関根英恵検事(熊本地検平成14年度任官 現在東京地方検察庁検事)は、検事任官希望者に向け、法務省検事採用情報ホームページ「検事を志す皆さんへ」「フランスの刑事司法制度を学んで」の中で、以下のような寄稿を行いました。「検察官が扱う事件には殺人や強盗,詐欺,贈収賄,薬物密売など様々なものがあり,捜査担当検事は,同時に数件から十数件程度の身柄事件を抱えているのが通常だろう。事件の種類は様々でも,被疑者の勾留期間は一律に原則10日間,やむを得ない事由がある場合に最大10日間の延長が認められるにすぎないため,検察官は通常,最大20日の間に警察に補充捜査を依頼するなどして必要な証拠収集を遂げ,起訴・不起訴の処分をしている。みなさんは,この20日間を「長い」と感じるだろうか,「短い」と感じるだろうか。私は,平成20年にフランスの刑事司法制度の研究のために,4か月半パリで生活しながらパリやレンヌの裁判所や検事局,パリ警視庁等で研修を受ける機会に恵まれた。フランスの裁判官や検察官から直接話を聞くのはもちろん,研修に参加していたモロッコ,チェコ,韓国,中国といった各国の司法官と互いの国の司法制度や仕事の内容を語り合う中で,私が一番衝撃を受けたのは日本の犯罪捜査のシビアさである。フランスでは,検察官ではなく予審判事という裁判官が,警察に捜査を指示するなどし,数年間という長い時間をかけて殺人や強姦といった重罪事件等の捜査を行っている上,一部の事案では,日本では認められていない潜入捜査や秘密録音等といった捜査もできる。研修中,「日本でフランスの予審判事のように捜査をしたい!」と何度思ったかしれない。逆に,私がフランス人司法官に日本の状況を説明すると,彼らは必ず「たった20日間で捜査ができるのか!?」と驚いており,信じられない様子だった。そして,フランス以外の国の事情を聞いてみても,日本ほど被疑者勾留の期間が短く,捜査手法が限定された中で犯罪捜査を行っている国は見あたらなかったのである。 私は,現在,熊本地検で捜査と公判立会を担当しているが,個別の事件で裏付け捜査をお願いするたびに,日本の警察が限られた人員と短い時間を使っていかに意欲的にかつ迅速に捜査してくれるかを改めて実感している。検察官が多くの事件を捜査する上で,警察の協力は必要不可欠である。限られた時間の中で,警察と互いに協力しながら事案の真相を解明できたとき,忙しさの中にも充実感を感じたことがあるのはきっと私だけではないはずだ。」(http://www.moj.go.jp/keiji1/kanbou_kenji_02_02_06_index.html)
上記の点に関し、刑事訴訟法第208条1項は「前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。」と規定し、同2項は「裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない」と規定します。すなわち、当初、拘留期間10日間、その後延長10日間で合計20日間まで勾留が認められ得ます。これに加えて、司法警察員が被疑者を逮捕してから検察官に身柄送致するまで48時間という時間制限があり(刑事訴訟法203条1項)、検察官は203条の規定により被疑者の身柄を受け取った場合には、24時間以内に裁判官に勾留請求しなければなりません(刑事訴訟法204条1項)。したがって、司法警察員が被疑者を逮捕してから検察官が裁判官に勾留請求するまで72時間の時間制限があり、勾留期限の20日間を加えると全体で被疑者の身柄拘束は23日間まで可能です。しかしながら、実際の実務における被疑者の身柄拘束はこんなに単純ではありません。なぜならば、捜査当局が、複数の別件や微罪を利用して、数度に渡って被疑者を再逮捕・再勾留し「代用監獄」に被疑者が自白するまで拘禁するのが通常となっているからです。
