やはり個別化ケアが大切になってきているようよ
「米国糖尿病学会(ADA)は12月22日,
糖尿病ガイドライン2016年度版
"Standards of Medical Care in Diabetes-2016"で公表した。
最大の改訂ポイントは,
糖尿病患者の肥満の管理に関する独立した章が新たに設けられた点。
生活習慣への介入,薬物療法,肥満手術を含む
段階的アプローチに基づいた管理戦略が示された。
また,GL全体を通じて「個別化ケア」の重要性がより強く打ち出された。
脆弱な立場にある集団(vulnerable populations;
社会経済的地位の低い集団や特定の人種,
認知機能障害や精神疾患の患者,
HIV感染者など)に対する糖尿病ケアに関する推奨が
新たに示される一方,高齢患者の管理に関する章には
介護施設の入居者や終末期ケアを受ける患者に対する
糖尿病治療で参照すべき事項が追加されるなど,
個々の患者が置かれた背景を考慮した細やかな推奨が示された。
肥満管理ではBMIに応じた段階的な
治療アプローチを推奨
同GLは,ADAが毎年最新のエビデンスに基づき改訂する
1型および2型糖尿病や妊娠糖尿病の予防および診断,
治療を網羅した糖尿病の包括的GL。
2015年版から大きく変わったのは,
糖尿病患者の肥満管理に関する独立した章が
新たに設けられた点だ。
この章では,Look AHEAD試験で生活習慣への介入によって
過体重/肥満の2型糖尿病患者の長期的な減量効果が示された
として,「5%の減量を目標とした食事や身体活動,
生活習慣の是正を行うべき(グレードA)」ことなどを推奨。
また,「慎重に選択した一部の患者に対しては,
生活習慣への介入に加え薬物療法や肥満手術を行ってもよい」とされ,
BMIに応じた①食事や身体活動,生活習慣への介入
②薬物療法③肥満手術-の段階的アプローチに基づく
減量戦略が示された(表)。
この他,現時点でFDAに承認されている肥満症治療薬が
一覧表にまとめられた。
表.過体重/肥満の2型糖尿病患者に対する治療
(Diabetes Care 2016;39 Suppl. 1)
米国民の14%を占める栄養不良群など
「脆弱な立場にある」層への配慮を求める
また,2016年版GLでは全体を通じて個別化ケアの重要性を強調。
米国民の14%を占めるという社会経済的地位の低さなどを背景とした
栄養不良(food insecurity)群や糖尿病リスクの高い特定の
人種・文化的要因を有する群,性差などを考慮した糖尿病ケアについて新たに記載。
また,認知機能障害や精神疾患の患者,HIV感染者における糖尿病の
スクリーニングや治療に関しても具体的な推奨項目が示されるなど,
脆弱な立場にある集団に対し,きめ細やかな対応を求めている。
なお近年,スタチンによる認知機能の低下を示唆する報告が
複数あるが,ここでは「心血管リスクの高い糖尿病患者において,
スタチン療法によるベネフィットは認知機能障害リスクを上回る
(グレードA)」と記されている。
この他,高齢患者の管理に関する章では,従来通り認知機能や
併存疾患,ADLに応じた血糖,血圧,脂質の目標値を提示。
さらに,今回新たに介護施設の入居者や終末期ケアを受ける患者の
糖尿病ケアで留意すべき点がまとめられ,ここでも個々の患者の
背景を勘案した詳細な推奨が示されている。
危険因子を1つ以上有する50歳以上の
男女にアスピリンを推奨
一方,血糖目標値やそれを達成するための薬物療法の
戦略などに関しては大幅な変更はない。
この数年来,緩和する傾向にあった糖尿病患者の
降圧目標値についても,2015年版と同じ収縮期血圧
140mmHg/拡張期血圧90mmHgに据え置かれた。
より厳格な降圧による予後改善が示され注目された
SPRINT試験に関しては結果概要を紹介。
ただし同試験には糖尿病患者が含まれなかったとして
「糖尿病患者の血圧管理に直接関係する試験ではない」と記されている。
糖尿病患者の心血管疾患(CVD)予防に関する章では,
家族歴や高血圧,喫煙,脂質異常症,アルブミン尿などの
危険因子を1つ以上有し,出血リスクの上昇は見られない
50歳以上の男女に対し,動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の
初発予防を目的としたアスピリンの使用を考慮すべきとの推奨が示された(グレードC)。
2015年度版ではアスピリンの使用は女性の場合,
60歳以上で考慮することが推奨されていたが,
最近報告された臨床試験やメタ解析では心疾患や脳卒中のリスクは
男性よりも女性の方が低いわけではないことが示されており,
これらの知見を踏まえて改訂された。
一部の患者に中強度の
スタチン+エゼチミブを推奨
脂質管理については,IMPROVE-IT試験の成績に基づき
「中強度のスタチンにエゼチミブを上乗せすることで,
CVD予防で追加のベネフィットが得られる可能性があり,
急性冠症候群の既往があるLDL-C 50mg/dL以上の患者あるいは
高強度のスタチンを使用できない患者に対して考慮してもよい
(グレードA)」との推奨項目が追加された。
また,この章の末尾にはSGLT2阻害薬エンパグリフロジンによる
心血管イベントや全死亡のリスク抑制を示し,大きな話題を呼んだ
EMPA-REG OUTCOME試験の概要についても記載。
「最近承認された糖尿病治療薬の中で初めてCVDリスクを
低下させた初の薬剤」とした上で,「(同試験の対象者よりも)
CVDリスクが低い糖尿病患者でも同様の効果が得られるか否かは不明」と記されている。
BMIに関係なく45歳以上の全ての成人に
糖尿病スクリーニングを推奨
この他の改訂ポイントは以下の通り。
■糖尿病スクリーニング
・BMIに関係なく45歳以上の全ての成人にスクリーニングを推奨
〔2015年版ではBMI 25以上(アジア系は23以上)としていた〕。
また,年齢を問わず肥満あるいは過体重でその他にも1つ以上の
危険因子を有する成人に対し,検査が推奨されている
■2型糖尿病の予防
・2型糖尿病の高リスク群に対し,糖尿病予防のための行動変容に効果があるソーシャルネットワークや遠隔教育,携帯端末アプリなどを使用することを考慮すべきとの推奨を追加
■細小血管障害およびフットケア
・糖尿病腎症に関し,腎代替療法を検討すべきタイミングや専門医に紹介すべきタイミングに関する推奨を新たに追加
・糖尿病網膜症に関しては,中心部を含む黄斑浮腫に対し抗VEGF抗体による有効性が高いことを新たに記載
■小児/若年の2型糖尿病
・自己管理の教育およびそのサポート,心理社会的問題などを網羅したより包括的な推奨項目が示された
■妊娠中の糖尿病管理
・糖尿病を有する女性に対し,家族計画や避妊法について話し合うことの重要性を強調する推奨項目を追加
・糖尿病を有する妊婦における目標血糖値を,「6%未満」から「6~6.5%」に変更。ただし,低血糖リスクに応じて目標値をより厳格化あるいは緩和することも可能とした」
https://medical-tribune.co.jp/news/2016/0105038154/?mi=00128000005wT1xAAE&fl=1