建物と機械にかかる固定資産税を廃止せよ

 

 もし、当局が、土地固定資産税を土地の行政サービスによる地価の値上がり、つまりキャピタルゲインの存在を根拠として課税すると言ったとしても、建物、機械、その他の工作物などの償却資産のキャピタルゲインは原理としてあり得ないのですから、建物、機械、その他の人間の創り出した工作物の固定資産税については、キャピタルゲインを理由にすることは出来ません。

 また、固定資産税の課税標準は価格という外形であり、裏に債務を抱えているかどうかは無視されますから、富裕税(純資産税)でもありません。また、富裕税であれば、持ち株や銀行預金に課税せず、不動産だけに課税することに正当性はなくなります。

 いよいよ説明出来なくなった政治家や経済学者は何を言っているかというと、「建物にも、何らかの行政サービスの受益が存在するはずだ」などと漠然とした言い方で言葉を濁しているという有様です。

 ところが、驚くべきことに、どんな経済学者も、その建物に関わる「何らかの行政サービスの受益」とは何かを説明出来ないのです。

 土地には確かに「何らかの行政サービスの受益」が存在します。道路建設という行政サービスが行われた場合、その土地に接面する土地の価格が上昇し、土地の所有者は何の努力もせずに莫大な利益を手に入れます。

 これは、道路建設の本来の目的である通行の便の向上という普遍的な行政サービスの受益を超えるものであり、「何らかの行政サービスの受益」などと説明をするまでもなく、明確に「特定の者だけにもたらされる格別な行政サービスの受益」と説明出来るものです。

 そして、なお、あらゆる土地の地価はすべて道路建設によって生まれ、道路の通っていない山林などには価格が付かないということもありますから、地価はすべて「格別な行政サービスの受益」によって形成されていると言えるので、土地に対する何らかの応益税の課税は妥当なものと思われます。

 しかし、土地の価値が道路建設と言う公共投資によって創られることとは異なり、建物の価格は、企業や個人の他のあらゆる投資と同じように、その全てが所有者の負担によって創られます。

 そして、それに関わるインフラや国民全体からもたらされる行政サービスは、建物や機械だけに発生する特別なものではなく、他の設備投資に関するものと同じく普遍的なものです。

 その設備投資により収益をあげた場合には、法人税や所得税が課税されます。

 なぜ、法人税や所得税だけではいけないのか、なぜ、法人税や所得税の外に、設備の保有、あるいは、建物の保有そのものを懲罰なければならないのか説明出来ないのです

 税金には懲罰効果というものがあります。

 法人税は賃金を支払った残余である企業利益を懲罰し、所得累進課税は他人より多すぎる所得を懲罰し、酒税や煙草税は社会的に好ましくない嗜好を懲罰します。そして、土地固定資産税は、道路建設という行政サービスから得られる地価の上昇という格別な受益を懲罰します。

 懲罰と言っても禁止するのではなく、抑制するという意味のものです。禁止が妥当ならば法律で禁止します。

 しかし、建物や機械の保有については、いかなる理由によって社会的に懲罰されなければならないのでしょうか。建物や機械の保有は奨励され、ただの少しも、懲罰されるべきものがあるとは思われません。

 それは、自動車税と軽自動車税にも言えます。自動車が道路を走ることで好ましくない影響が生まれているというのなら、それらはガソリン税で解決しているはずです。

 自動車を自分の車庫に置いておくだけで、誰かに迷惑がかかっているということはなく、自動車税と軽自動車税もまた、土地固定資産税を除く他の固定資産税と同様に言いがかりで課税されているのです。

 建物に「格別な行政サービスの受益」が存在すると言うのなら、土地の上に建物が建築された場合、土地固定資産税とは別に建物固定資産税がかかるのですから、土地とは別のものとして、建物に対する新たな行政サービスが発生していなければならないはずです。

