長距離ドライブができない体なので。

叶姉妹様的にいうところのクールguyにお願いしました。


「そんな遠くないよ」

「え?そう??」

的な会話とともに。

すげー走るワタシの車車


男の子が走らせると、違うエンジン音がするんだなぁ。

「エコドライブ外したい!」

「どうやって!?」

「え!しらないの!?」

→なぜかチャイルドロックがかかる。


「マジでこの車チャイルドロックなんてあるの!?」BY私。


…どうやら手元にあったらしい。


自分の車なのに、必要最低限の事しか見ていない私に唖然とする、

クールguyと自分。


後ろ座席ではシートベルトに挟まれた勝子母が、

ハンプティダンプティみたくなってて笑えた。

長時間グーグー寝ているのに、

「あ、ごめん、一瞬寝た」とかいつも言われる(苦笑


一瞬じゃねーし!!!


私の手の中には、

今もらったばかりの「精神障害者手帳」が。

ニコニコと笑う写真に、涙が出そうになる。

こういうものを「悪用」する輩がいる事にただ唖然とし。

改めて「手帳」と言うものを手にした時に、

こんな気持ちになるのか、と、ものすごくいたたまれない感覚になった。

私の実母は「精神障害者」として認められたんだ。

要介護5を貰った時と全然違う感覚だった。


病院はやっぱり山を二つ越えて。

4階の「精神科専用」の病棟に。


少し太ったみたいだった。

私を見つけると、「あー」と。


そしていわれた。

「毎日毎晩叫んでる、麗花、勝子さん~瑳倉~!なんで来ないのー。

早く会いに来てよー」

冗談交じりだったけれども、

私はこみあげてくるものが多すぎて、この場所から早く立ち去りたい気持ちと、

もっとこの手を握っていたい気持ち両方に雁字搦めになる。


決めたことは変わらない。

泣いちゃダメだ。


看護師さんが先生との面会をセッティングしてくれた。


ここ最近は、排便すると失神するという現象が頻繁に起きていて、

もうずっと車椅子を使っていること。

退院は難しいこと。

そもそも特養を待っているということ。

失神する原因としては、交感神経へのダメージが過大であること。

…かといってそれは脳のMRIとってもわからないだろう、とのこと。

どうすればいいのか?

どうしようもできないこと。


結局、車椅子を使っていれば、歩くことは間違いなくできなくなってゆく。

けれど、病院側も過失を起こすわけにはいかない。

転倒して骨折でもされたら大変だから。


本人はずっと先生に「家に帰りたい」と言っているそうで、

「兄嫁、長女、孫のいる家に帰りたい」と。

私は「…もう無理です」と答えるしかなく、

ただ唯一戻れる可能性があるとしたら、自力でトイレができるようになる事と答えた。

先生もかなり渋い顔をしていた。


…そうだよね。

無理だよね。

だって毎日車椅子で一歩も歩いていないんでしょう?

私は先生に「ありがとうございました。」とだけ言って席を立った。


みんなで食堂で話していたら、

ちょうどお昼時になって、その場がいっぱいになった。

精神科病棟。

精神疾患の患者だけが集まるその場所は、

奇声を発する人、ただわめく人、泣き叫ぶ人、歌っている人、

色んな「あちら側」への道に行ってしまった人たちで溢れていた。


その中で私の実母は、

「とても普通」に見えた。

同じことを何度言われても何度答えても繰り返しになるのに、

絶対におかしいのに、全然おかしくないように見えた。


「あちら側」へ。

あちら側へ行ききってしまえたら、どんなに彼女は楽になるんだろうか。

どんなに私は楽になるんだろうか。

まだ、わかる、私のことが、私の名前が、家族の名前が。


またね。

またくるからね。

そういって握った手は、

やらかくてやらかくて、

何もしてこなかった人の「手」。

色は抜けるように白い。

私と同じ指。

細くて長い指。


IMG_2027.JPG


写真を見れば、

明らかに自分が老いれば、こうなるんだ…とわかる「親子」の顔立ち。


思いに引きずられていく私。


悲しい。苦しい。切ない。

どの感情も当てはまらない、どうにもいえない、気持ち。


クールガイが居なかったら、次の場所にたどり着けなかった。

とてもじゃないけれど運転はできなかったと思う放心状態。


そして、その足でお墓に行って、

夏に来られなかったお詫びをしながら。


…お父さんの隣に名前を刻まれるのは、どちらが先なのだろう…と。


私はその二つの「死」を見届けるまでは、

絶対に死なない、死ねない。


そんなふうに思っていた。