『ゴジラ−1.0』は日本人の敗戦トラウマを浄化してくれる映画だ。 | barsoのブログ

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 世界的に有名な怪獣ナンバーワンと言えば、泣く子も喜ぶ『ゴジラ』である。

 ゴジラの戦った相手は、モスラ、ヘドラ、ギドラや、『キングコング』という名のゴリラなど、名前の語尾に『ラ』が付く怪獣が多い。
 作家の丸谷才一は『ラの研究』と題するエッセイでフロイトの説を引いて日本人の深層心理を論じ[註1]、不肖バーソも関連して『さくらのラの字』を怪釈したことがあるが[註2]今回は 『ゴジラ−1.0』の口から出る「」に独自の解釈を施し、日本人の卓越した精神性を論じている

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隠「熊さんや、『ゴジラマイナス1.0』がアカデミー賞を取ったのは知っとるか」
クマ「はい、ご隠居、ゴジラはアカデミヤナッツをゲッツしました
隠「アカデミー賞の中で監督として視覚効果賞を受賞したのは、『2001年 宇宙の旅』のスタンリー・キューブリックだけ。山崎 貴監督は55年ぶりに史上2人目の受賞監督となった。スピルバーグは3回も観たそうで、『史上最高の日本映画だ』と褒めちぎっている」[註3]
クマ「俺はまだ観てねえんですが、『マイナス1.0』というタイトルはどういう意味ですか
隠「最初のゴジラは戦後9年目、1954年の公開だ。同じ年に起きた第五福竜丸船員の被爆事件をきっかけに作られた特撮映画で、アメリカの核実験で太古の眠りから目を覚ました怪獣が東京を破壊するという話だった」
クマ「あれ~、戦後から9年目なんですか。まだ焼け野原が残っていたでしょうに、よく、あんな特撮映画を作ったもんですね

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隠「今回のマイナス1.0ゴジラは、ヴァージョン1.0の初代ゴジラより時代をさかのぼっていて、舞台は、戦争末期から、原爆で脅されて無条件降伏した敗戦直後という混乱の時代だ。陸海軍は解体され、自衛隊はまだ創設されてない」
クマ「それじゃ、ゴジラと戦えねえ
隠「そう、この映画では占領軍のアメリカがソ連との関係で動けない事情があったとし、GHQは対ゴジラ戦を日本政府に丸投げしたが、日本政府はまったく機能していない、という設定だ」
クマ「なんか、自衛隊も憲法9条の縛りで動けなくて、核で威嚇されて侵略されたらアメリカも助けにならない現代の日本みたいだわ
隠「主人公は家族や仲間は死んだのに、自分は『特攻』を生き残ったという『負い目』を持っている。日本は原爆2発と無差別大空襲ですべてを失って『ゼロ』となったのに、圧倒的な力を持つゴジラ襲来によってさらに『負』の状況、つまり『マイナス』の状況に叩き落された
クマ「日本を『マイナス』へ落としたゴジラなんすね
隠「そんな史上最悪の状況に、頼りにならない日本の『官』ではなく、『民』がどう立ち向かうかを描いた映画だよ」
クマ「賃金停滞、実質増税、物価値上げの三重苦で、みんな『負』の状況に落とされている今とそっくりだわ。ふ~

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隠「歴史上最大の『マイナス』を経験したのは戦争の死者だ。ある批評家はこんなことを述べている[註4]1)戦死者は本来、祖国のために死んだ尊い犠牲者であったが、戦後は一転して、間違った侵略戦争の先兵と見なされた。2)日本人は、戦前の価値観に殉じた同胞を裏切ったという負い目があるゆえに、戦後社会は戦死者に正面から向き合うことができない。3)その結果、戦死者は行き場のないものとして宙吊りにされ、不気味なものとなって再来する。これがゴジラである
クマ「う~ん、ゴジラは戦死者の亡霊ですか
隠「だからゴジラが1954年から30回も繰り返し日本に再来したのは、他の怪獣と戦わせたりキャラクター化したりして、それが持つ不気味さを無害化し、戦後社会になじませるためであった』」
クマ「そうか、名前に『ラ』が付くおかしな怪獣らは、不気味さを無害化してるんですか
隠「つまり『ゴジラは、戦争の死者に正面から向き合わないで、ただただ戦後復興に邁進してきた日本文化の象徴であり、だから繁栄の中心地である東京に繰り返し襲来している』