 土地とは別の、建物に対して新たに発生する行政サービスとして、国防や消防行為がよく挙げられます。国防や消防行為で建物を守ってやっているというわけです。

 しかし、国防・消防が与えている保護は、建物だけでなく国民生活そのものであり、災害の種類も地震、水害、山火事、それらの予防等広範囲に及びます。

 また、国防・消防の本来の目的は人命にあり、建物の保護活動に矮小化されるものではなく、また、政府が建物の再取得に便宜を図ることもないので、建物所有者にその負担を押し付けるのは不当です

 さらに、国防に関しては、戦争の原因は外交の決裂か、国土防衛に関する国の決断によるものであり、消防に関しては、失火の原因はほとんど占有者側であることも勘案する必要があります。

 これらの戦争や消防活動の費用を、建物の所有者という、むしろ被害を受ける予定者に負担させるのはお門違いと言うものでしょう。

 消防に関しては、消防活動費の額では、とうてい建物固定資産税額の大きさを説明できません。消防で問題とすべきは消防活動費の額であって、建物の再建築費ではありません。なぜなら、どんな災害や戦争でも、建物の再建築は各々の国民が自助努力で行い、国が補償することはないからです。

 建物の火災の消防活動費の適正負担額について考察すると、消防活動費に充てる為に消防保険というものを作ったとして、その年間の保険料相当額が受益者負担的金額と言えるでしょう。おそらく、火災保険料よりはるかに安くなるはずです。これが消防活動費の税負担での適正額というものです。

 そして、これは出火責任者又は占有者が負担すべきものですから、これらの災害防御関連の税としては、建物所有者ではなく、全ての住民に課税する住民税が正当でしょう。

 また、上下水道・電気等のインフラ整備費についても良く取り上げられますが、これらは地価に反映され、建物価格には反映されないので、地価および土地固定資産税に、織り込み済みと考えるのが正しいものと思われます。

 なぜなら、土地の前面道路に上下水道が敷設された場合は、空地のままだと何ら上下水道使用料は入って来ませんが、建物が建つと上下水道使用料の売上に繋がり、建物が建ったほうが公費の負担は減るからです。

 現に、公共下水道の受益者負担金は土地所有者に対して発生し、建物所有者に負担金は発生しません。固定資産税が受益者負担金的な課税であると言っているからには、建物ではなく、土地に課税する公共下水道の受益者負担金の考え方に準ずるべきものと思われます。

 道路建設・整備という行政サービスは、土地だけでなく建物にも及んでいると言う者がいたとしても、なお、土地固定資産税を課税した上に建物固定資産税を課税することには、二重課税の疑惑が残ります。

 重要な視点は、土地には行政サービスによって生み出される価値(キャピタルゲイン)があり、建物には行政サービスによって生み出される価値(キャピタルゲイン)が存在しないことにあります。

 地価は土地の収益力の期待値です。道路建設・整備という行政サービスにより地価上昇が起こることは、土地の収益力上昇が期待されたということに外ならないからです。

 土地の収益は主として建物建設によって実現します。したがって、地価という収益力に対する期待値には建物建設による収益の期待値も織り込まれていると考えるべきです

 地価に建物建設による収益の期待値が織り込まれているのであれば、道路建設・整備という行政サービスに対応する応益税は土地固定資産税で完結するはずです。また、完結していなければおかしいのです。

 土地固定資産税が地価という土地の収益力の期待値に対する応益税ならば、その期待の実現としての建物の建築において新たに固定資産税を課税するのは、課税理由が重複しており二重課税となります。

 以上の通り、道路建設や都市計画と言う「行政サービスの格別な受益」を調整する手段としての税負担は全て土地で清算しておくことが理論的に正しいのです。

 道路建設や都市計画といった行政サービスの対価の負担配分を考えると、大都会と田舎町では当然ながら行政サービスの量に格差がつきますが、これは土地の収益力と正の相関関係があり、収益力の期待値たる地価と連動するため、全ての固定資産税を総合して地価を課税標準とする土地固定資産税だけで課税しても何ら矛盾しません。

 よって、建物と機械にかかる固定資産税および自動車税と軽自動車税は完全に廃止し、そのかわり、道路建設による地価の上昇という格別な受益について、土地固定資産税をしっかり課税することが正しいものと思われます。

 

 

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