出先のカフェでの出来事です。
久しぶりの一人お出かけお茶だったので、美味しそうなイチゴショートケーキとお紅茶のセットを張り切って注文したんです。
すると
「申し訳ございません。こちらのケーキは完売でして・・・」
あっじゃあこっちのモンブランで。
「もうーーしわけございませんーー!そちらのケーキも完売でして」
えっ。ということは他のケーキも?
「はい・・・ケーキは全て完売で・・・」
ええええええええ〜〜パフェは大きすぎるし、ソフトクリームはなんかイマイチだし、じゃあこの和スイーツセットで!
「そちらも完売で」
いやじゃあ、逆にどのスイーツならあるんでしょうか・・・
「今ご提供できるお食事は、ピザとサンドイッチだけでございます」
スイーツじゃないですよねそれ!
ということで、仕方なくロイヤルミルクティーでお茶を濁しました。
お茶が出て来るのを待っていると、隣の4人掛けテーブルに若いカップルが通されてきました。
最初、全然気にしていなかったんですけど、ふと男性の方の声が耳に入ってきたんです。
「なんか変な汗かいちゃってますね」
変な汗?
ちらりと横目で見ると、額の汗を手で拭っているメガネ男子。
彼らが席に着いた時、仕事帰りの同僚かな?
となんとなく思っていたんですが、どうも様子が違うみたい。だって二人とも敬語で話をしているし、どうもお互いのことをよく知らない様子。
あ。
これはもしかして、デートアプリからの初対面デート?
この瞬間耳がダンボになりました。
「大阪ってよく来るんですか?」
気持ちはわかるよメガネくん。わかるけど『大阪って』って言うな。
そこは
『大阪にはよく来るんですか?』
だよキミ。
なんか社長さんみたいになってきたよ私も。
「あ。大阪に住んでるんで・・・」
蚊の鳴き声のような小声の女子。
メガネくんよ、準備が足りなさすぎないか?
プロフィールをちゃんと読んでから会う約束をしなさい。
「あっあっ。そうでしたね。あははは」
あー大変そう。
「初対面って緊張しますね!」
なんか笑ってるような声で言うけどメガネくんよ。
そのセリフを意味不明な勢いをつけるのはちょっとやめておいた方が良かったのでは。
その後1分ぐらいの沈黙が続く。
うっわー・・・辛い!これは辛い!
チラ見すると男子は腕時計をグルグル回し、女子の方はテーブルをじーっと見ている。
「休みの日って何してたんですか、コロナ前は」
コロナ前!
苦し紛れのトンマな質問に、女子が目が点になってる雰囲気が隣の私にまでジリジリ伝わって来る。
「えと・・・買い物とか・・・」
「あー買い物!洋服とか買うんですか!」
辛いよな、男子!初対面だもんな!女の子、全然自分から話さないもんな!
それにしても、あー辛い。辛すぎる。
しかし最近の若い人ってこんな感じなんですかね?
めちゃ大人しくないですか?
私だったらこの時点で、過去15年ぐらい遡ったマイヒストリーを語っちゃってますよ。
こういうおとなしい人たちがデートアプリを使うっていうのが、もう隔世の感ですよ、おばさんにとって。
その後、私のお茶が運ばれて来るまで、勝手に拷問タイムを過ごさせていただきました。
メガネ男子の職業はなんかよくわからないけど時々建設中のビルの上に上がらなくちゃいけない仕事で、一週間前に濡れた屋根の上で足を滑らせそうになって危なかったとか、一番上のお姉ちゃんは一人暮らしだとか、女の子の方は家族が仲良しで弟が一人いるとか、今はアカペラのクラブに所属しているとか、大阪に住む時は親にめちゃくちゃ心配されたとか、赤の他人の個人情報にめちゃ詳しくなり、挙げ句の果てに
「へーアカペラ。アカペラ、好きなんですか?」
という男子のマヌケな質問に、出てきたロイヤルミルクティーを吹きそうになり、さらに
「いや別に好きじゃないんです」
という女子の返事に、お茶を口からダバダバ出しそうになり、もっとさらに
「えっ好きじゃないんですかははははは」
という男子の虚しい笑い声に涙が出そうなぐらい気の毒になり、さらにさらに
「中高はブラスバンド部でした」
という女子の言葉に
「あっ楽器とかやってたんですか?」
という、だからそのブラスバンド部でバック転とか卓球やるわけねえだろう!と死ぬほどツッコミたくなるメガネくんの言葉に倒れそうになり、さらにさらにさらに
「チューバやってました」
という女子の返事に、えっそんな小柄で大人しそうな色白ちゃんがチューバ!とびっくりして思わず横目で見ると、メガネボケが
「チューバ!!すっごいですね!ていうか、チューバってどんな楽器ですか!」
ときたよほんともう誰かなんとかして!
まさしく地獄の責め苦の連発。
「チューバは・・・・低い音の・・・・」
ちょっと女子!
あんたも大概な説明だな!
「あー!低い音!そうなんだ!!」
なんかわかったんかいその説明でおい!
「重たい楽器で・・・・」
重たいよね重たい!たしかにチューバは重たい!
「あーあー!すごい重たいんだ!わーすごいですね!」
もうすごいしか言えないんだなお前は。
と、ほんともう誰かなんとかして。ていうか、いっそ私が割り込んで楽しい会話を提供してやろうか!という衝動に100万回ぐらい襲われ、私のティータイムは無茶苦茶なことになってしまいました。
しかも、私がお茶をがぶ飲みしてグワターンと立ち上がると、二人の会話がピタリと止まるし。
すみませんすみません本当にすみません、盗み聞きして、挙げ句の果てにこんなところで人目に晒してごめんごめんごめんなさい万が一にも彼らはコレを読まないと思うけど、ああ読みませんように神様本当にごめんなさい。
あー。
疲れた。
↑お茶の味がわからなかったよ。