エンリケ・バリオスの『まほう色の瞳』は、人をつき動かすものを教えている。a | barsoのブログ

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 死ぬまでに一番したいことは何でしょう?
 それは高い立場を得たり、英雄視されることですか。あるいは趣味、異性、神に関係したことですか。マーク・トウェインはシニカルに、人が崇拝視するほど人生目標にしているものは、結局 “money”だと述べましたが。(→前回記事

 『アミ 小さな宇宙人』の本で知られるエンリケ・バリオスが、日本人読者向けに『まほう色の瞳』(さいとうひろみ訳)を出しています。※1

 青年科学者のルーカスが休暇でサンズ島に訪れたとき、ターコイズ色の瞳をした美しい伝説の姫エリナと運命的な出逢いをしますが、そのとき、人を突き動かしているものについて教えられ、ルーカスは目が開かされます。

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 エリナ姫がルーカスに、心を探る鋭い質問をします。

あと数分で死ぬと宣告されたら、あなたは何を一番後悔する?
「もちろん、すべてだよ。誰も死にたくないんだから」
「それは分かっているわ、ルーカス。私が聞きたいのは、“何”を一番後悔するかということよ」
「そうだね、まず、この美しい愛を続けられないことを後悔するよ」
「“愛情”ね」
 エリナは笑みを浮かべて、ぼくにキスをした。
「まだ私たちが知り合ってなかったとしたら、何を後悔する?」
 ぼくは答える前に少し考えた。「うーん、子供がいないことかな」
「また、愛情ね。他には?」
「両親や家族や友人に会えずに死んでしまうこと」
「これも愛情ね。あとは?」
「ノーベル物理学賞を受賞しなかったことかな」。ぼくは冗談っぽく、ニヤニヤしながら言った。

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「それはお金のため?」
「違うよ、賞金がなくてもノーベル賞は欲しいさ」
「なぜ?」
「文明を助けるための励みになるよ。この世界のために何もしないで死ぬなんて後悔する。ノーベル賞は、人類のためにぼくが何かをしたという証(あかし)だからね。だからノーベル賞をもらったらうれしいよ」
「だったら、匿名で同じことをしても、喜びは変わらない?」
 エリナの言い方はずるかったが、自分の基礎が揺らいだのは確かだった。 「確かに、ぼくの根底には虚栄心があるね。人々に認めてもらいたいと思っているよ」
「どうして?」
「だって、名声や尊敬や評価を受けるからね」
「人々があなたを認めるということは、あなたへの好意と採ることはできる? あなたがノーベル賞を欲しいのは、それが動機?」
 少し考えて、ぼくは確かにその通りだと思った。そんなふうに考えたことはなかったが、もはや自分の中にはさもしい部分などないと感じた。人々に認めてほしいと思うのは、その根底には人々からの好意を求めているからだ。それは、人々が自分を好きになってくれるように、何か素敵で良いことをするということだった
「また、きみは正しいよ。それが動機だよ」
「またまた愛情ね」
「なんてこった、その通りだ! 生きている動機って、みんな愛情に関することだよ」
 うれしくなって、ぼくは声を上げた。

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「ということは、ルーカス。愛に関することを叶えるために生きていたいから、私たちは呼吸している。それは自分たちの大切な人たちだけではなく、すべての人々のために、また私たちは好きなことをして楽しむために、生きている。何かを好きだということは、ある意味、それを愛しているということだから。そして人々が喜んでくれることを実現するため、夜明けの美しさを眺めるため、午後のコーヒーや自分の好きな食べ物を楽しむため、お気に入りの場所に行くために、私たちは生きているの」
「まったくだね、エリナ。愛しているから、生きていたいんだ。ぼくたちの動機は愛なんだ。なんて興味深い考察だ! そんなふうに考えたことは一度もなかったけど、真実だよ。愛がぼくたちを突き動かすんだ
それが “ビッグバンや銀河系やすべての命の裏にある力” よ。ルーカス。そして自然と離れてしまった私たち人類が、ずっと無視してきた原則なの。神が創り出したものを、私たちは卑劣かつ残忍な方法で破壊し、すべてをお金のために汚し、汚染し、取引したりしている。この一万数千年、人類は、次々とさらなる痛みを生み出してきた。なぜなら、愛を傷つけるものは痛みを生み出すから。だから自分の兄弟であるはずの移民や貧困層や、厳しく苦しい立場の無抵抗な人々を非難したり、攻撃したりする。でもね、ルーカス。そのような残忍さを持つ一方で、すべての人の魂の隅には深く“神聖なもの”が宿り、冷淡な表情や無知の裏には、“愛”が光り輝いている。愛こそ、私たちの中に眠っている本当の真実の姿(アイデンティティ)なのよ

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 視点を変えて、心の根底を見れば、“愛”が見えてきます。
 科学者ルーカスは自分がノーベル賞を望んでいる動機を、最初は世界の文明を助けたいからだと言いましたが、じつは名声や尊敬を受けたいという虚栄心があったと認め、しかしそれは人々から好意、すなわち“愛”を受けて、自分も善いことをして“愛”を返したいからだと気づき、結局は生きている動機とは、すべて“愛”に関することで、“愛”がすべてを突き動かしていることを理解しました。

 宇宙の創造者は、“愛”とそれを活動させるエネルギーの意識体であり、その根源の“愛”が人間を含む神羅万象を動かしているのです。

 人間が誤用してきましたが、世界の仕組みそのものは完璧なはずです。
 自分の心の根底にも“神の愛”が宿っているのですから、どんな困った問題が振り掛かろうと、逃れ道は必ずあると思うのが良いでしょう。※2





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※1:『まほう色の瞳』(徳間書店・2002年発行)は、『ツインソウル』(5次元文庫・2008年発行)と中身はほぼ同じものです。タイトルと表紙が違っていたために、私は作家の名前を見ただけで2冊とも買ってしまいました。もう処分したので手元にありませんが、この会話部分は印象に残ったものです。現在は古本でしか入手できず、アマゾンでも高めの値付けがされています。

※2:新約聖書コリント第一10章13節「あなたがたの遭った試錬で、世の常でないものはない。神は真実である。あなたがたを耐えられないような試錬に会わせることはないばかりか、試錬と同時に、それに耐えられるよう、逃れる道も備えてくださるのである」

※写真はフリー画像サイト「pixabay」から借用しました。

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