これまでのストーリー

高2の夏、私は親類の家の離れで一人暮らしを始めた。

高校は表門司にあり、両親も河添も表門司に住んでいたので、裏門司に移った私は、河添とは疎遠になった。

会うのは学校だけになり、学校では私の周りにいつも数人の連中が集まっていて、河添と2人っきりの時間はなくなった。

よほど寂しかったのか、私に手紙を手渡してくれた。

それが高校3年の3学期、2月の期末試験の前だった。

「最近、話す機会がないが、話したいことがある。場所と日時を知らせてくれ」
と言う短い手紙だった。

私は、定期試験の最終日に会った。

春のような暖かい日だったので、風師山に登った。

標高300メートルしかない、直下に関門海峡、山口県、響灘、日本海、周防灘から太平洋まで見える景色のいい山だ。

山の上の風はさすがに冷たく、私たちは尾根の反対側の陽だまりにある、薮椿の横に座って話した。

「お前、卒業式出んのやろう」

「出ん。あんなもん金くれても出ん」

「そんなら、今日で会えんのか」

「学校で会えんけど、お前、門司に住むんやろ」

「うん、仕事が仕事やけんの、会うこともないやろうのう」

「決まったんか」

「うん」

「何するんか」

「蒸気機関助手になる」

「ええっ、何でまた、お前みたいなお洒落な男がか。信じられん」

「そう言うても、国鉄の仕事はサービス業やけのう。他の仕事は接客ばっかりよ。その方がもっと向いとらん」

「それも、そうやのう」

「お前、彼女おるんか」

「まだおらん。大学2年ぐらいになったら探す」

「俺はおる」

「えっ、初耳やのう。誰か」

「言わん。お前にゃ、口が裂けても言わん」

「それで、いつ結婚する」

「それ、4年ぐらい先じゃ。機関士になったらな」

「4年でなれるんか」  

「うん、今、皆電機の方に行くからな。蒸気は廃れて行くんじゃ」

「そんなら、お前の仕事は」

「そう言うても、日本全国どっか残る」

「そんなら、死ぬまで蒸気に乗るつもりか」

「うん」

「自分で決めたんだったら、それでええ」

「もう会えんのう、柳田ありがとう」

そう言って握手を求めてきた。

「そら、俺も同じや。お前、腹を割って話さん男やけのう、迷惑かけたやろうのう」

「そら、ない。いつもお前が誰にでも言いたい事言うの見て、羨ましかった」

「お前の住所、今のままやろの。手紙書く」

「俺も書く。手紙くれ。無茶して山で死んだりするなよ、無鉄砲して」

そう言って、痛いほど握りしめてきた。
                 つづく