え~、『マンマ・ミーア』という ABBA の曲がありまして、イタリア語を直訳
すれば「私のママ」で、「Oh my God/なんてこった」という意味で使われてい
ますが、それとは似て非なる「ねこまんま」の噺でしばしお付き合いを願います。
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「ちわー、ご隠居。相変わらず食う寝る寝る寝る遊ブ~ですか」
「おや、熊さんか。今日は、ねこを口実にして年寄りをぶーたれに来たな」
「いえ、その、おいしい生活をしてて、けっこうなこって」
「そういえば、もうすぐお昼だな。ねこまんまでも食べていかないか。うちのは
おいしいぞ」
「やだ、ご隠居。ペットフードは遠慮します」
「いや、広辞苑によれば、ねこまんまとは、ねこに与えるご飯のように、味噌汁
を掛けたり、削り節を散らしたご飯のことをいう」
「じゃあ、山海の珍味が入った味噌汁掛けご飯でもいただけるんで」
「まあな。山の幸はネギ、海の幸はワカメだが、味噌汁はおとといの残りをチン
して温め直せば今日が三回目」
「やだ、それが三回のチン味ですか」
「あはは、電子レンジは便利なものだ。チーン! おや、ばあさん、もう二人分
出来たのかい。うん、たくあんも付いているな。では、はい、熊さんよ。自分で
適量の味噌汁を掛けてお食べなさい。食べ方で、その人のひととなりが見えて面
白いぞ」
というわけで、汁掛け飯の食べ方でわかる五タイプの人生観を紹介しますよ。
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北条式、バーソ式、そして、陰でやっちゃえ式の汁掛け飯の食べ方。
《a》
「やはり、熊さんは、ご飯に味噌汁をドバッといっぺんで掛けるんだね」
「へい、あっしは七面倒くせえことが嫌いで」
「直球勝負タイプだな。さっぱりしていて分かりやすいが、こんな話を知ってる
か。戦国時代、汁掛け飯は、ご飯のお代わりを断る『ごちそう様でした』の意味
も兼ねていた」
「はあ、食事のマナーみてえなもんだ」
《b》
「あるとき、北条氏康が、息子の氏政がご飯に汁を二度も掛けたのを見て嘆いて
こう言った。『飯に掛ける汁の分量も量れぬ者に、国の方針や家臣の思いが推し
量れるはずがない。ああ、わしの代で北条家も終わりだ』とな」
「確かに、毎日食べてて分からねえのは変だ」
「実際、その言葉の通り、秀吉に攻められて北条一族は氏政の代で滅んだ」
「はあー、頭を使わない食べ方は自己破滅タイプですか」

《c》
「ところがな、以前、大河ドラマでは脚本家が他の解釈をして、氏政にこう言わ
せたそうだ。『食べる分だけ汁を掛ける。少しずつ、少しずつ。これがわしの食
べ方じゃ。北条の国盗り、ゆっくり味わおうではないか』とな」
「はあ、少しずつ食べる人は人生をゆっくり味わってるんだ」
《d》
「例のバーソも、こんなことを言っとるぞ」
「バーソなら、汁じゃなく、つばを眉にたっぷり掛けて話を聞いたほうがいいん
じゃねえですか」
「まあ、そうかもしれんが、こう言ってるな。『汁をいろいろ掛けたり、混ぜる
具材をいろいろ試せば、新しい食べ方が発掘できる。とにかく良くないのは、何
何も考えないで、ただただ従来の方法に従っていることだ』とな」
「はあ、好奇心が旺盛なのか、古臭いものが嫌いなのか」

《e》
「しかし頭が固い人、ひとの益を考えない人、意欲的に働かない人。そんな人が
社長や役員になっているような会社はうまくいかない。自分の天下り先しか考え
てないような役員は会社の借金を増やすだけだ」
「ご隠居。年俸を一億円もらってる無能な役員が十人いるより、十億円もらって
る有能な社長が一人いるほうが会社にとってはずっといいですかね」
「うむ。そうなら十億円の報酬は高くないかもな。ただし、弊害もある」
「害があるんですか」
「或る人が『少量のご飯に汁をちょっぴり掛けて質素に生活し、みんなで痛みを
分かち合おう』と言ったとしても、じつは自分は何十億円も裏金を作って、甘い
汁掛けまんまを食べている場合もあり得る」
「ははあ、やっちゃえタイプというか、ねこばばタイプだわ」

「奢れるもの久しからず。ただ春の世の夢のごとしとなるか、あるいは証拠がな
いようになっているのかもしれんな。ともあれ、権力は長く続くと必ず腐敗する。
あんまり偉くな りすぎるのも恐いもんだなあ」
「へえ、あっしは大丈夫です。ご隠居も全然心配ねえだす」
「しかしなあ、熊さんよ。人間、万事塞翁が馬。何か悪い事態になっても除夜の
鐘の音のようにgoneと過ぎ去り、春になれば良いことがcome comeやってくる。
体験は学んで活かせば、すべて良い体験になる。だから、どんなひとの人生にも
失敗は無い」
「はいはい、あっしは失敗だらけ、ねこ灰だらけ。ご隠居、ねこまんま、ごちに
なったので帰ります」
「うむ、おまえさんは食べたらすぐ居なくなるな」
「へえ、これがほんとの居ぬまんま」
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※この噺は一応フィクションであり、実在の人物・団体等と関係があまりありません。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――