警察庁の統計によれば、平成28年度の自殺者数は21897人、その中で経済・生活問題が原因で自殺した人数は3522人です。経済生活問題の自殺者の大部分は借金苦が原因であると推定されます。昔から「借金は返さなければならない」という格言がありますが、現在の借金苦の原因には社会の歪みが大きく関わっているので、一概に借金返済できない人々のみに責任を負わせ、一方的に非難することはできません。はっきりと申し上げれば、家庭を破綻・離散させ、自殺に追い込まれるくらいであれば、借金を踏み倒して借金から逃げた方がましでしょう。一時期よりは下火になりましたが、利息制限法を根拠に弁護士や司法書士に債務帳消し又は過払い金の返還請求をして難を逃れる負債者が増えてきました。ただし、これはキャッシングによる債務又は過払い金に限定されます。ショッピングによる負債には適用されません。
 
ところで、クレジットカードで商品を買い、債務者が分割金を支払えなくなると、まず、クレジット会社は、督促状を送ります。うっかり忘れ、等であれば、即支払えば問題は解決します。ただし、信用審査に厳格なクレジット会社であれば、23日の支払遅延でも34回続けば、クレジットカードを取り消す方向で手続を進める場合もあります。一方、金銭的余裕がなければ、督促状を何回送られても、債務者は返済できない場合もあり得ます。すると、次の段階は、クレジット会社にもよりますが、分割債務の期限の利益を喪失させ、場合によっては、即時に一括請求してくる可能性があります。あるいは、債権回収に手間がかかれば、債務をすべて債権回収会社(サービサー)に債権回収を委託又は譲渡します。そうすれば、クレジット会社は貸借対照表上で損益として決済できます。
 
ちなみに、一般社団法人 全国サービサー協会のウェブページは、「債権回収会社(サービサー)とは、金融機関等から委託を受けまたは譲り受けて、特定金銭債権の管理回収を行う法務大臣の許可を得た民間の債権管理回収専門業者です。わが国では、弁護士法により、弁護士または弁護士法人以外のものがこの業務を行うことは禁じられていましたが、不良債権の処理等を促進するために「債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)」が施行されて、弁護士法の特例としてこのような民間会社の設立ができるようになりました。」と業務内容を説明しています。
 
この点に関して債権管理回収業に関する特別措置法(平成十年十月十六日法律第百二十六号)11条によれば、債権回収会社(サービサー)が扱える債権回収業務は、「簡易裁判所における訴額が140万円を超えない(裁判所法3311号)」ものに限られます。したがって、債権回収会社(サービサー)は、140万円以上の債権回収に関する訴訟業務を扱うことはできません。ただし、100万円を超える請求額でも支払督促を利用することは可能です(同法1121号)。なお、債務者が債権回収会社(サービサー)の申立による簡易裁判所からの支払督促を受け取ってから2週間以内に異議の申立てをしなければ,裁判所は,債権回収会社(サービサー)の申立てにより,支払督促に仮執行宣言を付さなければならず,債権者はこれに基づいて強制執行の申立てをすることが可能です。しかしながら、債務者が支払督促に対し異議を申し立てると,請求額が140万円以上であれば地方裁判所、140万円を超えない場合には簡易裁判所の民事訴の手続に移行します。
 
さて、支払督促を受け取った時点で素直に支払に応じることも1つの選択肢ですが、異議申立をする場合を考えてみましょう。注意すべき点は、債権回収会社(サービサー)が140万円を超える請求額の支払督促を行い、債務者が異議申立をして地方裁判所レベルの訴訟に移行した場合には、債権回収会社(サービサー)は140万円以上の債権回収に関する訴訟業務を扱うことはできないことから、債権回収会社(サービサー)の代わりに弁護士が当該訴訟を担当する必要が生じるということです(債権管理回収業に関する特別措置法1121号、裁判所法3311号)。また、認定司法書士も、訴額が140万円を超えない簡易裁判所レベルでの訴訟代理人しかできません(司法書士法3条、民事訴訟法541項)。ところで、弁護士に依頼するとなると、着手金及び成功報酬を含む弁護士費用が発生します。これは企業にとってもかなりの負担です。通常は、140万円の請求額の訴訟を弁護士が受任すると、着手金と成功報酬を合計して約35万円以上かかると考えられます。そして、債権回収会社(サービサー)は、元債権者から債権額額面通りで債権を譲り受けることはなく、額面の半額以下による債権譲受も通常ですから、回収額が70万円、弁護士費用が約35万円とすれば、債権執行費用も算入すれば、債権回収会社(サービサー)は到底採算が合わないことが理解できます。ちなみに、60万円以下の訴額の場合に利用され得る少額訴訟に関して、同一簡易裁判所で同一年に少額訴訟を提起できる回数は10回までですから、案件を多数抱える債権回収会社(サービサー)は、安易に少額訴訟を利用するわけにもいきません(第368条第1項、第3項、民事訴訟規則第223条)。したがって、余程高い請求額ならばともかく、140万円超程度の請求額で債務者に異議を申し立てられて粘られると、債権回収会社(サービサー)は厳しい状況に置かれることが想定されます。ですから、債権回収会社(サービサー)は、弁護士に依頼しても弁護士費用等回収費用の点から採算が合わないと判断すれば、債務者が支払督促に異議を申し立てた時点で、債権回収を断念する可能性があります。
 
