読了記録

 

 

 

一九三四年冬ー乱歩

久世光彦

創元推理文庫

 

 

 

もとをたどれば

小学生〜中学生くらいの頃だったか

戸田菜穂、清水美沙、田畑智子が演じていた

三人姉妹の空気感がとても好きで

毎夏、楽しみに見ていた

向田邦子原作の終戦特別企画の

テレビドラマシリーズ

 

なにかのきっかけで

その演出をされていたのが

久世光彦さんだったというのを知り

 

そして、7年前(2016年)には

久世光彦さんのエッセイ

「黄昏かげろう座」をもとにした

朗読劇を観に行く機会があり

 

ちなみに

開催されていた2日とも足を運んだのですが

朗読されたのはその2日とも

江戸川乱歩作品で

なんとも言えない繋がり感

 

そしてその、物語に入る前の導入と

終焉後に添えられていた

久世光彦さんによる文章が

江戸川乱歩に負けず劣らず

妖しく、幻想的な魅力を放っていて

とても気になり

 

それから去年(2022年)の夏には

久世光彦さんが監督した映画

自由な女神たち』を鑑賞

 

画面の、どこか少し

ぼうっとしているような

(まぼろし)を感じるような

そんな雰囲気や

 

登場人物のうちのひとりのおうちには

てんでバラバラな時間をさしている時計が

いくつもいくつもかけられていたり、と

 

やっぱりすごく好みなところがあって

ますます気になり

 

というわけで

 

ようやっとたどり着いた小説

 

前置きがだいぶ長くなってしまいましたが;

 

 

主人公は、江戸川乱歩

 

連載の執筆に行き詰まって

誰にも告げずに、姿を眩まし

麻布の張ホテルに滞在

 

中国人の美青年のボーイや

マンドリンを奏でる

探偵小説好きのアメリカ人の人妻と

交流しつつ

 

『梔子姫(くちなしひめ)』という

新作小説を書きはじめる

 

売られて、中国からやってきて

水銀を飲まされ唖(おし)となり

梔子の花びらを浮かべた酢を与えられ続け

吐息は梔子の香り、そして身体は

軟体動物のようになった娼妓が登場してくる

その小説の内容と

 

開かずの間であるはずの隣室に人の気配、等

こちらもなにやら不可解な現象が起こっている

現実パートとが交互に綴られていくつくり

 

やがては

乱歩が眠っているときに見る夢も

加わってきたりなんかして

 

なんだか、現実が虚構じみてくるような

現実パートから生成されたはずの虚構が

逆に染み出してきているかのような…?

 

そんな風情に

 

 

綴られていく小説の方は

ほころんだ花が、やがて狂い咲くかのように

悪趣味で、グロテスクで、猟奇的で

耽美、夢幻、異様、異形が全開になっていき

 

そのなか(でもこれはかなり冒頭)で語られていた

瘰癧の醜い引き攣れ、義眼、

両腕のないミロのヴィーナスを

ひきあいに出して語られる

「どこかが損なわれている美」

 

あぁ、これ、とてもわかる、というか

共感してしまうのです

 

醜も異も欠も哀も

ひっくるまっているからこそ

なんとも惹かれ

そして、妖しく、美しい

 

 

そうそう、現実パートには

実在の人物や作品、できごと等も

あれこれと登場し、ふむふむ、となったり

 

海野十三 と深夜散歩の話が出てきたときには

ニヤリとしちゃったりなんかして

 

そして、この現実パート

禿げの悩み、だったり

時折、著しく脱線するのに

クスッとしてしまったりして

 

それから、個人的にめっけもんだったのは

小酒井不木(こさかい ふぼく)の『死体蝋燭』

 

死臭に魅了されてしまった和尚が

死体の脂肪から蝋燭をつくり

それを灯しては、うっとり…

だがそろそろ在庫が切れそうなのである… 凝視

というお話

 

ふふふ

 

ぜひとも読んでみたい

 

 

 

そして、ひとつ前に読んでいたのが

小島てるみ『最後のプルチネッラ』で

 

現代パートと

転生(めくるめく物語的な)パートとが

交互に綴られていくつくりだったのですが

 

なんだか似ている構造で

またしても不思議な繋がり感

 

こうなってくると

次はどう繋がってくるのか

楽しみになってしまう ニコニコ