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一昨日の夜、大変な事が起こりました。
あまりの事にさすがの私も言葉を失い、ブログの更新すら滞ってしまいました。
今日も結構トラウマ状態ですが、ようやくブログに書く気力が戻って来たような次第です。

さて、またそんな大げさな事言ってるけどどうせ大した事ないんだろう、と予測されているかもしれませんが、今回のこれは25年の長きにわたるニューヨーク生活の中でも、トップ3に入るショッキングな出来事でした。


それは、ニューヨークで一番長年の友達フンフンとニューヨークで一番若い友達ゆーちゃんと、三人でイーストビレッジで食事をした帰り道。
超美味しいごはんを堪能し、フンフンとゆーちゃんは美味しいお酒もいただき、皆ゴキゲンでタクシーをシェアして帰路につくことにした時のことです。

折よく信号で止まったタクシーに三人で乗り込み、まずは私とフンフンがミッドタウンの3番街で降り、次にゆーちゃんがアッパーイーストの1番街で降りることを運転手に告げました。
すると運転手が
「同じアベニューじゃなけりゃダメだ!」
と強い口調で言うんです。
はっ?
と思いました。
何故ならタクシー運転手達の接客態度が問題となり、この10年ぐらいの間に非常に厳しい規制がしかれるようになり、乗車拒否やわざと遠回りをするなどのルール違反をすると、最低6ヶ月の業務禁止が命じられたり悪くすると免許剥奪なんかにもなることになったから、ここ何年もそんな悪い態度の運転手にはとんとお目にかからなくなっていたから。

「えっ?何言ってるの?」
と問い返すと
「だから同じアベニューじゃなけりゃダメだと言ってるんだ!」
と両手を大きく振りながら怒鳴り返してきました。

はい。
ブチ切れしましたわたくし。
「ちょっと何言ってるのよ。3番街から1番街に行くのに何の問題があるっていうの?ていうか、そんなこと言うんだったら311に電話して通報するわよっ」
すると、運転手が3番街で降りろ!とわめきはじめました。
そこで、私の隣に座っていたフンフン登場。

「じゃあお前のメダリオンナンバーを教えろよ」
仕切り窓から身を乗り出してこう言うフンフンに対して、運転手はわめきちらしていますが、私も脳の血管切れまくっていたので、彼が何を怒鳴っていたのかは記憶にございません。
フンフンが仕切り窓から身を乗り出して運転手の首根っこを掴むんじゃないかと思い、それはしちゃいかんと片手を抑えていたのはおぼえています。

運転手が「二カ所のアベニューになんか行かない!」と怒鳴り続けたので、フンフンが「車を止めろよ。それでお前のメダリオンナンバーもらって通報するから」と迫力ある声で命じると、
「止めてやるとも!お前ら全員降りろ!」と怒鳴りながら運転手が車を停め、乱暴に運転席から降りて来てゆーちゃんが座っていた側のドアを乱暴にあけて
「お前ら俺の車から今すぐ降りろ!!出ろ!」
とわめきました。
反対側に座っていたわたくし、当然ブチ切れですぐさま車から飛び降り、プチ復讐のために私の側のドアを開け放ったまま反対側に走って行きました。
そこではフンフンと運転手の口論が始まっていました。
口論といっても、フンフンは終始声を荒げることなく、「なんでもいいからお前のメダリオンナンバーを寄越せよ」と言ってるのですが、大興奮している運転手は
「お前らとっとと消えろ!俺の車から離れろ!」と怒鳴り続け、回りは黒山の人だかりです。
私が駆け寄ると同時に運転手がフンフンの胸をドンと突きました。