一方、請求額が140万円を超えない場合はどうでしょうか?この場合には債務者が異議を申し立てても簡易裁判所の訴訟に移行します。しかし、地方裁判所レベルの訴訟に移行させる方法もあります。簡易裁判所レベルの訴訟に移行した場合に、債務者が140万円超の請求額の反訴(民事訴訟法1463項)を提起すれば、訴訟は地方裁判所に移送されて地方裁判所レベルの訴訟に移行するので、債権回収会社(サービサー)は、弁護士に委任しなければ債権回収できないことになります。もっとも、簡易裁判所レベルの裁判は公判1回のみで結審することもあるので、適時に反訴を提起する必要があります。
 
しかしながら、債務者には、反訴の理由が思い当たらないかもしれません。ですが、反訴の理由は、正当性が認められそうなものであれば何でもかまいません。例えば、債権回収の際に頻繁に電話をかけられて家庭が混乱したために精神的苦痛を受け慰謝料を請求するとか、債権回収のための督促の回数が社会的相当性の範囲を超えて多かったために精神的苦痛を受け慰謝料を請求する、債権回収会社(サービサー)の担当者の態度が威圧的だったために精神的にショックを受けて慰謝料を請求する、等々。ちなみに、債務者が本人訴訟を提起すれば、弁護士費用はかかりません。また、債権回収会社(サービサー)が勝訴しても、債権回収会社(サービサー)の負担した弁護士費用はせいぜい10%程度しか認められませんから、弁護士費用の点から採算が合わないと判断すれば、債務者が支払督促に異議を申し立てた時点で、債権回収会社(サービサー)は、債権回収を断念するかもしれません。
 
次に、債務者が粘って控訴して、債権回収会社(サービサー)が地方裁判所又は高等裁判所で勝訴したとしても強制執行には再度大きな負担がかかります。強制執行には、銀行口座預金などに対する金銭執行、不動産執行又は動産執行がありますが、実現するにはそれぞれ障壁があります。例えば、銀行口座預金に対する金銭執行をするためには、銀行及び支店を特定する必要があります(民事執行規則133条2項「債権差押命令の申立てにおける差押債権の特定に関する平成23年9月20日最高裁判所第三小法廷決定」)。もっとも、法務省は、現在、裁判所が銀行に対して特定の銀行に対して口座の存在を照会することを可能とする制度の創設を検討しています。しかしながら、現時点では、債権回収会社(サービサー)は、銀行及び支店を特定しなければ、実務上、預金に対する金銭執行はできないこととなっています。不動産執行も手数料が高額に及ぶので、債権額が小さければ、採算が合いません。また、動産執行は、差押禁止物件(民事執行法131条)があり、競売に付すと価格がかなり安くなるので、債権回収の可能性は低くなります。さらに、考慮すべき点は、強制執行を弁護士に依頼すると、回収債権額が140万円程度の場合でも、着手金及び成功報酬を含めた弁護士費用は、3040万円程度になります。すると、債務者が強制執行まで粘った場合に、140万円の債権を70万円で譲り受けた債権回収会社(サービサー)は、140万円の債権を回収するために70万円以上の弁護士費用と時間と労力を強いられることになり、当初からこのような事態が想定されれば、債権回収会社(サービサー)は、債権回収に二の足を踏まざるを得ないことになります。
 
ちなみに、個人間の債権の消滅時効は10年です(民法167条)が、貸金業者やクレジット会社の扱う商事債権の時効は5年です(商法522条)。ですから、5年間粘れば、時効中断事由がない限り、クレジット債務は時効消滅します。ただし、時効完成後に時効完成した債権を承認してしまうと信義則上時効の援用権を喪失してしまいます(最大判昭41.4.20)。そこで、債権回収会社(サービサー)は、時効が完成しても、債務者の時効援用権を喪失させようと敢えて請求してくる可能性もあるということです。ですから、時効完成後に安易に支払延期の申出をしたり、債務承認を示唆するような言動は避ける必要があります。

結論を言えば、過度の借金はしないに越したことはありません。「転ばぬ先の杖」がベストであると考えます。