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ふにゃニューからの続きです>

頭が真っ白になったまま外に出ると、通りの向こうの木の下でチョビとソウルメイトが座って待っているのが見えました。
夏真っ盛りの真っ青な空と濃い緑の下、落ち着かない様子で座っているチョビ。
遠目に見るとなんて巨大なんだ……といつも思うんですが、この日は全然違うことを考えました。

こんなに暑い季節にそんな病気になっちゃって……チョビったら。。。
あと一度でいいから、チョビと一緒に雪の中を歩きたいなあ。
あとどれぐらい一緒にいられるのかな。
みんなハスキーで16歳半はすごいって言うけど、私にとってはあっという間の16年半で、まだまだ足りないのに。どうしたらもっと長く一緒にいられるんだろう。それともそれは私の自分勝手なのかな。どうしたらいいんだろうどうしたらいいんだろうどうしたらどうしたらどうしたらどうしたら。

頭の中はぐるぐるで、現実感が完全に喪失しています。
前日から下痢続きでゲロリンパもしちゃったチョビは全体的にすっかりヨレヨレで、そりゃもうよその人から見たら哀れな老犬以外の何者でもありません。
それでも白と黒のデザインがくっきりした富士額やフカフカのおミミは子犬の頃と同じだし、ボサボサであちこちハゲがあるおシッポも、私にとっては世界一カワイイフサフサおシッポ。
ああほんとにほんとに、チョビの頭やおミミやお鼻やマツゲに、綺麗な綺麗な真っ白い雪が積もって行くのをもう一度見たい。神様神様どうしよう。

フンフンに電話すると「うっそーーーーーー!!」とスゴい衝撃を受けていました。まさかガンだなんて誰も思わなかったんです。ソウルメイトもフンフンも、そしてもちろん私もそれぞれに泣きました。コンちゃんに電話すると、コンちゃんもものすごいショックを受け、
「……えっっ!!!うそっっ!えっっっっ!!!でもそれは……」と絶句。
そして、こうも言ってくれたんです。
「でも玲子。他のドクターの意見も訊いてみたら?色々訊いてチョビに一番良い治療法を考えてあげたほうがいいよ」

それまで頭が空白だったので、『セカンドオピニオンを求める』という考えがこの時まですっかり消え去っていたんです。それに、ドクターにガンですって言われて、挙げ句の果てには近い将来の安楽死のことまで何度も言われ、もう本当にすっかり諦めの気持ちというか、つまり、私の気持ちは本当にクオリティーオブライフの段階に入っていたんです。

どうしよう。でもそうかもしれない。
チョビができるだけ快適に暮らせるために、
誰に相談しよう。コンちゃんも知り合いの愛犬家さんに訊いてみるねって言ってくれたけど、自分でも調べてみなくちゃ。
思いついたら即行動しないと気がすまない私。
もしかして犬のガン専門医っているかも?と思いつき、早速ネットで検索しました。
すると、ダウンタウンのスペシャリスト動物病院というものがあることを知り、詳しく色々調べてみたところ、痛みの軽減やホスピスケア等、ガンの苦しみを軽減することを専門とする分野があり、そのスペシャリストがこの病院にいることを知りました。

コレだ!
コレしかないっ。

早速電話をかけ、翌日のアポイントメントを取りました。
なんとこの病院、初診の患者にはカーサービスでの送迎付きなんです。
近所のおセレブドクターとは格が違うおセレブぶりかも……。
でも、このときの私はおサイフの心配どころじゃありません。
何でもいい。チョビがあとどれぐらい生きられるにせよ、できるだけできるだけ、嬉しく楽しく幸せにいてほしい。そしてチョビと二人でまた、長くても短くても良い、夢みたいに幸せな時間をできるだけ一緒に過ごしたい。そういう気持ちでした。
どうかどうかチョビが苦しくなく痛くなく、そこらへんの犬たちを誰彼構わずどやしつけまくり大暴れして、楽しかった生まれて来て良かったって思いながら、最後の時まで過ごせますように。そんでもって、できることなら『あの人のところに来て良かったなあ』と私のことを思ってくれますように。

と、気分はすでに喪に服していました。

この日、超おセレブドクターに付き合ってくれたチョビ番はフンフン。
またもや毛深い荷物のようにチョビを抱っこし、車の乗り降り階段の乗降まで。まるで女王様です。
怪しい場所に連れてこられたチョビは、すでに200%警戒状態。
ドアが開くたびに脱走しようとするんですが、ここもツルツル床。靴は履いていたんですが、前アンヨがツルツルすべって逃げられません。
そもそもこの日の朝、ここ数週間で一番ゴキゲンで元気よく起床したチョビ。食欲も久々に大爆発して、大量のチキンとターキーハムをおウマのような勢いで完食し、大満足のチョーゴキゲンで意気揚々とお散歩に出かけた……つもりだったのに、わけのわからん紫色の車に載せられ、なんだか不吉な予感のするわけのわからん建物に連れ込まれ……。と、サイコーからサイテー気分に突き落とされた感じだったに違いありません。
私とフンフンを見る目は完全に
『この裏切り者達め』
です。


