映画「闇の列車、光の旅」とメキシコ | la petite chambre

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お盆休暇が終わり、夏も終わりに近付いて来ましたが、まだまだ暑いので

夏に合いそうな映画を少し。

何年か前に夏向けの映画リストの下書きをして、毎年更新しようと思って

まとめられないまま数年経ってしまったけど、その1作を夏が終わる前に

アップします。

2年前に見た時に、心に残って書き留めておいた闇の列車、光の旅」の

備忘録です。

 

 

キャリー・ジョージ・フクナガの長編デビュー作で、監督については先に

ミア・ワシコウスカ主演の「ジェーン・エア」で知り、その時に話題作

「闇の列車〜」の監督と認識したものの、タイトルから何となく重そうで

敬遠していて、時が流れて2年前に見たメキシコ映画「グッド・ワイフ」が

きっかけで本作を見ようと思った。

80年代のメキシコのバブリーな主婦ソサエティのマウント合戦を描いた

シニカルコメディの「グッド・ワイフ」で、主人公の裕福な主婦の取り巻き

の野暮ったそうな若妻 (80年代設定でバブリーなファッションやメイクも

手伝って) のことが気になって調べたら、パウリナ・ガイタンという女優で

「闇の列車〜」のヒロインと知って興味が湧いて鑑賞した。

 

 

 

 

ストーリーは、貧しい母国ホンジュラスからメキシコ経由でアメリカへ

命がけで不法移住を試みる少女、サイラ (パウリナ・ガイタン) と、

メキシコのギャンググループの一員として生きて来た少年、カスペル 

(エドガル・フローレス) の2人の主人公を軸に、被害者と加害者が行動を

共にして進行していくロードムービー。

 

カスペルは、ギャングのリーダー、リルマゴに秘密でグループ外の少女と

恋愛していたことがバレて、罰として (何と幼稚で理不尽な…) 列車強盗に

加担することを命じられる。

道中の列車内でサイラと出会い、劣悪な環境でギャングに属しながらも、

リルマゴへの憎しみと (カスペルの恋人はリルマゴに暴行されそうになり

抵抗して亡くなってしまう)、良心からサイラを助けようとする。

サイラの中で生まれたカスペルへの信頼の気持ちが、淡い恋心のような

感情へと変わるが、恋人を失って傷心のカスペルは距離を置き、

ありがちな恋に発展させていないのが、好感を持てる。

自分を救ってくれる恩人への少女の心理描写、正義感との引き換えで

待ち受ける少年の絶望的な行く末のやるせなさ、その犠牲の末に得た

わずかな希望の光を感じさせる結末が刺さった。

 

命がけで不法移住しようとする貧しい人々、真っ当に生きる選択肢が

少ない若者の人生にやるせない気持ちになった。

原題「non sombre」はスペイン語で「名もなき人」を意味していて、

映画内の話は、メキシコの貧困層の誰にでも日常的に起こり得るような

悲劇的な出来事で、リアルなことらしい。

メキシコ映画は数多く見てないけれど、ガエル・ガルシア・ベルナルを

初めて知った「アモーレス・ペロス」もバイオレントで激しく衝撃的で

(かなり昔に見て内容は忘れてしまったけど)、実際メキシコ旅行した時も、

魅力的である一方、喧噪で怖い街の印象で、移動中は常に緊張感があった。

ガエル・ガルシア・ベルナルと朋友ディエゴ・ルナは本作の製作総指揮で

携わっている。

 

 

 

スラム街のギャンググループの抗争やバイオレンス描写が、ブラジル映画

「シティ・オブ・ゴッド」を彷彿させるが、本作はギャングの闘争と

不法移住しようとする少女の列車の逃避行を併行させたロードムービー。
シティ〜は鑑賞当時、心を鷲掴みにして衝撃を受けた印象深い「群像劇」で

(BGM、サントラも秀逸で映像にマッチしてる)、本作は危険な状況の男女の

若者のやりとりが見どころ。見せ方は違うけれど、双方心理描写に惹き込まれ、

センチメンタルな余韻が残る作品。
 

 

 

 

フクナガ監督の「ジェーン・エア」は、イギリスが舞台で名作映画のリメイク、

「闇の列車〜」はギャングの闘争と逃走劇、中米が舞台のラテン色の強い

バイオレンス色のある作品で、別世界で作風も異なるが壮大な自然風景の

美しい描写が共通している。

日米ハーフの日系アメリカ人のフクナガ監督は、母親の再婚相手がメキシコ系

アメリカ人で、幼少時にメキシコで暮らした経験があるらしく、そういった

経緯で中米に思い入れがあってこの作品を撮るのに繋がったのかな?

 

序盤しか登場しないけど、カスペルの美しい彼女の部屋で過ごす束の間の

幸せな時間を描写した序盤のシーン。


ホンジュラス〜メキシコを経由した列車や移動シーンが多く、メキシコの風景や

室内シーンは少ないけど、彼女の部屋のピンクのカーテンやグリーンの壁、

刺繍のクッション、蝶のオブジェなど、メキシコらしい色遣いや小物使いが

可愛い部屋が印象的。

移動中の列車上からの見える壮大な自然が広がる美しいパノラマや、

サイラが望みを託して公衆電話に向かう後ろ姿のラストシーンも

フォトジェニックで印象的。

 

サングラス

映画の感想は以上で、以下はメキシコ繋がりで。

鮮やかな色彩のメキシコのインテリア、小物雑貨が好きで、

2000年代前半にメキシコ旅行した時のメキシコっぽい写真を少し。

たくさんお気に入りの写真あるけど、今回はその一部を。

 

カンクンから日帰りで行ったイスラ・ムヘーレスの民家。

キリストグッズ×ペールブルーの壁、ノスタルジックな小物が可愛い。

同じくイスラ・ムヘーレスのハデで可愛いお墓。

メキシコ・シティのグアダルーペ・マリアのフラワーデコレーション🌼

この辺の写真は「sweet room zine」に少し収録してます。

 

20年以上前に発行された、蜷川実花さんの写真集「BABY BLUE SKY」が

当時お気に入りで、ロケ地のイスラ・ムヘーレスのポップで可愛いお墓や

風景写真に魅了され、メキシコ旅行で、イスラ・ムヘーレス目的で

シティからカンクンに飛び、日帰りで行った想い出の場所。

可愛くて満足でわざわざ行った甲斐ありでした。

(治安の悪さはあるけど、メキシコは他も色々良かった)

近年の蜷川実花さんは、鮮やかな色彩や人物写真、スキャンダラスな

テイストの映画が有名だけど、当時も鮮やかな色味もありつつ、

今より人工感控えめで、素朴なガーリー感のある初期の風景写真が好きで、

当時は写真展に行ったり、初期の頃の風景写真集は集めていましたが、

「BABY BLUE SKY」は可愛い写真がいっぱいで、一番好きでした。