『歌枕』(昭和56年 中央公論社刊)は『隠れ蓑』(初出 文藝昭和47年6月号)、『裾野』(初出 文藝 昭和48年1月号)、『歌枕』(初出 新潮 昭和48年8月号)、『花筐』(季刊藝術28 昭和49年1月)、『もの言はぬ花』(新潮 昭和50年5月号)の5つの短編からなる連作集です。
著者は中里恒子氏。
先週この連作集の冒頭に触れる機会に恵まれ、はやくすべてを読みたいという欲望にかられたので図書館に行って書庫から出してもらいました。
「あとがき」(『歌枕』187頁)で中里氏はこう書いています。
「『歌枕』は、何年か前から、書かう、書きたいと思ひつづけてゐた素材である。かういふものは手をつけるのが恐くて、迂闊に書き出せなかつた。・・ 書き終へてみると、年齢を越えた、越えたところの男女の心情の、純粋さ、強迫感、思ひやりが、年齢、境遇に関係なく結晶した存在になつたやうに思ふ。」
贅をしつくし今は貧困の中にある、老いた男鳥羽。
だが男の貧しさは爽やか。
鳥羽が変転の末に辿り着いた終の棲家は、世間的には決してできた女ではないやすとの心足りた生活。
無一文の鳥羽についてきた、30歳も若い雇女のやす。
二人の心の通い合い、それと表裏でもある不安。
成熟した男と女の心情、おそらくは生温かい女と男であるとともに男女を越えている二人の思いやり。
女性の書き手でなければ描けまい、やすの内面。
短編『裾野』の中で鳥羽は倒れ、『歌枕』の中で息をひきとります。
海の近く、古い家の階段の手すりのようにぐらぐらする生活。
鳥羽との生活がそういう一面をもっていたことにやすはあらためて気づき、そしてまたそんな現実に直面します。
やすの回想に現れる鳥羽は生前よりも男らしく粋ですがすがしく魅力的です。
かくありたし、と思いました・・。
『花筐』、『もの言はぬ花』は一人で歩き出すやすを描きます。
なんとも味のある小説です。
※ 女性へのプレゼントを何にしようかと迷っている方へ。
魔法瓶2つ、、、と同趣旨のものがいいですよ p(^-^)q