これまでのストーリー

祖父は、人と会うのを嫌った。

ゴシップ、無駄話はしない。

全く愛想の悪い人だった。

腕白な私には、居心地のいい祖父だ。

勉強しろとも、手伝えとも言わない。

母が嫌うほど悪い祖父ではなく、むしろ、暖かく私を見守ってくれていた。

宿題の主なものは日記で、毎日書くことはせず、一週間溜めるとうんざりだが、寝そべっていい加減な日記をつける。

ある日は蝉取りに行き、潮干狩りに行き、釣りに行き、蛍狩りに行く。

その蛍を入れる螢籠を皆で造るのだが、私の籠は粗末で、蛍がいつの間にか逃げ出し、翌日には一匹も蛍が残っていない。

昆虫採集もしていて、その標本もあるので、博多の家に帰る荷物は多い。

祖父が、私をどう思っているのかは分からない。

と言うのも、祖父は一度も私の家のことを聞いたこともないし、私に小遣いをくれた事もなく、私は門司から博多までの汽車賃90円は、大切に持っていた。

私のポケットには、飴一つ買う余裕もなく、甘いものは、山ももやいちじく、桃を食べていた。

その晩、私は十日ほど溜まっている日記をつけていた。

あと十日で夏休みは終わる。

私が帰る日は、夏休みの終わる一日前の8月30日だった。

怠け者の私も日記が溜まると、書くことを思い出すのが面倒になる。

毎日は、釣りや蝉取り、蛍狩りもない。

海で泳ぎ、池で泳ぎ、鮒釣りをし、とんぼ取りをする。

その頃になると、県道は秋アカネで埋め尽くされていて、とんぼの中を歩いているようだ。

田んぼの近くに行くと蛙が待っていて、とんぼが蛙に食べられる。

そうは言っても、数万の赤とんぼは全く減らずに空中を漂っていた。

それほど、とんぼの餌が豊富だったからだ。

もう夏休みも終わりかけていた。
                    つづく