そう。

コメントをいただいたように、この宿坊のクチコミが恐ろしいことになっていたんです。それを読んだのは、お風呂から上がってから。

 

時は遡り、海南市のおステキなホテルのスイートルームでのこと。

ポール(マッカートニーじゃない方)が突如

「高野山に一泊しよう!」

と言い出した時、ええええ?この間まで高野山に行くアメリカ人を死ぬほどバカにしきった発言ばっかりしてたくせに、なぜ急に?

と思いつつも、まあリン父のお世話を親身になってしてくれたし、日本でも観光なんて全然する暇が無く気の毒に思っていたところなので、ポールが行きたいなら行こうか、となったんです。

でも、宿坊を選ぶポイントが

「夕食が強制じゃない宿』

だったのが理解不能。

高野山の宿坊は、いわゆるお寺に泊めていただくという認識ですので、ホテルではなく旅館ですらありません。お寺の行事というか、朝のお勤めなどは強制的ではありませんが、希望者は参加可能。これが午前7時から。その後続いて朝食という手順になっています。その朝食も精進料理です。

高野山にもいくつか素敵なレストランがありましたが、そのどれも午後7時ぐらいには閉店してしまいますので、お夕食も基本的には宿坊でいただく人が大半のようです。

でも、ポール的に「食べたくもない精進料理を無理にたべさせられてたっかーい宿泊費をとられるのは納得できん!」ということなようで、夕食つきではない宿坊を探したらそれに当てはまる宿坊は、私たちが泊まった赤◯院のみだったわけです。

旅のエキスパートを自負するポール先生は、こと旅先と宿泊先の選択になると絶対に譲りません。

いやもっというなら、基本的に海より深い自分勝手なので絶対に譲らないことだらけの人生ですが、私にフルボッコにされると死ぬより辛い目にあわされるということは学習したので、最近は相当譲歩してくれるようになっていたんです。

でも、高野山の宿坊に関しては絶対ココ!と言い切って譲りませんでした。

私は私で、中辺路に行くことに気を取られていたので、ふーんじゃあまあそこにしようよ、とあまり気にせず同意してしまっていたんです。

その結果、熱湯修行風呂でゴミの浮いた湯に体を浸す羽目になりました。

 

這々の体でお風呂場から出ると、絶対に1年間一度も洗濯していないであろう毛足がぺったんこになった足拭きタオルの上に、蛾の遺体が一体ペロン。

ギャエア〜〜〜〜〜〜〜!!!

となって爪先立ちの駆け足で部屋に逃げ帰りました。

部屋に戻ってほどなく、ポール先生も帰宅。

お風呂どうだった?と聞くと

「火傷の一歩手前のお湯だった」

と一言。

やっぱり男湯もそうだったのか。

「だからシャワーの水を入れまくってぬるくして入った」

え。

でも、お湯汚くなかった?

「見えないからわからない」

近眼で老眼で遠視なポールには、よかったのか悪かったのか、とにかく何も細かいものが見えなかったようです。

最後には体をゴシゴシ洗ってシャワーを浴びて出て来たそうなので、まあいいか・・・。

 

「明日は午前7時からお勤めで、終わったら朝食だって」

と告げると

「行かない」

と一言。

まあ、そりゃそうだよね・・・。

寒さに震えながら敷かれたお布団を見ると、どう見ても一生洗ってないとしか思えない敷き毛布がデロリンと薄い敷き布団の上に乗っかっていて、足を踏み入れると畳を体感するレベルの薄っぺらさ。

仕方なく、4組あるお布団を全て押入れから出し、敷き布団を二枚重ねにして就寝しました。

ちなみにレビューには「枕カバーに髪の毛がたくさんついていた」とか「布団が誰かの体臭で臭くて眠れなかった」とか書いてあり、ゾクゾクしながらお布団に入りましたが、掛け布団カバーと枕カバーはきちんと洗って糊が効いている感じでした(敷き布団のことは考えたくない)。

 

翌朝、午前7時半にドアの向こうからお声がかかりました。

 

「おはようございます。朝食の用意ができてますのでどうぞ」

は、はい〜〜。寝ぼけ声で返事をしたものの、また二度寝体制。

ああでも、気になるなあ気になるなあ。

せっかく朝食の用意をしていただいてるのに、行かなくていいのかなあ。

しばらくお布団のなかでもぞもぞしていると、今度は部屋の電話がジャジャジャジャジャン!!

ヒーもしもし!!

「あー朝ごはんできてますよ。どうぞー」

昨夜のご住職様の声。

ああ。

やっぱり行こう・・・ポールは放置して、私ひとりで朝ごはんいただこう。

 

もそもそと起き出し、館内着に着替えて階下に降りました。

そういえばレビューにはたくさんの外国人観光客が大きな畳の間で食事を一緒にとっている写真が載ってたなあ。みんなお勤めの後、すぐに食事なんだろうなあ。遅れて行くの恥ずかしいな。

 

入り口近くの部屋の襖が薄く開いていたので、ここかな?と見当をつけて覗き込むとお坊さまが一人顔を出し

「あ。どうぞどうぞ。セルフでお願いしますね」

とすぐに立ち去られました。

その部屋の有様は、

 

↑こんな感じ。

 

え。

御膳が二つ?

てことは、もしかして私たちだけ?

え?

 

↑寂しい・・・寒い・・・

 

うーん。

寂しすぎる・・・。

ストーブが二台あるけれど、部屋は超寒い。

でも、ご飯のおひつを開けると、暖かい湯気があがってホカホカホカ。

パカ、とお味噌汁のお椀を開けると、湯気がホカホカ。

精進料理が冷たいとか色々文句のレビューがあったけど、私がいただいた朝食は暖かくてとても美味しかったです。

 

↑しっかり美味しく完食しました。

 

もう一度顔を出されたお坊さまに

「相方が起きなくて・・・すみません」

とお詫びすると

ああいいですよ。お食事どうでした?

とニコニコしてくださいました。

美味しかったですごちそうさまでした。

とお辞儀して部屋を出ました。

寒い廊下を歩いて部屋に戻ると、相方はまだ鼻からちょうちん。

まあ、雪の山中のドライブで相当疲れただろうしね。

でも、精進料理も高野山の経験の一つなんだから、多少早起きして食事すればよかったのに・・。