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そう。
今日はチョビにとって相当な受難の日でした。

朝からバタバタと、出かける前の大慌ての私に大急ぎでお散歩に連れ出され、大急ぎでウ●チさせられ、バーっとお家に取り残されたチョビ。
でも今日は、午前中マンハッタンで用事のある下僕ポールが『チョビをお散歩させたいので用事が終わったら寄るぞ』と言って来たので、朝のお散歩はサクっとしとけ、って思ってたんですよね。

午前中の用事が終わり一旦帰宅したところ、ちょうど同じ頃ポールも登場。
んじゃチョビ借りるね、とルンルンで二人で出かけてゆきました。

一方私はというと、朝あまりにもバタバタしたので、ちょっとお家でやらなければならないことを片付け、ほどなく次の用事に向けてまた出かけました。
これが大体午後2時過ぎのことです。
テクテクと歩いて5番街まで行き、セントパトリックでアッシュウェンズデーを冷やかし、ロックフェラーセンターで本間先生にお目にかかり、楽しくお話させていただき、ちょっと途中で寄り道をしながら徒歩で帰宅したのが午後5時半過ぎ。
地下駐車場の入り口から部屋まで上がり、早くチョビにゴハンあげなくちゃ。と思いながらドアを開けると。

いない。

チョビが。



え?
え?え?え?え?

ベッドルームにもいないトイレにもいないキッチンにもいないベランダにもいないどこにもいないいないいないチョビがいないいいいいいいいいいいいいい。



ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい。

大パニックです。

まさかあれからずっとお散歩中なわけないよね。
てことは、ポールに誘拐された?
いやでもまてよ。
今日ポールは車で来るとは言ってなかったしな。電車で来たならチョビを誘拐するにしても、自宅までは連れて帰れないはず。
一体何が起った?

わけがわからずしばらく部屋で待ってみました。
が、もちろん何も解決するはずもなく、はっと思いついてポールの携帯に電話してみました。


ジャンジャカジャカスカジャーン

中華風味な着信音が部屋のどこかから……。


え?エ?エ?エ?

またもや軽いパニック。

キョロキョロ見渡すと、チョビのリードやらブーツやらを入れてある玄関口にあるクローゼットの中に、ポールの携帯が……。

な。
な。
なんで携帯を携帯せんのじゃっっっっっっっっ!
しかも、なんでこんな所に置き忘れるんじゃっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!

私の携帯番号はとってもカンタンな数字列で、その気になれば一発で覚えられるものなんですが、ポールがそんなもん覚えているはずもありません。
てことは、公衆電話とか使って彼から電話がかかってくることはありえないわけね……。

んじゃ……どうすりゃいいの……?

困り果てましたが、ふと思いつき、ロビーに降りてドアマンに訊いてみることにしました。

フロントにいたのはかつてリースが死ぬ程恐れていたベージル。ヘッドドアマンです。

「ねえ。ベージル。今日私の犬と私の友達が出入りしたの見なかった?」

「オオーーー!今これを渡そうと思っていたんだ!」

思っていたんだ、てああた。
私が降りてくるまでインターフォンひとつかけてこなかったくせに。

と思いつつ、彼から手渡された封筒を開くと、そこにはコヒーのしみがついた小汚いノートの切れ端が。そして、その切れ端よりさらに小汚い文字が。

『レイコ。僕の携帯と鍵とメガネを持って来てくれ。ウジャウジャグジャグジャゴジョ』

手紙の前半は判読できましたが、後半のはウジャウジャグジャグジャゴジョの部分は何が何やら。

なんとなく横目でこちらを見ているベージルに

「な、何がなんだかわからないんだけど……」と問いかけると

「い、いや。君のハズバンドと犬がロックアウトされたって言って来たんだけど、彼の名前がPCのリストに入ってないから鍵を渡さなかったんだ」

……はっ?
そういうけど、まずもって彼はハズバンドじゃないんですが、いやそんなことよりロックアウトって?ロックアウ…………あっ……

ポールがチョビをお迎えに来て、その数分後には私も出かけたんですが、お互いに帰宅後の事を全く考えていなかったんです。
当然私の部屋の鍵を持っていないポール(とチョビ)は閉め出し状態……。というか、普段鍵をかけずに出入りしているせいで、ポールは多分今日も開けっ放しと思い込んでいたんだと思います。でもさすがに長時間の外出だったので、私はしっかり鍵を閉めて出かけてしまったわけです。


あああああああああああああああああああああああどうしようどうしようどうしよう……。
今二人はいずこに……。

「そ、それって何時頃のこと?」

「さあー。3時か4時か……」

ひいえええええええええええええええええええええええ。
チョビが一緒にいるのに、えええええ?ポール、どこにチョビを連れていったんだあああああああ。
完全にテンパって読むと、さらにわけがわからんポールの小汚い文字。
ううううううん。この後半の象形文字みたいなんは一体何なんだ??

