが、中国とは逆の方向を辿り、資本家が儲かり、国民は貧困化して行ったのです。

 日本と中国は、世界一の対外純資産を積み上げていて、今のところ、産業構造は輸出のために内需を犠牲にした似通ったものですが、ところが、中国の国民は豊かになりつつあり、日本の国民は貧困になりつつあります。今、ちょうど、この二つの巨大な対外純資産を持った国の国民は、逆方向にすれ違い、遠ざかっているところです。

 この違いは、それぞれの国が分岐点にあり、つまり、中国は、貿易をきっかけに生産設備を手に入れ、生産物を自国民に分配し、懸命に内需型経済に転換していこうと努力しているのに対し、日本は、輸出企業の利益のために国民を豊かにする体制を破壊し、賢明に国民を貧困化させているところにあります。

 日本とは逆に、アメリカとEUは世界一の対外純負債を積み上げていますが、国民は世界一豊かな生活をしています。

 それを見れば、国際競争力というものが、そして、対外純資産というものが、いかにくだらないものか分かるでしょう。

 輸出企業の優遇において、国内に生じる最も重要な弊害は自国民が必要としないものを創らされるということです。

 すなわち、自国民が必要とする産業部門(農業、日用品工業、道路、ダムなどの治水、水道などのインフラ)が削減され脆弱となる傾向になることです。

 輸入はと言えばこれはあまり気にする必要はありません。

 輸入が出来ているということは、自国通貨を信用してくれている国があるということだからです。

 輸入するときは、自分のお金を金融機関に持ち込んで外貨と交換してもらいますから、国内から円は減少し、物資が増え、デフレバイアスが生じます。

 政府はそのデフレバイアスを放置することなく、財政政策で内需拡大を行い、政府債務を拡大させ、インフレに誘導しなければなりません。

 政府の役割は、国内がデフレになりつつあるときはインフレに誘導し、インフレが加熱しているときはデフレに誘導しながら、賃金の上昇率が物価の上昇率に負けないという意味における適度なインフレ状態を維持することにあります。

 輸出の増大と内需の拡大はどちらも国内の貨幣量(マネーストック)が増大し、インフレバイアスという点で競合します。

 だから、輸出の増大と内需の拡大の両方を同時に行うことは出来ません。どちらかを抑制しつつ、どちらかを推進することになります。内需の拡大を輸出の増大に優先させる政策を保護貿易主義と言い、その方向性が国民を幸福にします。

 今、日本の景気が低迷し、国民が貧困化しているのは、政府が輸出(インバウンドまたはサービスの輸出を含む)を奨励し、政府の債務の拡大を防止するためと言って、内需を縮小させているからです。

 

 

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