黒い法衣を着た裁判長は中年女性。

『席についてください』

とコートオフィサーの朗々たる声で、全員一斉に座りました。

裁判長がなんやかんやああだこうだとあれこれ説明をしはじめましたが、法律・裁判の専門用語だらけで何がなんだかさっぱりわかりません。

 

「これからケース番号を読み上げます」

 

長々と説明があった後、裁判長が「○○対○○ケース2」と読み上げ始めました。

すると、そのケース担当の弁護士たちが立ち上がり

「出席しています」

と返事をします。

時々、原告も被告も出廷しておらず、訴えが自動的に取り下げられるケースもありました。

 

本当にどれだけのケースがあるんだろう?と気が遠くなりはじめたころ、裁判長が

「では今からインクエストのケース番号を読み上げます」

と言いました。

 

えっ。

今からなんですか?

もうすでに20人ぐらい弁護士が立ったり座ったりしたような気がするんですけど、今からインクエストの呼び出し?

 

呆気に取られていると、また次々とケース番号と名前が読み上げられ、弁護士たちが立ったり座ったり。

ドキドキしていると、ついに私の名前と相手方の名前、そしてケース番号が読み上げられました。

部屋の反対側のベンチ、前方に座っていたツイードのスーツを来た女性がガタンと立ち上がり、ペラペラペーラペラと早口で何かを言った後、着席。

おおあの人が私の弁護士か。

やっと自分の弁護士の目星がついて一安心です。

しかし、重大事件の裁判でもないし、そもそも判決はくだっていてあとは金額を決めるだけとはいえ、こんなに何の準備もしなくてよかったのかしら。私、手ぶらなんですけど。

 

ほどなくケース番号が全て読み上げられ、バラバラと半数ぐらいの人が立ち上がり部屋を出て行き、私の弁護士も立ち上がりました。

ちなみにこの部屋の中でアジア人は私ともう一人コリアンらしき年配の女性だけだったので、私の弁護士はすぐに私を見つけてクイクイと手招きしました。

 

廊下に出ると初めましての挨拶もそこそこに、素早い打ち合わせが始まりました。

 

「私が言ってることは理解できますか?日本語の通訳をリクエストしたけれど、この打ち合わせはちゃんと理解できる?」

と聞かれてゲッとびっくり仰天しました。

英語、理解できます。

できないとちょっと日常生活困る。アメリカ人の旦那だし。

と思いつつ

「大丈夫」

と答えましたが、そう、彼女ヘザーっていう名前なんですけど、ものすごい早口なんです。あり得ないぐらいの早口で、ピザ雄も一度電話で彼女と話をしたことがあるんですが、

「めっちゃ早口で何を言ってるか半分ぐらいしかわからない」

とまで言っていたほど。

アカンやん!

と思いましたけど、その素晴らしい早口の上に難しい法律用語を使いまくって全然説明をしてくれないんです。

だから、例えば彼女が私のお友達で、二人でディナーやらお茶やらショッピングに行ったとしたら、会話には何ら支障はないんですが、裁判で質問をされるときにあの早口と法律専門用語をビシバシ出しまくられたらちょっとお手上げです。

 

「法廷で法律用語がバンバン使われたらちょっとわからないかも・・・」

と前に言ったことがあったので、念のために日本語の通訳を用意してくれたみたいです。

 

あーそうか。

大丈夫かなあ。

通訳が私より英語ができない人だったらどうしよう。

とちょっと不安にもなりましたが、ここまできたらもう開き直るしかありません。

 

事前の打ち合わせで、契約の開始日時や終了日時、被告がアパートをどんな状態にして逃げ出したか、何ヶ月家賃を踏み倒したか、等々を再確認し

「こういうことを私が質問するので、あなたは正しい答えを述べてください」

と言われました。

あー。なんか緊張する。受験前の気分。

 

「もうすぐに呼ばれると思うから、中に入りましょう」

と言われ、部屋に戻って並んでベンチに腰掛けました。

 

待つこと15分ほど。

 

『ケース番号13番』

と呼ばれ、私は裁判長の隣にある証言台へ。

ヘザーちゃんは弁護士の席に。

うわー。うわー。

なんか。なんか。

テレビみたい。

 

 

↑大体こんな感じ。この写真では証言台には書記が座ってるみたいだけど、位置関係はココでした。

 

 

 

ドキドキしながら小さなマイクロフォンがセットされた茶色いデスクの証言台に立つと、アメリカ人の女性通訳が入廷してきました。

ひぇー。アメリカ人なんだ!てっきり日本人の通訳さんかと思ってたけど、アメリカ人。しかもなんかああた。ピンクと黄色と緑と青のシマシマセーターにジーンズですよ。

あれだけ「裁判所をリスペクトしろ」とピザ雄に散々言われて、必死のパッチで裁判用のお洋服と靴まで買ったのに、え?そんな服装でいいんですか?

いいんですね?

そんなで良いんだったら、私も普通にパジャマっぽい服装で来ればよかった…。

 

まずは通訳さんから宣誓。

続いて私の番がやってくると、「右手を上げてください」と係官に言うのと同時に通訳さんが「右手を上げてください」と日本語で同時通訳。

ヒー。これはまずい。

英語が完璧に理解できるのに、耳元で日本語で通訳をされるとめちゃ気が散る!

日本語字幕つきの映画を見ているときよりもっと気が散る!

マジでまずい!!

宣誓しながら思わず裁判長をチラ見すると・・・

 

<また長くなりすぎたので、続く>←無駄にひっぱるな!