日本の社会保険制度はいかにして国民を苦しめるようになったか

 

 かつて、世界各国が必ずしも民主主義国家または国民国家と呼べなかったとき、つまり、国家主権の保持者が人民ではなかったときは、市場の一人としての企業、労働者組合、村落、医師、宗教教団などが社会保障に似た弱者救済のための相互扶助活動を行い、その主体者となり、国家は主体者ではありませんでした。

 それは、まだ、君主制や貴族制が残り、完全な国民の国家ではなく、基本的人権は確立しておらず、社会保障に似た行為は散見されても、それは互助会的なものにすぎなかったからです。

 すなわち、国家は、王宮や別の階級の中に存在し、国家が税収によって社会保障を運営するような筋合いはありませんでした。それは、ひとえに国家主権が人民のものではなかったことを表しています。

 しかし、徐々に国家主権は人民に奪取され、人民は基本的人権を主張出来るほどに強くなりました。そして、全ての国家、特に先進国と呼ばれるグループは、完全な国民国家に生まれ変わろうとして行きました。

 しかし、その未成熟な隙を縫って、新興勢力として資本家が台頭し、資本家が経済界だけでなく、政治までも牛耳るようになると、国家主権は人民のものであると決着することもなく、現実において、政局は漫然と力関係のバランスを取ることに専念され、人民が主人であると言うテーマは徐々に捻じ曲げられ、国家は誰かのものでもある必要はないとプロパガンダするグローバリズムに誘導されて行ったのです。

 そして、国家主権が完全に人民のものとはなっていないことの証が現在の日本の社会保険制度の有様です。

 現在、なお、アングロサクソン諸国でも、古い階級制がまだ生きており、低所得層を救う役割を持つ公共部門は嫌悪され、福祉でさえも市場のプレイヤーの一員とみなされ、財源が寄付金で賄われ、ゆえに、寄付金は免税されることが当然であるという根拠となっています。

 アングロサクソンと哲学的に対立する、社会福祉先進国の北欧諸国では、福祉は政府の役割であるとする国民的合意が存在し、福祉の財源は政府一般税収となっています。

 日本は「民はお上のもの」という概念が現在に至るも尾を引いて、国民感情は低所得層を救う役割を持つ公共部門を嫌悪するアングロサクソン系の哲学と一致しています。

 今まさに、現在の日本の社会保険は、特に負担において、低所得者にも容赦なく課税される人頭税方式であり、国民の平等の理想は影も形も無くなっています。

 健康保険も年金保険もアメリカ型の民間保険会社の保険商品と変わらなくなっていて、すでに、黒字化されており、いつ民営化されても、つまり、いつ上場され、市場原理主義的な経済の中に参加して、優良な企業として株式を募集されても、おかしくないように変化しているのです。

 なぜなら、日本の国民が、社会保険と言う保険会社の良い契約者となり、過剰な社会保険料(所得の大体2割)を支払い、反面で医療費給付額が削られて、社会保険事業が黒字に転換されているにも関わらず、何一つ苦情を言わない最高の客になっているからです。

 日本国民は、社会保障とは健康保険や年金保険のことで、自分たちが骨身を削って支払ったものに釣り合う医療費や年金を受け取るものだと思い込んでいます。つまり、社会福祉というものがどんなものか良く理解できていないのです。

 しかし、社会保障と社会保険とは全く異なる概念であり、社会保障が国民を無償で救う理念であるのに対して、社会保険は保険業の商取引と言う機能にすぎないものであるということは念頭に置いていて欲しいと思います。

 日本国民は過剰な社会保険料の増額が繰り返されたために、健康保険事業や年金保険事業によって貧困化しています。

 こういうものが社会保障であるはずがありません。

 国民を幸福にする社会保障と言う目的が無くなり、社会保障の黒字化が重視されはじめたからには、いまや、税金と同様に、国民を苦しめるだけに過ぎないものになってしまいました。

 すなわち、社会保険料は社会保障のためではな、国民から貨幣を回収する目的として存在し、インフレ下においてはインフレを抑制するためであり、デフレ下においてはデフレを維持するためのものになっています

 デフレを維持する目的は、輸出における価格競争力を付けるためです。

 次章で詳しく述べますが、国際競争力強化とは輸出における価格競争力強化のことであり、国際競争力強化が小泉純一郎内閣以降声高に叫ばれている構造改革の目的です。

 これまでの、あらゆる構造改革は国際競争力強化のために行われました。

 それはデフレ政策ですが、デフレになれば、国内における生産は原価が減少し、輸出価格を下げ、売上を増やし、利益を上げることが出来ます。これが、国際競争力強化の意味です。

 これに対して、国内市場だけが頼りの中小企業は壊滅的な打撃を受けます。さらに、内需型の中小企業が潰れれば、輸出型の大企業が国内市場を独占することが出来るようになり、国内における競争でも勝つことが出来ます。