この瞬間、運転手は訴えられても文句が言えない状態です。
でも私がもっとヒヤっとしたのはフンフンの方です。
フンフン、ものすごい迫力なんです。こういうシチュエーションで相手から手を出されると、間違いなくものすごい殺気を放ちます。
もちろん手は出さず、突いて来た相手の胸を肘で抑えましたが、ただわめき散らしているだけの運転手にも、間違いなくフンフンが放った殺気は伝わりました。
そして、運転手はパッと両手を挙げて
「触るな!俺に触るな!俺はお前に指一本触れていないからな!」と言い出しました。
またわたくしブチ切れです。
「何言うとるんじゃ!おのれが先に触ったのをわたしゃこの目ではっきり見たんじゃっっ!!」
「触ってない触ってない!こいつが先に触った!」
フンフンを指差してわめくバカ運転手。
一方フンフンは声を荒げることはせず、ただただ殺気を放ちながら
「メダリオンナンバーをよこせよ。なんでもいいから黙ってよこせ」といい続けました。

ちなみに『メダリオンナンバー』とは、タクシー運転手がタクシー協会からもらう正式なタクシー営業許可番号のようなもので、個別識別番号でもあります。運転手が何か悪さをしても、この番号を通報すればすぐに個人が割り出されるので、これを車のてっぺんに掲げ、車体横や車内に明記することが義務づけられているのですが、車内で口論になりはじめた時から、その表示が車内のどこにもないような気がしていたんです。もしかしたら見落としていただけかもしれませんが。
もちろん私もフンフンも、このとき『教える』と言って教えてもらえると思って言っていたわけではなく、『そういう態度を取るんなら、タクシー協会と警察に訴えるぞ』という注意勧告のようなつもりです。

さて、わめき続ける運転手は、さっと身を翻して運転席側のドアを開け、『警察でもどこでも電話しろ!俺の車から離れろ!』とまた怒鳴りました。
「いやいや。だから離れてやるからメダリオンナンバーよこせよ」
とフンフンが言うのと同時に、運転手はドアを乱暴にしめようとしたので、とっさに私もフンフンもドアの間に割り込んでそれを阻止。
「どけ!」と運転手。
「どいてやるからメダリオンナンバーよこせよ」とドアをつかんでフンフンが言いました。
すると、ドアを大きく開けたまま運転手が車をスタートさせました。

あっ。

と思う間もなく車が発進。
フンフンはドアにつかまったまま。
えっ……
と思った瞬間、タクシーが猛スピードで走り出しました。
フンフンがドアにつかまったまま。

そう。
フンフンも最初必死で数歩走ったようでしたが、あっという間に車に引きずられ、タクシーは1番街のど真ん中を暴走しはじめました。
私たちを取り囲んでいた野次馬達も、あっけにとられています。
フンフンを引きずりながら、タクシーは結構な交通量の1番街をどんどん走り去って行きます。

フンフンが引きずられ始めたのを見て、「やめて!」と叫びながら私も必死で走りはじめました。
ふと振り返ると、目が点になったゆーちゃんが駆け出すのが見えました。
どんどん遠くなるタクシーと、引きずられて行くフンフン。

うそ。うそうそうそうそうそうそうそ。
マジでマジでマジでマジでマジでうそうそうそうそうそうそ。

心臓が口から出そうになりながら、必死で走りました。
気がつくと両側を車が走っていたので、私も車道のど真ん中を走っていたのかもしれませんが、もうそのあたりの細かい記憶はありません。
交差点の赤信号も無視して猛スピードで走って行くタクシーが、フンフンを振り落とそうとして蛇行しているのが遠くに見えました。

やめてやめてやめてやめてやめてやめて

とまた胸の中でいいながら走り続け、心臓は破裂しそうになっています。

待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って
とか
やめてやめてやめてやめてとか、
お願いお願いお願いお願いお願いとか、
色んな言葉が頭の中をぐるぐるしているんですが、気持ちとしては追いついて車を掴んで引き戻してフンフンを助けたい、というスーパーマン的な気持ちなのに、当然追いつけない状況が怖くて悔しくて、そしてこのままでは本当に本当にフンフンが死んでしまう!という恐怖で、もう頭の中はめちゃくちゃでした。
必死で走りながら引きずられて行くフンフンを見ているのは、本当に恐ろしくて、でもどうしたらいいのかわからなくて、聞こえてくるのは自分の息だけ。
引きずられ振り回されているフンフンの黄色いポロシャツがずっと見えていましたが、回りを走っている車達も全くスピードを落としていないように見えて、
ああ。もうダメだ。もうフンフン死んだ。
と思いました。
そして、2ブロックほど走ったところでフンフンが振り落とされるのが見え、次の瞬間横を走っていた車の陰に入り見えなくなってしまいました。
ものすごい衝撃で上半身が落ちたのが見えて、心臓が潰れそうに。。。