ほどなく診察室に呼ばれ、ドクタースタンレーというまるでドラマのキャラみたいな名前のドクターと面会しました。
すでに安楽死ドクターから申し送りが来ていたので、再確認のための簡単な問診から始まりました。
食欲は?歩ける?立てる?トイレぐあいは?病歴は?
色々な質問に答え、ドクタースタンレーが言いました。
「今日は念のため、もう一度超音波検査をします。それから、検査結果によっては血液検査や胸部レントゲンなども考えますが、まずは触診をしてから超音波検査にしますがいいですか?」

このおセレブスペシャル病院に期待していたのは、より害が少なく効果の高い痛み止めと、今後の食生活や日常生活の注意事項等々です。飼い主のためのカウンセリングなんてクラスまであるようで、コレにもちょっと興味がありました。

「あの。チョビのいつもの獣医さんに『胃と肝臓にガンがある』って言われていずれ遠くない将来安楽死も考えなければ、って言われたので、今後のチョビの快適な生活追求のための対策とお薬の処方をお願いしたいと思っているんですが……」
と伝えると
「はい、もちろんそうですね。安楽死ドクター(とは呼ばなかったけど)はとても素晴らしいドクターで、僕も彼女を10年以上知っています。彼女の診断を疑うわけではありませんが、やはり一度超音波検査をやってみようと思うんですが。ここにあるエコー機械は最新鋭で素晴らしい機械ですから、より詳しい情報が得られますよ」

なるほど。
ではでは。お願いします。

チョビのポンポンをムニュムニュゴニョーと触診するドクター。
ちょっとイヤそうだけど、案外大人しくしているチョビ。
ドクターの背後には研修医らしい女性が二人ボケーと突っ立って見ています。

チョビポンをあれこれ触った後、立ち上がったドクターが言いました。

「チョビのように胸板の厚い犬種は、触診ではわかりにくいんですが、触診の限りでは胃のあたりに大きな腫瘍は感じられませんでした。とにかく超音波検査をしますね。20分程度ですが、こちらで待っていていただけますか?」

チョー早口でチョー喋り倒すドクタースタンレーですが、なかなかスイートで紳士的です。

へいへい待ってます。よろしくお願いします。

今度は何するんじゃい。
とまた足を突っ張らかって嫌がるチョビを、二人の研修医さんたちが必死で引きずって超音波検査室に引きずり込んで行くのを見送りながらフンフンが言いました。

「こりゃーヘタするとガンじゃないかもしれないね」

えっ。そんなことないでしょ。触っただけじゃわかんないって言ってたじゃん。
大体胃と肝臓にガンがあるって断言して、安楽死まで薦められたのにいくらなんでもそんな大きな誤診はあり得ないよ。

「うん。まあ……そうだな」

ヘンな期待はしたくありません。
やっと受け入れて心の整理がついて来たのに、また甘い期待をして地獄に堕ちるのは勘弁です。

それでもなんとなく落ち着かない気分で待っていると、エコー室からチョビの情け無い泣き声が聞こえてきます。
あまりの可愛さに思わずフンフンと吹き出してしまいました。

「泣いてるぜ、アイツ。情けねえ声。子犬の頃と全く同じ声だぜ」

16年前、子犬のチョビを一緒に見つけてニュージャージーのペットショップから一緒に連れて帰って来たのはフンフンです。
胃腸が弱くてフラフラだった3ヶ月のチョビを、徹夜で看病してくれたのもフンフン。
フンフンがLAに居る間、チョビもちょっぴりフンフンのことを忘れたみたいだったけど、最近またフンフンのことをしっかり思いだしはじめていた様子で、フンフンが来ると嬉しい半分怖い半分でおそるおそる近づく様子は、子犬の頃の二人の様子そのものです。
ああ。切ないねえ。命って儚いねえ。

切ない気持ちと愛おしい気持ちが相まって、一瞬開いたエコー室のドアの隙間から見えた検査台に載せられたチョビを見て、思わず二人で爆笑しました。
エコー診察台(動物用)の惨い事といったらもう。
V字型のベッドに仰向けに寝かされた動物達は、寝返りもうてずひっくり返る事も出来ず、とにかく手も足も出ずにっちもさっちもいかないわけです。

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↑こんなんです。

あんな風になってるのかー、とフンフンとしきりに感心しました。

診察台からチョビはおろされたみたいなのに、全然部屋から出てこないドクター。

何やってるのかね?
チョビに説明してるんじゃねえか。
んなアホな。

アホな会話を交わしながら待つ事半時間。
やっと出て来たドクタースタンレー軍団。

「超音波検査の結果ですが、胃と肝臓には腫瘍は認められませんでした」












はっ……?








