受話器の液晶を見ると、それはヒマポからの電話でした。
心臓が痛いぐらいギュウッとなりました。
たった今。ほんの2分前までメールを盗み見していた相手。
そして、そのほんのまた3分ほど前に、他の女性に甘いメールを送っていた相手。
そしてそして、半日前には訳もなく土砂降りの中車から放り出す(いや自分から出てったんだけど)だけでは飽き足らず、わざとらしく置き去りにして車を走らせていった男。ヒマポ。
その名前を液晶で見て、冷や汗とかなんかわけのわからない汗がドドドドと出てきました。
手が震える。
どうしよう。
出ようか。やめておこうか。
さすがの好奇心200%の私も、この時ばかりは『あいつなんて言うかな』なんていう好奇心は微塵もおきませんでした。
鳴り続ける受話器を握りしめ、ああでもこれを取らないともうかかってこないかもしれない。と思うと、さらにドキドキして心臓が口から飛び出そうになりました。
今から思えば、本当におかしな力関係に洗脳されてしまっていたと思いますが、いいことなんて一つもないと分かっていても、彼から電話がかかってくると、次にいつかかってくるかわからない、と思わず取ってしまう癖がついていたのです。
「ハロー」
心臓が痛くて心臓麻痺で死ぬかもと思いながら電話に出ると、ヒマポのとても威圧的な声が聞こえてきました。
「ハーイ」
ハーイ。と書くとなんとなく明るくて気軽な感じがしますけど、本当に威圧的で不機嫌でいやーな感じの声でした。
こんな声で電話をかけてくるなんて、一体何のつもり?
黙っていると、
「で?」
英語で言うとSo?です。
So?って。何?自分からかけてきておきながら、何その態度の悪さ。
本当に本当に、私のことを自分の思い通りに傷つけたりおだてたり、どんなに振り回しても大丈夫な相手だと思っているんだな、この男は。
「So って?」
と返事をすると
「What's going on」
出た。What's goin on.こいつ、いつもこれだな。
「別に」
と短く返事をすると、そこで私の様子がおかしいと感づいたらしいヒマポ。ちょっと声の調子が変わりました。
「どうしたの?何かあった?」
「どうしてそんなことを聞くの?」
「なんだか声がおかしい。ナーバスな感じがする」
「そう」
「何かあった?」
「別に」
この時の私に何が言えたでしょう。
ショックが大きすぎて心の傷が深すぎて、言葉にできないほどでした。
「そう。で、無事に家に帰ったんだね。チョビの散歩はすませた?」
いろんなことを聞かれましたが、自分がどんな返事をしたのか全く覚えていません。
結局、何も言えないままその電話は終わりました。
会話の最後の方は声がうまく出せない状態になったので、疲れたからもう寝ると言って電話を切ったのですが、私から会話を終わらせるのも電話を切るのも、これが初めてだったので、ヒマポはとても不安そうな声になっていました。
そして翌日、私はとある人に電話をかけました。
<誰に電話したんじゃあっ!もういい加減、ヒマポをまともな人間にしてくれいっっ! つづく>