鹿とか牛などの獣がいて、一頭が頭の先を他より一段高く現わしていることを
「頭角を現わす」といいます。
才能や技量が周囲の人よりも一段と優れていることです。
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さて、紀元前のイスラエルで頭角を現した人物といえば、筆頭はモーセでしょう。 誕生してすぐナイル川に流されましたが、後にイスラエルを率い、紅海を真っ
二つに分断する奇跡を行ない、神から『十戒』を授けられるまでになりました。
●モーセといえば、こんな顔の老人をイメージしないでしょうか。
チャールトン・ヘストンです。当時44歳で、80歳のモーセ役を演じました。
セシル・B・デミル監督の1956年アメリカ映画『十戒』の主演男優です。
監督からは『ミケランジェロの彫刻のように美しい』と称されたそうです。
1968年公開の『猿の惑星』では船長のテイラー大佐を演じました。
●顔が似ていると言われたのが、下のミケランジェロの『モーセ』像です。
顔の輪郭と口元はそっくり。しかし明確に違うところが一か所あります。
『モーセ』像(1513-1515)サン・ピエトロ・イン・ヴィンコリ教会(ローマ)
こちらの大理石像のほうは、頭に角(つの)が生えています。
というわけで今回は、モーセの彫刻や絵画には”頭角”があるという話です。
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モーセの頭に角があるのは、本当だという説と光だという説がある。※
旧約聖書(出エジプト記34章35節)には、モーセがシナイ山で神に会ってから下山
してきたときに、「モーセの顔は光を放っていた」と書かれています。神は荘厳
な栄光に包まれているので、神に会ったモーセの顔も光り輝いたというわけです。
●ルネサンス期の彫刻家ミケランジェロは『モーセ像』に角を生やしました。
ヘブライ語で「光り輝く」を意味する語は「角」の意もあり、当時の公式聖書ラ
テン語ウルガタ訳が「角」と訳したので、モーセには角があると思われたのです。
モーセは80歳から120歳で死ぬまで40年間も指導者だった。
この『モーセ』像が置かれていた場所の右上にあった窓は長年ふさがれていまし
たが、近年、当時の採光に近いライトアップができるようになり、特にモーセの
ひたいと腕の部分が最も光り輝くように制作されていたことが分かったそうです。
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●17世紀の”光と影の魔術師”レンブラントも、モーセの頭に角を描いています。
モーセが山で『十戒』を授かって降りてきたら、人々が神を金の子牛の像に造り、 飲めや歌えやの真っ最中。モーセが怒って『十戒』の石板二枚を叩き割るシーン。 モーセのひたいと腕の部分には光が当たり、十戒の板は逆光で暗くなっています。 神の言葉は光を失い、もうおまえらを啓発することはないと嘆いているようです。
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●20世紀の”色彩の魔術師”シャガールは、角を光に変化させているようです。
天使(中央上)が燃える柴の中に現れ、モーセに「エジプトの支配から逃げて約束
の地パレスチナに向かえ」と指示する場面。画面右の白いモーセに角があります。 画面左は、モーセが紅海を分ける別の場面。モーセの顔と角が光り輝いています。 衣状の上半分は逃げるイスラエルの群衆で、下半分は溺れ死ぬエジプトの追跡軍。
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●その他のモーセの絵。いずれも角状の光体がしっかり生えています。
トーマス・ブリグストック(1809-1881) 『フルと兄アロンに支えられたモーセ』
ギュスターヴ・ドレ(1832-1883)『十戒の石板を手にするモーセ』
ホセ・デ・リベーラ(1591-1652)『モーゼ』
こうして見ると、画家は「角」と「光」と両方の解釈を受容し、融合させ、
頭角を現すべく、自分のイメージする気高いモーセ像を描いているのでしょう。
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なるほど。頭角を現すためには、
単なる「知恵」程度ではなく「叡智」を表し、
「徳」程度ではなく「美徳」を表さないといけないようです。
うーむ。
私の場合は片鱗どころか、馬脚を現しそう。
ならば、せめては角(かど)の取れた、まるい人間程度にはなりたいものです。
補足
●モーセが山から降りてきたとき、人々が神を金の子牛の像に造って偶像崇拝をし、どんちゃん騒ぎをしていたので、モーセが怒って『十戒』の石板をバラバラに打ち砕いたのだから、「角」はモーセの怒りを表すのにふさわしいと主張する聖書学者もいる。
●また太古の昔はユーラシア大陸の各地に豊穣神を「角」の生えた牛として祀る風習があった。異形の「角」は人を超えた神聖な存在であることを示す表現だとも言われる。
●モーセが腹立ちまぎれに叩き割った『十戒』の石板二枚は、その後、神から再び与えられた。