いやー。
衝撃的なシーンを目撃してしまいました。
とは言っても実を言うと私はその時試着しているクツに夢中で、ほぼ全てを目撃したのは一緒にお買い物に出かけていたセンパイだったんですけどね。
それはとある靴ショップでの出来事です。
私が、もう本当に足が何本あるねん、というぐらい持っているくせにまた靴を欲しがって試着している時、ふと気がついたんです。
私の左斜め前方。そしてセンパイの真ん前にいつの間にか立っていた白シャツ姿のおじさんに。
ちょっとハードな靴を売っているそのショップの雰囲気と全然違うサラリーマンぽい壮年期のおじさんだったので、ちょっと違和感を感じました。でも、ジイイイイイッと黙って、そしてかなり真剣にこちらをみていたので、もしかして今私が試着している茶色い靴が欲しいのかしら?でもおじさんには似合わない気がするんだけどな。他のにした方がいいんじゃないかな。でもまだ見てるな。ずっと見てるな。
と思いつつ靴紐を必死のパッチで結んでいたんです。
私の右横に立っていたショップの店員さんも、チラチラとおじさんを気にしながらも、私と「ちょっとサイズが大きいですねえ。靴下履いてみましょうか?」なんて会話を交わしていたんです。
そして私が両足に靴を履き、立ち上がった時でした。
「あの。店長さんですか?」
おじさんが一歩前に踏み出しながら、店員さんに問いかけました。
「あ。いえ。僕じゃなくて・・店長はあちらです」
彼が手で指し示した方向には、レジの内側にいた若い男性が一人。
おじさんはすかさずそちらに歩み寄り
「店長さん?」
と話しかけました。
はい、と頷く男性の姿を目の端で捉えながら思いました。
『今絶対におじさんと店員さんの会話、店長に聞こえてたよね。普通こういう場面だと、接客業なんだし『僕が店長です』ってすぐに言うものじゃないの?最近の若者ってこういう感じなのかな』
姑みたいなことを思いながらも、基本的に意識は靴に集中。
うーん。
やっぱり大きすぎてちょっとおじさんくさいかなあ。どうかなあ?
店員さんも「ちょっとやっぱり大きすぎますねえ」と相槌。
そこで突然センパイが
「あっ。ほらおかしいよ!」
と声を挙げました。
顔を上げると、若い店長と一緒にさっきのおじさんともう一人別のガタイの大きなおじさんが、今まさにお店の奥から出てくるところでした。
そりゃもう物々しい雰囲気を撒き散らしながら。
バックパックに腕を通しながら歩いていく若い店長と、その両側を挟むように歩く二人のおじさん。
そして
「逮捕された」
とセンパイが一言。
えっ?え?逮捕?え?
「おかしいやんね、あれはどう見ても」
センパイ。
私よくわからないんですけど、何を目撃したんですか?
「あのおじさんが店長のところに行って、警察手帳みたいなん見せてはったよ。それで『わかってますよね?』みたいな感じのこと言って、店長も『あ。はい』って返事して、すぐ一緒にお店の奥に入ってしまったのよ。別の男の人はずっとお店の入り口のところに立ってたけど、二人がお店の奥に向かったらすぐに後について入っていったわ。その後すぐにああやって荷物持って、店員さんにも何も言わずに出て行ったんだから、これはもう逮捕やなと・・・」
け、警察手帳!
センパイの推理もすごいんですけど!
びっくりしながら隣の店員さんを見ると、
「ええー・・・クリーンな人だと思ってたんですけどねえ・・・」
と言いながら、靴を薄紙に包んで丁寧に靴箱に収納していました。
ちょっと。もうちょっとショックを受けるとかそういうのはないんですか・・・?
「あーいやー・・・まあびっくりはしますけど、まあ関係ないかなっていうか・・・」
そういう世代なの?そうなの?私とセンパイはかなり衝撃を受けてるけど?赤の他人なのに?
「ていうかさ。私あのおじさんは私が試着してる靴が死ぬほど欲しくて待ってるのかと思ってたわ・・・」
と私が言うと、彼は
「僕はお客様のお連れ様かなと思ってました。でもその割に靴に対するコメントがなかったのであれ?とは思ってたんですよねー」
その後も私とセンパイは興奮さめやらず、一体あれは何だったのか?これからどうなるのか?一人取り残された店員さんはトイレ休憩に行けるのか?
と侃侃諤諤でしたが、当の店員さんは
「あ。もう一人いるので大丈夫です」
と涼しい顔でした。
いずれにせよ、初めて目撃した逮捕劇。
あっという間の出来事だったし、詳細を目撃観察したのはセンパイでしたけど、その後1日中興奮状態でした。
あーびっくりした。