ところで、関根英恵検事は、「私がフランス人司法官に日本の状況を説明すると,彼らは必ず『たった20日間で捜査ができるのか!?』と驚いており,信じられない様子だった」との感想を述べていますが、まず、予審判事は三権の司法に属するのに対し、司法警察員や検事は三権の行政に属するということです(日本の三権分立が司法権と行政権の間で実効的に機能しているかどうかには疑問があります http://blogs.yahoo.co.jp/marvellous157/1048064.html)(http://blogs.yahoo.co.jp/marvellous157/15614222.html)。すなわち、問題となっているのは予審判事のような司法管轄下の拘禁ではなく、「代用監獄」による警察拘禁であるということを看過しています。これが自白強要の温床となっている訳です。実際、フランスでは、当初24時間の警察拘禁、その後24時間の警察拘禁の延長のみが可能です。警察拘禁が23日間可能である日本の「代用監獄制度」は、先進諸国では異例なほど長い期間です(日本弁護士連合会の自由権規約人権委員会による是正勧告等に関するレポート http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/publication/booklet/data/daiyo_kangoku_leaflet.pdf#search='勾留期間 日本')。
この点に関し、まず、2007年5月、拷問等禁止条約に基づき、国連拷問禁止委員会は、「代用監獄」が広くかつ組織的に利用されていることに懸念を示し、日本政府に対し、「未決拘禁が国際的な最低基準に合致するものとなるよう、速やかに効果的な措置をとるべきである」と勧告しました。次に、2008年10月の自由権規約人権委員会の審査においては、ついに「代用監獄の廃止」が明示的に勧告されるに至りました(上記「日本弁護士連合会の自由権規約人権委員会による是正勧告等に関するレポート」より引用)。国連の拷問禁止委員会や自由権規約人権委員会から「代用監獄」を廃止するように是正勧告が為されていながら、当事者である関根英恵検事が「任官志望者」にこの点を隠蔽かつ正当化するような寄稿を行ったことは、国際世論を全く無視しているようにすら思えます(自由権規約人権委員会による「代用監獄」制度を廃止するようにという是正勧告は1993年と1998年にも為された)。第三回の勧告による是正期限は2013年ですが、仮に日本政府が国連の人権委員会及び人権理事会の勧告を3度も拒否したとなると、今度は国連総会の三分の二の多数の議決による日本の理事国資格停止という制裁も視野に入ります(日本政府の態度は、1933年に国際連盟総会でリットン調査団の報告書が採択されると議場から退場した当時の外務大臣・松岡洋右の対応を思い出さざるを得ません)。
このような場面で必ず出てくるのは、日本には日本独自の事情や文化があるという反論です。しかしながら、国際社会のコンセンサスを無視して独自の事情や文化を語れば、1933年と同様に日本が孤立するだけです。そして、関根検事の「予審判事のように捜査がしたい」という司法と行政の間の三権分立によるチェック・アンド・バランスを意識しない論調には驚かされます。このような大局を無視した自らの利権のみを追求する官僚発言は、後漢末期の十常侍やアヘン戦争前夜の清の官僚等の硬直し退廃した官僚制度を想起させます。
にもかかわらず、日本が国際社会で名誉ある地位を占め、リーダシップを発揮したいという野心は相当にあるようです。すなわち、1993年9月27日に河野洋平外務大臣が国連総会で日本の常任理事国立候補宣言をして以来、日本政府は虎視眈々と国連常任理事国の地位を狙っています。 しかしながら、日本国憲法第9条を盾に取って軍事力の行使をできず、無理な財政負担のために約1000兆円の債務を抱え、国連人権委員会の是正勧告を三度も拒否した日本に常任理事国の資格があるとは思えません。そして、日本は国連の分担金拠出額に応じて国連内で発言権を持つべきであるという主張が頻繁になされますが、これは問題の本質を取り違えた主張です。けだし、常任理事国になる資格があるかどうかは金の問題ではなく理念の問題だからです。
