セラピーの日。その夜、怪しいメールが届くなんて夢にも思わず、セラピストのオフィスに向かいました。

久しぶりに会ったG先生は数年前に見た時と全然変わらず、相変わらずツルッパゲでお腹が突き出ていて、そして自信満々の笑顔で出迎えてくれました。

 

セラピーが始まると、すぐにG先生は

「それで?彼とは随分長く付き合ってるねえ。何があったの?」

と聞いてくれました。

今から考えるとその時すでにG先生は、ヒマポからいろんな女性関係を全て聞いていたわけで、私のことを

「めっちゃ騙されてめっちゃいじめ抜かれているめっちゃ可哀想な人」

と思っていたと思います。

 

誰にも全てを話すことができなかった私は、まさしく堰を切ったようにそれまでに起こったほぼ全てのことを、事細かに説明しました。

胸の中につかえていたものをドドドと吐き出して、少しスッキリ。

でも、最後に「メールを盗み読みしたのは本当に私が悪かったんですけど、その数分前に他の女性に『君のことを考えていた』ってメールをしているのをみて、もうさすがに・・・」と言った瞬間、思わず涙が溢れそうになり、グッと唇を噛みしめました。

私は人前で涙を見せるのが本当に苦手です。

チョビの本にも書きましたが、私に取って悲しみという感情は最もシェアし難いものです。

親の前でも滅多に涙を見せない私が、まさこのツルッパゲのおっさんの前で泣くなんてありえない。

言葉を切って唇を噛んでいる私を見たG先生は、ツツっと私の頬を手の甲で撫でながら

「わかった。大丈夫だから、これから一緒に解決しよう」

と言ってくれました。

その瞬間、ホウッと胃のあたりから力が抜けて、時間はかかるかもしれないけれどきっと大丈夫だ、という気持ちになりました。

そして、先生に

「次のセラピーの予定を決める前に一つ聞いておきたいんだけど」

と言われました。

はいなんでしょう。と答えると

「キミのこのセラピーのゴールは何?どうなりたいと思っている?わかる範囲でいいから教えてくれる?」

と言われ、即答しました。

「彼と別れたいです。一生縁を切りたいです」

本当に、心底そう思っていました。

それはヒマポと知り合って初めて持った感情でした。

嫌いになったわけではないんです。

むしろ嫌いになれたら本当に楽だったけれど、何かはわかりませんが何度別れても元に戻ったり離れたりを繰り返し、複雑な糸が絡み合う様に私をこの関係に縛り付けていた色んな感情を、全て完璧に断ち切って全て忘れたい。と心から願っていました。

「そう。わかった。あそうだ、彼は君が僕のところに来ているって知っている?」

とさらに聞かれました。

もちろんヒマポにそんなことは知らせていません。

真剣に完璧に別れたい忘れたい断ち切りたいと願っていたんですから。

そう答えるとG先生はにっこりと笑って

「わかった。そのまま彼には知らせずに、二人でタッグを組んでこの問題をできるだけ早く解決しよう」

と言ってくれました。

ちなみに、特にこういう男女関係の悩みでセラピーを訪れる場合、無意識のうちに相手のリアクションを期待してセラピーを受ける人がとても多いのです。

「私、あなたのせいでセラピストに通っているのよ」みたいな感じですね。

それも悪くはないのですが、この時の私はもうそんなことどころじゃありませんでした。

1日も早くここから抜け出したい。

その一心だったのです。

 

帰る私のためにドアを開けながら、G先生がまた一言

「レイコ。彼のメールを読んだことは全然悪くないよ。悪いのは全てあいつなんだから、絶対にそのことで自分を責めないで。誰だってみんなそうする」と言ってくれて、またちょっと泣きそうになりました。

そして、少しだけ明日への希望が見え、少しだけ気持ちが軽くなり、ほんのちょっとだけ軽い足取りで家に帰りました。

 

そして帰宅後。

メールをチェックしていると、またもや見慣れないメアドからのメールが目につきました。

タイトルは英語で『相談があります』。

タイトルからして広告メールでもなさそうだし、嫌な予感しかしない。

ドキドキしながらメールを開くと、そこには意味不明な恋愛相談がつづられていました。

要点をかいつまんでご説明しますと

『しばらく付き合っている男性がいるのだけれど、最近態度がおかしい。問い詰めると優しい言葉をくれるのだけれど、毎日会えるわけでもないし、電話もあまりかかってこない。私は彼のことをとても愛しているし彼も私を愛していると言ってくれるけれど、彼の本当の心がつかめず心を病みそうになっています。彼の仕事柄連絡が頻繁でないのは仕方がないかもしれないけれど、どうすればいいのかわかりません。あなたのアドバイスをください』

て。

ああた。

そんなことを言われても。

ていうか、誰?

 

いや。

なんかちょっと待ってよ。

彼の仕事柄・・・とか、その他にもなんだか思わせぶりな表現が多々あって、これは?もしかしてまさかのもしかしてのまさかで、ヒマポの数多いる女たちの中の一人なのでは?

そして、どこをどうやって私を調べだしたのか知らんけど(これも後で判明する)、私に対する牽制?なのか?なんだかよくわからないけど、どんな女か探ろうと思ったのか?知らんけど、連絡をしてきたのでは?

そう思い始めると、そうとしか思えなくなってきました。

そして、さらにヒマポに対する怒りが再燃。

女をナメとる。

ナメすぎとる・・・。

 

<そしてまたもやさらなる展開が! とある人から電話がかかり、その内容にリンコさん思わずベッドから落ちました。待て次号!>