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クマ「う~ん、『戦争反対!改憲反対!』とだけ唱えていれば平和主義者だと思っている人たちを思い出します
隠「彼らは日本が侵略することを異常に心配する。だが、日本が侵略されること、侵略されたらどうなるか、は全然考えていない」
クマ「ご隠居。それにしても、もう戦後80年近いのに、政府は対米従属一辺倒、中韓にも低姿勢一辺倒なのは何でですか。女性や子どもに有害な法律を作ったり、国民の安全を守る必要な法案を邪魔したり、日本をマイナス方向に落とそう落とそうとする議員が多いのは何でですか。マスコミも反日のマイナス報道ばかりしてるのは何でですか
隠「お、熊さん、相当怒っとるな。目から火が出とるぞ」
クマ「彼らは東大卒が多いのに、日本を良くしようという気持ちがどうして無いんですかっ
隠「熊さんや、あたしが思うに、ゴジラは単に日本人をやっつけるために存在しているのではないな」
クマ「えっ、そうなんですか」 

隠「平和ボケしている日本人を覚醒させるために、ゴジラは存在していると思ってもいい。その証拠に口から火を吹きだしている」
クマ「えっ、あの青白い火は覚醒熱線なんですか

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隠「あれは日本人の抵抗心の表れかもしれんが、単に人を殺す火じゃないな」
クマ「どうしてですか
隠「この『光明真言功詞徳絵[註5]を観なさい。室町時代の絵だが、地獄に落ちた定円という坊さんが、光明真言という呪文を唱えたら口からレーザービームが5本出て、地獄の赤鬼や青鬼らを片っ端から昇天させている」
クマ「はあ、上のほうにいる小さな鬼三匹は雲に乗って昇天中なんだ
隠「だから奥にいる閻魔大王が困って、定円に『現世に帰れ』と言い渡したのだそうだよ」
クマ「口から出るレーザービームが地獄の鬼らを癒したんですか

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 https://twitter.com/sigekun/status/606479596553277440

隠「そうだ。ゴジラのレーザービームも、人を殺すようで、人を癒すとも考えられる。結果的に日本人が覚醒すれば、過去の戦争に対する原罪のようなトラウマから浄化され、日本はさらに美しい国になっていく・・・と思うわけだよ」
クマ「そうなればいいですね
隠「日本人は『元寇』以来、戦うべきときは戦って、国と同胞を守ってきた。倫理観も知性も非常に優秀で、人間性は温和で優しい。一度だけ負けたが、復讐せず、恨まず、仲良くやってきた。熊さんや、日本人のストーリーは最後は『和』になるようになっているのだよ」
クマ「う~ん、なんか恥ずかしくて、なんかしないといけないような、いたたまれない気になってきました。今日はこれにて失礼させていただきます
隠「熊さん、どうした? そんなにあわてて帰らなくてもいいじゃないかい?」
クマ「いえ、顔から火が出たら、尻に火が付きました






【備考】――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
[註1] 丸谷才一『青い雨傘』文藝春秋(怪獣作者の心底にある心理を梵語の魔羅と結び付けている)
[註2] バーソ『さくらの名の由来を知ると幸せになれる』 →過去記事2017.4.1
[註3] 岡田斗司夫ゼミ#509『ゴジラ-1.0を見るべき3つの理由』 →YouTube
[註4] 加藤典『さようなら、ゴジラたち――戦後から遠く離れて』岩波書店(2010年)
     創元社note部(https://note.com/sogensha/n/n50e7080ed049) [註5] https://00m.in/zWxHc
※画像は『『ゴジラ-1.0』予告編のYouTubeから借用しました。
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