時々、人権委員会及び人権理事会の判断が欧米に偏重しているのではないかと疑問を持たれる方々もいらっしゃいますが、国連の人権委員会は53ヶ国の委員から構成され、人権理事会は47の理事国から構成されています。ちなみに、人権委員会の議席は、アフリカに15議席、アジアに12議席、東ヨーロッパに5議席、ラテンアメリカ・カリブ海に11議席、西ヨーロッパとその他のグループに10議席(アメリカ合衆国とカナダはここに含まれる)の計53が配分されます。同様に、人権理事会の理事は、アフリカに13理事、アジアに13理事、東ヨーロッパに6理事、ラテンアメリカ・カリブ海に8理事、西ヨーロッパとその他のグループに7理事の計47が配分されます。そして、人権委員会及び人権理事会の決定は、単純多数決に基づいています。したがって、(是正)勧告には、人権委員会議席中27議席、理事会構成国47理事中24理事の賛成が必要です。そこで、人権委員会及び人権理事会の(是正)勧告が欧米の価値観に偏重するとは言い得ません。
このような場面で必ず出てくるのは、日本には日本独自の事情や文化があるという反論です。しかしながら、国際社会のコンセンサスを無視して独自の事情や文化を語れば、1933年と同様に日本が孤立するだけです。そして、関根検事の「予審判事のように捜査がしたい」という司法と行政の間の三権分立によるチェック・アンド・バランスを意識しない論調には驚かされます。このような大局を無視した自らの利権のみを追求する官僚発言は、後漢末期の十常侍やアヘン戦争前夜の清の官僚等の硬直し退廃した官僚制度を想起させます。
にもかかわらず、日本が国際社会で名誉ある地位を占め、リーダシップを発揮したいという野心は相当にあるようです。すなわち、1993年9月27日に河野洋平外務大臣が国連総会で日本の常任理事国立候補宣言をして以来、日本政府は虎視眈々と国連常任理事国の地位を狙っています。 しかしながら、日本国憲法第9条を盾に取って軍事力の行使をできず、無理な財政負担のために約1000兆円の債務を抱え、国連人権委員会の是正勧告を三度も拒否した日本に常任理事国の資格があるとは思えません。そして、日本は国連の分担金拠出額に応じて国連内で発言権を持つべきであるという主張が頻繁になされますが、これは問題の本質を取り違えた主張です。けだし、常任理事国になる資格があるかどうかは金の問題ではなく理念の問題だからです。
時々、人権委員会及び人権理事会の判断が欧米に偏重しているのではないかと疑問を持たれる方々もいらっしゃいますが、国連の人権委員会は53ヶ国の委員から構成され、人権理事会は47の理事国から構成されています。ちなみに、人権委員会の議席は、アフリカに15議席、アジアに12議席、東ヨーロッパに5議席、ラテンアメリカ・カリブ海に11議席、西ヨーロッパとその他のグループに10議席(アメリカ合衆国とカナダはここに含まれる)の計53が配分されます。同様に、人権理事会の理事は、アフリカに13理事、アジアに13理事、東ヨーロッパに6理事、ラテンアメリカ・カリブ海に8理事、西ヨーロッパとその他のグループに7理事の計47が配分されます。そして、人権委員会及び人権理事会の決定は、単純多数決に基づいています。したがって、(是正)勧告には、人権委員会議席中27議席、理事会構成国47理事中24理事の賛成が必要です。そこで、人権委員会及び人権理事会の(是正)勧告が欧米の価値観に偏重するとは言い得ません。
ちなみに、以前に日本で外国法事務弁護士であったフランス人弁護士ベルナール氏は、フランス国内のテレビ特集番組で日本の刑事司法手続を痛烈に批判しています(「冤罪法廷~特捜検察の落日」魚住昭著第四章「特捜検察の誕生」122P参照)(http://tsuigei.exblog.jp/12867606/・フランスのテレビ番組"Zone Interdite"参照。日本での活動経験が豊富なフランス人弁護士・ベルナール氏のテレビ番組特集インタビューの録画が見れます。これはYoutube上にアップロードされており、日本語訳も付されているので是非ご視聴ください。http://blogs.yahoo.co.jp/marvellous157/13395344.html)。