梁石日の『夜を賭けて』を読みました。
昭和30年代、大阪。廃墟と化した巨大兵器工場跡に夜な夜な潜り込み、鉄だの価値ある金属だのを掘り当て一攫千金を狙う在日集落の人々の死闘を描いた物語。彼らはアパッチ族と呼ばれた。
シャツの繊維が肩の肉と一体化するほどの搬送苦役、警察との壮絶ないたちごっこ。筆者の表現を借りれば「地獄の一丁目」との朝鮮人バラックに住む赤貧に喘ぐ人々の混沌とした日常、どす黒い欲望、生き残るための汗臭いエネルギー、猥雑な人間関係が赤裸々に描かれてます。
苦闘、死闘の場面も筆者の軽妙な語り口によって、どこか滑稽な印象すら覚えます。梁石日の天性の芸なのでしょう。
筆者の作品はいくつか読んでますが、状況を相対化する感覚に優れていると思います。壮絶な物語、熱い主題が語られているのにどこか覚めた視点があります。
「逃れられない現実から逃れるために人は幻想を持ってしまうのだ。幻の国境を越えて直面する現実は、またしても生きるという大前提の苦闘である。ひとは死ぬまで生きることを強いられるが、人間にとって自然死などありはしない。それもまた幻想である。造兵廠跡で死んだアパッチ族も幻想だったのか?雨にけむる造兵廠跡は跡形もなく消え失せた。造兵廠跡も幻想だったのだろうか」
そのうち開高健の日本三文オペラ も読みたいところです。