 デフレを維持するためには、低所得者や貧困層にお金を持たせないようにすることが最も効果的です。

 なぜなら、低所得者や貧困層は消費性向が高いので、彼らにお金を持たせるとすぐに使ってしまい、すぐにインフレになり、逆に、彼らにお金を持たせなければ、消費が減り、すぐにデフレになるからです。

 低所得者や貧困層にお金を持たせないようにする政策国民貧困化政策す。

 現在の自民党政府は、デフレを維持し、輸出型大企業すなわち経団連とその株主(国際投資家たち)の利益のために、主に、消費税、固定資産税などの応益税(赤字でもかかる税金)と、社会保険料によって、国民貧困化政策を実行しています。

 すなわち、社会保険料の重税化は低所得者や貧困層にお金を持たせないためのものです。

 日本国民から社会保障であるべき社会保険制度を奪ったのは、デフレを維持するためであり、その首謀者は、資本家であり、つまり国際投資家であり、日本においては経団連とその株主たちです。自民党は彼らの番頭にすぎないとも言えるし、それらの渦の中心であるともいえます。

 誰を倒せば、社会保険制度を、社会保障に取り戻すことが出来るかと言うと、資本家つまり国際投資家と自民党です。

 そんなことをすると、経済自体が潰れるのではないかという反論が出てくるのですが、そんなことはありません。

 今の経済においては、資本家つまり国際投資家が生産しているわけではなく、企業や労働者が生産しているのです。間接金融の元になる通貨は政府・日銀の統合政府によって供給され、間接金融による融資によって中小企業の資本が供給されます。

 だから、資本家つまり国際投資家の代わりはいくらでも出て来ます。

 来るべきデマンドサイド経済学はそうした新旧資本家の交代の結果、新しい企業や労働者が生産したものをどのように分配するかの理論にすぎません。

 そういうと、すぐに、共産主義でも良いのではないかという意見も出てくるのですが、共産主義は余りにも支配者の善意や能力を信じすぎていたので失敗しました。支配者の善意や能力を信じないという前提で組み立てられているのがケインズ主義デマンドサイド経済学理論です。

 これに対して、新自由主義は、逆に、余りにも政治家を信じていないので、政府の介入をも否定してしまいました。

 しかし、政府の介入を否定したのでは、人民の意志を反映することが出来なくなります。

 だから、ケインズ主義が誕生し、人民の意志を反映するチャンスとして、政治が資本主義下で強制力をもって生産物の所得再分配をすべきと唱えたのです。その所得再分配は、低所得者や貧困層にお金を持たせることを目的としています。

 ケインズは、低所得者や貧困層の持つお金を取引的動機による貨幣保有と呼び、これをM1とし、経済成長は「Y=M1×V」においてM1の増加で達成されるとしています。

 つまり、低所得者や貧困層の持つお金が経済を成長させるということです。

 低所得者や貧困層へにお金を持たせるための所得再分配が正義であると世論に認められれば、政治家は選挙に勝ちたいので、それに沿った政策を持つようになります。

 今、日本の政治家が低所得者や貧困層にお金を持たせることはバラマキであり、正しくないと考えているのは、全く同様に、国民が、低所得者や貧困層にお金を持たせることはバラマキであり、正しくないと思っているからです。

 国民が、自分たちこそ、お金を持つべきであり、そのために、消費税、固定資産税、社会保険料を廃止するか、減額すれば、そのときこそ、経済は成長するのだと気づけば、ケインズ革命は、庶民の、国民底辺の者たちの間で起こります。

 低所得者や貧困層にお金を持たせるためには、消費税、建物・機械類の固定資産税、社会保険料を廃止しなければなりません。

 ケインズは、消費が増えれば、資本の限界効率が上がり、投資が行われるようになり、インフレになると、ほとんど完全雇用が達成され、完全雇用においては、企業は労働者を雇うために賃金を上げなければならなくなると言っています。

 何年間かインフレや完全雇用状態が続くと、労働組合のベースアップ闘争などの活躍によって、企業は物価上昇率より高い率で賃金を上げて行くようになります。

 低所得者や貧困層が消費に使えるお金を持つことで起こるデマンドプルインフレ下の完全雇用状態でなければベースアップへの流れは起こりません。

 いくら、政治家が市場をデフレやスタグフレーションにしたままで、大企業に賃上げ要望の猿芝居をやろうとも、そんなことでは、決して賃金は上がりません。

 低所得者や貧困層が今よりましな金を持ち、少しは贅沢なものを買うようになって、はじめてデマンドプルインフレが起こり、人手不足が始まり、誰にも止められないほどの勢いで賃金が上がり始めると、本物の景気回復がやって来ます。

 そのとき、企業は苦しんで、始めてイノベーションに着手します。

 

 

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