仕事を辞めて、リュックを背負って外国に出かけていく人がいます。
自分探しです。
自分の進むべき道がどこかに一つある、と思っているのです。
これを「進化論」や「創造論」「哲学」の人生観で考えることもできますが、
ここでは「原因と結果の法則」でシンプルに推論しています。
少し安心感が得られ、少し人生が楽になるかもしれません。
(Wassily Kandinsky)
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”意識”は常に、自分が何者かを知りたがる。
「初めに言葉ありき」とは聖書のヨハネ福音書の書き出しです。※1
しかし道理で考えると、その「言葉」の以前には”意識”があったはずです。※2
そうであれば、宇宙も時間も次元も何も無かったとき、
”意識”だけがポツンと、そしてボワーッと在ったのです。
空間の概念さえ無かったので、”意識”は空(くう)であり、無限大でもありました。
”意識”は、識(し)ることが仕事ですから、自分のことを識りたいと思いました。
いったい自分は何者か、自分は何をするために在るのか――――― ※3
しかし、何しろ自分しか存在してないのですから、何も分かりません。
でも、いい考えがパッと閃きました。
もし、”あちら側”という概念が分かれば、自分は”こちら側”だと分かる。
そうだ、自分じゃないものが他に在ればいい。
そうすれば、それと対比して、自分とは何ものか?が分かるだろう。
そこで、”意識”は、自分の意識、すなわちエネルギーを一点に集中しました。
量子力学では、意識とは波動であり、エネルギーと考えられます。※4
そして、E=MC2の式で知られるように、エネルギーは物質と同じです。※5
そうしたら、エネルギーは集中されて、物質の最小単位である素粒子に変換され、 それが集まって原子から分子になり、塵、岩、星、星団が生まれ、宇宙が出来て、 物質と空間、光と闇、大小や遠近、温度、色彩などが分かるようになりました。
しかし、なにか物足りません。そう、ワクワクとかドキドキがないのです。
物質には、それなりの意識はありますが、感覚や感情や自由行動がないせいです。
そこで意識を集中させ、自分と似た超々小型の分身[soul/魂]を造りました。※6
上首尾だったのは、物質的な肉体を着させ、思考や心や感覚を持たせたことです。
こうして、自分の意思で自由に行動できるユニークな生命体が誕生しました。※7
この ”意識” の分身である小さな生命体を”神の子”と呼ぶ人がいます。※8
さて、自由意思で多様に行動するためには、多様に選択肢がなければなりません。 そこで、甘さと苦さ、喜びと怒り、楽しさと悲しさといった二元性が生じました。 人間は、高揚と憂鬱、快楽と苦痛、勝利と敗北が体験できるようになったのです。
こうして分身の本体である”意識”も、同じ体験を共有できるようになりました。
はだしの感触を味わい、ほおをなでる風を感じ、うなじに見とれ、耳に触れたり、 凍えた手を優しい手で暖めてもらうときの幸福感も実感できるようになりました。
人間が自由に選択できる人生の”体験”には、他にも大きなメリットがあります。
例えば、精神に問題のある人間がいて、嫌味なことを故意にしてきたとします。
その場合、相手を激しくののしって、何か仕返しをすることも選択できます。
しかし忍耐、許し、寛大さを表そうとすることを選択することもできます。
相手に対抗すれば、同じレベルになり、イヤな思いを引きずるだけです。
でも苦難をポジティブに受け止めれば、人格を磨け、爽やかになれるのです。
これは完璧な人間ばかりいる環境では、体験できないことなんですね。
最近、スポーツ選手の活躍を見て、元気と勇気をもらいましたと言う人がいます。 元気はいいとしても、勇気は、ひとから手軽にもらうものではないでしょう。
勇気は、実際に苦境を克服して自分で生み出せれば、それが一番いいはずです。
では、人の生きるべき道についても同じことが言えますね。
自分で良いと思う目標を決め、集中し、達成していくなら気分は最高でしょう。
ひとは違う選択でも、自分の人生の道は、それでいいのではないでしょうか。
そして、それが幸福というものではないでしょうか。
人生は、できることに集中することであり、
できないことを悔やむことではない。――――スティーヴン・ホーキング
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補足 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
※1:「はじめに言葉ありき」の有名なフレーズは、神が例えば「光あれ」と ”言葉” を発したら光があるようになったという創世記の創造物語の文脈を前提にして語られている。
※2:デカルトは「我思う、故に我在り」と言っている。
※3:神は愛の神であるゆえに、愛する対象として人間を造ったという考えもある。
※4:「コペンハーゲン解釈」によれば、素粒子は観測が関係すると、その振る舞いが左右されると言われている。これに反論する「シュレディンガーのネコ」の思考実験と、それを発展させた「ウィグナーの友人」という思考実験が有名。他に「エヴェレットの多世界解釈」もある。 ※5:アインシュタインによる特殊相対性理論の「E=MC2」は、エネルギーと質量が等価の意。
※6:創世記1:27に「神は、神のかたち(像)に人を創造し、男と女とに創造された」とある。 ※7:創世記3章には、人がエデンの園にあった禁断の木の実を食べるときに神が止めなかった話が記されているが、それは人間が倫理的に自由な生きものとして造られたことを示唆している。
※8:み使い、アダム、イエス、イエスの信者が聖書では「神の子」と呼ばれている。ヨブ1:6、ヨハネ1:49、ルカ3:38、ガラテヤ3:26。なお、神道も人間を「神の子」としている。
※:画像はワシリー・カンディンスキー(1866-1944)の作品を借用しています。