きっときっと面白い事になるだろう。
L`Eymet
昔から伝わる古い伝承で魔女がいるということが噂されていた。街から遠い湖を渡り、大きな木を過ぎた所にある森林に住んでいるという。
街の噂はただの噂でしかなく、それこそ数日で話題が尽きる物だったが、街には一人の変わった狩人がいた。
飽きることなく、白毛の狼を一匹連れて歩き、その森林へ出入りをしていた為だった。そのせいで街は狩人が魔女と取引をしているなどと噂が堪えなかった。
街の裕福な家庭に生まれ、貴族階級ではあるが爵位に入らず、だが地位はしっかりと持っているエメはそのような噂にはまったく興味はなかった。興味があった事といえば結婚のことだ。ようやく十六にもなり、社交界を経由して求婚の依頼が殺到するようになってからは、エメの父親と母親は率先してエメに男性を紹介するも、彼女は全て断った。曰く何かと難癖の理由をつけて断ったらしい。
ある日、エメは街へ買い物へ行くために馬車で移動していた。広い街道はレンガ敷きではない赤土がならされたものだったため通行人も少ない道だった。その揺れに任せて上下する風景を馬車の窓からぼんやりとみているとそれがゆっくりと止まった。
怪訝に思ったエメは座席から御者に言った。
「どうして急に止まるの! 早く行きなさい」
御者は大変困った様子でその赤い顔をこちらに向けて言う。
「ああ、すいません。しかし道の真ん中に人が立っていてはどうにもなりません」
エメは不思議に思って御者台から外を見た。
馬車の馬の先に長身の青年が立っていた。革の帽子、服、また厚いズボンに女性が履く様なブーツを着た男。背には弓を背負っており、彼の周囲には今日は三匹の狼が座っていた。白色が一匹、白銀が一匹、茶が混ざった黒色が一匹、どれも大型犬以上の大きさで異様な雰囲気を漂わせていた。
しかしそんな様子を汲みもしないで、エメは馬車から降りると青年に言った。
「あなた、早くそこをどきなさい! 馬車が通れないでしょう!」
怒気を孕んだエメの声に青年は微動だにせず、三匹の大狼もその場に座って主人であるだろう青年の傍に静かにしているだけであった。青年は俯いている為帽子が影になって表情はわからない。
「聞いているの? 早くそこをどきなさい!」
エメが再度言うとようやく青年が顔を上げた。青年というより無精髭に覆われ、土で汚れた汚い顔は年齢以上に老けて見えた。
「ここの道を通ったのは僕だ。でもあなたは後から馬車で来た。道理なら、あなたが道から退くべきだと思うが」
顔に似合わず澄んだ声の彼の言い分に、エメはわけがわけらなかった。
「馬車馬が通れないから横に退けと言っているのよ! 事故になりたくないならば、普通脇に退くでしょう? それに狩人風情が道を塞ぐという事がおかしいと言っているの!」
しかし青年は無表情のまま返す。
「あなたはどうやら僕の言った意味を理解していないようだ。ならば、僕が退かなかった場合、あなたは僕を轢き殺すのか?」
ますます意味が分からなくなったエメは吐き出すように言う。
「そ、そうよ。あなたのほうが分かってないわ」
そう言うと青年は少し考えるような表情をして、口笛を吹くと、三匹の大狼を道脇に移動させた。
「ならば仕方が無い。僕が脇に退くしかないのだろう」
そう言うと、狼たちと悠々と馬車とエメの横を通り過ぎていく。その時、通り過ぎる際に目のあった狼の目は全て蒼い目であった。馬車の遠く、後ろまで行ったところでエメはようやく馬車の中に戻ると、御者に少し待つように言った。狩人がどこに行くのかが気になったのだ。
馬車の窓から見るその青年は、狼をつれて、かなり後ろにある道沿いに流れている小川に架かる木製の橋をわたると、まっすぐに郊外の森林へと進んでいく。
「……魔女ね」
エメはそんな噂を信じてはいなかった。
だけど信頼してもいいとは思ってしまった。
そんなことを街の中心街に着くまで考えた。得体の知れないのような事を言ってはいたが、ただの男性ということもあったからだろう。
夕暮れに屋敷へ帰るとき、その森林が目に入ると自然と目で追ってしまった。
I may surely accomplish things.