ああ。
ああ。。もうダメだ……。

必死で走りましたが、交差点の信号が赤になり立ち止まらざるを得ず、後ろから追いついて来たゆーちゃんが
「どこに行った!?」と言うのが聞こえましたが、何も言葉が出てきません。
二人でハーハーいいながら、キョロキョロと必死でフンフンを探しました。
「この交差点、越えたよね?」
「越えました越えました」
そして次の瞬間、フンフンが反対側の歩道に座っているのをゆーちゃんが発見。

「あっ!いた!いたいた!よかった!いた!」
ゆーちゃんが言うのが聞こえる直前、私はフンフンが立っているのが見えたんです。

ていうか。。。

立ってるよ……。

さっきまで猛スピードで2ブロックも引きずられて、挙げ句の果てに蛇行運転で振り落とされた男が、なんか、なんか、立ってるよ……。

信号が変わるとすぐに反対側に駆け寄り、歩道に座っているフンフンのところに行きました。
大丈夫ですか?と訊くゆーちゃんと、大丈夫大丈夫、と返事するフンフンの声が聞こえましたけれど、茫然自失状態の私は、大丈夫?とすら訊けません。ただただ全身がガタガタ震え、声も出ない状態です。

「あの。これ、警察に、911に電話するよね?」と震えながら言うと、フンフンが「うん。して」と言うので、911をダイアルしましたが、完全にうろたえきっていた私は、ヒドい擦り傷を負っている左腕をさすりながら顔をしかめているフンフンを見つめながら、指が震えてうまく携帯を扱えない始末です。言葉を失っていたので、911オペレーターが「フルネームを」と言っているのに、何も言えませんでした。
「もしもし?こちらは911です。何がありましたか?」
と二度言われてようやく返事をしましたが、頭の中が真っ白で全身が震え、何をどう言えばよいのかわからなくなっていた私は、その時ポール(マッカートニーじゃないほう)に常日頃から言われていた事を思い出しました。
「緊急事態で911に電話したら、まず自分がどこにいるのかを明確に伝えるんだよ。ストリートとアベニューをちゃんと伝えること」
そうか。
そうだったな。
と思い、まず最初にオペレーターに伝えたのが
「私は今20丁目の1番街にいます」
でした。
タクシー呼んでるんじゃあるまいし、と後から思いましたけど、この時はただもう必死と茫然が行ったり来たりで、まともに脳が働かなかったんです。
一瞬絶句したオペレーターが「それで何がありましたか?」と重ねて訊いてくれたので、ようやく事態を説明しました。声はもちろん震えていますし、英語もなんだかめちゃくちゃ。それでもオペレーターは我慢強く訊いてくれ、2-3質問をした後「今すぐに救急が駆けつけますから、落ち着いてそこで待っていてください」と言ってくれました。
その電話の間にも、実は他の100万人ぐらい居た目撃者達の誰かが先に911コールをしてくれていたらしく、消防車が到着。
早速フンフンに質問をしながら応急処置を施しはじめました。
そしてそれからまたほどなく救急車も到着。
どうも怪我をしたのは左手と膝だけらしいフンフンとショックでヨレヨレになっている私と終始何がなんだかわからぬうちに、血の気の多い二人の大人のバカ丸出しの大騒動に巻き込まれ、ずっとおびえていたゆーちゃんの三人で、救急車に乗り込みました。

<あまりにも長くなったので、続きは明日です。でもフンフンは無事ですので安心してくださいね。心配をおかけしてごめんなさい。でも私も相当ショックで、ここ二日まともに眠れていません。フンフンは超安眠らしいですけどね……>