このところずーっと思っていたことなのですが、人種差別問題が絡んでいるので簡単に言及できず、悶々としていました。

ここで書くことは、あくまでも私個人の私的見解ですけどね。

アメリカの今の有様ときたら、本当に悲しくなるばかり。

今年の5月でアメリカに移住してから丸31年がすぎ、32年目に突入した(と言ってもこの1年はほとんど日本にいましたけどね)私にとって、人生の半分以上を過ごしたアメリカはもはやもう一つの祖国です。

渡米したての頃はその根深い人種問題に全く気付かず、学校を卒業して社会の波にもまれ、生まれて初めて自分が日本人でありアジア人でありマイノリティであることに気づかされました。

あの時の衝撃は、今でも忘れられません。

自分の人種ゆえに見知らぬ赤の他人から見下されるという体験は、本当に本当にショックでした。

自分が差別されているということに実感がわかず、状況を理解するまでにかなりの時間を要しました。

どんなに英語が話せるようになっても、どんなに気持ちを強く持っても、『私が私という人間であるが故』を全く斟酌しないただただストレートに疑い無い差別意識は、赤の他人だけでなく、様々なシチュエーションで友人の友人や同僚からさえも放たれました。おそらく彼ら自身も意識していないところで。

アジア人で女性であるが故に、言葉にできないような屈辱的な思いも何度もしました。

 

なるほど。

私はマイノリティなのだな。そして肌の色が白くなく、目も毛も青くもなければ緑でも金色でもない黄色人種で、白人からはありとあらゆる面で劣った人種と見られる可能性があるのだな。と理解しました。

日本で暮らしていた頃には、想像もできなかったような体験であり意識改革です。

常に意味不明な自信に満ち溢れていた私が、ちょっと卑屈になりそうになるぐらいの(まあつまり、なりかけたけどならなかったわけですが)衝撃です。

私ごときでもそんな思いをしたわけですから、奴隷制度が横行していた時代から差別を受け続けてきた彼らの思いになど、私などが思い至るはずもありません。それほどにこの問題は根が深い。

 

それでもニューヨークは、ポジティブなエナジーに溢れ、常に躍動し、音と色と喜びと、思いがけない物語に満ちた私の大好きなホームタウンでした。

それが今やなんという有様でしょう。

人々はソーシャルメディアに振り回され、敵意と疑いと裏切りに踊らされ、何かあると「人種差別だ!」と悲鳴のような声をあげ、警察は本来守るべき市民から何かと言うと動画を撮られ攻撃され、その職務を放棄せざるを得ないような状況になりつつあります。

間違いなく、本当に間違いなく、警察官による差別的扱いや不当な暴力、圧力は存在し続けています。その多くが黒人やヒスパニック系の人たちに向けられていることも事実です。

地下鉄のホームで、黙ってチュロスを売っていたおじさんが、突然やってきた警官に手錠をかけられているのを何度も目撃したことがあります。

一言も発せず、黙って後ろ手に手錠をかけられ、指一本動かしていないのに背中や頭を小突き回されているメキシカンのおじさんを見ていると、涙が出そうになりました。深い事情は知りませんよ。もしかしたらあのおじさんは、実はメキシカンの巨大マフィアのボスで、変装してチュロスを売っていたのかもしれませんけどね。でも、おまわりさんたちの傲岸不遜な態度と、ただひたすら無言無表情で小突き回されている小柄なおじさんの対比を見ていると、胸が締め付けられるようでした。

 

こんなことをしたらこの人は死ぬかもしれない。

あの警官は分かっていたはずです。

それでも膝で人の首を押さえつけ続けたのは、まごう事なき暴力と殺人です。

でも。でもでもでも。

もう本当に落ち着いてほしい、アメリカよ。

なんでもかんでも動画を撮って、全てを人種問題にひっぱるのはやめてほしい。

隣の変わり者の女性が、

「おたくの庭にパティオを作る許可はとったのか!」

と怒鳴り込んできたからといって、ギャーギャーわめいているその女性の動画をとってSNSにアップし、黒人差別だ!と騒がなくてもいいのではないのか?

ホテルのプールで泳いでいる黒人女性に

「うちのホテルに泊まっているんですか?部屋番号は?」

とホテルの従業員が聞いてきたら、とりあえず部屋番号を伝えれば5秒で話は終わるのではないのか?

そこで従業員の動画を撮ってSNSにアップして「なぜ白人客には聞かずに、私にだけ聞くの?差別だ!」と、そこまでもうしなくてもいいのではないのか?

 

今や携帯動画、SNSが恐ろしい武器となる時代になり、警察も一般民衆の動画攻撃に恐れをなし、迂闊に動けない状況となり、街の治安は下降の一途。

根強い人種問題は、一朝一夕には語れず、迂闊に触れると自分の身も危うくなるから、誰も触れられない。

そしてまた動画が世の中に溢れ、差別だ!という声だけがどんどん盛り上がっていく。

こうして書いていても、何も解決策も案も無く、我ながら支離滅裂で情けないのですが、

ああアメリカよ、アメリカよ。

意味不明なほどにポジティブで陽気で強気で、喜びと笑いと自信に満ちたエンターテイメントで世界をリードする国だったのではないのか?

人間に寿命があるように、世界にも地球にも、いずれ終わりがやってくるに違いないのに、悪意と裏切りと恨みに手を委ねている時間があまりにももったいないとは思わないか。

世界に誇るブロードウェイも、来年まで休止するなんて。

ニューヨーク。

お前はなんのためにそこにいるのだ。