食後に眠気を感じたり、集中力の低下やイライラに悩まされていたり、食事をしたばかりなのにお腹が空いたり……。こうした自覚症状があるなら、危険な血糖値スパイクが起きている恐れがあります。
血糖値スパイクとは、食後に血糖値が高くなりすぎる食後高血糖と、その後に血糖値が下がりすぎる低血糖を繰り返すもの。ジェットコースターのように血糖値が乱高下をすると、血管にダメージが及んでしまいます。このダメージを「糖化」と呼びます。
「人は血管とともに老いる」という有名な言葉があります。血管は全身の細胞に血液と栄養素を届けている大事なインフラです。地震や水害で電気、ガス、水道といったインフラがダメになると、暮らしが成り立たなくなるように、血管がダメージを受けると全身に悪影響が及び、老化が進んでしまいます。しかも傷んだ血管は、ガス管や水道管のように取り替えるわけにはいかないのです。
血糖値スパイクを起こす要因はただ一つ。糖質の摂りすぎ、糖質過多です。
日本人は1日に摂っているカロリーの半分を糖質から摂っています。糖質は、ご飯、パン、麺類といった主食、イモ類、果物、お菓子、砂糖のような甘味料などに含まれます。平均的な日本人は1食で80g以上、1日240g以上の糖質を摂っているのです。
摂った糖質は小腸で速やかに吸収されます。糖質は体内では基本的にブドウ糖(グルコース)としてやり取りされており、血中にブドウ糖が増えてきます。血中のブドウ糖を血糖、100ml当たりの血糖を血糖値といいます。
糖質を摂ると血糖値は速やかに上がります。血糖は細胞の基本的なエネルギー。血糖値が上がると、すい臓からインスリンというホルモンが分泌されます。インスリンは細胞に血糖を取り込ませて血糖値を下げる働きがあります。これは正常な働きですが、糖質を一度にたくさん摂りすぎると、食後一時的に血糖値が高くなりすぎる食後高血糖が起こります。
食後高血糖が生じると、インスリンが出すぎてしまいます。その結果、血糖値が下がりすぎる低血糖が起こります。食後に眠気が出たり、イライラしたり、お腹が空いたりするのは、食後高血糖のあとに低血糖が起こっているサインです。
こうして1日3食のたびに、食後高血糖と低血糖を繰り返すのが、血糖値スパイク。血糖値の変化をグラフにすると、トゲ(スパイク)のように鋭い形を描くことから、血糖値スパイクと呼ばれています。
糖質をセーブして血糖値スパイクを抑えるだけでも、体調は良くなりますし、死を招く怖い病気のリスクは大幅に減らせます。そのために必要なのが、糖質制限(糖質オフ)です。
■糖質制限は19世紀のイギリスで生まれた
糖質制限と聞くと、最近ブームになったぽっと出の怪し気な食事法だと信じている方が少なくありません。しかし欧米諸国では、19世紀にはすでに効果的なダイエット法として人気を集めていたという経緯があります。歴史は案外長いのです。
糖質制限が生まれたのはイギリス。イギリスは世界でもっとも早く近代化が進んだ豊かな国であり、豊かさの半面、肥満に悩む人が大勢いました。その一人が、イギリスの首都ロンドンで葬儀屋を営んでいたウィリアム・バンティングさん(1796~1878年)という紳士です。
長年肥満に悩まされてきたバンティングさんは、方々の専門家に助言を求めました。悩んでいたバンティングさんに救いの手を差し伸べたのは、ウィリアム・ハーベイという耳鼻科医。彼は隣国フランスの著名な生理学者の講演を聴いたことがきっかけとなり、独自に糖質制限を考案していたのです。
初めハーベイ医師に「運動しなさい」とアドバイスされた彼は、ロンドン市内を流れるテムズ川で毎朝2時間ボートを漕ぐ運動を始めます。きっと真面目な性格だったのでしょう。しかし、ボートを2時間も漕ぐとお腹がペコペコになり、食欲が湧いて食べすぎてしまい、逆に体重が増えてしまいました。
そこでハーベイ医師は「砂糖、パン、牛乳、ジャガイモ、ビールなどの糖質を抜きなさい」と改めて提案。まさに糖質制限です。真面目なバンティングさんはハーベイ医師のアドバイスを実践した結果、1年間で20kgもの減量に成功しました。
こんな効果的な方法を自分だけが独占するのは良くない。世間に広げよう。そう考えたバンティングさん(ホントに真面目だったんですね)は、『市民に宛てた、肥満についての書簡(Letter on Corpulence, Addressed to the Public)』という冊子を自費出版します。1863年のことです。1863年というと日本は江戸時代、アメリカは南北戦争の最中でした。
この本は肥満に悩む人たちの間で必読書となり、英語からドイツ語やフランス語に翻訳されて欧米諸国に広がりました。いまでも英語で「ダイエットする」ことを「バンティング」ともいいます。これはバンティングさんにちなんでいるのです。
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