何度解読しようとしても無理。
諦めて、ポールだったらどう行動するかを推理してみることにしました。
すると出て来た答えは三つ。

(1)やけくそになってブルックリンの自宅にチョビと戻る。
(2)やけくそになって外でゴロ寝(チョビを湯たんぽがわりに抱きしめる)。
(3)やけくそになってそこらへんの本屋に行く。

でも、手紙には『携帯と鍵とメガネを持って来てくれ』と書いてあるわけだから、彼にとっては『当然レイコには予測がつくはずの場所』にいるはずだとまた気づきました。

てことは、自宅?
いや、待てよ。
そういえば携帯とメガネと『鍵』を持って来てくれって書いてあるじゃん。
確かにジャラジャラ邪魔臭い鍵束が置いてあったよ、携帯と一緒に。
てことは?自宅に戻っても入れないじゃん……。
あああああ。わからない。わからない。どこにいるのチョビ。お腹がすいてるはずのチョビ。疲れ果ててるはずのチョビ。チョビーチョビーチョビー。

もう半泣きになりながら、再び象形文字を目で追ってみると
VAN
という単語が判読できました。

バン?ライトバン?え?

そうかっっ!ライトバンでチョビを運搬したんだなっっ!
もうこうなったらとにかくブルックリンの彼の自宅まで急行するしかありません。早速レンタカーを予約し、ダダッと家を飛び出しました。

そうして夜道を走りながら、またピカーッッッとあるアイデアが頭に浮かんだんです。

そうだ!
ポールが自宅にも戻れないとしたら、唯一座れて暖かくて困らない場所があった!!!


消防署です。


早速携帯を取り出し彼の分署に電話しました。

ドキドキしながら「ポールいますか……?」
「オーちょっと待って!」

いたーーーーーーーーーーー!!!!!
チョビが見つかったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!(ポールなんかもうホントどうでもいい)
うええええええんチョビイーーーー!!

「レイコー。チョビが泣きそうになってる」

ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい。今行きますすぐ行きます速攻で行きます!!!

なんか知らんけど異様にドデカい車をかりてしまいましたが(1時間10ドル)、超猛スピードでぶっ飛ばしました。チョビ心配のあまりチョビ恋しさのあまり。
必死のパッチでぶっ飛ばし、やっとたどり着いたやさぐれたブルックリンの消防署。
ドンガラガッターン!!と消防署のドアを蹴破って乱入するとびっくり顔の若い消防士さんが
「もしかして、君あのハスキーのオーナー?レイコ?」

そうそうそうそうそうそうですっっっっ!

「君の事待ってるよ、彼女」

ひいいいいいいいいいいひいいいひいひいひいいいいいいいいすんませんすんませんすんませんっっっっ。
誰彼構わず謝りたおしていると、彼が分署全体のアナウンスをしてくれました。

「ポールポール。犬のお客さんが来たからすぐ降りてこい」

そして、ほどなくチョビを抱きかかえたポール登場。
しかも制服姿です。

あれまー。今日仕事の予定だったのか……。

閉め出してしまったことを謝り倒しましたが、ポールは「僕はいいけどチョビが、TVルームでやっと落ち着いて寝たかと思ったら、緊急コールでびっくり仰天して飛び起きて、って繰り返してねえ。本当に可哀相だった。みんなに遊んでもらって最初は嬉しそうだったけどね」

そういう説明を聞いている間に、チョビはものすごいへっぴり腰で裏口から脱走しようとするぐらい『早くここから出してくれえ』状態。
そりゃそうです。
長いお散歩からお家に戻って、さあゴハンをもらってデザートもらってお夕寝だわ、と思ったのに、ハラペコでわけのわからんバンに押し込まれ、はるか彼方まで連れ去られ、挙げ句に消防署の長くて暗い階段を抱きかかえられて運ばれ、わけのわからんテレビ部屋に押し込められ、ここはどこ私は誰?になっていたんですもの。
ああ。
大変な目に遭わせてしまいました。チョビを(ポールはどうでもいい)。

それにしてもドアマンのベージル。ちょっと不親切です。
ドアマンの全員が私の犬だって知ってるチョビが一緒だったんだから、私の部屋のドアをマスターキーで開けてくれるとか、そこまではセキュリティー上できないんだったら(て言ってもハズバンドとか言ったくせに)、せめて登録されている私の携帯に電話してくれれば良かったのに。私には彼らのためにカーサービスを頼んだことさえ説明してくれませんでした。忘れていただけかもしれないけど、そうしてくれていたらせめてもうちょっと早く行き先がわかったのに。

というか。
つまるところ、後先考えずチョビを人に託してドアのことを全く考えなかった(基本的に普段鍵開けっ放しがいかんですよね)私が一番悪かった。。。。

帰り道の車の中では、いつもだったらワサワサガサガサ落ち着きのないチョビが、よほど疲れ果てよほど安心したのか後部座席で速攻で眠りこけました。あああ。かわいそうなことをしてしまいました……。今はお家でほっと安心して、すやすや気持ち良さそうに寝ていますけど、年寄りの身に余計な負担をかけちゃって、本当に反省です。

ホント。
すんません。
とほ……。