「そのかわりというか何というか、脾臓に大きな腫瘍があります。コレがまた巨大で10cmほどのもので、この血腫に血が溜まり貧血気味になったり、2週間前の血液検査で内臓に出血の兆候が見られ、胃潰瘍の疑いがもたれたのかもしれません。この脾臓の血腫は高齢の犬、特に大型犬によく見られるもので、放置すると肥大し破裂し、時に死に至る場合があります。そうそう。安楽死ドクター(とは呼ばなかったけど)の所見は、胃壁の晴れが多少認められましたのでそれを腫瘍と考えたのかもしれません。血液検査の結果も大変良好で、2週間前より数値は良くなっています。また、白血球の数値がほんの少し上昇していますが、これは恐らく脾臓の血腫に原因があるのではと考えられます。安楽死ドクターから、チョビが非常に衰弱していると申し送りがありましたが、今日見たところチョビの体調は大変良好なように見受けられますし、大変しっかりしている様子ですね。そこで今お薦めしたいのは、脾臓腫瘍の摘出手術です。何故なら、まずはこの腫瘍が悪性であるか良性であるかが不明なことと、たとえバイオプシーの結果悪性だと判明したとしてもキモセラピーなどを行ってもこの大きさでは縮小はかなり限られたものとなります。放置するといつ何時破裂するかわかりませんし、この腫瘍が悪性であれば周囲に転移する可能性もあります。一番効果的で良い方法は、やはり手術による摘出です」

と、この長いセリフは、実際のドクタースタンレーが喋ったセリフの百分の一ぐらいです。
一気にまくしたてられ、私とフンフンはもう何が何やら何をどうすれば良いのやら、頭がぐるんぐるん回って気絶寸前。
いやいやいや。気絶する前に言わなければ。

「あの。でも。チョビは16歳半で……」

「ええもちろん。そしてもちろん4歳や5歳の若い子たちよりリスクは大きいかもしれません。ですが、私たちのスタッフは本当に優秀です。手術前にチョビの健康状態は全て綿密にチェックし、何もかも大丈夫となってからでなければ開始しません。それよりも、この腫瘍を放置しておくことのリスクのほうが大きいと思います」


あああああああああああああああああああ。もうホントになにがなにやらわけがわかりません。
もしかして、手術しないと決めたら何が起るんでしょうか。

「手術をしなければ、ステロイド剤を二週間投与して、その後……それはわかりません。4週間ほどしか生きられない場合もあれば、もっともっと生きる場合もあります。個体差や環境、条件によって違います。ただ、何度も言うようですが、この大きな腫瘍を放置することは全ての状況を鑑みて、大変リスクが大きいと思います。ですが、もちろんあなたが全ての決定権を持っているわけですし、あなたの決めた方向性にしたがって、ベストの方針を相談して決めて行きたいと思いますよ。今決めなくてももちろん良いですが、早ければ早いことに越したことはないと思います。家に帰ってもチョビを走らせたりジャンプさせたりは決してしないようにして、安静にさせてくださいね。これから後少し、血液検査や肺のレントゲンを撮って、万が一ガンが無いかどうかも調べてみようと思いますがどうですか?」

この検査は、手術をすることになったら必須だし、しないにしても調べておくに越したことはないと思ったのでお願いしました。
チョビを置き去りにしてフンフンと相談休憩です。

<怒涛の展開ですが長くなりすぎました。続きは待て次号!>

ということで続きは次号ですが、皆さん。
たくさんのご心配、声援、応援のコメントを本当に本当にありがとうございます。
ガンの宣告をされたときはあまりの衝撃と哀しみと寂しさで、どうにも心の整理がつかず、ブログアップもできない状態でした。
ボーっとしながらPCでゲームをしてみたり、本を読んでみたり、マンガを読んでみたりもしましたが、何をしていてもすぐに涙が出て来て、それはそれは辛い二日間でした。
その後も、あまりの急展開と重大な決断を迫られる状況に、心も体もいっぱいいっぱいで、皆さんにご心配いただいていたのに、何もお返事できなくて本当にごめんなさい。
チョビは今のところとっても元気です。食欲大爆発だし、ワガママ放題だし、吠えたり泣いたり、そして短距離ながらお散歩時にはよそのワンコをどやしつけるのも忘れていません。
とにかく。
安楽死ドクターが言ったような
『これからどんどんやせ細って弱っていきます』というような胃がんや肝臓がんじゃなさそうで(まだ100%確定ではないですが)、それだけでも相当救われました。
本当にありがとうございます。
では、改めまして

待て!次号!!