⑤経済成長は雇用政策によってのみ可能となる

 

 ケインズは「雇用、金利、および貨幣の一般理論の第七章貯蓄、投資の意味をもっと考える」の中で、一般的に、消費と仕入の線引きは微妙なものであると言っています。

 このあいまいさによって、少なくともGDP統計における消費と仕入の比率の精密な分析は無意味になります。

 ケインズは、そこで、『ですから私は、有効需要の変化すべてを強調したいと思います。単に前期の売れ残り在庫増減に対応する部分だけを強調したいとは思いません。さらに固定資本の場合、未使用生産能力の増減は、生産の意志決定への影響においては、売れ残り在庫の増減に対応するものです。』(山形浩生氏訳)と言っています。(※在庫が減れば、次の投資の意欲が増す。)

 さらに、ケインズは『(個人が)消費しようという決断と(企業が)投資しようとする決断が共に所得を決定します。

 投資を増大しようという決定が有効になったら(※投資の増大は在庫の増大)、それは消費を抑えるか所得を拡大するかで実現されるしかありません(※投資とは貯蓄のことなので、消費を抑えることでも投資を増やすことは出来るが、所得を増やすことで投資を増やす方が、投資を増大するという決心に合うという意味。)

 ですから投資という活動自体が、ここで貯蓄と呼ぶ剰余または余白を同じだけ増やさざるを得ないのです。』(山形浩生氏訳)と言っています。※)はブログ主の補足。

 つまり、好景気のときに、企業が生産を増やそうとする努力は一時的に在庫を増やそうとする努力として表れます。

 あえて在庫を増やそうとするとき在庫の増加は、新規投資の増加において増加されす。新規投資の増加とは、仕入と雇用を増やして行われるのですから、すなわち、所得を拡大することによってもたらされるものです。

 しかし、また、その投資の増加は一時的に所得の増加または貯蓄増加という行為と一致し※投資そのものが雇用や賃金の増加を意味するので)、瞬間的な断面において数字だけ見ても、ポジティブな期待によるものか、ネガティブな気持ちによるものかの区別は分かりません。

 つまり、重要なのは静的な数字(統計的結果)ではなく、全体が向かう方向とか、勢いとかを論じなければならないということです。

 そして、ケインズは『消費するかしないかという決断は、まぎれもなく個人の力の範囲内にあります。投資するかしないかの決断も同じです。総所得の量と総貯蓄の量は、消費するかしないか、投資するかしないかという個人の自由な選択の結果なのです。』(山形浩生氏訳)と言っています。

 企業は消費の増え方を見ながら投資するのですから、結局は、個人の「消費を増やす」という決断を引き出さない限り、投資を増やし、所得を増やすことは出来ません。

 個人の「消費を増やす」という決断を引き出すという意味は、消費性向を上昇させるということです。

 これは、国民の消費性向を上昇させる方法は刹那的に政府支出を増やしてもダメで、国民が、政府が長期的に所得再分配政策を継続すると信用することが重要であり、そのためには制度的枠組みを変更し、いよいよ、国民が長期に渡って消費を増やしても大丈夫であると思えるようにするということです

 国民が長期に渡って消費を増やしても大丈夫であると思えるよう制度的枠組みの変更とは、まず第一に行うべきは、低所得者や貧困層の純所得を増やすような税制(消費税の全て、建物と機械にかかる固定資産税の廃止等)や社会保障制度(社会保険料の廃止等)を行うことです。

 技術革新は、商品の品質を改良するか、大量生産するかのサプライサイド政策ですが、それだけでは経済成長は出来ません。新製品の開発は消費するモノの配分を変えるだけであり大量生産は失業者を増やすからです。技術革新と共に経済成長しようとするならば、競争の敗者や失業者に所得再分配を行わなければなりません。

 競争の敗者や失業者に所得再分配するとは、つまりデマンドサイド政策です人類が技術革新と共に経済成長して来たのは、そのとき同時に行われたデマンドサイド政策がうまく行って来たからです。

 この第一の制度的枠組みの決定が終わってようやく、第二に、低所得者や貧困層の所得を増やすような雇用制度(完全雇用の達成等)や金融制度(間接金融の復活等)の変更によって内需型の中小企業が投資できるよう環境改善行います

 目の前の第一の必須事項が出来ないのに、第二に取り掛かるのでは、砂上の楼閣を築くだけで何にもなりません。いくら良い条件で雇われて名目賃金が増えても、税金や社会保険料で分捕られれば同じ事だからです。

 そして、また、税制や社会保険料などの永久的な制度を低所得者や貧困層のためのものに変化させることが出来なければ、景気が悪くなったときに、政治家は間違った判断をして、短期的な財政政策や金融政策で失政をやるかも判らず、そうなれば、すでにその段階で元の木阿弥になってしまうからです。

 

 

発信力強化の為、↓クリックお願い致します!

人気ブログランキング