崩れゆく世界たち

ある日現れたイソギンチャクのような

頭を持つ奇妙な人間。

それはみるみる増殖していき、不思議な歌を

広げ続ける。

日常が静かに壊れていく表題作ほか

人間の本質を問いかけていく短編集。

各30ページ程度の短編集ですが、

どれも素晴らしい作品でした。


表題作からすごい。西宮や心斎橋など

馴染みのある地名の中で現れるイソギンチャクの

頭をして人の体を持つ異形。

これが街中で歌い出すという

シュールな光景から、ほんの20ページ後には

世界の終わりに至る。

それを主人公の視点で主人公の周囲の変化から

終焉へのささやかな反抗まで。

それが淡々と美しく書かれています。


ほかにも呪いに取り憑かれる親戚の話や

遠い惑星で見た不思議な生態系、

土星の輪で起こる音への執着や

あるAIとの触れ合い、

また歴史を改変させた1930年代の上海。

 

驚くべき別の世界の中で

人とは何者であるのかが

常に問いかけられました。


上田早夕里先生は本当にハズレがない。

どれも光景が目に見えるようで

それなりにグロテスクなシーンもありますが

その残酷さも含め例えようのない神秘性がある。


おすすめは表題作の「夢見る葦笛」と

別の惑星での不思議な飛翔生物「プテロス」。

特にプテロスのクライマックスは

ちょっと怖いけど感動ものです。

 

次は海外ドキュメンタリー

ユナボマー 自らの言葉

エピソード2の感想です。