咀嚼(よく噛むこと)の大切さが注目されている。
咀嚼には、「満腹中枢」を刺激し、食欲を抑える効果もあり、
糖尿病の食事療法や肥満対策に役立つことが最近の研究で分かってきた。
よく噛んで食べることが、2型糖尿病の発症リスクと関連があることが、
約6,800人を対象としたコホート研究で明らかになった。
京都大学の研究チームが、滋賀県長浜市の住民を対象に行われ
ている「ながはま0次予防コホート事業」のデータを解析。
噛む能力がもっとも高いグループでは、もっとも低いグループに
比べて、2型糖尿病リスクがほぼ半減することが分かった。
解析した結果、男性では噛む力が強いほど2型糖尿病になる
リスクが低下し、咀嚼力によって4グループに分けたうちの
もっとも少ないグループに比べ、もっとも多いグループでは
糖尿病リスクが47%低下していた。
女性でももっとも多いグループでも糖尿病リスクが44%低下していた。
国立循環器病研究センターは、咀嚼力を示す「咀嚼能率」が
低下すると、メタボリックシンドロームを発症しやすくなることを
世界ではじめて明らかにした。
この研究は、新潟大学、大阪大学との共同研究「吹田研究」の
一環として行われたもの。
1989年に開始された「吹田研究」では、都市部の住民を対象に
心筋梗塞などの冠動脈疾患の危険度などを調査している。
2014年には、10年間の冠動脈疾患を発症する確率を予測する
「吹田スコア」が開発された。
研究チームは、住民台帳から無作為に抽出した50?70歳代の
住民1,780名を対象に基本健診と歯科検診を実施。
噛む力を示す咀嚼能率によって対象者を4群に分けて
比較したところ、もっとも咀嚼能率の高い群と比較して下から
2番目の群では、メタボリックシンドロームの有病率が46%高かった。
さらに70歳代の対象者に限ると、咀嚼能率が低下したすべての群で
67?90%有病率が高かった。
肥満を予防・治療するために、まず空腹や満腹という感覚に
敏感になることが大切だ。そのために、食事でよく噛むことが必要となる。
噛む力が衰え、空腹感や満腹感が分からなくなると、
肥満になりやすい。お腹がいっぱいという感覚を感じにくくなり、
食べ始めるととまらなくなる。
日本肥満学会の「肥満症治療ガイドライン」では、「咀嚼法」が
肥満治療における行動療法のひとつとして挙げられており、
1回30回噛むことが推奨されている。
「ゆっくりと食べることで、食品の味や香りを楽しめ、
食欲をうまくコントロールできるようになります。
2型糖尿病や肥満リスクの低下につながります。
よく噛んで食べることは、ゆっくり食べるための効果的な戦略となります」と、
研究者は言う。
噛む回数を増やすための7つの対策
ひと口食べるごとに30回噛むのが目標だが、噛む回数を数えるのは大変だ。
下記の工夫をすると、自然に噛む回数を増やすことができる。
噛む回数を増やすと、満腹感を得やすくなり、食欲を抑えられるのは、「レプチン」「ヒスタミン」「GLP-1」などのホルモンや化合物が影響しているからだ。
「レプチン」は脂肪細胞が分泌するホルモンで、脳の視床下部に作用して「もう十分食べた」という満腹感を引き出し、食欲を抑える作用がある。
レプチンは脂肪組織にも働きかけて、エネルギー代謝の増加、つまり「カロリーを燃焼しよう」という信号も伝達している。レプチンは食事を始めてから20~30分後に分泌され始めるので、食事に時間をかけるとレプチンの作用を引き出しやすい。
食欲の抑制にはレプチンだけではなく、脳内に分泌される「ヒスタミン」も関わっている。時間をかけてよく噛むと、ヒスタミンの量が増え、満腹中枢や交感神経が刺激される。そうすると食欲が抑えられ、満足感も得やすくなる。
また、よく噛むと、食欲を抑制する「GLP-1」などの消化管ホルモンの分泌も促される。
「日本人では年齢が上がるとともに肥満が増える傾向があります。若いうちから、咀嚼の回数を増やす習慣を身に付けることが、将来の生活習慣病を予防するうえで重要です」と研究者は述べている。
Mastication and Risk for Diabetes in a Japanese Population: A Cross-Sectional Study
Relationship between metabolic syndrome and objective masticatory performance in a Japanese general population: The Suita study
http://tokuteikenshin-hokensidou.jp/news/2016/005703.php?hm=161124」